東京都で高出力急速充電器「1,000カ所無料設置」への期待とお願い

EV充電サービス「Terra Charge」を展開するTerra Motorsが、従量課金対応で最大出力150kWの高出力急速充電器を、東京都限定で1,000カ所に無料設置する計画を発表しました。基礎充電代替設備として期待したい一方で、懸念を回避するためのお願いを整理してみます。

東京都で高出力急速充電器「1,000カ所無料設置」への期待とお願い

導入決定第1号は家電量販店のコジマ

2023年9月26日、EV充電サービス「Terra Charge(テラチャージ)」を展開するTerra Motors株式会社が、東京都に限定して、最大出力150kWの電気自動車用急速充電器を、1,000箇所に無料設置する計画を発表しました。

1,000カ所という数字については、東京都内に約1,000カ所あるガソリンスタンドに近い感覚でEV充電を行えるようにして、EVユーザーの不安を払拭するためと説明されました。

充電スポットのサイトオーナーは、設置費用もランニングコストも負担は0円。EVユーザーから徴収する充電料金はテラチャージの収益となり、サイトオーナーには充電で費やされた電気代分の費用が還元される仕組みです。自動車メーカー各社が提携しており、高速道路SAPAなどで国内に広く普及しているe-MobilityPower(e-MP)のカード認証ではなく、テラチャージ独自の認証システムで運用し、充電した電力量に応じた「従量課金」を導入することも明示されました。

設置される150kW急速充電器。

26日の発表会では、家電量販店を展開する株式会社コジマが「導入決定第1号企業」であることと、コジマの総務部長である成田博芳氏の「弊社店舗は郊外に立地しており、車でご来店をされるお客様が多くいらっしゃいます。EV車の普及を推進する為には充電設備の整備が喫緊の課題となっているため、弊社の店舗駐車場にお客様用として導入し、お客様の利便性の向上を図るとともに、EV車の普及促進に繋がればと考えている」旨のコメントが紹介されました。

高出力急速充電器設置や従量課金制導入はEVユーザーとしても歓迎すべきことです。また、東京など大都市部では基礎充電設備を設置できない集合住宅に住んでいるEVオーナーも多く、いわゆる基礎充電代替としての急速充電器ニーズがあることは確かです。ことに、100kWを超える急速充電性能をもつ高級EVのオーナーにとっては、都内に150kW器が増えるのは期待が膨らむニュースだと思います。

1,000カ所無料設置への懸念と、お願い

とはいえ、私がこの第一報を聞いた感想は「大丈夫なの?」でした。発表された写真を見ると、設置する充電器は新電元工業の、ブーストモード(最大150kWは15分間で以降90kW以下に落ちていく)を搭載した最大150kW器「SDQC2F150シリーズ」のようです。価格は公表されていませんが、高圧受電設備や工事費用を含めると、1カ所に1基設置するためのコストは1,000万円以上が相場だと思います。

ということは、1,000カ所でざっと100億円以上の先行投資になります。いかにテラモーターズがベンチャーとしては大きな資金調達力があるとはいえ、はたして、設置した充電器が稼働率高く利用され、持続可能なインフラにできるのかどうか。想定される懸念と、それを回避するための「お願い」を考察してみます。

【お願いその1】
100円/kWhを超えるような料金設定はしないでほしい!

最初に、最も気になるのが充電料金の設定です。テラモーターズの広報ご担当部署に「100円/kWhよりも高くなる可能性はありますか?」と質問したところ「現在、EVドライバーにとって納得感のある料金を検討しております。詳細はまた発表のタイミングでぜひお話しさせてください」という回答だったので、今のところどんな料金設定になるのかはわかりません。

150kW器を運用するためには高圧受電の契約になるでしょうから、電気代の単価は約20円/kWh+α程度かと思います。ただし、30分あたりの最大デマンド値によって決まる基本料金が、150kWであればざっくり月額30万円程度は掛かるはず。生半可な知識なので、大幅に違っていたら詳しい方のご指摘コメントいただけると幸いですが、まあ、こんな感じではあるはずです。そして、この高額なデマンド基本料金についても「全てTerra Chargeが負担します」という回答でした。

ということは、EVユーザーの利用料金から、月額約30万円(1,000カ所で年間36億円!)の基本料金も捻出しなければいけません。細かくなって恐縮ですが、ざっと皮算用してみると、1日当たり3時間=充電量は多めに見積もって30分平均で30kWhとすると1日180kWh、月間30日で5,400kWh利用されるとして、基本料金分だけでも1kWh当たり約56円が必要です。電気料金が20円/kWhとすると合計で約76円。資格を持つ指定管理者を置いてのメンテナンスも必要で、これに、初期投資を回収して運用していくための利益を上乗せすると、充電料金は100円/kWhを超えてしまうのでは? と心配です。

ユーザー感覚としては少し高めのe-MPのビジター料金でさえ、最大出力90kWで77円/分となっています。90kW器30分の充電量はざっくり35kWh程度(好条件の場合ですけど)として、従量単価に換算すると約66円/kWh。また、55円/10分といった料金設定の6kW普通充電を利用する場合、1時間で6kWh充電したとして55円/kWhになります。

また、たとえば家電量販店の駐車場に1基だけ設置されている急速充電器が、1日平均で3時間以上も利用されるだろうか(基礎充電可能なEVユーザーはほとんど使わないでしょう)という点は、はなはだ疑問。

かなり便利な場所に設置されたとしても、100円/kWhを超えてしまうと「EVドライバーにとって納得感のある料金」とはならず、さらに利用頻度が低下する懸念があります。

そんなわけで、「100円/kWhを超えるような料金設定はしないでほしい」けど、「高出力急速充電器のプロジェクトは持続可能なものにしてくださいね」というのが、ひとつ目のお願いです。

【お願いその2】
1,000カ所という数よりも、使いやすい充電スポット展開を!

テラモーターズには「複数口(基)を設置するテスラスーパーチャージャーのようなスポット(サイト)を設置する構想はありますか?」という質問も投げかけました。いただいた回答は「まずは東京1,000カ所から始め、国内の東名阪から政令指定都市へ広げる構想です。スポット含め様々な角度から検討しており、よりEVユーザーの利便性が向上する判断にしたいと考えております」ということでした。あくまでも構想は「1,000カ所」のようです。

プレスリリースには「自治体、郵便局、商業施設、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホテル、自動車ディーラー、ファミリーレストラン、書店、オフィスビル、ガソリンスタンド、お寺など、東京都の駐車場サイトオーナーを中心に今後は全国政令指定都市へ対象を広げてまいります。お問い合わせお待ちしております」という一文がありました。でも、どうなんでしょう。区役所やスーパーマーケット、お寺とかの駐車場にポツンと設置された、料金の高い急速充電器が、そんなに利用されるでしょうか。

復習しておくと、基礎充電代替の高出力急速充電器は、都市部の、基礎充電設備が設置できない集合住宅居住者の利用ニーズが高いインフラです。一方で、コインパーキングなどへの6kW普通充電器設置など、より充電料金がリーズナブルな設備も増えているので、利用者はコストパフォーマンスの高い充電設備を選んで利用するようになっていくでしょう。

また、いろんな記事で繰り返し提言していることですが、充電待ちに遭遇するリスクが高い1基1口だけの急速充電スポットは、EVユーザーにとって使いにくい(アテにできない)という視点も大切です。そもそも「ガソリンスタンドのように1,000カ所」ということですが、「基礎充電できれば、ガソリンスタンドに行かなくてよい」のがEVのメリットであることも忘れちゃいけません。設置場所や方法、利用者のニーズをエンジン車基準で発想するのは間違いを生むのではないかと懸念します。

たとえば、100戸以上の大規模な既築分譲マンション(おそらく東京都だけで1,000棟くらいはあるでしょう)に狙いを定め、直近の商業施設などに複数台を設置していく、みたいなプランが成功すれば、既築マンションへの充電インフラ拡充が進むまでの間は、それなりに稼働率の高い充電スポットになりそうな気もします。

とはいえ、急速充電の役割は、基本的に経路充電が中心です。また、都市部の基礎充電代替を含め、EVユーザーが利用しやすい設置形態としては、先行して高出力充電インフラ拡充を進めるテスラスーパーチャージャーのあり方が参考になるのではないでしょうか。パラパラと「とにかく1,000カ所」ではなく、4口ずつ100カ所(合計400口で済むし、充電器のチョイスは変わりそうですが電源設備のコストも共有して節約できるのでは?)といった、多くのEVユーザーが本当に使いやすく、設置する側として合理的な展開も、ぜひ検討するべきです。

それとも何かウルトラC的なランニングコスト低減策があるのでしょうか。テラチャージからの充電料金発表を待ちたいと思います。

あと、当面の日本では急速充電性能が低い軽EVやPHEVの普及割合も高く、そうした場合150kWの高出力は必ずしも必要じゃない(設置者にとっては時間当たりの収益が下がる)、とか、発表会で説明されていた「6分で100km走行分(電費が7km/kWhとしても約14.3kWh)」も充電できる日本国内での市販EV車種はほとんどないですよ、てな懸念もありますが、細かくなるので論じることは控えておきます。

【関連記事】
新電元150kW器で最新EV3車種の充電性能検証テスト〜30分40kWh超えで十分でしょ?(2022年5月18日)

なにはともあれ、日本のEV普及、充電インフラが激動の時期に差し掛かっていることは間違いなさそうです。関係者のみなさま、賢明かつ前向きなアクションをお願いします。

文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 郊外の家電量販店の駐車場は土日以外はほとんどがら空き状態です。コジマはそんな駐車場を有効活用したいと考えたのでしょう。コストゼロで集客のきっかけを作ってくれるので、こんないい話はありません。かかる設置コストから、寄本さんは高額になる充電料金を心配されていますが、おそらく高くなると思います(笑)。私のマンションは充電器設置でTerra Motorsの見積もりを取ったことがありますが、3kW出力で1時間200円の利用料金になると言われました。60円/kW以上であまりに高すぎて採用をやめました。
    Terra Motorsの戦略は設置コストをただ同然にして、後から資金を回収しようというものです。他の業者も同じような考え方ですが、この会社は徹底しています。資金回収は業者なら補助金からある程度利益を出すことは可能でしょう。また、家電量販店は、高い充電料金でも家電の購入者に割引の充電利用券を渡すこともできます。出力の大きなEVは高額商品なので所得が高い顧客が多く家電量販店にとっても都合がいい。
    私も利用者本位の充電器設置がいいと思いますが、それだけでは設置台数は増えない。補助金が無駄に使われるのは残念ですが、仕方ないのかもしれません。

  2. >パラパラと「とにかく1,000カ所」ではなく、4口ずつ100カ所
    全くその通りで、1口充電器では他の車が充電中でないか、充電していなくても放置されていないか、不安で大変使い辛い。
    4口あれば1口くらい空いているだろうと、少し遠くても許容できます。
    貴重な税金が使われるのであれば使い辛い充電器の設置は避けてもらいたいです。
    なぜテスラスーパーチャージャー が優秀と言われているか、もう少し勉強していただくことを望みます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

執筆した記事