PowerXが蓄電式のEV用超急速充電器事業の開始を発表〜2030年に7000カ所が目標

大型蓄電池の製造販売などを手掛けるスタートアップ企業のPowerX(パワーエックス)は2022年10月27日、電気自動車(EV)用急速充電器の設置サービスや充電ステーションの設置・運営に乗り出すことを発表しました。発表会でわかったことと、社長インタビューをお伝えします。

PowerXが蓄電式のEV用超急速充電器事業の開始を発表〜2030年に7000カ所が目標

詳細不明だったパワーエックスが発表会を開催

パワーエックスは2021年8月創業のスタートアップ企業です。設立時は、大型蓄電池を搭載する船舶で電気を離島などに運ぶ電気運搬船、洋上風力発電、蓄電池の組立工場を手がけるなどの発表がありました。

このうち、蓄電池については岡山に新工場を設置する計画を発表しているほか、2022年8月には急速充電器『Hypercharger』と、定置用蓄電池『Mega Power』の先行受注を開始しています。

ただ、いずれの事業も詳細は不明で、EVsmartブログでも現状について取材することができないか打診をしていました。そうこうするうちに、今回、充電ステーション事業を立ち上げる発表会の情報が舞い込んできたのでした。

発表会は、六本木ミッドタウンの向かいにあるビルの1階で行われました。会場には『Hypercharger』の実機とアウディのEV『Audi RS e-tron GT』が並んで置かれていました。

写真左から、池添通則氏(製品企画開発部部長)、森居紘平氏(EVチャージステーション事業部部長)、伊藤正裕氏(取締役兼代表執行役社長CEO)、佐竹正基氏(社長室クリエイティブディレクター)

発表会冒頭、パワーエックスの伊藤正裕・最高経営責任者(CEO)兼代表執行役社長はパワーエックスの目標について、「永遠にエネルギーに困らない地球を目指し少しでも社会の役に立っていきたい」「自然エネルギーの爆発的な普及を実現させていきたい」と話しました。

パワーエックスは、昼間にソーラーなどで発電した電気を大型蓄電池『Mega Power』に貯蔵するなどして夜間の火力発電所の稼働を減らし、CO2削減につなげることを目指すとしています。

発表会では、8月に開始した『Mega Power』『Hypercharger』の先行受注が、10月27日時点で累積1.08GWh、584億円相当になったという発表がありました。10月3日に出たニュースリリースでは450億円、83.4万kWhだったので、3週間ほどで約17万kWhの上乗せがあったことになります。『Mega Power』『Hypercharger』がそれぞれどのくらいの受注割合になっているかは非公表でした。

そして発表会の目玉が、『Hypercharger』を使った急速充電設備、『PowerX チャージステーション』の設置、運営という新事業なのでした。

会場には実際に稼働可能な『PowerX チャージステーション』を設置。この場所がショールームとして活用されることになるそうです。

2030年に急速充電ステーション7000カ所を目指す

パワーエックスの『Hypercharger』は、筐体内にリン酸鉄(LFP)のリチウムイオンバッテリーを搭載していて、キュービクル不要の低圧受電で充電できるのが特徴です。リチウムイオンバッテリーの容量は、基本は320kWhですが、設置場所の状況に合わせて増減も可能です。

急速充電の出力は最大240kWを10分間、連続では最大160kWに対応しています。充放電のサイクル数は、6000回以上と公表されています。バッテリーの供給元は非公開ですが、LFPであればCATLあたりが有力候補かなと思います。

仕様一覧
PowerX Hypercharger ESS Unit
連続出力100kW(〜500V)、160kW(〜800V)
ピーク時出力(〜10分)150kW(〜500V)、240kW(〜800V)
出力電圧範囲200〜800V
入力電圧200V、三相交流、〜50kW
電池種類リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)
蓄電池容量(定格)320kWh
外寸1350×2950×2525mm
重量4500kg
適用規格各種蓄電池規格、充電器規格に対応
CHAdeMO 1.2 & 2.0※, IEC62477, IEC61000, IEC61851, IEC62196, JIS C8715, JIS C 4441(IEC62933), IEC61851, IEC62196等
※認証取得予定
●出力は1台のEVを接続した場合の値です。2台同時に接続する場合、およそ半分の値となります。 ●本仕様は開発中のものです。量産仕様・価格は変更される可能性があります。 ●本仕様は実際に利用できる性能を保証するものではありません。実際の性能は、使われ方や環境温度など多くの要素によって変わります。
PowerX Hypercharger Dispenser Unit
外寸650×950×1920mm
重量250kg
適用規格CHAdeMO 1.2 & 2.0※
※認証取得予定
●実際に利用できる性能は仕様を下回り、多くの要素によって変わります。 ●データは製品開発時点のものであり、量産仕様と異なることがあります。

パワーエックスは『PowerX チャージステーション』を、当初は都内を中心に10カ所に設置し、将来的には2027年までに3000カ所、2030年までに7000カ所を目指します。1つの充電器に搭載する充電口は2~3個になりそうですが、まだ未定です。

伊藤CEOは発表会で、最大充電出力が240kWになれば、「ガソリン(エンジン車)と同じ使い道、同じ乗り方で車(EV)に乗ることができる」という見方を示しました。

現時点で設置場所は、パワーエックスの本社がある東京ミッドタウンを計画している他、丸の内トラストシティ、神谷町トラストタワー、御殿山トラストシティなどをもつ森トラストと協業することで基本合意をしています。

この他、新東京国際空港(成田空港)など複数の事業者と協議中で、現在も協力事業者を広く募集しています。

ちなみに、仕様表で適用規格として挙げられている「チャデモ2.0」については『チャデモの進化』という解説記事を参照してください。いずれにしても、800Vの高圧や、チャデモ2.0規格での充電には車両側が対応していることが必要で、現状では今回デモを行った『Audi RS e-tron GT』でも最大出力は、チャデモ1.2規格(電圧が500V以下)の150kWになります。

充電器側に能力があっても車側が対応していなければ猫に小判です。現状は、アウディの『e-tron GT』やポルシェ『タイカン』、ヒョンデ『IONIQ 5』など欧米のコンボ規格では超急速充電が可能なEVでも、日本のチャデモ規格や充電インフラ事情に合わせて後方互換している状態です。

これが、600V以上の高圧による急速充電が可能な『PowerX チャージステーション』の出現によってどう変わるのか。今後日本メーカーが発売するEVがチャデモ2.0に対応するのかどうか。際限なく早くなればいいというものではありませんが、『PowerX チャージステーション』ネットワークの普及状況次第で、日本の充電インフラにも変化が生まれるかもしれません。

大容量蓄電池の価格は従来の3分の1と発表

大出力の急速充電器は、大容量バッテリーを搭載するEVにとってメリットが大きいですが、設置コストが増えるのが難点でした。この点についてパワーエックスは、『Hypercharger』でLFPのリチウムイオンバッテリーを使用することや、組立工程をオートメーション化することで、「国内市場平均価格の3分の1」に下げることができたとしています。

具体的な価格は非公開ですが、パワーエックスによれば、三菱総研が経産省の検討会に提出したリポート「定置用蓄電システム普及拡大検討会の結果とりまとめ(PDFにリンク)」(2021年2月2日)に基づいて試算したところ、3分の1というのは1kWhあたり4.6万円~5.5万円になるそうです

ちなみに同リポートでは、2019年度の国内家庭用蓄電システムの価格は、工事費を除いて1kWhあたり14万円程度と推定しています。

パワーエックスの想定価格の通りだとすると、『Hypercharger』の基本システムの320kWhなら工事費別で約1400万円~1760万円になります。

補助金を交付する次世代自動車振興センター(NeV)の資料「電気自動車向け急速充電器設置検討資料 (道の駅版)」(2014年)によれば、既存の急速充電器の設置費用は数百万円~1000万円超(資料では約1600万円)となっています。

ただしこの資料は古いので、急速充電器の出力は大きくて50kWです。『Hypercharger』のような大出力器になればとうぜん、価格は跳ね上がります。

実際に『Hypercharger』がいくらになるのかはわかりませんが、設置場所によっては強い価格競争力があるかもしれません。高圧受電設備(キュービクル)が必要ない低圧受電で超急速充電器を運用できるのもメリットです。

『Hypercharger』は、専用アプリを使って予約、料金の支払いができます。仕様の詳細はまだ確定していませんが、基本的には充電器側でQRコードを読み取って課金をするシステムになりそうです。

発表会の中で実際に充電する様子も披露。130kW以上の出力でした。ケーブルは現在の90kW器や150kWブースト器に使われているものです。展示されていたのはプロトタイプなのでケーブル長は展示用に短くしていました。また実機では液冷になる可能性もあります。

長期使用で利益を出せるかどうかがポイント

では『Hypercharger』を使った『チャージステーション』は、どんなビジネスモデルになるのでしょうか。市場平均価格より安いとは言え、1000万円を超える価格の充電ステーションを黒字化するのは、現状ではなかなかハードルが高いように思えます。

この点も含めて、発表会後、伊藤CEOに単独インタビューが実現したので聞いてみました。

ー改めてビジネスモデルについて教えてください。

「まずは我々が、自分たちで『チャージステーション』をオープンします。どこかに場所を借りて『チャージステーション』を設置するということです。そこでは充電分の料金が私たちの売上になります。この他、場所代や設備代、利益を事業パートナーとシェアするパターンも考えられます」

ーそうすると当初の10カ所は、まずはパワーエックスで設置することに?

「はい。パートナー企業に提案するとしても、まずは自分たちで一度、(事業を)回してみないと、どこに問題があるのか、どのくらい儲かるのかがわからないので、10カ所で事業を展開してみたいと思います。まずは2023年の夏に10カ所をオープンして、同年中にまた増やし、2024年にはぐっと店舗数を増やしたいと思っています」

ー料金はまだ未定ということですが、設置費用を考えるとそれなりに高くなりそうにも思えます。

「この充電器と電池は、10年は使えます。相当にサイクル数もあるので、あとは(その間に)どのくらい多くの車を充電できるか、それによってどのくらいの利益を乗せられるか、電力の仕入れ価格をどれだけ安くできるかなどでビジネスプランができます。私どもの試算では、そんなに法外に高いことはないと思っています。ガソリン代と比べてもちろん安く、自宅で充電するよりは高いという、どこかの領域に入るのだと思います」

ー充電器1台にコネクターは2口が基本ですか。

「コネクターはいろいろ考えています。例えば商用の場合、フリートで充電したいという場合には急速の必要はなくて、充電口をたくさんほしいということがあります。電池の容量は大きくして、バスやトラックが帰ってきたら夜間にまとめて充電するというのもあります。コネクターの数を増やしてもコストはあまり変わらないので、そこは柔軟に考えていますが、当面の目標にしている(2030年までに)7000カ所は、乗用車用です」

「こうしたところは、来年、実際に事業を動かした時にどうなるかがわかると思うので、どんどんPDCAを回して改善をしていきたいですね。どのくらい使われるかは、実際に動かしてみないとわからないところがあるものです。ともあれ、ロングテールなビジネスではあります」

発表会後に伊藤社長への単独インタビューの機会を得ることができました。YouTubeで配信している動画担当のテスカスさんも参戦。

長期的な視点で考えないといけないというのは、なるほど納得です。気候変動対策は急がないといけませんが、その手段としてのEV普及はいくら急いでも一朝一夕にはできません。他方でビジネスとしてどう成立させられるかは、伊藤CEOの言葉にもあるように、やってみないとわからない部分がありそうです。パワーエックスの今後に注目したいと思います。

そういえば、伊藤CEOは今、テスラ(モデル3ロングレンジ)に乗っているそうです。実際にテスラを使いながら、急速充電器の高出力化が必要だと、肌で感じたそうです。確かにテスラのスーパーチャージャーは魅力的ですよね。あれを知ってしまうと、チャデモ50kWの能力不足を余計に強く感じてしまうことがあります。

そんなこんなで、パワーエックスが動き始めました。充電インフラに参入するプレイヤーが増えるのは、業界の活性化を促すので喜ばしいことです。

ひとつだけ、個人的には充電器を使う際のアプリケーションがまたひとつ増えた事がちょっと気になります。ここはいつか、たとえばEVsmartをインストールしておけば各社の充電器が使えるようになるなど、EVsmartを含めて今後さらに進化してくれるといいなあという思いが広がるのでありました。

(取材・文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)6件

  1. 充電式のEV充電器つーたらJFEテクノスのRAPIDASを思い出しますが…あれは低圧受電で50kW出力を出すヤツでしたな。課題が電池劣化やった気ぃしますー(耐久性の高い東芝SCiB内蔵であっても劣化でダウン報告あり)。
    ただでさえLFP(リン酸鉄リチウム)の寿命はLTO(チタン酸リチウム)の半分以下やから感覚的にすぐ劣化するイメージもある。さらには消防法の4800Ah制限をどないするかも気になるところ…コンクリート構造の部屋で電池を仕切るか、それとも認定キュービクル制度をうまく活用するか。
    自身は電気主任技術者・電気工事士・消防設備士の資格を持つその道のエキスパートなんで相当深読みしてますが、いかに日本の充電インフラがメンドクサイ法令に縛られて拡充できひんことが判るー思いまへんか!?
    仮に100kW充電器の30分稼働なら…受電電力49kWとして蓄電池は効率や劣化阻止を考え90kWh、消防法令を満たすには5~6室に分けなアカン。さらに蓄電池の重量も考えれば地盤強化施工も必要。何かと非効率が目立つから条件によっては高圧受電設備設置や電気主任技術者選任のほうがマシになりますー。しかも低圧直流電圧は最大750Vなんでそのあたりも高圧EV普及の妨げになるかもですが。
    あとは計量法との絡み。10年で検満を迎えるからその対策も必要でっせ。これも本業の電気管理業務で培ったポイント。
    …ここまで考えるとEV充電ステーションの
    そう考えると目的地充電で6kW普通充電器を売りにしたENECHANGE社のビジネスモデルに現実性を感じますー。果たしてPowerX社のビジネスモデルに勝機はあるのか?それは固唾を吞んで見守る他あるまい。
    チャージステーションの利用価格、果たしてどのくらいになるのか!?それも注目やと思いますー。ひょっとして110円/kWhとかになるんやないですか!?

    1. 50kWh以上のバッテリを積んだEVが街中を走り回っているのに、据え置きである蓄電池内臓の充電器に厳しい安全性を求めるというのは変な話ですよね。EVなみの安全性が保たれていればいいと思うのですが、どうなんでしょう。

    2. Seijimaはん、そもそも蓄電池に入ってる電解液の素材は何やと思います!?…答えは有機電解質、有機物イコール可燃物。住宅など固定資産を燃やす危険が大いにあるから消防法で厳しい規定が入るんですわホンマ。
      4800Ahの基準はおそらく万一の火災でも鎮火できる範疇のエネルギーを想定したと思われ。耐火構造の建造物に何らかの補正もあった記憶ですー。

      自動車に多くの蓄電池が載せられる理由は「舟車は除く」除外規定があるから。要は他の法令とぶつからんよう逃げてますー。
      文句があるなら総務省に言いなはれ!何分メンドクサイ&難しいことはわからんと逃げるお役所の仕様なんで。

  2. PowerXのこの急速充電設備を設置する施設(文中だと成田や森トラスト関連)には
    どんなメリットを提示しているのでしょうか(使用料が入金されるなど)
    単に「急速充電設備が有るから集客に繋がる」だけでは訴求力が小さい気がします

  3. “伊藤CEOは今、テスラ(モデル3ロングレンジ)に乗っている”ということなので、ユーザーフレンドリーなUIもしくはUXになる期待が持てそうだし、急速充電の必要箇所及び経路充電とはどういうものかも体感で理解したうえで、いろいろ実行していっていただきたいな。

  4. 「蓄電チャージャーだと市中電力そのまま再販するのではない」という理屈がなりたつのであれば 時間課金を回避して 充電量課金にチャレンジしてほしい パワーXがきっかけで日本だけの悪習慣「時間課金」を廃絶してほしい

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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