プレハブ式の「EV用充電器固定台」を発明〜アイデアマンの工務店社長が特許を取得

滋賀県内の工務店社長がEV用充電器の画期的な固定台を発明、特許を取得したということで取材に行ってきました。スチール製の土台に充電器を設置することで、土木工事のコストや期間を削減。迅速な充電設備設置とともに増設なども容易になる画期的なアイデアでした。

プレハブ式の「EV用充電器固定台」を発明〜アイデアマンの工務店社長が特許を取得

金属製部材を組み立てた土台に充電器を設置

滋賀県米原市の「匠堂」という会社がEV用充電器を設置する「電気設備の固定台(発明名称)」で特許を取得。「エコアクセルチャージングシステム(ACS=アクス)」と名付けて発表しました。

取材日は土砂降りだったのですが、後日、北村さんが晴天写真を送ってくださいました。

ACSはスチール製の部材を組み上げた土台で、その上にEV用充電器を複数台並べて設置するシステム。電気の配線は土台の中に通すことができます。従来の充電器設置では配線を埋めたりコンクリートの基礎を作るための土木工事が不可欠でした。ACSでは「架台と配線スペースを兼用とした固定台」なので、工事の期間やコストを大幅に短縮することが可能です。

設置する充電器は急速充電器、普通充電器のどちらでもOK。施工方法はあらかじめ工場で組み上げて設置現場に運ぶ「プリセット(工場量産)型」と、現地でパーツを組み立てる「オンセット(現地組立)型」の2通りに対応します。オンセット型は運搬や設置が手軽で、プリセット型には工事が天候に左右されにくいメリットがあります。

たとえば、普通充電器を設置する場合、近くに新規引き込み可能な電柱があるなど一定の条件を満たせばわずか1日で工事を完了できるケースもあります。宿泊施設や事業所の従業員用駐車場など、これからますます複数口の充電設備をスピーティーに設置するニーズが高まるでしょうから、コストや期間を削減できるACSはEV用充電設備の普及促進=EV普及促進の味方になってくれそうです。

特許登録公報は2024年9月30日に発行されています(特許情報プラットフォームより引用)。

発明者はテスラを乗り継ぐ工務店の社長さん

特許を取得したのは匠堂合同会社の代表である北村卓造さんです。匠堂はよくある町の工務店。つまり、北村さんの本業は大工さんということです。あらかじめXのDMで連絡を取り、新幹線で到着した米原駅には北村さんが現在の愛車であるテスラモデル3(ハイランド)で迎えに来てくださいました。

北村さん自らACSをアピールしているポストがあったので埋め込んでおきます。

ご覧のように、北村さんのXアカウント名は「テスラ sexyな人」。2014年にテスラを知って未来を感じ、モデルSを購入して以来、モデルX、モデル3、モデルYと、いわゆる「S3XY」を全車種乗り継いできた上に、すべてのテスラ車にFSDオプション(現在は87万1000円のオプション)を付けてきたという生粋のテスラフリークなのでした。

「日本最大の琵琶湖畔の自然に囲まれて生まれ育ち、小学校の自由研究が地球温暖化で、中学生の卒業文集に書いた将来の夢が『地球にやさしいエンジンをつくる』でした。テスラと出会い、自分の夢と重なった」と話す北村さん。仕事では太陽光発電パネルの施工も手掛けていて、サステナブルな住宅建築を進めたいという思いがあり、建築士や電気工事士の資格を取得。テスラに興味をもつ以前から「中古リーフを活用して定置型蓄電池よりコストパフォーマンスの高いV2Hを進めたい」と試行錯誤していたのが電気自動車に興味を抱くきっかけだったそうです。

北村卓造さん

さらに、Xアカウントのアイコン画像が真っ赤なイチゴなのはなぜ? と尋ねると、遊休農地を借り受けてソーラーシェアリングと環境制御を自動で行う「七夕イチゴ園」を始めたからとのこと。

「出身地の自治会が太陽光発電をやらないかと遊休農地だった場所を提供してくれることになったんですが、琵琶湖のほとりで生まれ育った僕は、食糧自給率を上げる取組に活用してみたかった。ソーラーシェアリングで自動栽培できる栄養価の高いスーパー野菜を模索しつつ、まずは近辺で栽培している農家も多いイチゴで観光農園をやってみようと思い立ち、『あまクイーン』や滋賀県のオリジナル品種である『みおしずく』という品種を中心に栽培しています」(北村さん)

自動栽培のシステムは、テスラオーナー仲間の知人が「一緒に作りましょう」と協力してくれて完成したもの。専門性が高く知的な高所得者&好奇心旺盛な方が多いテスラオーナーのネットワークが、北村さんのチャレンジの助けにもなっているようです。七夕いちご園のあまクイーンは、初めて出品した「第1回 全国いちご選手権」で見事金賞(全国第2位)を受賞しました。いちご園のセンターハウスはもちろん匠堂が設計施工した環境に優しい建物でいい感じ。いちご狩りや特製かき氷などは公式サイトから要予約で楽しめます。

北村さんはそもそも「アイデアマン」で、木造ゼロエネルギー住宅の建築コストを抑える新工法の特許も取得しています。また、サステナブルな取組でさまざまな表彰も受賞しています。

これからACSの充電スポットが増えていくのか

土台にLEDを埋め込んだ例。組み立て式なので装飾なども容易です。

重くて大きい急速充電器の場合、充電器メーカーのガイドラインなどでコンクリート土台にアンカーボルトで固定することを前提にしていることがあります。組み立て式の土台で大丈夫なのか気になって、知人のCPO技術者に確認したところ「強風などで転倒することがないようにできれば問題ない」との見解でした。EV普及を加速させるためにも、充電サービス事業者各社は安くて早い設置方法を積極的に拡げるべきではないかと感じます。

ACS説明資料から引用。

一方で少し気になることも……。

実は北村さんのACSは、テスラの秦野スーパーチャージャー設置工事の際、アメリカで前例があったコンクリート製のプレハブ土台を参考に、日本でもプレハブ式が実現できないかと考案したシステムです。コンクリート製の土台は作るのも運ぶのも設置するのも大変だから「金属製で組み立て式にすればいいじゃないか」と閃いた発明でした。

失礼ながら「地方都市の小さな工務店がなぜテスラの仕事を?」を尋ねてみると、長年のテスラオーナーだったことから「イベントなどでテスラのスタッフと懇意になり、ウォールコネクターの設置工事を引き受けるようになったのがきっかけ」とのこと。テスラユーザーになったからこそ拡がった縁。ディーラー網を展開しないテスラは、ユーザーのネットワークが支えてきた面があります。自動栽培システムを開発したオーナー仲間との出会いなどを含めて「これもまたテスラドリームですね」と北村さん。

ただし、秦野スーパーチャージャー(SC)は匠堂が設置工事を行ったものの、その後はSC工事を行っていないとのことで、ちょっと心配ではあります。

ともあれ、充電インフラ拡充の役立つ合理的なアイデアが広がることはEVユーザーとして大歓迎。北村さんのACSにあちらこちらで出会えるようになることを楽しみにしています。

取材・文/寄本 好則

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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