テスラの充電器設置戦略とコミュニティ参加型のインフラづくり

2022年8月19日、カリフォルニア州のサンタ・ネラという場所に珍しいテスラスーパーチャージャーがオープンしたと聞いて、現地を見てきたテスラ・オーナーズ・クラブ・サンホアキン・バレーの会長であるジョーさんに色々お話を伺いました。電気自動車の世界をリードするテスラならではの、先進的で奥深い戦略が展開されています。

テスラの充電器設置戦略とコミュニティ参加型のインフラづくり

幅3.5m、長さ10m以上の巨大な駐車区画をもつSCが出現

サンタ・ネラはサンフランシスコとロサンゼルスを繋ぐ高速道路I-5(アイ・ファイブ)の、広域サンフランシスコ圏のすぐ南に位置します。サンフランシスコからロサンゼルスまで伸びる黄色い道路がI-5で、矢印で示す位置にサンタ・ネラ スーパーチャージャー(SC)があります。

ここには48基のV3充電器が並び、それぞれが最大250kWの電力を供給してくれます。ズラッと並んだ充電器の一番端には4つの大型車室が用意されており、2023年夏頃に発売が予想されるサイバートラックや、トレーラーを牽引しているその他のテスラ車が利用するものと見られます。

ジョーさんのモデル3を車室に駐車するとそのサイズ感が分かると思います。横幅にして3.5mぐらい、長さは10m以上に見えます。

Photos by @sjvtesla

2022年中にはテスラの大型トラックSemiも発売予定で、こちらは充電ポートの形状が異なるため、何かしらのアダプターを介して充電する必要はあると予想されますが、緊急時はこうしたジャンボSCを利用できるとありがたいですね。ジョーさんがSemiのテストドライバーに遭遇した際に「我々の車と同じ充電ポートもあるの?」と聞いたところ、Semi専用のメガチャージャーポート(1000kW対応?)しかないとの回答でした。

日本ではトレーラーを牽引するオーナーは少ないと思いますが、欧米ではよくあることで、基本的なマナーとしては離れたところにトレーラーを停めて、一度切り離してテスラ車だけで充電するべきです。しかしアメリカでは誰もいないSCなら下の写真のようにガバッと充電器を占領し、運転席に座って誰か来ないか見張っていれば(そして誰かが来たら速やかに場所を明け渡せば)OKということになっています。また、ヨーロッパでは多くのSCでトレーラー対応の車室が1~2区画あるため、逆に何も牽引していない人はそこに停めないよう配慮するルールもあります。

Photo by prisonerone via reddit

テスラが進めるSCの戦略的配置

SCの配置は、これまでいくつかのフェーズがありました。第1フェーズはガソリン車と同等の利便性を実現する時期です。下図の①はサンフランシスコとロサンゼルスのちょうど中間地点にあるハリス・ランチSCで、これができたことにより当時のモデルSで二都市間を移動できるようになりました。日本でいう、東京と名古屋を往来するために作られた浜松SCのような存在です。

第2フェーズは主要都市及び幹線道路の充実期です。ハリス・ランチ(現在は充電器が18基)と②のケトルマンシティー(以前は40基)だけでは、クリスマス休暇などで大量にテスラオーナーが移動する時期は大きな待機列ができたものです。

※YouTubeにこんな動画がアップされています。

販売台数の増加に伴い、ハリス・ランチは近日中に100基に増設予定、ケトルマンシティーはすでに95基、③のファイヤーボーは56基、そしてサンタ・ネラが48基と、充電渋滞緩和のために日本では考えられない数の充電器が設置されています。

また、このフェーズの都市部の特徴として、大型ショッピングモールなど、消費者の滞在時間が30~60分ある施設では「SC誘致合戦」が繰り広げられ、本来テスラが支払う工事代金や電気料金を肩代わりするからウチに設置してくれという企業もあったと3~4年前に関係者から聞いています。日本もちょうど第2フェーズに入ったところだと思っていますが、SCを建てるとテスラオーナーがやってくる、そしてうまくサービスを提供できればお金を落としてもらえる、逆にSCがない施設にはテスラオーナーが近寄らないという仕組みになると予想します。

カリフォルニアは都市部および主要幹線道路のインフラ整備がある程度完成したため、次に都市周辺部を充実させる第3フェーズに移行しました。サンフランシスコから内陸に入ると急に砂漠のような住みづらい気候になり、平均的な世帯収入も下がってくるのですが、そのような地域にもテスラ車が着実に浸透しており、2020年頃からはハイウェイ99上にSCが次々にオープンしています。

そして冒頭で紹介した大型車室の登場により、カリフォルニアはいよいよ第4フェーズに突入したと見られます。多様化するEVやライフスタイル、そしてテスラSC網の他社EVへの開放も見据えた対策だと思いますが、テスラはユーザーの充電データを持っているため、適切なタイプと数の充電器をピンポイントでニッチな場所に設置することができます。

オーナーのコミュニティによる草の根活動

テスラのSC部門はデータを見ればどの地域にSCが必要なのか分かりますが、特に第4フェーズでは彼らが人生で一度も立ち寄ったことのないような田舎の街で、最適なロケーションを検討する必要があります。そこで役立つのが地元住民の声です。テスラオーナーの中にはSC候補エリアの土地の所有者や、所有者の知り合いだという方も多数おり、地元住民ならではの土地勘もあり、テスラではそうした方からの情報を受け付けるサイトが用意されています。

さらに、ジョーさんの所属するテスラ・オーナーズ・クラブ・サンホアキン・バレーでは、クリスさんという方が、SC設置に興味のある企業や地権者を訪問し、無事にSCが完成するまでボランティアでサポートをしているそうです。

自社充電ネットワークならではのビッグデータと、ユーザー参加を促すコミュニティベースのアプローチ、そして本記事では触れませんでしたが故障してもすぐに修理するメンテナンスチームにより、テスラのSC網は今後も世界で最も使いやすい充電ネットワークであり続けるだろうと信じています。

(取材・文/池田 篤史)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 当然、充電設備の費用を車両本体価格に含めたテスラの価格戦略だと思いますが、日本のメーカーのお国任せと違い、その差はみるみる広がっていくと危惧しています。
    最近では、国の補助金でガソリン価格が安定し高騰する電気価格との差は少ないなど、エンジン車両に忖度する様な記事も見受けられますが、今この一瞬は、それで済むかもしれませんが長い目線で見れば、いつまでも他人事で済む訳はなく、ガラパゴス化して国力の落ちていく日本を危惧します。
    まぁ、臭い物には蓋をしろ、先送り、見ざる聞かざる言わざる…らしい国民性ですが(笑)

    陸続きの大陸の変化は速く、気が付けば手遅れになっていないように日本の自動車メーカーも、もう一度「充電設備戦略」を見直して欲しいものです。

  2. 昔学生の頃、I-5はロサンジェルスとサンホセ間の往復に良く使いました。
    こういう幹線道路にきちんと充電スタンドを作るテスラ社は素晴らしいですね!
    カリフォルニア州では2035年からガソリン車とハイブリッド車を禁止し、全てZEVする法律(アドバンスドクリーンカーII規制)を今週金曜日に決定しますhttps://ww2.arb.ca.gov/ma082522
    大型長距離トラックに関しても、2045年には全てZEVにする予定です。

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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