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ABBのNACS搭載急速充電器で「NACSはブーストモードなし!」を先行体験/いよいよ受注開始でSAPA設置を期待!

ABBのNACS搭載急速充電器で「NACSはブーストモードなし!」を先行体験/いよいよ受注開始でSAPA設置を期待!

ABBが発表したばかりのNACS規格のケーブルを搭載したEV用高出力急速充電器「Terra 184 JN」の実機を利用してみました。テスラ モデルY とヒョンデ KONA の2台で同時充電。NACS側は800Vシステムの高電圧充電も可能であるなど、いくつかの「そうなんですね!」をレポートします。

目次

モデルYとコナの2台で同時充電を試してみた

ABB株式会社がCHAdeMO(チャデモ)とNACS(North American Charging Standard)の両規格に対応したEV用急速充電器「Terra 184 JN」の国内取り扱いを開始することを発表したことは、8月の記事でお伝えしました。

「Terra 184 JJ」シリーズは1口最大出力150kWの高出力急速充電器として日本国内で中心的な機種であり、高速道路SAPAなどに多く設置されています。新モデルの Terra 184 JN(CHAdeMO + NACS仕様)は、1台の充電器に2口のケーブルを搭載、EV1台での充電時にはチャデモで最大150kW相当、NACSでは最大180kWで充電。EV2台の場合は各口最大90kWでの同時充電が可能です。

8月の記事作成に向けた取材の際、ABBの広報ご担当者から「実機で充電してみますか?」とうれしい提案。チャデモは私のマイカーのヒョンデKONA(コナ)Casual で試すとして、NACS側はテスラ車が必要です。そこで、執筆陣の一人であるEVネイティブこと高橋優さんに「一緒に行かない?」と連絡して快諾。東京都内の「実機」が設置してある場所に集合したのでした。

モデルY単独で130kW超の出力を確認

まず、実際の充電結果です。最初に接続したのはモデルY。EVが最大の充電性能を発揮するには、バッテリー残量(SOC)が10%以下などに減っているのが理想的ですが、充電開始時のSOCは33%と「そんなにお腹は減ってない」状態でした。それでも、充電を始めてすぐに139kWの出力が確認できました。

5分ほどでSOCは45%になり、出力も100kWほどに落ちてきた頃合いを見計らって、チャデモ側でコナの充電を開始。充電開始時のSOCは50%とこちらも満腹気味ではありましたが、57kWの出力で充電できました。

ひとつ白状しておくと、私も高橋さんも頻繁に長距離試乗を行っていて、急速充電制能の検証はできるだけSOCを減らして行うのがベターであることは重々承知しています。でも今回、検証場所が近かったこともありうっかりSOCを減らして到着することを失念してました。私の場合、SOC55%くらいで早めに到着してしまいそうだったので、近くで見つけた森の中を周回する道をグルグル走ってなんとか50%までSOCを落としましたがタイムアップ。途中、急な放電でバッテリー高温のアラートが出たので、急速充電に備えてコンディショニングをオンにしたというお粗末でした。

Terra 184 JN は単独充電時はチャデモ規格で最大150kW(電流値として350A)ですが、2台同時充電になると2口それぞれが最大90kWに制限されます。コナの充電を始めた後でNACS側の出力を確認すると、SOC51%で88kWに落ちていました。チャデモとNACS、それぞれの出力状況を推定してみましょう。

<急速充電器の出力とは?>

その前に、急速充電器の出力についての基礎知識をおさらいしておきましょう。急速充電器の出力は、中学校の理科で習ったように「電圧(V)× 電流(A)=電力(W)」で決まります。充電時の電圧は、原則的にEVの駆動用バッテリーの電圧で決まります。EVの諸元で「総電圧」と示されている数値が目安。また、SOCが低いほど電圧は低く、充電が進んで満充電に近くなると電圧が高くなります。

電流は、EV車両との通信によって、使用する急速充電器の仕様に応じた電流が出力されます。急速充電器の仕様はチャデモ規格の場合おおむね電圧は400~450Vが最大となっていて、「最大出力」は流せる電流の最大値によって決まります。一般的な例を挙げると、各出力器の最大電流値は以下のようになっています。

●40kW器=最大100A
●50kW器=最大125A
●90kW器=最大200A
●150kW器=最大350A

実際の電圧は前述のように車両側のシステム電圧に依存するので、最大電力値はあくまでも定格上の目安ということになります。という基礎知識を踏まえて、コナとモデルYの充電結果を確認します。

モデルYは2台同時充電でも88kWの出力を記録

まず、コナカジュアルのシステム電圧(スペック値)は269Vと低めです。出力が57kWということは、「57kW ÷ 200A=285V」と計算できます。開始時SOCが50%と高かったものの、充電器側の最大出力である200Aで充電できていたと推定していいでしょう。

モデルYの公称システム電圧は345V(いわゆる400Vシステム)です。2台同時充電が始まってからの出力は88kWでした。ということは「88kW ÷ 200A=440V」という計算となり、電圧値が高すぎます。車両側の電圧が380V程度だったと仮定すると、88kW出力時の電流値は「88kW ÷ 380V =約232A」も流れていた計算になります。

ケーブルのスペックが高いNACSの場合「90kW制限=200A制限」ではないということですね。また、SOCがちょうど50%を超えるくらいまで上がっていたので、コナ充電開始前の100kW程度から88kWに出力が落ちたのは、モデルY側からの要求電力が下がった可能性もあります。

これは、後で取材内容を整理しつつ計算してわかったことで、ABB担当者に詳細を確認したところ、2台同時充電時の各コネクタ最大出力は90kWに制約され、それに合わせて出力電流が調整される仕様となっているということでした。後日、ABB担当者よりコナとモデルYの同時充電時の実際の充電データを提供いただきました。

コナ:206A × 277V = 57kW
モデルY:225A × 391V = 88kW

なにはともあれ、1基2口の高出力充電器で、モデルYとコナが並んで充電できる便利さを実感することができました。もし、この急速充電器が高速道路のSAPAにズラリと設置されるようになれば、とくにテスラ車オーナーのみなさんは高速道路を利用するロングドライブの利便性がグッと向上する(というか、選択肢が拡大する)はずです。浜松SAや遠州森町PAなどのスーパーチャージャーを利用するにはスマートインターチェンジから一度高速道路を下りる必要がありますが、SAPA内にこの充電器があれば高速を下りることなく充電可能。さらに、チャデモ規格の充電器利用に必要だったアダプターも不要です。

担当者へのインタビューでわかったこと

2台並べて15分ほどのお試し充電を終えて、ABBのエレクトリフィケーション事業本部 E-mobility事業部長の片岡幸朗さんにいくつか質問などしてみました。実機試用でわかったことと合わせて、ポイントを紹介します。

E-mobility事業部長の片岡幸朗さん。

NACS側の最大出力はチャデモ1.2規格に縛られない

Terra 184 JN の最大出力は「チャデモで最大150kW相当、NACSでは最大180kW」とアナウンスされています。なぜ、チャデモとNACSで最大出力が違うのかという説明を聞いて驚きました。

Terra 184 JN の充電ケーブル。チャデモ側は住友電工製の急速充電コネクタ付きケーブルを採用しています。対応する電流の定格は、連続で200A、15分限定のブーストモード時は350Aとなっています。つまり、400Vシステムを前提としたチャデモ規格において90kW用のケーブルで、150kWのブーストモードに対応しているということです。

一方、NACS側に採用されているのは Amphenol(アンフェノール)というメーカーの、NACSコネクタ付きケーブルでした。電流は375Aを連続して流せる仕様とのこと。さらに、Terra 184 は、最大920Vの高電圧に対応しています。つまり、NACS側の出力としては「920V × 375A = 345kW」のポテンシャルがあるものの、充電器そのもののパワーの限界によって「最大180kW」になっているという説明でした。電圧が480V以下の時は、出力電流の最大は375Aとなります。電圧が480Vを超えると最大出力電流は徐々に下がっていきます。充電器の出力電力は、電圧と電流の積であることから、電圧が480V以上の範囲で充電器の最大出力である180kWを得ることができます。

Terra 184 は、日本ではチャデモ1.2という規格で認証を取得しています。ちょっとややこしいですが、チャデモ規格は以下のような段階に分かれています。

CHAdeMO 1.0(0.9):125A×500V=最大出力50kW
CHAdeMO 1.2:400A×500V=最大出力200kW
CHAdeMO 2.0:400A×1000V=最大出力400kW

今年5月、東光高岳が最大350kW器を発表した(関連記事)ように、規制緩和で1000V(車両側は800Vシステムであるケースが多い)対応のチャデモ2.0対応機種も登場しつつあります。Terra 184 はチャデモ1.2の認証なので、従来通り、最大150kWの出力に抑えているということです。でも、NACSにチャデモ認証は関係ありませんから、ケーブルと充電器のポテンシャルを活かして、最大180kWの高出力を提供できる。しかも、ケーブルのスペックが高いからブーストモードも必要ない、というカラクリでした。

ケーブルの配置はアレンジ可能

今回試用した Terra 184 JN は、向かって右側の「1」がNACS、左側の「2」がチャデモになっていました。充電を始める前、最初は高橋さんのモデルYが1番に近い右側区画に前からクルマを入れたのですが、私がケーブルの配置を確認せずに「2台とも正面を向いた写真を撮りたい」とワガママをお願いして、左にモデルY、右にコナを入れて充電しました。結果、充電ケーブルが交差することになってしまいました。

とはいえ、充電区画ではバックのほうがクルマを入れやすい場所が多いはず。テスラ車の充電口は左側後部で統一されているため「NACSが左側のほうが使いやすそうですね」と片岡さんに進言すると、Terra 184 JN のNACSケーブルユニットは後付けも可能なキットになっていて「左右の配置は入れ替えられる」とのこと。最終的には設置する充電サービス事業者の判断になるのでしょうが、国内で実装される際には「NACSが左側」というケースが多くなるのではないかと思います。

さまざまなテスラ車での充電テストは?

今まで、日本ではチャデモ規格の急速充電器を提供してきたABB。NACSケーブルを搭載した Terra 184 JN の充電テストは、協力会社のエンジニアが所有しているテスラ車で行っているということでした。

実は、2020年10月以前に生産されたモデルS、モデルX、モデル3は、NACS規格に非対応。また、車両が要求する電圧が450Vを超える新型のモデルS、モデルXは、アダプターを使ってもチャデモ規格の急速充電器を使えないなど、ぜひ確認テストを行うべき「気になる点」があるのですが、車種、年式を網羅してのテストを実施するのはなかなか大変というのが実状のようです。

もちろん、本格的に受注を開始して社会実装が始まるまでには、全車種のさまざまな年式のテスラ車でしっかり動作確認を行った上でローンチしてくださることを期待します。とはいえ、実車の手配は大変そうだし、いっそ、TOCJ にお願いして車種を網羅したオーナーさんに集まっていただくのがよさそうにも思います。

NACSケーブルを搭載すると補助金が減額になる?

高速道路SAPAをはじめ、急速充電器の設置には国の充電インフラ補助金を活用するケースが多くなっています。ところが、現状の補助金制度のままだとすると、本来はチャデモ規格の2口器だった Terra 184「JJ」の1口をNACSケーブルに変えた Terra 184「JN」になると、充電器本体に交付される補助金額が減額される可能性があるとのこと。

すでに設置済みの「JJ」の1口を交換するレトロフィットも可能なので、満額の補助金を受けて設置された充電器に後付けでNACSケーブルを搭載するとどうなるのかといった点も問題。片岡さんは補助金を所管する経済産業省にも足を運んで「確認と協議を行っているところ」ということでした。

1口をNACSにすることで稼働率がアップする?

Terra 184 JN 発表時の記事にも書いたことですが、1口がNACSケーブルとなることで、せっかく2口器の Terra 184 が、チャデモ、NACS それぞれ、実質的には1台しか充電できない設備になってしまうのが、個人的にちょっと気になるポイントでした。

片岡さんにその点を質問すると、EVでロングドライブを楽しむのはテスラ車オーナーさんが多い傾向があることを前提として「NACSケーブルを搭載することで充電器の稼働率が上がることが期待できる」という説明をいただきました。

なるほど、先日「テスラが日本でいちばん売れてるEVになる?」と題した記事にしたように、今、日本で売れていて、高出力急速充電に対応しているEV車種の中心は、テスラのモデルYとモデル3です。当面は、高速道路SAPAなどの Terra 184 が「JN」となることで、テスラ車オーナーさんの利用頻度がアップすることは想像に難くありません。

ただし、今後さらにEVの普及率が高まって、急速充電器複数口設置がさらに求められる状況になったら、チャデモとNACSそれぞれに対応した高出力器をズラリと並べていく、ということになるのでしょうか。だとすれば、いっそのことテスラ純正のスーパーチャージャーを高速SAPAにも設置するのが合理的って気もします。

いずれにしても、NACSへの対応をどうするのか。日本として、国や日本の自動車メーカーはどうするのかという命題への回答がポイントになってくることでしょう。

ABBでは、9月17日 (水) ~19日 (金) に幕張メッセで開催される脱炭素経営EXPO【秋】に Terra 184 JN を出展し、いよいよ正式な受注を開始するとのこと。e-Mobility Power がどうするのかはまだわかりませんが、全国各地の高速SAPAで、NACSケーブル搭載の Terra 184 JN に出会えるようになることを楽しみにしています。

取材・文/寄本 好則

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この記事を書いた人

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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