ポルシェとアウディが独自に150kW急速充電設備拡充〜「プレミアム チャージング アライアンス」を締結

2022年4月19日、ポルシェジャパンとアウディジャパンが東京都内で共同記者会見を開催。日本国内に最大150kW出力の急速充電インフラを拡充する「プレミアム チャージング アライアンス」を締結。両ブランドのEVユーザーだけが利用できる独自の高出力充電ネットワークを構築することを発表しました。

ポルシェとアウディが独自に150kW急速充電設備拡充〜「プレミアム チャージング アライアンス」を締結

2022年内に73拠点102基の150kW急速充電器を設置

発表された「Premium Charging Alliance(プレミアム チャージング アライアンス)」は、ポルシェとアウディブランドの電気自動車モデルオーナーの利便性向上のため、両社ディーラーを中心にCHAdeMO規格で最大150kWの高出力急速充電器を設置。認証課金のためのアプリやシステムを共用してネットワークを統合、両ブランドの電気自動車に乗るオーナーだけが利用できる独自の高出力充電ネットワークを構築する業務提携です。

左/マティアス・シェーパース氏、右/ミヒャエル・キルシュ氏。

日本国内の公共急速充電インフラは、高速道路などでも最大90kW出力の設備にとどまっているのが現状で、150kW出力器はまだほとんど存在していません。今回のアライアンスでは、ポルシェがABBと共同開発したCHAdeMO規格で最大150kW出力のポルシェ「ターボチャージャー」をアウディでも採用し、全国のディーラーへ設置を進める計画です。

充電器の数は、2022年度に段階的に全国のアウディディーラー52拠点へ設置される52基と、ポルシェジャパンが展開するポルシェターボチャージングステーション41拠点50基の合計102基で、サービス開始は2022年7月1日(金)を予定しています。

ただし、150kW出力の高出力急速充電に必要な水冷ケーブルの開発が遅れており、現状のポルシェターボチャージャーは最大90kWで運用中。今回の発表でも「2022年夏までは90kW」と明記されています。

150kWの急速充電はミニマムな性能

記者会見には、ポルシェジャパン代表取締役社長であるミヒャエル・キルシュ氏と、アウディジャパンのブランドディレクターであるマティアス・シェーパース氏が登壇し、今回のアライアンス締結の理由や意義について説明しました。

おふたりのプレゼンテーションを聞いていて感じたのは、BEVを送り出すインポーターのトップとして、電気自動車や急速充電についてそれぞれが深く理解した上で、共通の理想を抱いていることでした。

キルシュ氏は、日本における公共急速充電インフラが、最大350kW級の整備が進む欧米に比べて遅れていることを指摘。「両ブランドが展開するプレミアムなEVユーザーの利便性を満たすためには出力150kWの急速充電がミニマムな性能」であることを強調しました。

発言のバトンを受けたシェーパース氏は、このアライアンスで展開する150kW級の急速充電ネットワークと両ブランドのEVが「プレミアムブランドとして、またモビリティプロバイダとして自信をもって導入できる」ものであり「(EVの)プロダクトとしての魅力を示すことがプレミアムブランドの役割」であると明言。「いいものを早く導入したいから様子見はしない。ビジョンを描き、速やかに行動する」ことのひとつの手段が、今回のアライアンスであると強調しました。

キルシュ氏はタイカンで白馬へスキーにも行ったとのこと。お2人ともEVと急速充電について深く理解されているのが印象的でした。

独自ネットワークにする理由は?

質疑応答で手を挙げて、運良く当てていただくことができたので、次の3点を質問しました。簡潔に、回答とともにまとめておきます。

●設置コストは販社(ディーラー)ではなく両社が負担するのか?

150kW出力の充電インフラが、今後、大きな差別化になることを販社にも理解していただきながら、両社もコストを負担して設置を進めていくという回答でした。両社が全額負担して設置するのではなく、販社も相応の投資をしてネットワークを構築していくことになるようです。

●同じグループのフォルクスワーゲンのEVでも使えるようになる?

会場での回答としては、「もちろん、将来的な可能性はあるが、今日は2社のアライアンス発表なので詳細は回答しかねる」ということでした。マティアス・シェーパース氏はフォルクスワーゲングループジャパンの社長を兼任しているので、あわよくば『ID.3』や『ID.BUZZ』の日本導入計画が垣間見えるようなお答えをいただけないかという下心いっぱいで質問したのですが、玉砕しました。

とはいえ、先ほどポルシェの公式サイトで充電ネットワークを説明するページを見ると、プレミアムチャージングアライアンスの説明文の末尾に「将来的にさらなるチャージングアライアンスの加盟ブランドは増えていく予定です」と明記されています。ID. シリーズが日本導入される暁には、きっとフォルクスワーゲンブランドもアライアンスに加わることになるのだと思います。

●他社EVユーザーは利用できない?

今回のアライアンスで注視すべきポイントのひとつが、両ブランドのEVユーザーだけに限定したクローズドなサービス網である点です。質問へのシェーパース氏の回答は「私たちも日本の充電インフラ拡充に貢献したいとは思っているが、当面は両ブランドのユーザーのためのネットワークであり、他社EVユーザーの利用は想定していない」というものでした。

答えを聞きながら、勝手ながら「シェーパースさん、深いなぁ」と感嘆しました。なぜなら、この回答の意味、裏を返せば「日本の公共充電インフラ拡充の仕組みが、プレミアムな高出力急速充電ネットワーク拡充に適合していない」ことへの鋭い指摘でもあるからです。

急速充電器設置に経産省のCEV補助金を受けるには「誰でも使える」ことが条件なので、今回の両社の充電器設置に補助金は使えません。つまり、販社を含めて両ブランドが自腹で設置するのですから、クローズドにして両ブランドEVオーナーのメリットにするのは、当然といえば当然です。

さらに、「誰でも使える」充電器にした場合、認証&課金の利便から e-Mobility Power(eMP)のネットワークと提携して、eMPカード(提携している各社カードを含む)を使えるようにするのが現実的です。でも、eMPに加盟すると、利用料金はいったんeMP側の課金プロバイダが集めた上で、ディーラーなど充電器の設置者には年に1回、利用された時間(分数) に応じた提携料として急速充電器の場合「10.78円(税込)/分」が支払われることになります。

急速充電器であれば、出力が20kWでも、50kWでも、その3倍の150kWの高出力であっても、10.78円/分は同じです。ちょっと細かく試算してみましょう。提携料は10.78円/分なので、30分で323.4円になります。出力20kW器の場合、30分で9kWh(充電ロスなどもあるので9割程度と想定)、電気代が25円/kWhとして225円なので、約100円の粗利を得られます。でも、150kW器30分で67kWh充電すると、25円/kWhの電気代は1687.5円。1回30分の利用がある度に、1000円以上の赤字になってしまいます。つまり、高出力器を設置すると、設置者が損をする仕組みになっているのです。
(※初出記事で30分の提携料を60分と計算違いしていたので、修正しました。2022.4.22)

こうした仕組みは、eMPの前進である日本充電サービス(NCS)時代から引き継いだ規約であり、一概にeMPの仕組みが古い! と断罪すべきだけのことでもなかったり(いや、古い仕組みなんですけどね)します。横たわる課題を掘り返していくと、急速充電の従量課金制やら、高圧電力のデマンド料金やらといった、日本全体にまとわりついた旧態依然とした仕組みが、今まで想定されていなかったEVの時代に合わなくなっていることに思い当たります。日本の充電インフラ拡充のリーダーシップは誰が取るの? 問題でもあるし、さらに言うと、特典満載の充電ライフになれてしまった日本のEVユーザー自身が「充電したらお金は払う。インフラ維持はユーザーの責任でもある」という意識を広く共有することが大事、でもあるのではないかと思います。

質疑応答を締めくくるように、シェーパース氏は「(キルシュ氏とともに)日本法人両社の責任者として、150kW急速充電インフラに関する議論を活性化したいという気持ちで今日の記者会見を開いた」と述べました。

シェーパースさん、キルシュさん、そして両社関係者のみなさん。ありがとうございます。EVsmartブログは、そしてEVユーザーである私個人としても、日本にCHAdeMOの150kW急速充電ネットワークが誕生することをまずは喜びたいと思います。

折しも、ここのところ、急速充電性能、そしてEV普及のあるべき方向といった命題について考えさせられる取材が続いているので、これを契機に「正しいEV」を考察するシリーズ的な記事を何本かまとめてみたい、と思います。読者のみなさま、コメントにご意見お寄せください。いろいろと、ユーザーの側からも議論を活性化できるといいな、と思っています。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. これは電気管理技術者として見るからに、ポルシェとアウディは「明日を変える」決心をしたと見ます。理由は80年代渡辺美里の音楽のごとく「わかり始めたMyRevolution~明日を乱すことさ~」、さらに2番の歌詞は「明日を変えることさ」だから。
    テスラ社が顧客満足を優先してチャデモを採用しなかったのと同様、こちらは同じチャデモを使いつつ従来の低圧受電49kW縛り(電気事業法)にのっとったものとは違うレベル。これも顧客満足を満たすにはこうしないといけないと判断してのことでしょう。
    そう考えた理由に、ガソリン車給油に慣れて電気自動車の充電の遅さを受け入れられない人間が多すぎることがあげられます。小さいころミニ四駆や電動ラジコンに親しみ電池の特性を知る人間でないとなかなか受け入れられないのもまた事実。
    ※各人の意識を変えないとこの問題は解決不能、同じ80年代音楽の佐野元春も「何も変わらない者は何も変えられない」ですから間違ってはいまい。

    日本のチャデモ充電網は高圧受電設備がなくても充電するよう配慮したパターンがあまりにも多いです!!長年電気主任技術者として従事した人間だからわかります。
    電気事業法を緩和するか、もしくはテスラみたいに独自の充電網を構築してユーザーを確保するか!?大事なことを二度書きましたが、そこに勝算が立つなら自動車メーカーもそっちへ移行するんやないかと思いますよ!?
    ※ちなみに日本各地の充電網をすべて高圧受電レベルの大出力にしたら何百名もの電気管理技術者(実務経験アリ)を養成しなきゃいけません。言い換えれば各地の電気保安協会に多大な苦労を押し付ける形になります!!もちろん労働環境がブラックになればその計画も頓挫するでしょう!!それが問題だ。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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