大好評! 横浜市の公道「EV充電ステーション」社会実験の1年延長が決定

横浜市とe-Mobility Powerが実施してきた公道上に電気自動車用急速充電器を設置する社会実験。今年3月末で終了の予定でしたが、2023年3月末まで、1年間延長されることが発表されました。横浜市ご担当者のコメントなどを紹介します。

大好評! 横浜市の公道「EV充電ステーション」社会実験の1年延長が決定

日本初!公道に設置されたEV充電器とは?

横浜市と株式会社 e-Mobility Power(充電インフラの整備、充電ネットワーク拡充ならびにサービス提供を行うために設立された電力会社、自動車会社等 7社による共同出資会社。出資者:東京電力ホールディングス㈱、中部電力㈱、トヨタ自動車㈱、日産自動車㈱、本田技研工業㈱、三菱自動車工業㈱、㈱日本政策投資銀行)が、令和3年6月8日から実施してきた「全国初の公道充電ステーション設置」の社会実験は、当初、令和4年3月31日に終了を予定していましたが、このたび延長が決定し、1年後の令和5年3月末まで実施されることになりました。

【関連記事】
日本初! 横浜市内の公道上に電気自動車2台用の急速充電器が出現(2021年6月11日)

今回の記事では昨年10月に発表された利用者アンケートの結果と、その後の利用状況、利用者の要望などについて、横浜市温暖化対策室の担当者に伺った内容をお伝えします。

全国で初めて公道上に設置されたEV用急速充電器について、まずは経緯と概要からご紹介します。

【経緯】
●令和2年3月/横浜市と株式会社 e-Mobility Power による連携協定締結。
●令和2年9月/国土交通省「道路に関する新たな取り組みの現地実証実験(社会実験)」に採択。
●令和3年6月/EV充電器の公道設置に関する実証実験開始。

【概要】
●実証場所/ 横浜市青葉区しらとり台69付近 (神奈川県道140号川崎町田線沿い)
●実施主体/EV充電器の公道設置に関する実証実験協議会 ※1
※1 横浜市・㈱e-Mobility Power・有識者によって構成される実証実験実施のための協議会
●設置充電器/機器概要 CHAdeMO 規格 急速充電器1基(2台同時充電可能)
1台利用時最大出力 90kW ※2
2台利用時最大出力 56kW
※2 令和3年6月~10月までは、1台利用時最大出力56kWで運用
●利用時間/24時間
●利用料金/充電認証カードにより異なる
※e-Mobility Power ネットワーク充電器、ビジター利用可

アンケートの結果はおおむね好評

この看板も掛け替えられるはず。

昨年10月に公開された利用者アンケートの結果と利用状況などの発表(横浜市発表のPDFにリンク)によると、6月8日のオープン以来、平均して月に200回以上の利用がありました。

①利用状況⇒200 回超/月の利用状況であり、充電ステーションとして定着。
●6月(6/8~7/7) 228回
●7月(7/8~8/7) 229回 ※平均 7.8回/日(平日:7.2回 休日:9.1回)
●8月(8/8~9/7) 243回

設置された6月以降、毎月利用者が増えていることが分かります。この場所に充電器が設置されたという情報がEVユーザーの間で広まったこと、また、EV台数そのものが増えたことが利用者増の理由だと考えられます。

②公道上に充電器を設置する取り組みは?→利用者の約95%が支持。
質問「公道上への充電器設置は、店舗等の駐車スペースが少ない都市部の充電スポット不足を将来的に解消する目的で、社会実験を実施しています。都市部の充電スポットを増やすために、公道上に充電器を設置する取組について、どう考えますか」

〇支持する 94.7%
×反対する 5.3%

③今後も公道充電器を使用しますか。

積極的に利用したい 64.5%
たまに利用したい 26.3%
分からない 5.3%

「利用したい」の合計が9割以上ですが、以下のような理由で利用についてあまり積極的ではない回答も5%ほどあったとのこと。
「あまりにも周囲に何もなくて時間をつぶせない」
「コンビニはもちろん、自販機すらない。ホントに何もないので充電中のクルマを置いて離れるのも不安」
「商業施設の駐車場の方がいい。充電中にやることない」
などの意見が寄せられたそうです。

ちなみにこの場所は筆者の自宅からクルマで10分程度の場所にあり良く通る道路ですが、確かに充電器の後ろは田んぼが広がっており、反対側は閑静な住宅街です。最寄りのコンビニまでは、600~700メートルあり徒歩8-9分。自販機も周囲にはありません。

ですが、やはり公道で24時間気兼ねなく利用できるのは便利な充電器と言えそうです。比較的周辺のスペースに余裕があるので、充電待ちのクルマも1〜2台程度なら安全に停められる印象です。

また、Googleマップのクチコミでも5点満点で4.6と好評です。「充電速度が速い」「90kW対応なのが良い」などのコメントがありました。

公道上に充電器を設置する条件とは?


※Click to big.

中間報告から半年が経過したところで、「その後」の利用者の声について、横浜市温暖化対策統括本部プロジェクト推進課の担当者に聞いてみました。Q&Aスタイルでまとめます。

Q. 日本初の公道充電器ということで、いろいろとご苦労もあったかと思いますが、青葉区しらとり台のこの場所に決まった経緯から教えてください。

公道に充電器を設置するには様々な条件をクリアする必要がありました。まずは、安全第一なので、事故がおきにくいか? 十分なスペースが取れるか? EV以外のクルマが路駐することはないか? 等について検討しました。2020年1月頃のことですね。

日本初の公道充電器ということもあって誰に聞けばいいのか、手探りでスタートしました。設置を決める前に何度も周辺をクルマで走り回ってみました。とくに、夕方、国道246に上がるクルマを調べてEVがどれくらいこの場所を通過するのか? なども調査しました。そして警察や道路管理者、土木事務所、道路局などと調整し場所を決定しました。

Q. 昨年10月に公表された中間報告ではとても好評でしたね。地域の皆さんからはどのような声がありましたか?

地域からの危険性や不安に関する意見もなく、近隣の EV を所有する住民の利便性が向上するという声が多かったですね。地域でのEVの普及やまちの発展に寄与する取組として継続要望が多くありました。

Q. 中間報告以降、入って来た声を教えてください

10月の中間報告以降もアンケート(充電場所にクルマを停めると自動的にアンケート回答のアプリが起動)やヒアリングをしてきました。多くの利用者の方から積極的な支持を頂きました。充電器の設置してある場所に張り付いて(笑)利用者の方から直接、お話を伺うこともありました。結果は出せているかなという印象です。

具体的な要望やご意見もいただいています。

<要望や意見の例>
「いつもここで充電しているので無くなったら困ります」
「自動販売機が欲しいですね」
「雨の日、雨除けになる場所が欲しい」
「ベンチが欲しい」
「24時間いつでも使えるのがいい」
「ディーラーの充電器は、他メーカーのクルマだと充電しづらい」

急速充電インフラとともに基礎充電設備の普及を

現在のところ、公道に設置された24時間利用できる充電器は日本でここだけ。横浜市では今後も実証実験を続け、「トラブルなどがなければ、他の場所にも増やしていきたい考え」ということでした。

(取材・文/加藤 久美子)

【編集部提言】公道上の充電ステーションに求められる役割は?

公道上に急速充電ステーションを設置する横浜市とeMPによる試みはおおむね好評、1年間延長された社会実験では「充電マスや充電ケーブルの調整など、充電ステーションの最適化に向けた取組」を実施するということで、さらなる知見が得られることを期待しています。

横浜市における社会実験には、公的な急速充電ステーション設置場所の選択肢を広げる意義があります。また、最大90kWの高出力で2口タイプの充電器を設置するという、公的な急速充電施設の新たな基準を示した点が、「将来的にも2口で充分か」という懸念はさておき、現状の取り組みとして評価できます。

一方で、EVsmartブログ編集部としては、ちょっと気になる点があります。それは、「何のために」、「どのような計画に基づいて公道の充電ステーションを配置するのか」ということです。

急速充電器は基本的に長距離ドライブで電力を補給する「経路充電」のためのインフラです。でも、今回の事例のように住宅街の公道上に設置する場合、拠点ガレージに充電設備がないマンション住まいのEVオーナーなどが、本来は普通充電設備で行うべき「基礎充電」の代用施設として活用しているケースがあるのではないかと想像できます。

対症療法的に、公的負担で基礎充電代用施設としての急速充電ステーションを増やすのは、おそらくEVシフトが急速に進展する数年後の将来に向けて、あまり賢明な方法とは言えません。

急速充電インフラの配置は、eMP(あるいは国の行政機関など)が全国レベルのネットワーク構築を勘案しながら、計画的に進めるべき。ちょうど、今年度のCEV補助金(令和3年度補正予算分)で充電インフラへの補助拡充が発表されたところですが、公道上に急速充電器を設置するハードルが下がり、補助金が使えるからといって、無計画に林立してしまうのは違うよね、と感じます。

一方で、集合住宅や賃貸駐車場への普通充電設備普及は、EV時代に向けて日本社会が抱える大きな課題。設置を義務づけたり奨励する法制度を設けるなど、「代用急速充電器」設置ではない、合理的な社会の対処と進展が望まれるところです。

急速充電インフラについては、高速道路SAPAを中心に、公道に設置するケースも含めて、全国ネットワークを勘案して計画的に、90kW以上の高出力で、できれば4台(口)以上の複数台が設置されたステーションが拡がることを願っています。

(追記/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)12件

  1. 本文の通り住宅街の道路に急速充電器を設置するというのはやはりあまり良くないので
    基礎充電は自宅で可能になるように政策を進めてほしいですね。
    新築マンションや新築一戸建てには200Vコンセントの設置を義務付ける
    既存マンションについても住民からコンセント設置を求められたら検討を義務付けるといったルールが必要だと思います

    1. haladdさんに同じく自宅普通充電が基本だと思うアイミーブM乗りです。
      電気主任技術者目線で見ても配電線への影響が少ない普通充電の拡大こそが望まれますよ。当家はすでにソーラー電力固定買取終了を来年に控えており電気工事士の資格で自力設置しましたし。
      石油価格高騰で電気自動車の需要が拡大していますが、電力事情も決して良くはなく、ソーラー発電の普及拡大で昼夜の電気代格差は減るばかり。しかも集合住宅物件は駐車場の立地的に低圧配線すら難しいコンクリート構造も少なくないので既存物件への普及も一部にとどまるかと思います。いわんや急速充電器をや。
      新築集合住宅への電気自動車普通充電器は最低2割設置義務にすべきだと思いますよ。全住民が電気自動車に乗ることになっても週一回は充電できるような仕組みを作るべきで、自身が保安管理するマンション共用部受電設備へのEV充電器設置プランを提案できるよう現在原案を練っていまして。

  2. 基本的には寄本氏の言う通りです。住宅街に急速充電を公費で設置は疑問です。
    一方で最近の急速充電器は大きな課題があります。それは額面通りの充電ができないことです。同じ急速充電でも40kwや50kwの違いがあるのは仕方ないですが、問題は50kwでも場所によって充電容量が全く異なります。というかほとんどの充電スタンドは公表値の充電量よりもかなり少ないです。恐らく時間課金なのであえて高い出力を提供する必要がないのでスタンド側が出力を絞っていることが原因です。あるいは高出力にすると故障しやすいという理由もあると思います。時間課金は理解できますが、従量課金も考える時期に来たと思います。

    1. d43f様、貴重なご意見・コメントありがとうございます。

      一点、お伝えさせてください。
      >ほとんどの充電スタンドは公表値の充電量よりもかなり少ない
      こちらの点ですが、当社で調査している限り、「ほとんどの」ということはなく、多くの充電スタンドは既定の出力を出せていると理解しています。恐らくそう感じられる理由は、日本のチャデモ方式の充電器出力の考え方と、テスラの充電器出力の考え方が異なるからと言えると考えております。
      https://blog.evsmart.net/charging-infrastructure/quick-charger/why-does-my-tesla-not-charge-at-50kw-at-chademo-quick-chargers/
      こちらの記事にそのあたりの技術的解説を書いておりますので、もしお時間がございましたらご覧ください。

    2. 同じ性能の急速充電器でも車両側の状態、温度など様々な要因で充電量が異なることは知ってます。だからこそ時間は30分まで課金は従量制があるべき姿と思います。

  3. 利用したことがないので、腹落ちしないだけなのかもしれないけど、アンケート結果を踏まえると、今回の充電器は「公道で24時間気兼ねなく利用できる便利で急速な充電」を提供できていたという評価になり、これは逆に言えば、横浜市青葉区や緑区周辺の充電器は、精神的にも物理的にも、遅く使いにくい充電器になってしまっているということなんだろうか?ユーザーさん、教えて。

  4.  しかし、eMPは仕事遅いっすねえ。私は多摩地区に住んで6年以上EVに乗っていますが、私の知る限り、よく通る範囲の中央道、圏央道、関越自動車のSA/PAにはただの一つも充電器は増えていません。
     公道での実験もいいですが、もうそんなことのんびりやってデータ取ってる場合じゃないでしょう。集合住宅への普通充電器無料設置じゃないですけど、どこかの投資会社と組んだベンチャーがドーンと先を見越した全国展開をスピード感を持ってやってくれませんかねえ。

    1. アイミーブ乗りの電気主任技術者として、高速を走る機会は滅多にありませんが…今後の少子高齢化や新車売上の4割が軽自動車である事実から(高齢化⇒身体能力低下⇒行動範囲狭小化⇒軽で十分と考える)日本が若返りしない限り高速道路の需要も減るでしょう。
      もうひとつ重要な点を。高速道路のサービスエリアも受電能力の限界があります。変圧器・ケーブル・遮断器・開閉器など高圧機器を更新しないと急速充電器を設置できない場合もあり、さらにコロナ禍および世界情勢変化などにより現状半導体や電材が手に入りにくいため急速充電器が設置できない現状があります。原因はおそらく政府与党の失策。
      自身電気管理技術者だから内情は察しました。BtoBの世界と世間一般の認識に大きな乖離を感じますよ!?

    2.  ヒラタツ氏の言われる少子高齢化はもっともで、自動車販売も知れてますね。ただ、EV化の流れとは違う話です。総台数が減ってもEV比率が高まるのははっきりしているので、充電設備の拡充は欠かせませんね。ガソリンスタンドが減ったとしても。
       少子高齢化、人口減少なのに兆円単位で新たな高速道路作る方が愚策ですね、私に言わせれば。
       補足:先程通過した中央道釈迦堂PAに新たに充電器が設置されていました。7年目ではじめての近隣高速増設発見。

  5. いつも情報ありがとうございます
    月200回の利用があれば、補助金がなくても10年後?、
    充電器の更新は出来るのでしょうか?
    利用が少ない充電器は、更新がされず、撤去される場合が起きておりますので
    月何回程度使われていれば、急速充電器は補助金なしにサスティナブルに更新されていくのか知りたく。よろしくお願いいたします

    1. ここは高圧受電設備のエキスパート・電気管理技術者の出番ですか。
      月2百回の利用があるなら日平均7回、30分単位として3時間半の稼働になりますね。ただ電気主任技術者目線で見れば月4百回ないと一般的な町工場レベルの稼働率にならないのでもう少し様子を見て利用を促進していかないといけないかもですよ。
      日平均10回(毎月300回)ならばフル稼働時間換算5時間。これだけあれば持続可能なレベルあるいは機器更新の補助金も少額で済むレベルかと。
      ただできれば公道上よりコンビニなど商業施設の敷地に置かせてもらうのが得策。愛知県はABB急速充電器+高圧受電設備の組み合わせを商業施設でよく見かけますが、30分も待たされるなら自販機やトイレなど人間の生理的欲求を満たすものが必要でしょ。テスラスーパーチャージャー岐阜羽島もバローの隣にあるから充電時間中にに買い物できるメリットがありますし。

    2. 電研鑽種ヒラタツ様 
        コメントありがとうございます 
        EVの普及率が一桁増えて(現行1%位⇒10%程度)になり、
        充電器の稼働回数が400-500回/月位に上がれば、
        サスティナブルな急速充電サービス(補助金なしでの自立した経営)が
        出来そうということですね

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					加藤 久美子

加藤 久美子

山口県下関市生まれ。大学時代は神奈川トヨタのディーラーで納車引き取りのバイトに明け暮れ、卒業後は日刊自動車新聞社に入社。95年よりフリー。2000年に自らの妊娠をきっかけに「妊婦のシートベルト着用を推進する会」を立ち上げ、この活動がきっかけで2008年11月「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)においてシートベルト教則が改訂された。 一財)日本交通安全教育普及協会認定チャイルドシート指導員の資格を取得し、育児雑誌や自動車メディア、TVのニュース番組などでチャイルドシートに関わる正しい情報を発信し続けている。 愛車は1998年5月に新車で購入したアルファスパイダー(26.5万キロ走行)

執筆した記事