フォミュラEの冠スポンサーでもあるABBが、NACS規格のケーブルを搭載したEV用高出力急速充電器「Terra 184」を日本で発売することを発表しました。2025年内に受注を開始、2026年から納品を開始する予定です。はたして、日本のEV充電がNACS規格中心に移行していくことになるのでしょうか。
CHAdeMOとNACSの両規格に対応したモデルを追加
2025年8月4日、ABB株式会社がCHAdeMOとNACS(North American Charging Standard)の両規格に対応したEV用急速充電器「Terra 184 JN」の国内取り扱いを開始することを発表しました。
ABBの「Terra 184」シリーズは最大出力150kW超の高出力急速充電器として日本国内で中心的な機種であり、高速道路SAPAなどに多く設置されています。新モデルの Terra 184 JN(CHAdeMO + NACS仕様)は、1台の充電器に2口のケーブルを搭載、EV1台での充電時にはCHAdeMOで最大150kW相当、NACSでは最大180kWで充電。EV2台の場合は各口最大90kWでの同時充電が可能です。

2023年1月、EV充電器の世界累計販売100万台を達成した際のリリース写真。
Terra 184 JN はABBが2023年にイタリアのヴァルダルノに開設したDC急速充電器の大規模な生産施設で製造されるとのこと。2025年内に受注を開始し、2026年から納品を開始する予定であるとしています。
また、既設の「Terra 184 JJ(CHAdeMO + CHAdeMO仕様)」についても、CHAdeMOケーブルをNACSケーブルに変更できる「NACSアップグレードキット」(価格は未定)を提供し、Terra 184 JN へのレトロフィットが可能となります。
高速道路SAPAでテスラ車がNACSで充電できるようになるのか?
現在、日本の高速道路SAPAの急速充電ステーションのほとんどは株式会社e-Mobility Power(eMP)が運営しており、テスラ規格をもとに策定されたNACS規格には対応していません。今回、そのeMPが採用しているTerra 184でNACSケーブル搭載が可能になったことで、今後、高速道路SAPAなどeMP運営の充電スポットでもテスラ車、あるいはNACS規格の充電ポートを搭載した他メーカーのEVも充電できるようになるのでしょうか。
また、Terra 184 JNの登場は、利便性に優れたNACS規格が日本でもEV充電(急速充電を中心とした)のスタンダードになっていく端緒となるのでしょうか。いくつか、気になる点をABBに確認してみました。

新東名浜松SA(下り線)のABB製最大150kW器。
Terra 184 JJ の日本における累計出荷台数は?
まず、CHAdeMO規格のケーブル2本を搭載するTerra 184 JJの日本国内における累計出荷台数は「約1000台」とのこと。国内で出力120kW以上の充電スポットをEVsmart(ウェブサイト)で検索するとその数は600カ所弱でした。研究開発用途などで設置しているところもあるため、公共用のスポット数を大幅に上回る出荷数になっているのだと思います。また、最大出力90kW×2口で運用されているスポットがあるのかも知れません。
いずれにしても、高速道路SAPAなどに設置されている150kW器は「ABBか新電元」という状況は実感できています。ABBの Terra 184 が現状の日本国内で最も普及している高出力急速充電器であるといっていいでしょう。
どのような設置事業者(場所)からの需要を予測していますか?
高速道路SAPA、すなわちeMPも設置するのかどうかを確認したい質問だったのですが……。ABBからの回答は「すべてのセグメントにおける需要を予測しております」でした。もちろん「すべてのセグメント」なので、高速道路SAPAへの設置を想定していると理解することもできます。
今後、eMP以外のサービス事業者が高速道路SAPAの急速充電器設置を受注できることになった場合、NACS規格ケーブルを搭載した機種の導入が注目点になる可能性もあります。
また、実際に製品化する以前に「どんな需要家からNACS搭載の要望が?」という質問には「守秘義務の関係で詳細公開はできませんが、複数のお客さまよりお問い合わせをいただいております」という回答でした。CHAdeMO規格にはアメリカのトランプ政権が「非関税障壁」として問題視していることが伝えられています。高速道路でテスラ車(NACS規格対応車)が充電できるようにすることに、eMPが前向きに検討を始めていることを期待したいと思います。
各出力部に取り付けられるケーブルは1本だけですか?
機能として気になったのが、充電器には2口のケーブルがあっても、CHAdeMO + NACS仕様でケーブルが1本ずつでは、CHAdeMO規格のEV2台が同時充電することはできません。テンフィールズファクトリーが展開しているフラッシュのように、ひとつの出力口に対して「CHAdeMO + NACS」の各2本のケーブルを搭載できれば、CHAdeMOのEVが2台来ても、テスラ車が2台かち合っても大丈夫と考えてみたのですが……。
ABBの回答は「充電器1台に対して、CHAdeMO + NACSの1本ずつとなります」ということで、1口から2本出しは不可能でした。とはいえ「出力2口をNACS + NACS とすることも可能ですか?」という質問には「可能です」という回答。EV普及の状況に合わせて「CHAdeMO + CHAdeMO」と「NACS + NACS」を複数基設置するなど、設置方法のバリエーションが生まれてくるのかも知れません。

CHAdeMOとNACSケーブルを2本出しにしたフラッシュの急速充電器。
あ、あと、テスラ車でも年式などによってNACS規格で充電できないケースがあるので、テスラ車オーナーの方はご留意ください。
今後は日本もNACSに移行する?
最後に「ABBとして、今後、日本国内で発売される市販EVの充電規格はNACSに移行していく、もしくは移行するべきと考えていますか?」と直球の質問をしてみました。
「ABB E-mobilityは、充電ソリューションにおけるグローバルリーダーであり、各地域の充電規格や400 kW級の急速充電器など幅広く取り扱っております。お客さまのニーズがございましたら、日本国内においてもサポートしていきたいと考えております。
日本は現存のBEVを含めてCHAdeMO規格が主流のためすぐにNACSへ移行することは考えにくいですが、NACS採用の発表をされている自動車OEM様がいらっしゃることもあり、両規格が共存する可能性はあると考えております」という回答でした。
つまり「今後は日本もNACSに移行する」かどうかはABBが決めることではなく、EVを発売するOEM(自動車メーカー)次第ということですね。以前の記事でお伝えしたように、ソニー・ホンダが今年中に受注開始予定の電気自動車『AFEELA(アフィーラ)』や、マツダが2027年以降に日本国内で販売するEVでNACS規格を採用することを発表しています。マツダがNACS対応の記事でも書いたように、日本でもNACSが標準となるのかどうか。端的に決定づけるのは「トヨタがどうするのか」ということになるのだと思っています。
EVユーザー目線で考えれば、プラグが小さくて軽いなど、使い勝手はNACSが有利なのは明らかです。とはいえ、すでにCHAdeMOのネットワークは充実しているし、規格はどっちでもいいから月額会費を下げたり(なくしたり)ユーザビリティを向上させてほしいというのが正直な思い。また、充電規格どうこうよりも、安価で魅力的な新型EVの登場を期待しています。いずれにしても、日本としてEV充電規格をどうするのかというスタンスを、そろそろ明確にするべき時期になっているのではないかと感じるニュースなのでした。
取材・文/寄本 好則
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