EV用超急速充電器「FLASH」が稼働開始~市川CEOにビジョンを直撃インタビュー

京都府と奈良県で最大出力180kW仕様の電気自動車用超急速充電器が稼働開始したことをテンフィールズファクトリーが発表しました。新たな充電インフラ事業者として、はたしてどのようなビジョンを持っているのか、CEOの市川裕氏にインタビュー。埼玉県内で稼働開始間近の実機を拝見してきました。

EV用超急速充電器「FLASH」が稼働開始~市川CEOにビジョンを直撃インタビュー

※冒頭写真は埼玉県越谷市内のコイン洗車場に設置された「FLASH」。ここも、もうすぐ稼働開始されるはず。

会員登録不要&クレジットカードで従量課金

充電終了後にクレジットカードで精算する。

テンフィールズファクトリー株式会社(以下、同社)が、最大出力180kWの高出力急速充電器として開発した「FLASH」が、2023年12月20日から京都府精華町と奈良県宝来町で国内初稼働することを発表しました。利用者は会員登録は不要。クレジットカードによる充電後精算で、従量課金制となっています。

まず、稼働開始が発表されたのは以下の2カ所です。

●奈良宝来ビル 駐車場(EVsmartのスポット紹介ページ)
https://evsmart.net/spot/nara/l292010/v25771/
●Gaiso Wall & Rof Reform 京都南店(EVsmartのスポット紹介ページ)
https://evsmart.net/spot/kyoto/l263664/v25772/

最近、パワーXが蓄電池式高出力急速充電スポットを開設するなどの動き(関連記事アーカイブ)がありました。日本のEV急速充電インフラで大半を占めていたe-Mobility Powerのネットワークとは別に、独自の仕組みによる新しい急速充電サービスが、またひとつスタートを切ったことになります。

市川裕CEOに直撃インタビュー

実は今回の発表以前、私のSNSでしばしば表示される同社からの「東京都内限定無料設置!」の広告が気になって取材をオファー。11月某日、同社CEOの市川裕氏にインタビューを行いました。東京都の手篤い補助金を前提としたビジネスモデルで持続可能なのか? を確認したい意図だったのですが、お話しを聞いてみると、いわば「急速充電器事業投資」と呼ぶべきプロジェクトであることがわかりました。

テンフィールズファクトリー株式会社 市川裕CEO。

一問一答スタイルで、ポイントをお伝えします。

Q. 高圧受電の電力基本料金まで助成される東京都の補助金に依存した急速充電サービスで、補助金終了後も持続可能ですか?

弊社では東京都への無料設置もPRしていますが、先行して全国への無料設置サービスを展開しています。東京都の電力基本料金への助成は「再エネ電力」であることが必須であり、それも証書買いはNGということでハードルが高く、今のところ収支の目論見に基本料金への助成は組み込んでいません(つまり、東京都の補助金を前提とした事業ではない)。

Q. では、もう全国で設置が始まりつつあるのでしょうか?

はい。おおむね30基程度、全国各地で無料設置の案件が進んでいます。具体的には、京都府と奈良県(今回発表の充電器)、山梨県では1カ所に3基設置しますし、埼玉(今回取材した充電器)、千葉、神奈川、静岡、岡山、山口、福岡、鹿児島などですでに設置が進んでいます。

Q. 設置場所の提供を受けて御社が運営するという理解でいいですか?

設置場所の提供者には地代をお支払いして、設置のコンサルティングやメンテナンスを弊社で受託するのが基本ですが、導入と運用には3つのプランを用意しています。

①自己運用プラン
設置場所の土地保有者が充電器本体を購入し自身で運用するモデル。同社による保守点検パック(年間30万円※税抜)を用意。
②コンサルタントプラン
設置先市場調査、設置先確保、補助金申請などを同社がサポート。
③メンテナンスプラン
出資者が初期費用を投資して運用を行い、同社がメンテナンスなどを受託。出資者へ年間387万円(税抜)の事業収入を保証する。1口約125万6000円(全口数17口)の有限責任事業組合(LLP)のプランも用意。

投資家向けの提案書に示されていたメンテナンスプランの収支シミュレーション。

Q. なるほど、いわば「充電器事業投資」というべきビジネスモデルなんですね。

そうですね。弊社では太陽光発電の事業などのほか、たとえば椎茸の菌床培養を行うコンテナ温室栽培への投資モデルを提供しています。わかりやすく例を挙げると、自販機への投資のようなイメージで、EV用急速充電器のビジネスモデルも同じです。

Q. 高出力急速充電器で、採算は取れますか?

当初2~3年は赤字の覚悟です。でも(10年程度を想定した耐用年数の)後半は利益が出ますから、先行投資で稼働率が期待できる場所を抑えていきます。

Q. つまり、日本のEV普及率が急上昇することを見込んでいる?

そうですね。実は弊社が得意なのは新たなビジネスモデル構築そのものよりも、市場参入のタイミングを見極めることです。超急速充電器も、開発は数年前に完了していましたが、出すのは時期尚早と見ていました。でも、日本の新車販売シェアでEVの比率が3%を超えるようになってきて、販売すべきタイミングだと判断しました。今、日本の補助金はEV購入への補助金に比べて、充電インフラへの補助金が少なくてバランスが良くありません。今後、そのギャップが顕れてくるでしょうから、赤字を覚悟すべき期間も短縮されるのではないかとも思っています。

Q. EVが普及するほど、日産サクラのように高出力急速充電を必要としない車種も増えるのでは?

世界では350kWクラスの急速充電が当たり前になってきています。電圧規制の課題もありますが、急速充電の高出力化は進んでいくはずです。
また、現状の日本のEVユーザーは「分課金」や「30分単位」という急速充電に洗脳されているところがあって、残量が減ってから、できるだけ多く充電するという固定観念に束縛されていると感じます。でも、充電器の数と出力が十分であれば、残量が50%あっても短時間で注ぎ足し充電するニーズが広がり、たとえば「5分でどのくらい充電できるか」という速度の勝負になってくると考えています。今の日本国内における市販EVの性能で最大180kWはたしかにハイスペック過ぎますが、5~6年後までには当たり前になってくるでしょう。

当面は450V×250A=約112kW出力で運用。規制緩和された750V対応とすることで750V×250A=約180kWの出力を発揮できる充電器になっているそうです。

Q. アプリなどを使わず、従量課金にした利用システムの意図は?

たとえばテスラスーパーチャージャーのプラグアンドチャージは便利ですが、多くのメーカーが関わるチャデモで実現するのはハードルが高い。そこで、会員登録などの手続きは不要で、その場でクレジットカード精算できる従量課金制としました。また、大手ベンダーさんなどではなかなか決断できないところかと思いますが、弊社のシステムは後払い、つまり充電終了後にクレジットカードで支払い手続きを行ってもらうようにしています。その大きな理由は、充電後の車両放置への対策です。充電終了後3分以内に精算手続きを完了しないと、その後は分課金(放置へのペナルティ)が始まるようになっています。

充電開始などは本体の液晶パネルで操作。終了後放置すると100円/分の課金が始まります。

Q. シミュレーション表を拝見しました。充電単価60円/kWh(税抜)は安すぎませんか?

お示ししたシミュレーションは少し前に作成したものなので、電力単価(21~25円程度を想定)も上がっているし、適宜見直していく必要はあります(実際に稼働開始したスポットの利用料金は88円/kW ※税込 に設定)。また、充電料金は全国一律ではなく、ガソリンスタンドのように場所によって設定を変えていきます。

Q. 採算が取れる稼働率はどのように想定していますか?

以前の充電料金設定での計算となりますが、1日4.5時間、稼働率18.8%程度で採算が合うシミュレーションをしています。数年後にはEVの性能も向上し、平均充電出力(電力量)なども上がるので、さらに収益性が上がることを見込んでいます。

Q. 今後、どのくらいの数の充電器を設置していく計画ですか?

来年度については、少なくとも全国で300基です。今、設置交渉が進んでいる全国規模のチェーン店だけでもクリアできてしまう数ですが……。弊社では自社内の工事部門で直接施工しているので、そのキャパシティの問題があり、様子を見ながら強化していきたいと思っています。

(インタビューここまで)

シミュレーションの前提などへの感想

市川氏は、テスラのモデルS日本導入が始まった当初に予約を入れて、その後モデルXへと、10年近く乗り継いできたEVユーザーということでした。今回の超急速充電器「FLASH」のプロジェクトも、自らEV普及の進展を確信し、高出力急速充電インフラの必要性を感じての発想であるという熱意を感じました。

同社による急速充電器設置は、補助金を活用した自社設置というよりも、充電器設置への投資を集めることがビジネスモデルの柱になっています。そもそも私は投資には疎いですし、同社のプランが投資案件としてどうなのかといった評価は差し控えます。

とはいえ、充電インフラとしての使い勝手などについては是々非々でお伝えするのがEVsmartブログの使命です。インタビューの後日、稼働開始への準備が大詰めを迎えていた埼玉県内のスポットで実機を取材することができたのでその印象を交えつつ、EVユーザーのひとりとして同社のプランで気になったポイントを挙げておきます。

●周辺に急速充電スポットがいくつもある。

拭き上げ用駐車区画の左奥に見えるのが同社の充電器。市川氏に「筐体デザインが派手ですよね」と質問したら「目立つように」というお答えでした。たしかに、目立っています。

まず、現地取材で伺ったスポットは埼玉県越谷市の「bluewash越谷店」という国道4号線沿いのコイン洗車場。充電料金は88円/kWh(税込)の設定でした。洗車して拭き上げしながら急速充電できるのは便利です。ただし、便利な立地であるがゆえ、前後数kmの場所に日産やメルセデス、三菱などのディーラーがあって多くの急速充電器が設置されています。

ディーラーの充電器は各メーカーの充電カードで、リーズナブル(月額会費はさておき)に利用できます。このスポットの場合、「洗車ついでの利便性」という魅力で、どのくらいのEVユーザーが実際に同社の充電器を利用するのかという点は心配です(同様の前例がほとんどないので断言できません)。

全国各地、さまざまな設置場所があるとは思いますが、高出力急速充電器が稼働率高く使われるようにするためには、周辺に大規模な集合住宅が多く基礎充電代替利用を見込めるとか、県外からも多くの観光客が訪れる場所であるなど、かなりの好条件が整っている必要があると想像します。

実際にどのくらい、どのようなユーザーに使われるかということは、今後の実績調査次第ということになるのでしょうが、e-Mobility Power が発表したデータなどを確認しても、1日の稼働率が10%以上の急速充電器はそんなに多くありません。

●3年目の平均充電速度想定が100kW?

次に、シミュレーション表の数値でとくに気になったのが「平均充電速度(kW)」です。1年目が80kW、3年目には100kWを超える想定になっています。

EVsmartブログでは以前、新電元の150kW器で高性能EVにどのくらい充電できるか検証(関連記事)したことがあります。30分間の結果は、メルセデス・ベンツEQCが48kWh、BMW iXが42kWh、日産アリアが41kWhとなりました。おおむね1年目で想定されている出力80kW(〜100kW弱)程度ということです。つまり、シミュレーションの想定が実現するためには、アリア以上の充電性能が市販EVの平均となり、3年後にはさらに平均100kW以上に急速充電性能が向上する必要があります。

今回の充電器は「最大180kWだからもっと速いのでは?」と考える方がいるかも知れません。でも、新電元の150kW器は「450V×350A」という仕様で15分で出力を落とすブーストモードを備えていますが、検証時、ブーストモードが発動したEVはなく、30分経過時には150〜180A程度の電流値でした。つまり充電器の性能に関わらず、現状日本で市販されている高性能EVのチャデモ規格による急速充電は、このくらいが最大値であるということです。また、FLASHの想定スペックは「750V×250A」と電流値が低いので、システム電圧がいわゆる400V規格の市販EVの場合、新電元150kW器よりも同じ時間あたりの充電電力量は少なくなるはずです。

さらに、インタビューで質問したように、EV普及が進むほど搭載するバッテリー容量が比較的小さく、急速充電性能もそんなに高くない車種が増加する可能性が高いので、市川氏が提言するような「短時間注ぎ足し充電」が増えるとしても、3年後に「平均100kW」はかなり実現困難な数値であると感じます。

●稼働率50%になった場合の充電待ちは?

稼働率の想定についても、疑問を感じる点がありました。4年目には30%(つまり1日7時間以上稼働)を超え、9年目と10年目は50%(12時間)の想定となっています。でも、20〜30%を超えるような稼働率になるとしたら、休日などのニーズが高まる時間にはかなりの確率で充電待ちに遭遇するはずです。

予約を可能にしたり、複数台設置を進めるなど、さらなる付加価値創出を工夫していかないと、周辺と比べて料金が高額で、充電待ちのリスクが高い急速充電器は使われにくいものになってしまうことでしょう。

ブーストなしの250A出力だからということでしょう。90kW器の1.5倍くらいの太さがありそうなケーブルは、とても重くて固かった。吊り下げ式などの工夫が欲しいと感じます。

2013年ごろからの補助金で設置された各地の急速充電器が更新時期を迎え、日本のEV用急速充電インフラは改めて激動の時代を迎えています。同社の「FLASH」(とそのビジネスモデル)は、中古リーフを愛車にしている私のような庶民の心配を超えて、広く受け入れられるものなのか。その動向は、来期の大谷翔平のホームラン数と同じくらい気になります。

新たなサービスが続々と立ち上がる中、日本各地で利便性高く持続可能な充電インフラサービスが発展することを願っています。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 日産さくらのように電費は良いけど充電能力が低いBEVは経路充電は時間制だと高コストなので従量制だとユーザー側のメリットが大きいです。逆に充電機器事業者にとっては利用して欲しくない相手になりかねないので制限がかからないことを願います。
    何かと手間取りがちな年配者には終了後3分以内に決済完了は不安ではあります。充電が終わった後にクレジット精算が暗証番号などでトラブったりして支払い手段がなくなった場合にどうなるかとか。スマホ決済もあると代替手段も取れるので安心感があります。

  2. 私が個人的に気になっていることは、
    利用方法です。
    eMP系充電カード認証に慣れているので、初めてのクレジットカード決済や充電までの手順が動画等で事前に確認できると現地でドタバタしないで済みそうです。

    料金等の話はさておき、いろんな選択肢ができることは有り難いです。
    また、クレジットカード決済ですが、その安全性(セキュリティ)はどのように確保されているのかも気になる点です。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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