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フラッシュが「44円/kWh」を標準料金にすることを発表〜格安急速充電価格の理由とは?

フラッシュが「44円/kWh」を標準料金にすることを発表〜格安急速充電価格の理由とは?v

高出力&NACS対応のEV用急速充電器「FLASH(フラッシュ)」を展開するテンフィールズファクトリーが、今まで「キャンペーン価格」としてきた「44円/kWh」を標準料金にすることを発表しました。はたして、日本の急速充電料金はこれが標準になっていくのか。社長インタビューとともに考察します。

目次

「選ばれる充電器」とするために標準価格を「44円/kWh」へ改定

2025年8月5日、EV用急速充電器「FLASH(フラッシュ)」のネットワークを展開するテンフィールズファクトリー株式会社が、今まで「キャンペーン価格」としてきた「44円/kWh」の充電料金を、今後も継続して提供する「標準料金」にすることを発表しました。

フラッシュの急速充電器は、テスラ規格を元に策定されたNACS(North American Charging Standard)対応ケーブルの併設、また、電気設備技術基準の規制緩和に伴う「1000V対応」での運用を日本国内で急速充電ネットワークを提供するサービス事業者のなかでもいち早く実現するなど、スピード感のあるサービスのアップデートを行ってきています。

資産運用EXPOのブースでアピールされていた、フラッシュが解決するEV業界3つの課題。

サービス開始当初から充電電力量に応じた「従量課金」で、クレジットカードや電子マネーによる簡便な決済で利用できるなど、急速充電器の使いやすさは秀逸。最初は「88円/kWh」だった充電料金は、2024年7月には「設置台数50台到達記念」として66円/kWhに値下げ。2024年12月には新型充電器「FLASH MARK.6」の発売などを記念して44円/kWhの「キャンペーン価格」にさらなる値下げを実施していました。

今回の発表では、NACS規格に対応した充電器の設置ステーション数が全国で100カ所に到達したことを記念して、キャンペーン価格としていた「44円/kWh」を、今後継続して提供する「標準価格」に変更するというものです。

フラッシュの急速充電器は会員登録などの面倒な手続きは不要です。当然、月額会費などは掛かりません。従量課金なので、軽EVなど急速充電性能が低いEVで利用した場合でも、課金金額は「充電できた電力量×44円」であり、不公平感もありません。この金額が急速充電ネットワークを拡充し運営していくために持続可能なのであれば、EVユーザーとしては大歓迎。まずは、44円/kWhが標準価格になったことを喜びたいと思います。

「44円/kWh」では採算合わないですよね?

テンフィールズファクトリー代表取締役の市川裕氏。

実は今回の発表数日前の8月1日、私は東京ビッグサイトで開催されていた「資産運用EXPO」の会場で、テンフィールズファクトリーの市川裕社長にインタビュー取材を行いました。

質問のポイントは「44円/kWh の料金はいつまで継続する予定なのか」と、「採算が取れる持続可能な充電価格はいくらくらいと見込んでいるか」です。「44円/kWh は採算度外視で期間限定のキャンペーン価格である」ということを前提にした質問でした。

なぜ、採算が取れないと判断したのか。インタビュー時、市川社長にも示した簡単な試算を紹介しておきましょう。理屈をシンプルにするために、高出力急速充電器を運用するために必要な「高圧受電」の「デマンド基本料金」に注目して試算します。

単位金額
基本料金kW1,989円00銭
電力量料金夏季kWh18円55銭
その他の季節17円54銭

これは、東京電力エナジーパートナーの「高圧電力A(契約電力500kW未満)」で、2024年4月1日以降新規加入の場合の料金です。契約時期などによって若干の金額の違いはありますが、急速充電器に必要な電気料金の計算としては大きな影響はないので、この数字を元に計算します。

1,989円となっている「基本料金」の単位は「kW」つまり瞬間的な出力です。高圧受電の基本料金は「デマンド値」と呼ばれる「30分間の平均出力の最大値」をもとに、過去1年間の各月の最大需要電力のうちで最も大きい値を基準として基本料金が決定されます。

フラッシュの最高出力は240kWですが、デマンド値は30分間の平均値となるため、デマンド値を150kW、1日平均3台のEVが充電利用すると仮定します。

1カ月間の基本料金=1,989円×150kW=298,350円

1日平均3台(月間90台)が利用の場合=1台1回あたり3,315円

1台1回あたり50kWhの充電量として=3,315÷50kWh=66.3円/kWh
1台1回あたり30kWhの充電量として=3,315÷30kWh=110.5円/kWh

1回の充電で50kWhを受け取れるのはヒョンデIONIQ 5などバッテリー容量が大きく急速充電性能が高い一部車種に限られるでしょうから、かなり多めの条件設定ではありますが、それでも、月額基本料金をまかなうためには「1台1回あたり3,315円」、従量単価として「66.3円/kWh」が必要です。さらに、18円/kWh程度の電力量料金が掛かりますから、充電料金として採算を取るためにはおおむね「80円/kWh」程度が必須という計算になります。

これに、電源を引き込んで充電器を設置する初期コスト。また、保守メンテナンスや課金システムのトランザクションフィーなども必要になるはずですから、急速充電サービスの充電料金としては「100円/kWh」程度が採算ラインではないのですか、というのが質問の骨子でした。

市川社長に聞いた「44円/kWh」にできる理由

そもそも、インタビュー取材をオファーした電話でも「今の44円は採算度外視の料金ですよね?」という私の問いかけに「いえいえ、そんなことはないですよ」というのが市川社長のお返事でした。資産運用EXPO会場でのインタビュー、市川社長が挙げてくれた「採算が取れる理由」は、おもに以下の2点がポイントでした。

まず、高圧受電の料金体系です。高圧受電契約では基本料金が高額になる代わりに、従量の電力量料金はおおむね20円程度と安めになっています。したがって、44円/kWhの価格で充電サービスを提供すると「50%以上の粗利率がある」ことが、決して採算度外視ではないという最初の理由でした。

とはいえ、デマンド基本料金が必要では? と先に紹介したような試算表を示したところ、「新電力との契約へ移行したり、弊社が自ら電力小売の免許を取得することなどで、毎月の基本料金を安く抑える方法を検討している」ということでした。

ただし、具体的に基本料金を低く抑える施策を導入できている事例はまだないとのこと。インタビュー後、新電力の高圧受電契約などについて調べてみましたが、たとえば現状の試算で30万円近い月額基本料金が半額以下といった圧倒的な安価になりそうな方法は見当たらず……。このあたりは、実際に基本料金を安く抑えた充電ステーションが運用開始されたら、すぐにでも取材させていただきたいところです。

安くできるポイントの2つめは「1日あたりの利用想定台数の違い」でした。私の試算では「1日平均3台」としていますが、市川社長としては「日本でもEV普及が進んでいくにつれて、現状より多くのEVが充電利用するようになる」ことを前提にしているということでした。実際、会場に展示されていた実例案件紹介のパネルでも、1日あたりのEV利用台数は「1年目=14.8台」「5年目=36台」「10年目=36台」といった稼働シミュレーションが示されていました。

正直な印象として、現在のEV普及状況でさえ1日10台以上が充電利用というシミュレーションにはかなり無理があると感じます。

1年目、すなわち現状で1日10台以上が利用するのは、高速道路SAPAでも海老名や談合坂など利用頻度が高いごく一部のステーションに限られると思いますが、先の試算の利用台数想定を変えて計算してみましょう。

1カ月間の基本料金=1,989円×150kW=298,350円

1日平均10台(月間300台)が利用の場合=1台1回あたり994.5円

1台1回あたり50kWhの充電量として=994.5÷50kWh=19.89円/kWh
1台1回あたり30kWhの充電量として=994.5÷30kWh=33.15円/kWh

なるほど、1台の充電器を1日に10台のEVが利用して、平均で50kWh充電できるとしたら基本料金の負担は「約20円/kWh」になるので、従量電力料金の約20円を合わせても「44円/kWh」になんとか収まりそうです。とはいえ、現状では採算は取れていないということでしたし、「1カ所1基で約2000万円」という初期コストや保守メンテナンス費用、また本当に1日平均で10台ものEVが利用してくれるのはいつの日かと考えると、やはり「大丈夫ですか?」という印象のままです。

EVが増えると急速充電ステーションは大混雑になる?

ブースに展示されていた市川社長のモデルX。インテリアがフラッシュカラーにカスタマイズされています。

私は、フラッシュの充電サービスが立ち上がって以来、何度か取材してきています。市川社長へのインタビューもこれが初めてではありません。お会いする機会がある度に「使われる場所に増やしてください」と繰り返しお願いしています。なにはともあれ、不躾なインタビューの数日後には「44円/kWh」を標準料金に変更することを発表したスピード感はさすがだと感嘆しました。

今回のインタビューでも、NACSや高電圧への対応をスピーディーに実現し、クレジットカードで簡単に決済できるユーザビリティは素晴らしいという感想をお伝えした上で、今まで私が実際に利用したり、公式サイトで紹介されているフラッシュの立地をみると「もっともっと使われる場所にこだわった展開が必要ではないですか?」という思いをお伝えしました。

それに対して市川社長は、「先だって、中国の深圳にある250基以上が設置された大規模な急速充電ステーションを見てきた」上で、「今後、日本でもEV普及率が上がってくれば、全国各地の急速充電器はまったく足りない状況になってしまうはず」という見解でした。つまり、それまでに、UIや充電性能が優れたフラッシュのネットワークをできるだけ拡大したいということです。今回、NACS対応が100カ所を超えたことを記念する発表でした。NACS未対応を含めると、すでに200カ所近くが運用を開始しているとのこと。国が示した「2030年に急速充電器3万口の目標のうち、フラッシュ1万口を目指して拡充を進めたい」というお話しでした。

私の個人的見解としては、EV普及率が上がるほどに、集合住宅を含めた基礎充電環境が向上していくでしょうから、急速充電ステーションはやはり「使われる場所」を見定めて設置していくことが大事であると思っています。インタビュー終了後、フラッシュの展示ブースに戻る道すがら、市川社長は「結局、事業として魅力的でない限りEV用急速充電インフラはちゃんと普及しないでしょ」と話してくれました。仰るとおりだと思います。とはいえ、いろんな記事で繰り返しているように「利用されなくなって朽ち果てていく急速充電器はもう見たくない」というのが、ひとりのEVユーザーとしてのシンプルな願いです。しばらくして「やっぱり値上げします」とか発表されても決して変な批判記事を書いたりはしないので、とにかく、フラッシュの急速充電ネットワークを健全に拡充してくださることを期待しています。

【関連記事】
EV用超急速充電器「FLASH」が稼働開始~市川CEOにビジョンを直撃インタビュー(2023年12月19日)
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取材・文/寄本 好則

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この記事を書いた人

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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