東光高岳とe-Mobility Powerが共同開発を進めていた最大出力350kW/口の次世代超急速充電器「SERA-400」が完成し、新製品発表会で初公開されました。懸架アームによる吊り下げ式の新型軽量ケーブルや、2口それぞれに「人と向き合う」大画面ディスプレイなど、高い操作性を追求したデザインが特徴です。2025年内に設置開始予定ですが、具体的な場所や口数などの計画は未定です。
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1000V仕様で最大350kW、2口使用時各200kWの出力を実現

左から、岩堀啓治氏(株式会社 e-Mobility Power 取締役)、一ノ瀬貴士氏(株式会社東光高岳 代表取締役社長)、山中俊治氏(デザインエンジニア)。
株式会社東光高岳と株式会社e-Mobility Powerが、共同開発を進めてきたEV向け次世代超急速充電器「SERA-400」の新製品発表会を開催しました。
SERA-400はEV用急速充電器の電圧に関する規制緩和によって、従来のおおむね450Vから「1000V仕様」にパワーアップ。最大電流は400Aの仕様となり、1口使用時は最大350kW(350A×1000V)、2口同時使用時でもそれぞれ200kW(200A×1000V×2口=400kW)の最大出力を実現しました。
最大350kW出力は10分間に制限する「ブーストモード」が採用されています。とはいえ、10分以上最大出力で充電可能なEVはまだないでしょう(今後、開発される可能性はあるけど)し、ブースト終了後も最大200Aと高出力なので、実用的な「期待外れ」感はまったく心配ないと思われます。
CHAdeMO(チャデモ)規格で最大出力350kW以上の超急速充電器が認証を取得して製品化されるのは世界初(関連記事)。発表会では2025年内に納品、設置開始を予定していることが示されました。設置場所としては、高速道路SAPAなど「利用頻度が高く超急速充電へのニーズが高いと見込まれるスポット」のほか、高電圧バッテリーを搭載したEV車種を販売する自動車メーカーやディーラー、バス会社や船舶の事業所などが想定されています。
「使いやすそう!」と感じるデザインの特長
お披露目されたSERA-400(まだモックアップ器でしたけど)は、なかなかに荘厳な印象でした。デザインエンジニアの山中俊治氏(東京大学特別教授)によると「(超急速充電器は)どんな存在感が美しいか」、また「誰もが楽に使える操作性」を両立させることを目指した結果として「神殿のように見える」彫刻的な造形に至ったとのこと。
SERA-400のサイズは高さが2655mm(約2.7m)。一般的な住宅のリビングルームの天井高は2.5mくらいですから、かなりの存在感を放っています。高速道路のSAPAなどに設置されれば、EVを知らない人にとっても「あれは何だ!」という驚きや興味を喚起してくれることでしょう。
「高さ」はユーザビリティのポイントでもあります。本体上部のスイング式懸架アームで、住友電気工業が開発した新型の軽量ケーブル&コネクタを吊り下げるケーブルマネジメントシステムによって、ケーブルを地面に引きずることなく車両への接続を行いやすくなっています。また、コネクタの向きを変える際などに扱いやすくするためのハンドルが付けられていたのも、細かいけれど好印象のポイントでした。

プレゼンテーションに登壇した住友電気工業の出田瑞貴氏にデモンストレーションしていただきました。お顔が写らずごめんなさい。
2口のストールそれぞれに15.6インチの大画面ディスプレイを備えているのも、使いやすそうな注目点です。ディスプレイの表示内容は「必要な情報を丁寧に伝える」(山中氏)ことを旨に開発したということで、充電中に「充電電力の詳細を見る」ボタンを押すと、充電電力の推移、開始時SOCや現在のSOC、現在の充電電流や電圧の値などを確認できます。
表示がきれいなのでついつい画面にタッチしそうになりますが、このディスプレイはタッチパネル式ではありません。充電器の操作はすべて、ディスプレイ下に設置された3つの物理ボタンで行います。タッチパネルディスプレイには経年劣化で白濁しやすいデメリットもあるとのこと。新型器のディスプレイには白濁しにくい素材が使われています。ボタンは地上から1mちょっとの位置だったので、車いすの方でも操作に支障はなさそう(ギリギリかなぁって印象ですけど)です。

存在感の美しさを追求したと説明する山中氏。
チャデモ協議会のロゴや、2008年の洞爺湖サミット会場に設置された急速充電器のデザインも担当したという山中氏。まさにチャデモ規格や日本のEV普及黎明期から関連デザインの第一線で活躍してきた方ですが、ご自身がEVユーザーになったのは1年ほど前のこと。EVユーザーになって実感しているのは「自宅でも充電できて給油より自由度が高く、外出先でも思ったより充電に困ることはなく、充電の待ち時間を有効活用できる」こと、そして「もうガソリン車には戻れない」とのこと。自分自身がEVユーザーとして、ケーブルの取り回しや充電プロセスなどのユーザビリティを、東光高岳やe-Mobility Powerと検討を重ねながら「ていねいに作り込んできた」ということでした。
ヒョンデ『IONIQ 5』とポルシェ『タイカン』でお披露目
除幕式の会場で充電するEVとして展示されていたのは、ヒョンデ『IONIQ 5』とポルシェ『タイカン』の2台でした。1000V仕様で最大出力350kWのSERA-400ですが、超急速の性能を活用するにはEV側が高電圧仕様のバッテリーを搭載している必要があります。今、日本国内で市販されていて、いわゆる800Vシステムと呼ばれる高電圧仕様のハードウェアを実装しているのは、ヒョンデの『IONIQ 5』と『IONIQ 5 N』、そして、フォルクスワーゲングループの兄弟車といえるポルシェ『タイカン』と、アウディ『e-tron GT』くらい(メルセデス・ベンツやBMWあたりの日本仕様も「実は800Vに対応できます」の可能性はありそうですが)です。
このうち、ヒョンデのIONIQ 5はすでに高電圧の超急速充電に対応していることが確認されています。ただし、この日同席したポルシェジャパンのプロダクト&サービス部執行役員の藤井隆行氏によると、すでに販売されたタイカンは800Vの高電圧システムのハードウェアを実装しているものの「チャデモ規格での出力上限は150kWに制限するプログラムになっており、さらなる高出力充電を行うにはソフトウェアのアップデートが必要」とのこと。SERA-400が日本国内で社会実装されていくことを踏まえ、「本国でのソフトウェア開発を進める」よう計画中ということでした。
そんなわけで、現状の日本でSERA-400の恩恵を享受できるのはヒョンデのIONIQだけ。除幕式で挨拶したヒョンデモビリティジャパン、マーケティングチームシニアスペシャリストの佐藤健氏は「2022年5月のIONIQ 5発売以来、3年待ってようやく本領を発揮できる超急速充電器が登場した。EVが新しいモビリティライフの中心になる(ことを加速する出来事)」と歓迎していました。
ヒョンデのCXC(カスタマーエクスペリエンスセンター)に、国内第1号機が開設される日を待ってます!
ともあれSERA-400は、出力もUIもデザインも、2010年ごろのEV黎明期から思えば涙ぐんでしまいそうなほどの進化を遂げた急速充電器であることが確認できました。今後の新型チャデモ急速充電器に、この発想やUIが広がっていくことを期待しています。あとは、海老名SA(個人的に高速SAPAへの初設置場所と予想してます)に一日も早くSERA-400が設置されますように!
取材・文/寄本 好則
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