公共のEV用急速充電器を持続可能に/有料化3カ月の東京都中央区では苦情ゼロ

東京都中央区が設置・運営していて10年以上無料だった電気自動車用急速充電器が昨年10月から有料化されました。3ヵ月が過ぎましたが、ユーザーの反応や利用率の変化はどうなのか。担当部署に話をうかがいました。

公共のEV用急速充電器を持続可能に/有料化3カ月の東京都中央区では苦情ゼロ

※冒頭写真は中央区役所駐車場の急速充電器。

2023年10月2日から有料化

私自身が住民でもある中央区が保有している急速充電施設は3ヵ所で、いずれも最大出力50kW器(1口)です。中央区役所駐車場は24時間利用可能で駐車料金なし。中央区営月島駐車場と中央区営浜町公園地下駐車場は利用時間が7時~22時で、駐車料金については低公害車優遇制度の割引証で1時間無料になります(最初だけ車検証の提示が必要)。中央区民以外も利用できます。

【充電スポット情報(EVsmart)】
中央区役所駐車場
中央区営月島駐車場
中央区営浜町公園地下駐車場

充電器が設置されたのは2009年。三菱i-MiEVがデビューした年ですね。日本のEV黎明期からの古株です。その分だけ老朽化していたのですが、2020年から22年にかけて3基とも入れ替えられて、いまも快適に使えます。

月島駐車場の急速充電器。たまたま故障中でした……

充電料金は設置時から10年以上無料だったのですが、東京都が都有施設のEV用充電設備を有料化した(関連記事)のと同じタイミングで、2023年10月2日(月)から一斉に有料化されました。e-Mobility Power提携の充電カードか、エコQ電のQRコードでの認証が必要になっています。エコQ電の場合は30分1650円、eMP提携カードは一般的な急速充電器と同じく、発行会社の定めた料金が適用されます。

平均利用回数はほぼ1/4に減少

まずは、有料化の前後で利用率がどう変わったのかを、ゼロカーボン推進を担当している環境土木部環境課にうかがいました。3基を合計した数字でみると、2023年4~9月は1,853回だった月平均利用回数が、有料化後の10~12月は447回とほぼ4分の1に。月平均の消費電力も有料化によって20,273kWhから6170kWhと3分の1に減ったそうです。

利用回数の変化(単位/回)

設置場所4~9月平均10~12月平均
中央区役所駐車場1123294
浜町公園地下駐車場447103
月島駐車場28350
3ヵ所合計1853447

ことに中央区役所駐車場、無料時(4〜9月)の月平均1,123回という利用回数は、相当な高頻度です。ユーザーが急速充電器を1回30分利用するとして、1日48コマの利用機会がどれぐらい使われるかを示す「利用率」に換算すると80%近くにもなる計算。集合住宅が多い(=自宅充電できないEVが多い)という中央区の特性も関係しているのでしょう。30分以内で充電を止めるユーザーがいたとしても、深夜帯以外はほとんどつなぎっぱなしという状況だったのではないでしょうか。

利用率は20%以上になると充電渋滞が発生すると言われます。3ヵ所の中でも中央区役所駐車場は首都高速の出口が近く、24時間使えて利便性抜群。だからこそ人気が高かったわけですが、駐車場も小さく、開庁している時間帯は充電待ちするスペースもありません。道路上で待っているEVも時々見かけました。

「かなり遠方からもわざわざ充電に来られるようなこともあるようで、ここ数年で利用回数は倍以上に増えており、電気代もかさむ状況が続いていることから、利用されているみなさまに受益者負担をお願いすることになりました」と、有料化の経緯を説明してくれたのは環境課長の武藤智宣さんです。

電気代も値上がりが続いていますし、予算的に厳しいのも理解できますね。中央区役所駐車場の急速充電器の電気料金は、5年前には年額132万円だったのが22年度は524万円に。この5年間の利用状況は別表の通り。利用台数も増えていますが、電力量の増加が顕著です。市販されているEVのバッテリー容量が増えたり充電効率がアップしたりして、利用電力量が跳ね上がったことが見て取れます。

無料だった急速充電器(3基)の利用状況

年度20182019202020212022
年間利用台数(台)9,3828,87610,97915,89419,274
利用電力(kWh)66,233.469,542.290,257.9165,654.4213,053.1
電気料金(円)1,320,0001,423,9011,506,6022,761,4705,241,609
※ 電気料金は中央区役所附属駐車場のみ

有料化にあたっても「自治体として充電料金で儲けることは考えなかった」そうですが、eMPとエコQ電から利用に応じた提携料が入るので、電気代の負担はかなり減る見通しです。

古くからのEVユーザーによると、自治体が設置する公共の充電器は無料が当たり前のようになっていた時期もあるようです。でも3年前からEVユーザーになった私は当初「無料でいいの?」と戸惑いました。もちろん、時々ありがたく利用させてもらいましたが。そもそもなぜ無料だったのでしょう。

「無料充電器は、これから電気自動車が普及していこうという時期には大きな意味があったと思います。インセンティブを設定することで低公害車が普及すれば、環境負荷の軽減につながります。また、世の中に充電器の設置台数そのものも少なかったので、自治体としてインフラ整備に貢献することも必要でした」(武藤さん)

いまも、EV・PHEV・FCVの車両購入に対してCEV補助金などがありますし、充電設備の導入にも同じく補助金が出ています。なので、EV普及策の一環として無料充電器があっても悪くはないのですが、充電器に対してEVの台数が多くなりすぎると、いいことばかりではなくなります。充電渋滞もそうですし、「区の施設に無料の急速充電器があることで、近隣で充電インフラの整備が進んでいかない」ことも懸念されたそうです。

浜町公園地下駐車場の急速充電器。

東京都が充電を有料化した際の報道資料にも「民間企業で設置している充電設備の有料化が進んできていることを考慮した」という一文がありました。民業圧迫というほどではないかもしれませんが、もし自治体がガソリンを希望者に無料配布していたら、「おいおい」とツッコむ人はいそうですよね。

有料化は区民として納得できる改正に思えます。とはいうものの、環境土木部環境課のみなさん、「さまざまなご意見が出る」ことも覚悟していたそうです。しかし半年以上前から告知に努めた甲斐もあって、フタを開けてみれば、この3ヵ月間で「有料化に対する苦情は一件もない」という結果に。ユーザーの立場で考えるとそれほど意外ではなくて、一番大事なのは充電できる場所を維持し続けてもらえること。多くのEV乗りは「金取るなんてけしからん」と怒ったりはしないと思います。

東京都や中央区といった自治体運営の充電器だけでなく、今までは無料で充電サービスを提供してきた各地の道の駅などでも、老朽化した充電器の更新に合わせて有料化を図る動きがあります。こうやって話を聞いてみると、過密利用対策や電気代の負担増など、EVが増加する中で充電無料を維持していくことがいかに難しいかがよくわかります。黎明期のEVユーザーを支えてくれた無料充電器は消えゆく定めなのでしょう。

有料化されても、駐車料金不要で使える急速充電器というのは、都心部ではなかなか貴重です。中央区運営の充電施設が、今後もEVユーザーにとって大切な存在であることは間違いありません。これからもしっかりと維持管理してもらえるよう、よろしくお願いします。

取材・文/篠原知存

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 苦情ではないですが残念ですね。
    クーポン使おうとしたら期限切れだった感に近いです。
    それにしても前の方のコメントみてビックリしました。マナーの悪い人いるんですね。2年間電気自動車乗ってきましたが、コネクタが戻ってなかった事はなかったです。ケーブルはうまく戻せない人は多いですけどね。
    マナーを販売に携わる人にお願いするというのも、なんだかなーという気もしますが、大人なら、周りをみて気をつけるものだとおもうのですが、、、
    日本人の民度が低くなったという事なのでしょうか?

  2. 苦情がなかった、ということに安心しました。
    以前有料化した地方自治体の充電施設についてアプリ上のコメントに
    「有料じゃ、いらない」のようなコメントが散見していましたので。

    その意味では、事前周知の重要性を感じる一つの事例かもしれませんね。

    その一方で、商業施設などの無料で充電できるスポットにおいては
    使い方などルールやマナーの悪化について危惧を持っています。

    充電車両の いちユーザーとして、
    無料有料に関係なく充電施設を大切に、丁寧に、故障させないよう使いたいなと思いました。
    たまに、
    カラーコーン戻してなくて充電以外の車両が駐車してたり、
    充電ケーブルが放り投げたままだったり、
    コネクターが収納部に戻さずぶら下がったままだったりというのを目にします。

    利用者が適切な使い方ができるよう、販売に携わる方々にも周知(ユーザー教育)を徹底して欲しいですね。

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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