パワーエックスが蓄電池型超急速EV充電器を、千葉県の「ハイウェイオアシス富楽里」に設置、5月30日から運用を開始しました。従量課金制の超急速充電器が高速道路上に設置されるのは日本で初めてのケースです。
PowerX初の高速道路上の充電ステーション

ハイウェイオアシス富楽里下り線。
2025年5月30日、定置型の大容量蓄電池の製造、設置および電力販売を手掛けるパワーエックス(PowerX)が、千葉県の館山自動車道(富津館山道路)上にある「ハイウェイオアシス富楽里(ふらり)」で蓄電池型超急速EV充電器『Hypercharger(ハイパーチャージャー)』の運用を開始しました。
ハイパーチャージャーは1基につき容量358kWhの大型蓄電池と2口のディスペンサー(ケーブル部)を備えており、1台充電時の最大出力は150kW(10分間のブーストモードで以降は120kWで連続運転)。2台同時充電時はそれぞれ最大120kW(合計240kW)の超急速充電が可能。専用アプリを通じて、従量課金(kWh課金)で利用できるのが特長です。
これまで、日本の高速道路SAPAなどに設置されたEV用急速充電器は、EV普及黎明期から充電インフラ拡充に貢献してきた株式会社e-Mobility Power(旧日本充電サービス=NCS)ネットワークのものでした。
ハイウェイオアシス富楽里は、1階部分が「道の駅 富楽里とみやま」となっており、施設などは南房総市が管理しています。そのため、高速道路SAPA施設をおもに管理する道路会社、駐車場敷地を所有管理する国などは関係していません。パワーエックスでは全国道の駅連絡会とEV充電設備の協定を締結し、2025年度中をめどに全国27カ所の道の駅にハイパーチャージャーを設置する計画を進めていて、今回の富楽里が道の駅として8カ所目。道の駅に設置するEV用充電設備として、パワーエックスが選ばれたことになります。

森居紘平氏。
パワーエックスとしても、高速道路上にステーションを設置するのは初めてのこと。2025年3月までに76か所に急速充電ステーションを開設しており、この日の発表会のプレゼンテーションで森居紘平執行役は、2026年3月までに200か所に拡充する計画を示しました。
【ハイウェイオアシス富楽里 チャージステーション概要】
富津館山道路 ハイウェイオアシス富楽里・駐車場内
千葉県南房総市二部2211
充電器:パワーエックス 蓄電池型超急速EV充電器「Hypercharger」
最大出力:150kW(ブーストモード・10分間)/ 120kW(連続出力)
設置台数:2基(4口)/上り線、下り線の駐車場に各1基(2口)設置
営業時間:24時間(年中無休)
※ハイウェイオアシスの営業時間とは異なります。また一般道(道の駅 富楽里とみやま)側からパワーエックスの充電器の利用はできません。
高速道路上の充電器は予約不可30分限定で運用

ハイウェイオアシス富楽里上り線。
ハイウェイオアシス富楽里に設置されたハイパーチャージャーは、上り線と下り線に各1基2口の、合計2基4口です。設置場所は、下り線はハイウェイオアシスの店舗入口から少し離れていますが、上り線の充電器はトイレの真正面なので、一般のICE車が停めてしまわないかちょっと心配なくらい好立地です。

上り線の蓄電池。
ハイパーチャージャーの蓄電池は、充電器のすぐ後ろに設置してある下り線側に対して、上り線では置き場所に苦労したようで、ハイウェイオアシスの敷地から一段下がった場所に設置してありました。パワーエックスによれば蓄電池から充電器まで最長50m程度離れていても設置は可能とのことですが、コストはかかりそうです。
また、今回の発表会で「高速道路上のステーションに限って、事前の予約は不可。充電時間の上限を30分に限定して運用」することを示しました。パワーエックスの充電プランは、有料(月額900円※以下、料金は税込)会員の『PowerX First(パワーエックス・ファースト)』なら充電器の予約ができて、充電時間が最大75分になることが特長です。
今回、ハイウェイオアシス富楽里(高速道路上のステーション)に限定してサービス内容を変更したことについて、パワーエックスの森居執行役は「より公共性が高い高速道路上の特性に合ったサービス設計にした」と述べ、具体的な理由について説明しました。
まず事前予約を不可にしたのは、高速道路は渋滞などで到着時間が読めなくなることがあるためだそうです。さらに利用可能時間を上限30分にしたのは「できるだけ多くのお客様に利用していただけるようにという思いから」(森居執行役)とのことでした。
1台当たりの利用時間が長いと利用可能者数が減るのは、言わずもがなです。それにハイパーチャージャーは従量課金制。EVは充電が進んでSOCが高くなるほどに時間当たりの充電電力量は減っていくので、滞留時間の増加が収益増になるとは限りません。
ただ、このサービス変更は完全に固定したわけではなく、今後、「道の駅にもう少し長く滞在してショッピングなどを楽しみたい」といった声が多ければ、時間を45分や60分などに延長することも検討するとのことでした。予約の可否や制限時間については専用アプリの設定を変えるだけで変更可能なので、まずは運用してユーザーの声を聞きながら対応していくスタンスです。

道の駅の直売所には旬の房州枇杷が並んでました。
道の駅に「従量課金制」拡大の流れ

充電のデモンストレーションを行う南房総市の嶋田守副市長。
前述のように、パワーエックスは全国道の駅連絡会と締結した「全国の道の駅におけるEV充電設備の利用実験に関する協定」に基づいて、2024年5月から2年間で27か所の道の駅にハイパーチャージャーの設置を進めています。今回のハイウェイオアシス富楽里への設置もこの計画の一環です。
協定では、第1期で2024年5月から12か所の道の駅にハイパーチャージャーを設置。その後、2025年度中に15か所に拡大する予定です。
第1期計画のうち現在までに設置されたのは、福島県の猪苗代、栃木県の日光、千葉県の富楽里、みのりの郷東金、しょうなん、いちかわ、愛知県のとよはし、福岡県のくるめの8か所。未設置は、北海道の花ロードえにわ、ニセコビュープラザ、静岡県の朝霧高原、伊豆ゲートウェイ函南の4か所です。
【関連記事】
パワーエックスが全国の道の駅に急速充電器を順次設置〜当面は無料で充電できる?(2024年4月20日)
パワーエックスとは別に、日本充電インフラ株式会社が全国200カ所の道の駅に設置している急速充電器を更新し、事前の会員登録不要、従量課金制でクレジットカードやQRコード決済が可能なサービスを提供することを発表(関連記事)しました。新たに設置されるのはJFEテクノス製の「RAPIDAS(ラピダス)X」(最大出力50kW)です。
道の駅は、高速道路SAPAと並ぶ「経路充電」の主要な場所。e-Mobility Power以外の充電サービス事業者による従量課金制が拡大するのは、EVユーザーの選択肢を広げてくれる歓迎すべき流れといえそうです。とはいえ、場所によって認証や決済方法が異なるのは不便であり、各社には今後のさらなる改善を期待したいところです。
65円/kWh〜の充電料金がパワーエックスの強み
パワーエックスの充電料金

パワーエックス公式サイトから引用。
パワーエックスの充電料金は、一般利用(月会費無料)で65円〜/kWh、月額会費900円(年払いの場合。月払いは月額1050円)の「パワーエックスファースト」会員は45円〜/kWh。急速充電の従量課金料金としてはリーズナブルであることもユーザーにとって魅力です。
道の駅で従量課金器拡充を進める日本充電インフラの場合、110円/kWhです。e-Mobility Powerでも従量課金制の導入に向けて前進中ですが、2024年秋から行われた実証実験(関連記事)の料金設定を見る限り、ビジター利用ではおおむね100円/kWh前後で時間課金併用といった設定になりそうで、パワーエックスの「安さ」が際立ちます。
パワーエックスが充電料金を安く設定できるのは、基本料金が安い低圧受電の電気を蓄電池にためて充電しているから。また、「一等地」に的を絞って、高稼働率が見込める場所への充電器設置を進めているからというのが大きな理由になっています。
全国各地を網羅するためにあえて高稼働率が見込みにくいスポットへの設置も進めるe-Mobility Powerに、パワーエックスと同じような安さを求めるのは酷な一面はあります。とはいえ、合理的でリーズナブルな充電サービスを広げるのがEV普及の大きな力になることは間違いありません。急速充電器による経路充電ネットワーク構築を進める各社には、ユーザー本位の魅力的なサービス実現を期待しています。

道の駅富楽里に既設の急速充電器。
ちなみに、ハイウェイオアシス富楽里(2階)の1階にある道の駅富楽里の駐車場には、e-Mobility Powerネットワークの充電カードで利用できる20kWの急速(中速)充電器が1口設置されています。一般道から道の駅を利用する場合はe-Mobility Power、高速道路からハイウェイオアシスを利用する場合はパワーエックスの充電器を利用することになります。
たとえば、日産サクラでの利用を想定して、それぞれの充電料金を試算してみましょう。サクラの急速充電性能は最大30kWですから、超急速のハイパーチャージャーを使っても出力は30kW程度が上限です。
【道の駅:20kW器で充電した場合】
想定充電電力量:約7kWh
充電時間:30分
充電料金(ビジター):55円×30分=1650円
【ハイウェイオアシス:ハイパーチャージャーで充電した場合】
想定充電電力量:約7kWh
充電時間:約20分
充電料金(一般利用):65円×7kWh=455円
20kW器30分で約7kWh充電できたと仮定して、ハイパーチャージャーで7kWh充電するために要する時間はおおむね20分程度と推定できます。日産サクラオーナーには月額料金が高い充電カードを所有していない方も多いので、ビジター利用で計算すると、時間課金の20kW器30分が1650円となるのに対して、ハイパーチャージャーの充電料金は455円とお手頃です。
時間も料金も圧倒的に違うとなれば、できるだけハイパーチャージャーで充電したいと思うのが人情ってものだと感じます。
ちなみに、e-Mobility Powerの会員カードは急速・普通併用プランで月額4180円、都度利用料金が27.5円/分なので、30分の料金は825円になります。日産の充電カードである「ZESP3」の料金まで説明すると煩雑になるので割愛しますが、なにはともあれ、パワーエックスの従量課金は、専用アプリが必要という関門さえクリアすれば、ユーザーにとって合理的です。
最大出力240kW化やNACSケーブル搭載なども準備中
さらにパワーエックスは今回の発表とあわせて、2025年内に充電器の出力を現状の150kWから240kW(1台充電時)にアップグレードすることを示しました。いわゆる「高電圧化」による出力アップです。
ハイパーチャージャーは、現在400Vシステムの最大150kWで運用していますが、ハードウェアの仕様上は1000V、最大240kWまで対応可能です。いずれ出力を上げるという話は以前から出ていましたが、時期が明示されたのは初めてだと思います。
ただし、規制緩和による高電圧化の恩恵を享受できるのは、EV側が「800Vシステム」といった高電圧のアーキテクチャーを搭載していることが必須。現状では、ヒョンデのIONIQ 5 など一部車種に限られます。今後、ことに日本の自動車メーカーが高電圧対応のEV車種をラインナップしてくれるのかどうかによって、その必要性に対する評価は変わってくるでしょう。
また、森居氏に「NACSケーブル搭載への進捗は?」と質問したところ、すでに対応に向けた準備は進めているとのこと。とはいえ、実際の導入については「日本全体のニーズや動向を見極めながら慎重に判断したい」という回答でした。
パワーエックスのハイパーチャージャーネットワークが、全国の高速道路を網羅するくらい広がってくれること、そして、EVユーザーにとって望ましい経路充電インフラが拡充されることに期待しています。
取材・文/木野 龍逸
コメント
コメント一覧 (1件)
経路充電では到着時間が読めないから予約機能は無しにしたというのは、その通りだと思っているので有難い判断だと感じています。一方で、せっかくアプリで利用手続きをする仕組みなのだから、到着した車両を対象にした、充電空き待ち予約機能(待ち順番予約)は有っても良いような気がします。空くのを待ってでもそこで充電したいケースはあるでしょうから、順番待ち予約ができて、今の充電があと5分で終わりますよ、空きましたよというような通知もしてもらえるなら、待ちながらの滞在の質も上がりそうに感じます。