「エネオスチャージプラス」で60分急速充電がスタート/EV充電の常識が変わりつつある?

公共のEV用急速充電器は1回30分で打ち切りというのが「常識」ですが、サービスステーションなどに続々と設置されている「ENEOS Charge Plus」の充電網で、急速充電器利用時に1回60分までOKという試験的サービスがスタートしました。早速最寄りの充電器で試してきました。

「エネオスチャージプラス」で60分急速充電がスタート/EV充電の常識が変わりつつある?

月額会費無料などユーザーにとって合理的な充電サービス

「ENEOS Charge Plus(エネオスチャージプラス)」は、エネオスのサービスステーションやコンビニなどへの充電器設置を進めている電気自動車向け充電サービスです。白と緑に塗り分けられた充電器が目印。ほとんどの充電サービスには定額の月会費が必要ですが、このサービスは入会費も会費も不要。専用の充電会員カードを発行する場合は有料であるものの、アプリなら無料で即日利用できます。

また、さまざまな決済手段に対応しているのも特徴です。エネオスチャージプラスのアプリとカード、エネキー(タッチ式の決済ツール)のほか、各種クレジットカードやWAON、nanaco、エコQ電カード、そしてe-Mobility Powerのカードでも利用できます。各自動車会社が発行しているe-MP提携カードで利用するときは、料金はそれぞれのものに準じます。

ENEOS Charge Plus 公式サイトから引用。

充電料金は時間制で、急速充電器の場合、アプリから会員登録すれば会員価格は会員向けの基本プランで「46.2円/分」。30分間で1,386円となっています。非会員価格は「49.5円/分」なので30分で1,485円。日産ZESP3のシンプルプラン(月額基本料金1,100円)で30分の充電料金が2,970円ですから、リーズナブルな価格といえるでしょう。自宅に充電設備があって、普段は急速充電をあまり利用しないようなEVユーザーだと、月々の会費を支払うのはもったいないですし、会費無料というのはメリットかもしれません。

 会員価格非会員価格
ENEOS Charge Plus提携充電器
基本プランENEOSでんき
セット割プラン
(※2)(※3)
エコQ電搭載
充電器(※1)
基本料金共通無料
従量料金急速充電器46.2円/分45.1円/分49.5円/分49.5円/分
普通充電器3kW3.3円/分3.85円/分
6kW3.3円/分
※料金は税込みです。
※1 エコQ電搭載充電器のうち、ENEOS Charge Plus提携充電器が提携対象となります(ENEOS Charge Plus 提携充電器であることがわかるシールが貼付されています)。
※2 ENEOSでんきセット割の適用には、ENEOSでんき契約番号の連携が必要となります。連携の承認翌月から料金が適用されます。
※3 法人充電会員のお客様はENEOSでんきセット割プランの適用はできません。

一部急速充電器で「60分」のサービスが始まったらしい

急速充電時間は、多くの充電サービスと同じように最大30分間となっているのですが、一部の充電器で60分充電の試みがスタートしています。HPなどでは告知されていなくて、私はSNSのタイムラインで知りました。公式Xアカウントによる「7月から一部の急速充電器で60分充電がご利用いただけるようになりました!!」という投稿を、EVごはんの石井さんがリポストしていたのです。

投稿によると、対象となっている充電器は、東京、千葉、埼玉、神奈川、栃木、福井、広島の7都県の計16カ所。私の自宅から数百メートルの場所にあるEnejetセルフ晴海店(東京都中央区)も入っていました。

Enejetセルフ晴海店は、50kWの急速充電器、ガソリンスタンド、水素ステーション、セルフ洗車機、タイヤ用の空気充填器に加えてコンビニも併設されているマルチサービスステーション。めっちゃ便利なので、2月にオープン以来、EVでもバイク(ガソリン車のほう)でも愛用しています。コンビニにもよく立ち寄ります。その充電器が60分対応になったわけです。素晴らしい。パチパチ。

愛車のHonda eでさっそく試しに行ってきました!

とはいえ、私のHonda eはバッテリー容量が35.5kWh(実質約30kWh)しかありません。しかもここの充電器、相性がいいのかHonda eにしてはよく入るのです。電池がたっぷり残っている状態で訪ねても、長時間充電のメリットを確かめることにならないので、まずは充電率(SOC)を減らすことから始めました。

充電を何日か我慢してSOCを下げて、仕上げに近所をぐるぐる走って、メーター読みでSOC2%まで電気を消費。またまた「充電残量低下」による出力制限を受けつつ、スタンドに滑り込みました。

急速充電器のパネル上部に貼り紙がしてありました。「こちらの充電器は最大60分充電可能!」というアピールです。読んでみると、期間限定で8月末日までとのこと。60分充電ができる決済手段に、いつも使っているe-MPの提携カードが入っていません。試しにタッチしてみると、e-MP提携カードで充電する場合に選べるのは最大30分までになっていました。独自の取り組みなので、合意形成が難しかったのかもしれません。

なので「エネオスチャージプラス」の充電カード(サービス開始時に作ってありました)を取り出してタッチ。すると画面には「10分 462円」「20分 924円」「30分 1,386円」に加えて「1時間 2,772円」という選択肢が登場。ほんとにできるんだー、と1時間をタッチすると、すぐに充電が始まりました。

公共の急速充電器では30分制限(自動的に充電がストップする)が一般的ですが、微妙な時間の長さなんですよね。トイレ休憩+コーヒーと軽食ぐらいならOKですが、しっかり食事をするには不足気味。手早く済ませればなんとかなりますが、家族連れで出かけていたりすると、ゆっくり食べたいものです。なので、30分後に中座して充電器から外し、駐車し直して席に戻ったりすることもあります。最初から1時間充電できるなら、ユーザビリティーは高まりそうです。

今回も、近くのスーパーまで買い物に行って、ランチをとるぐらいの余裕はありましたが、空模様が怪しかったので、助手席で時間を過ごすことにしました。パソコンを開いて原稿書き。その後、充電中にかなりの勢いで雨が降ってきたので、助手席キープは悪い選択ではありませんでした。

充電器側の表示では、開始時のSOCは1%でした。それが10分後に30%(充電電力量7.07kWh)、20分後に52%(同12.22kWh)、30分後に68%(同16.61kWh)、40分後には80%(同20.00kWh)に達しました。経路充電で急速充電器を使う時は、30分経っていなくてもこのあたりで打ち切るところですが、今回は1時間充電のテスト。そのまま続けます。

残り10分でSOCは92%(同23.50kWh)に到達。そして1時間経過して、自動的に充電がストップした時には、SOCは99%になっていました。ほぼゼロから満充電にすることができて、充電電力量は26.35kWhという結果でした。

時間充電電力量
(10分あたり)
充電出力
(推定)
SOC表示
0-10分7.07kWh約42kW1→30%
10-20分5.15kWh約31kW30→52%
20-30分4.39kWh約26kW52→68%
30-40分3.39kWh約20kW68→80%
40-50分3.50kWh約21kW80→92%
50-60分2.85kWh約17kW92→99%

充電器のパネルに表示される充電電力量とSOCから、10分ごとの充電量を概算したのがこの表ですが、Honda eはSOCが高めだと充電出力(受け入れ電力)が20kW程度になってしまいます。1時間充電でも、その傾向は変わりませんでした。

料金は2,772円なので、1kWh当たりに直すと約105円。ちょっとお高めですね。ただ、充電出力が抑えられているHonda eだったから、というのもあります。高出力で充電できるEVなら、もっと50kWhに近い数字が出るでしょう。せめて50kWhを超えるバッテリーを持った車種で試せればよかったのですが、持っていないので仕方ありません。大容量EVの方、確かめてみてコメントなどいただけるとうれしいです。

充電時間に30分制限があるのは、EV界隈では「常識」のようになっています。私もこれまであちこちで公共の急速充電器を利用していますが、ほぼすべてが30分制限でした。時間制限なしという場所もあるにはありましたが、数えるほどです。

だけど、別に法律などで決まっているわけではないようです。バッテリーの小さなEVばかりで、充電器の台数自体も少なかった時代には「30分で交代」という慣習は合理的だったのでしょう。充電後放置を防止する効果もありそうですし、悪くはないと思います。先達の知恵というのか、あるいはユーザー同士の譲り合い精神といえばいいのか。

ただ、EVのバッテリー容量もぐんぐん増えていますし、充電器も出力アップしています。一律に30分制限にこだわるのではなく、45分や60分、あるいは時間無制限という充電器があってもいいのでは、と思えます。もちろん、複数口設置などをどんどん進めて、充電待ちに悩まされない、という条件がクリアされてこそですけれど。私のHonda eだと、充電量や休憩時間を考えて、45分間ぐらい充電ができるとベストです(個人の感想です)。

できれば従量制料金も組み合わせてほしいところです。SOCが高めだと充電出力がダウンするのは、Honda eだけではありません。それでも満充電近くまで入れておきたいというシチュエーションは考えられます。次の目的地までに充電スポットが少ないとか、自宅まで無充電で帰り着きたいとか。

試験運用の結果次第では対象や期間の拡大も

エネオスチャージプラスの60分充電は、8月末までの期間限定の試みですが、Xの投稿には「60分充電のご利用状況に応じて対象充電器・期間の拡大を検討いたしますので、是非ご利用ください」とも記されていました。

そこでエネオスチャージプラスの担当者に今後のことを問い合わせたところ、次のようなコメントをいただきました。

「60分充電の試みについては、いまのところ好意的に受け止めてもらっていて、EVユーザーに求められているサービスだと考えています。利用率なども踏まえた上で、対象充電器の拡大や期間延長を前向きに検討していきます」

高速道路上で利用度の高いSAPAの充電器など、回転率を高めた方がユーザーのニーズに合っている場合もあるでしょう。とはいえ、選択肢は多いほうがいいのは間違いありません。30分制限という慣習に一石を投じる、エネオスチャージプラスの挑戦に注目しています。EVユーザーのみなさん、ぜひ一度60分充電を使ってみて、感想をエネオスチャージプラスまで!

取材・文/篠原 知存

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

執筆した記事