シトロエンの超小型EV『Ami』分解大会〜日本メーカーは「力の抜き方」を学んでほしい

発売直後から人気沸騰したシトロエンの小型電気自動車(EV)『Ami(アミ)』の分解大会があったので見学してきました。アミの動力系はこれまでにも見たことがあったのですが、改めて細かく確認できたこともありました。ポイントは、安くてもちゃんとしてる、です。

シトロエンの超小型EV『Ami』分解大会〜日本メーカーは「力の抜き方」を学ぶべき

楽しさを追求した都市型小型モビリティー

シトロエンの電気自動車『Ami(アミ)』は、フランスでは14歳以下、英国では16歳以下でも運転ができる、都市環境にフィットした小型モビリティーです。2020年の発売以来、フランスをはじめとするEU域や英国で4万台以上を販売しています。

フランスでは2022年に、ドアをなくすなどした特別バージョンの『My Ami Buggy』を40台限定で発売したところ17分28秒で完売しています。2023年6月には英国でも『My Ami Buggy 2』を40台限定で販売。最初の10台は4分で売れたそうです。

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EVsmartブログでもこれまで、何度かアミを紹介していますが、ちょっとスペックをおさらいしてみます。

全長×全幅×全高:2410mm×1390mm×1520mm
車重:485kg
バッテリー容量:5.5kWh
出力:6kW

アミはフランスなどではL6、英国では軽4輪バイクというカテゴリーになります。制限速度が最高で時速45kmに抑えられていますが、航続距離はWMTCで約75kmあるので都市近郊の移動に使うのであれば不便はなさそうです。

価格は、発売当初はフランスで6000ユーロ(約94万円)からだったのですが、今は7990ユーロ(約130万円)からに値上がりしています。インフレやら部品価格の値上がりやらが原因でしょうか。

いずれにしても日本との物価や所得の差を考えると、日本の感覚なら100万円以下とか80万円前後くらいなのかもしれません。ざっくりですが。

初回の『分解大会』では『宏光MINI』を分解

そんなアミを、バラバラにするという話を聞いて胸が躍りました。ここ1~2年でアミのパワートレインを目にする機会が何度かあったのですが、バラバラはまた趣が違います。

アミの分解をしたのは、名古屋大学 未来材料・システム研究所の山本真義教授の研究室です。名付けて『シトロエンAmi 分解大会』です。

山本教授による分解大会は今回が3回目になります。初回は五菱の『宏光MINI EV』、2回目はNIOの『ES8』でした。筆者は、初回の宏光MINI EVの分解大会にお邪魔していて、中国の小型モビリティーはこんなふうに作るんだと感嘆した覚えがあります。

同時に、これだと日本で走らせるのは難しいかもなあ、とも思ったのでした。部品一つ一つがちょっと心もとなくて、自動車用の部品ではないんじゃないかなあ、というものも混じっていたからでした。

なので、今回のアミがどういうつくりなのか、ちょっと楽しみでした。なにしろ「CITROËN」です。それに、このカテゴリーの小型モビリティーは欧米では珍しいものではなく、かつてのパリやフランクフルト、ジュネーブなどヨーロッパのモーターショーでは常連でした。

ということで、日帰り強行日程でしたが名古屋大学まで行ってきました。

分解、分解、また分解

到着には余裕をもっていたはずだったのですが、思わぬ出来事があって、到着したのは開始から15分過ぎた頃でした。

会場に入ってみると、数十人が見守る中で、もうフロントパネルとリアパネルが外されていました。もともと前後がないような形なので、パネルをはずすとどっちが前なのか判別困難になります。かろうじて、ライトが赤いことで後ろだとわかるくらいです。

分解の担当者たちは、手慣れた作業でパーツをはずしていきます。あるときはボルト、あるときは接着剤、またあるときはレジンが充填されたパワーエレクトロニクスのパーツを、力業も交えてどんどんバラしていきます。

たとえば車載充電器やインバーターなど、冷却用の充填剤で基板が満たされているとネジをはずしただけでは基板がとれません。フロントとリアのフェンダーは接着剤も使って取り付けているので、剥がすときに割ってしまったら泣けそうです。

そうしたパーツを、分解のプロフェッショナルっぽい人たちがどういう構造になっているかを推測しながら、はずすべきネジははずし、時にはドライバーやペンチを使って力ずくで基板を剥がしたりします。手際の良さというか、判断の良さというか、手だれだなあと思いました。

筆者も分解するのは好きなので、こういう仕事は楽しそうだなあと思いながら見学していたのでした。しかも後で組み立て直さなくてもいいのです。

こうした分解はリバースエンジニアリングという手法で、バラしたパーツをそれぞれ得意分野をもつ企業が持ち帰り、仕組みやコストを解析します。アミでも、パーツを参加企業が持ち帰って、後日、分解大会を主催した日本能率協会がセミナーで発表する予定です。

なので、現場で見知ったこともあるのですが、ここでは詳しく書けない内容があることをご容赦ください。

パワートレインはヴァレオの48Vシステム

とは言え、アミについてはこれまでも、電子部品の展示会などで展示がされていたので、パワートレインについてはある程度、前知識がありました。EVsmartブログでもいちど、紹介したことがあります(関連記事)。

アミのパワートレインは、フランスの大手部品メーカー、ヴァレオによる48Vシステムの車のスタータージェネレーターをそのまま転用しています。以前の記事でお伝えしたように、ヴァレオはこのスタータージェネレーターがどこまで出力を出せるのか、アミを使って実験をしていました。

結果は、定格出力9kW、最高出力13.5kWで、時速100kmまでいけたそうです。

スタータージェネレーターは汎用品なので、コストもそれほど高くありません。信頼性も高そうです。それに通常の12Vシステムだと貧弱ですが、48Vシステムなら小型モビリティーには十分使えることが、アミで証明されたと言えそうです。

追いかける日本が何をすればいいのかが見えてくる

山本真義教授。

分解大会を終えた後、指揮を執った山本教授にお話を聞きました。

──『アミ』の分解大会の目的は?
ひとつは、小型モビリティと言われるジャンルの技術の現在地を確認すること。もうひとつは、 『アミ』はテスラのサイバートラックも採用している48V系システムを搭載しているので、48V電源システムの、これも現在の立ち位置を把握するという2点です。

──実際にアミを分解して?
かなりボディーの作り方がうまいというのと、サスペンションが、リア側はプアなんですけど、フロント側はおそらく他の車の流用でかなりしっかり作られていて、その辺の車体設計のバランスがうまいと思いました。

それからバッテリーは、ちゃんとフランス国内で作られていることもわかりました。DC-DCコンバーターや車載充電器などは中国製でも、メインのバッテリーと駆動系はフランスが抑えているという、その譲らないポイントもわかって興味深かったですね。

──これまで3回実施して見えたことは?
例えば、これから日本で(こうした小型モビリティーを)やっていくとしたら、どういうところに取り組まないといけないか。最初に分解したのが『宏光MINI』で、あれがかなり我々にとって衝撃的でした。どうやってコストダウンしているのかもわからないくらい、うまく作られていたんです。

一方で、『宏光MINI』の駆動系はかなりシンプルだったんです。それに対して『アミ』は、駆動系にはかなり力を入れていると思います。心臓部のバッテリーもそうです。ハイテクというか。足回りもよくできていて、乗った感じも驚くほどしっかりしていました。

中国は全体的に(コストなどを)落としていくのに対して、欧州は力の抜き方、割り切り方が(パーツによって)違う。やるところはやっている。そこは違いがはっきりしていると思いました。

──追いかける立場の日本は何をすべきでしょう?
日本はなかなか、力が抜けません。やっぱり信頼性などを特徴にしている国なので、 力を抜けずにいて、それで全体的なコストが下がらずにいるのだと思います。

そこで、お客様視点でコストを下げるのなら、どこの力を抜いたらいいのだろうという部分がすごく勉強になると思います。逆に言うと、勉強しないと多分、小型モビリティ(の市場)は取れないのではないかというのが、正直な思いですね。

でも、全体システムでは力抜けないのなら、コンポーネント、ハイテクの部分を日本がちゃんと取っていって、例えばティアワンのメーカーさんがこれからどんどん海外メーカーに輸出していって台頭していく、そういうビジネスモデルもひとつあるのかなとは思います。

(インタビューここまで)

うーんなかなか、日本が進むべき道は険しそうです。技術力を武器に新しい市場を作ることが難しくなっているうえ、既存市場での競争力も過去の成功体験があるばかりに弱体化しているという、日銀の金融緩和策レベルで出口が見えない感じでしょうか。

それでも日本は、キャッチアップは得意なはずです。半世紀前を思い出して、学ぶべき所は学び、今の立ち位置を見極めて、手遅れにならないうちに、次の100年への種をまいておいてほしいなあと思うのでした。

取材・文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)1件

  1. アミ、日本で普通に販売して欲しい。高齢者の移動用、通学用に使わせてあげて欲しい。アイデアがなかなか出てこないならライセンス生産でも輸入でもいいから手をつけて欲しい。どこかのメーカーみたいに開発不正なんかするよりよほどいい

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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