充電器を共用する「エブリワチャージャーシェア」
「everiwa(エブリワ)」というのは、パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社(以下、パナソニック)が社会課題解決を目指して提案する共創型コミュニティプロジェクトです(公式サイト)。地域の企業、自治体、個人などが参加して、「エネルギー循環モデルの構築」「CO2削減施策の推進」「シェアリングエコノミーの推進」といった社会課題解決に向けたミッションを推進。地域社会に「共感」「共創」「共有」という3つの「wa(輪)」を広げることを目指しています。
プロジェクトの「1st Action」として2023年にサービス開始されたのが「everiwa Charger Share/エブリワチャージャーシェア」と名付けられたEV用充電器のシェアリングサービスです。充電サービス事業者として充電器を設置して課金する形態ではなく、公式サイトでは「充電器を貸したい人(EVチャージャーホスト)と充電器を借りたい人(EVユーザー)をつなぐプラットフォームを提供」し、「貸出予約から精算までを一括管理」できるプラットフォームであると紹介されています。
充電設備は、通電制御機能を追加したEV充電用200Vコンセントのほか、3kWや6kWの普通充電器にも対応可能。充電料金はホストが決めることができて、プラットフォーム利用の月額料金は無料。手数料(プラットフォーム利用料金)は設定した充電料金の27.5%となっています。つまり、自治体の公共施設、企業の駐車場、集合住宅や個人宅の駐車場に設置した充電器を、エブリワチャージャーシェアのアプリを通じて広くEVユーザーと共有しながら、27.5%の手数料を除いた充電料金が回収できるということですね。
パナソニックでは千葉県市川市と「EV用充電インフラの整備促進及び啓発に向けた協定書」を締結。「everiwa no wa 市川 Action」として、市内の公共施設や民間の協力企業駐車場など、市内10カ所以上にエブリワチャージャーシェアの充電スポットを開設。市内の小中学生を対象とした「未来のまちへ! 電気をつくるワークショップ」を開催するなどの取り組みを進めています。
「everiwa no wa 市川 Action」の特設サイトでは「EV充電インフラの充実」→「街のEV数が増える」→「発電・蓄電設備の活用が広がる」→「様々な電力が街に蓄えられる」→「非常時に街の電力をわかちあえる」と、取り組みが目指す未来が説明されています。EV充電インフラが増えればEVを活用する人や企業が増え、地域の再エネ活用が進み、レジリエンス向上などの社会課題解決に繋がるというビジョンです。
市内の約10カ所でチャージャーシェアがスタート
現地取材に先駆けて「everiwa」のスマホアプリをインストール。「さがす」の地図画面で確認すると、市内に10カ所ほどの充電スポットがありました。市川市役所第1庁舎には4口、第2庁舎には6口の複数口設置。そのほか、公民館や公園などの公共施設が中心です。公式サイトにGoogleマイマップがあったので埋め込んでおきます。
アプリで会員登録。普通にカード決済ができるのかと思ったら、「everiwa wallet」という決済サービスにクレジットカードを登録した上で、あらかじめチャージしておくことが必要でした。今回は実際に充電したレポートが目的なので、ひとまず1000円をチャージ(カード決済)しておきました。
現地取材&お試し充電のスポットには、民間施設の「行徳神輿ミュージアム」を選択。このスポットは「事前予約」ができる設定だったので、パナソニックご担当者との待ち合わせ時間である16時に合わせて15時45分から1時間の予約を入れました。
ちなみに、市庁舎などの公共施設では「現地予約」となっています。この場合、事前の予約ではなく現地に着いて充電器が空いていたら利用可能。その場で利用予定時間を予約する仕組みです。
取材当日、少し早めに市川市内に到着して、いくつかの充電スポットを巡ってみました。
市内公共施設の4カ所を巡回。すべてEV充電用の200Vコンセントで、充電区画であることを示す路面表示も明確でした。コンセントなので車載充電ケーブルが必要。出力は200V×15Aの3kWと昨今の充電サービスとしては非力ではありますが、公共施設のEV充電インフラには非常時対応という役割も大きいので、初期コストを抑えた合理的な設備が広く設置されるのは意義あることだと感じます。
行徳神輿ミュージアムで実際に充電してみた
取材&充電場所に選んだ「行徳神輿ミュージアム」にはほぼ予定通りの時間に到着して、ちょっと想定外の事態(後述します)があったものの無事に充電開始。行徳神輿ミュージアムを開設しているのは、神輿や山車などの製作する「神輿屋」さんである有限会社中台製作所で、充電スポットは会社駐車場のひと区画を活用しています。
「俺が行徳街づくり協議会ってやつの会長をやっててね。市川市がパナソニックと協定結んで充電器を設置する場所を探してるってことで、営業の方を紹介されたんですよ。EV普及が街の社会課題解決の第一歩って話にも共感できたから、じゃあ、まずはうちに付けなよってことにしたんだ」と中臺(なかだい)洋社長。
社屋の1階にある「行徳神輿ミュージアム」を開設したのも、伝統ある産業を紹介するスポットとして地域に貢献するのが主眼。「公正であるべき行政が気兼ねなく観光スポットとして紹介できるよう、施設名に社名などは入れなかった」そうです。
好奇心に駆られて「神輿の値段っていくらくらい?」と質問すると、「ミュージアムの正面に展示してある大きな神輿は3500万くらいだね」とのこと。精緻な彫刻や金具作り、漆塗りや螺鈿細工など多様な工程に関わる熟練の職人を差配する伝統工芸プロデューサー的な役割を中臺社長が果たしているのです。「市川アクション」プロジェクトで民間の充電器設置スポットとなったのは、よりよい街づくりのために行動する中臺社長の心意気の賜物です。
一方で「俺はエンジンが好きだから個人的にEVにはあんまり興味がないんだよ。ただ、会社では1台くらいEVを買おうと思ったこともあるんだけど、意外と手頃な商用車がないんだよね」と、中臺さん自身のEVへの本音も聞かせてくださいました。
中臺社長のように、プロデューサー感覚を備えた粋な御仁が「こいつはいいねぇ」と選んでくれるような車種が続々と登場してくれば、日本でのEV普及が本格的に広がっていくんだろうなと、しみじみ実感するインタビューになったのでした。
充電サービスとしては要改善のポイントも
さて、実際に利用してみた「エブリワチャージャーシェア」の充電サービス。EVユーザー的に評価すると「まだまだ」って感じで、いくつかぜひ改善してほしいポイントがありました。
今回、神輿ミュージアムの取材にはパナソニックの担当者が足を運んで、中臺社長への取材をアテンドしてくださいました。改善してほしいもろもろについては直接お話しもしたので、ここで細かな指摘を並べることは控えておきます。私が気になった大きな改善点はおおむね以下のポイントです。
●充電するために複数のアプリやサービス登録が必要。
スポット検索や予約のための「everiwa」のほか、充電する際には「everiwaスイッチ」のインストールが必要。決済は「everiwa wallet」という別サービスになるなど仕組みが複雑。
●「事前予約」はホストの承認が必要。
事前予約は、ホストが自分のスマホアプリで「承認」しなければ有効になりません。今回、中臺社長は私の予約に気が付かず、現地到着後にお声がけして承認していただきました。ユーザー用とホスト用のアプリが同じになっているのも???と感じる点でした。
●チャージの残額はどうしたものか……。
今回、1000円チャージして1時間の充電料金は240円だったので、私のアカウントには760円の残高があります。また機会があれば残高で充電してもいいのですが、金額指定で充電はできなさそうだし……、などとセコく戸惑っています。
パナソニックでは「エブリワチャージャーシェア」について当面で3000拠点、2030年をメドに3万拠点を目標にサービスを拡大する計画とのこと。充電スポットが増えるのは歓迎ですが、現状のUIや仕組みのままでサービスが拡大すると、ユーザーサポートやクレーム対応で大変なことになるだろうと危惧します。EVユーザーにとって本当に便利な充電インフラにするためにも、ぜひ、ご担当者自ら実際に充電サービスを使ってみて、使いやすいサービスに進化していってほしいと期待しています。
数年前、京都府城陽市の集合住宅オーナーさんの事例で紹介(関連記事)したように、小規模な集合住宅駐車場に設置して、充電電力量を計測したり、合理的に課金できるデバイスや仕組みが求められています。パナソニックといえば日本屈指の電気機器メーカーであり、EV用のリチウムイオン電池を手掛け、EV充電用コンセントで圧倒的なシェアを誇るEVフレンドリーな企業でもあります。もっとシンプルに、特定計量制度をクリアする計量器付きでスマホとかで充電電力量を確認(データ活用)できるEV充電用の200Vスマートコンセントを安価で発売してくれるといいのにな、とも思うのでした。
がんばれ! 日本のEV充電インフラ、です。
取材・文/寄本 好則