いち早くNACS対応を始めたFLASH
先日試乗レポートをお届けしたテスラの新型『モデル3』RWD。日帰り試乗ドライブの目的地を高崎スーパーチャージャー(SC)がある群馬県の「道の駅 玉村宿」にしたのは、SCで充電するためではありません。
そもそも試乗レポートで伝えたように、モデル3としてはバッテリーが小さいRWDでも、東京〜高崎の片道100kmくらいであれば、SOC(バッテリー残量)70%からでも無充電で往復可能です。あえて群馬まで足を伸ばしたのは、高崎SCの近くに、日本国内ではいち早くNACS(北米充電標準規格)のケーブルを搭載したテンフィールズファクトリーの「FLASH(フラッシュ)」という超急速充電器が設置されており、その使用実感を体験するためでした。
NACSはテスラの充電方式を元にした規格で、北米では「標準規格」に定められました。おおむね2025年以降に北米で発売される新車EVは、トヨタや日産などの日本メーカーや、アメリカはもちろん各国メーカーがNACSに対応することを発表しています。日本でも先だってソニーホンダが日本で発売する『アフィーラ』にはNACSを搭載することを発表(関連記事)したばかりです。
仮に日本でもNACSが標準化してあらゆるメーカーのEVが採用すれば、テスラが拡充しているSCで急速充電が可能になるし、高速道路SAPAなど公共充電インフラでもNACSの併載や置換が進むことになるでしょう。
とはいえ、現状の日本でNACS充電できるのはテスラ車のみ。輸入車をはじめ日本国内で発売されるEVがNACSに対応する流れにはなっていません。
約24分間で30.3kWhの充電結果
「フラッシュ」はテンフィールズファクトリーという充電サービス事業者(CPO)が独自に開発&製造している超急速充電器です。EVsmartブログでは、EVネイティブこと高橋さんの長距離試乗レポートなどでも何度か紹介しています。
全国に設置されたステーションは現状で30数カ所。そのうち6カ所(設置場所一覧で指折り数えてみた結果)のステーションにNACS対応のケーブルを搭載した充電器が設置されています。最大出力はおおむね180kW。最新モデルの「FLASH MARK.5」は液冷ケーブルを採用して、最大240kWとアナウンスされています。NACS対応のステーションは名古屋周辺がほとんど(首都圏〜関西圏を移動するテスラユーザーの経路充電ニーズを想定しているのだと思います)ですが、今回訪問した埼玉県本庄市の「竹並建設」駐車場のステーションは、首都圏で唯一NACS対応しています。
NACS対応のフラッシュは、チャデモ規格のケーブルとNACS規格のケーブルを併載しています。1基の充電器に2本のケーブルが備わっていますが、2台のEVが同時充電することはできません。
SOC70%で東京の自宅を出発後、関越道高崎玉村スマートIC近くの高崎SCで写真を撮って折り返し。本庄児玉ICから2kmほどの国道沿いにある「竹並建設」のフラッシュ充電ステーション到着時のSOCは43%でした。
さっそくNACSのケーブルを接続して充電開始。SCならPnCの機能があってケーブルを挿すだけですが、フラッシュはテスラ車であっても液晶画面でスタート操作が必要です。
結果は、24分間で30.3kWh、SOC90%まで充電できました(実際に充電できたのはSOCで計算して25〜26kWh程度だと思います)。表示された料金は1999円。充電器に取り付けられている決済用端末を使い、クレジットカードで支払いました。
平均出力としては約76kWという計算になります。「SCよりは少し遅いかな」くらいの感じですが、SOC約40%〜90%の充電だったことを考えると「さすが超高出力器」といった結果です。
ちなみに現在の66円/kWhはキャンペーン価格ということで、通常価格は88円/kWh。今回の30.3kWhは2666円になるはずです。
超急速充電インフラとしての「○と?」を考えてみた
フラッシュについては、昨年12月に稼働開始する際、埼玉県内のスポットを取材したことがあります(関連記事)。ただし、当時のマイカーは充電性能が最大50kWの初代日産リーフ(AZE0)だったので、超高出力の性能は個人的にはあまり関係ありませんでした。
改めて、充電性能が優れた新型モデル3で、フラッシュでのNACS充電を体験してみて感じた超急速充電インフラとしての「○」と「?」について考えてみます。
【○】高出力器複数口設置
この「竹並建設」駐車場のステーションには、最大出力180kWのフラッシュが3基設置されています。高出力器を設置するべき「充電ニーズ」が高い場所であればあるほどに、EVユーザーの敵は「充電待ち」のリスクです。テスラSCが1カ所4口以上を基本としているように、ことに高速道路SAPAなどでは「高出力器複数口設置」を望むのは、今までもいろんな記事で提言してきた通りです。
【○】従量課金でクレジットカード決済OK
充電のために会員カードなどは必要なく、充電できた(充電器側の計測)電力量による「66円/kWh」の従量課金。上の充電結果の写真左上で「残り時間」のカウントダウンが始まっているように、充電終了後3分以内に精算しないと「100円/分」のペナルティ課金を行うシステムも合理的です。
さらに、クレジットカード決済に加えて、スマホのQRコード決済にも対応。逆に言うと「なぜ、ほかのEV用公共充電インフラで実現できないの?」と感じるくらい便利です。
【?】維持コストは大丈夫ですか?
フラッシュに限らず、さほど立地がいいとは思えない超急速充電ステーションに感じる大きな疑問です。高圧電源や機器の管理&メンテナンスはもとより、超高出力急速充電器を稼働させるための高圧受電では、最大需要電力(30分間のデマンド値)に応じて12カ月間固定される「デマンド基本料金」が必要になります。
急速充電器の出力はスペック上の最大値になることはほとんどないので、仮に3基が同時に100kWのデマンド値だったとすると合計で300kW。東京電力の高圧契約の基本料金は1466.5円/kW(工場などの場合)とのことなので、300kWでは毎月43万9950円の基本料金と、22〜24円/kWh程度の電力量料金が請求されることになります。
ザッと計算して、毎月1万kWh以上利用されないと、66円/kWhの充電料金では電気代すらペイできません。
(商業施設などの場合のデマンド基本料金は1890円/kWで、300kWだと月額約57万円。このステーションがどちらの電気料金なのかは未確認です)
【?】誰がどんな時に利用するんだろう?
EVsmartで出力90kW以上の急速充電スポットを表示した地図画面です。中央付近の赤丸が「竹並建設」駐車場のフラッシュ、青丸が高崎SCです。本庄児玉ICから約2kmという立地は上々ですが、ほぼ隣接して最大90kW6口の青いマルチが設置されている上里SA(上下線)があるし、ほかにもたくさんの高出力充電ステーションが存在していることがわかります。余談ながら、こうしてみると日産ディーラーやファミリーマートの頑張りに改めて感謝です。
では、奮発して3基設置したフラッシュで充電するのは、どんなEVユーザーなのでしょう。
私がテスラオーナーで、このあたりで充電したいと思ったら、ほぼ間違いなく高崎SCを選択します。SCは6基並んでいて充電待ちのリスクは低いし、ちゃんと舗装されててトイレやショップもありますからね(SCは大型車区画の最奥でトイレまで少し歩きますけど)。竹並建設の周辺には残念ながらコンビニなどはなく、200mほど歩いたところにスーパーの店舗がある程度。飲食店は国道の向かいに数軒あったけど、横断歩道はスーパーよりも遠くまで歩かねばならず。駐車場の路面は砂利でした。
私が高出力急速充電に対応したチャデモ規格の高級EVオーナーで、上里SAの青いマルチに3台以上先客がいたら……。もしかすると一度高速を下りてこのステーションを選ぶかも知れません。あるいは、このステーションから4〜5km以内の集合住宅に住んでいて充電環境がなく、e-Mobility Power(eMP)や提携の充電カードを所有していなかったら、基礎充電代替で利用する可能性はあります(日常的にはより安く充電できる場所を探すだろうけど)。
いずれにしても「ターゲット狭いなぁ」という印象です。数年後、日本でもっとEVが普及すれば急速充電器がもっともっと必要になるという読みに基づく先行投資と考えることはできます。とはいえ「毎月数十万円のデマンド基本料金を垂れ流しつつ、数年後まできちんと維持管理していくことができるんだろうか」と疑問を抱いてしまうのです。また、その「数年後」には道の駅や自動車ディーラー、コンビニや商業施設といったEVユーザーにとってより便利な場所に、今以上の超急速充電ネットワークが広がっているはずです。
もう、充電器の廃墟は見たくない
今までにもいろんな記事で提言しているように、私が充電インフラについて事細かなことを書き連ねるのは「もう、急速充電器の廃墟は見たくない」という思いがあるからです。2015年前後の補助金制度で日本にはEV用急速充電インフラが一気に広がりました。でも、1カ所1口で充電待ちが多発したり、20〜30kWの低出力な機種が多く市販EVのバッテリー大容量化によって利便性が下がったり……。簡潔に言い切ると「EVをきちんと理解していない」ため「使われない充電器が増えてしまった」ということです。
その結果、ここ数年は設置から10年ほどが経過して、液晶画面がガビガビになり、故障しても修理すらしてもらえない急速充電器の廃墟があちらこちらで出現してきました。EV普及にとってイメージダウンも甚だしいし血税である補助金の無駄になってしまいます。
今ふたたび、EV充電インフラの拡充には国の手篤い補助金制度が用意されています(念のために補足しておくと、利便性の高い場所では高出力複数口化を基本とした機器更新が進んでいます)。公共充電ネットワークの構築はeMPが重要な役割を果たしてくれるでしょうが、フラッシュを展開するテンフィールズファクトリーのように、新たに急速充電サービスを手掛けるCPOが増えています。
急速充電器の廃墟をこれ以上作らないためにも、急速充電を手掛けるCPOのみなさんには、ぜひ「使われる充電ステーションを作ってください」&「より使われるようにするための工夫をしてください」と、心からお願いしたいと思うのでした。
【関連記事】
EV用超急速充電器「FLASH」が稼働開始~市川CEOにビジョンを直撃インタビュー(2023年12月19日)
取材・文/寄本 好則
SCには及ばないにしても、Flashは良いシステムですね。
自販機なら併設して貰えそうですが、一番欲しいトイレは難しそうです。
それにしても、日本のEV普及を妨げている諸悪の根源はデマンド基本料金かもしれません。
なぜそんな高額な料金が必要なのか?を掘り下げて調べていくことって可能でしょうか?
日本の闇に関わりすぎても良くないので程々にしないといけませんが。
関わらないと、普及しませんよ!
お金を言わない人・経営者上がりの、
政治家も必要です!
まぁ、その結果が北海道のブラックアウトですかねぇ~、
要る時、要るだけ、遅滞を許さずが、電力の宿命ですからねぇ~、
不安定な再生可能エネルギー、これには水力発電も含みますよ、
不安定な発電設備が増える度に火力発電を整備していかねばならんので、
バックアップ設備はもしもに備えてですから、要求がキツクなればなるほど維持費はドンドン嵩みます。
全ユーザーが自前の蓄電設備を備えれば、結構解消しますし、いざという時に停電しても大丈夫!って開き直れれば良いんですよ。
その為に病院等ではバカ高い非常用電源装置を備えなきゃならない、太陽光発電で自立する時に5日分の電力消費に対応可能な蓄電能力を確保しましょうってのは、そこらが主因ですもんねぇ。
某社の急速充電器は蓄電装置を備えて高出力でも50㎾h以下の契約で済ましているのは正解ですよね。導入時は補助金出るんで価格差は問題無くなるけれど減価償却出来ない充電料金の根本欠陥があるんで更新は出来ないでしょうね。
私は高圧大口契約可能なモールしか急速充電器設置出来ないんじゃないか?と主張しているんですが、まぁ蓄電すると効率が一気に低下してしまうんで、大容量蓄電池の装備ってどうなんだろ?
太陽光発電装置を備えて直流のまま蓄電しないとキツイんですけれど、V2Hの欠点と同じです、それなのにEV業界界隈ではV2H推しってどうなんかなぁ~とは思うんですよねぇ~。