シトロエン『Ami Buggy』が17分28秒で完売〜日本でも、あたまのネジを何本か外してEVを作ってみて欲しい

シトロエンは2022年6月22日、50台限定で発売した超小型電気自動車(EV)『アミ』の特別仕様車『アミ・バギー』が、販売開始から18分弱で売り切れたことを発表しました。見た目がかわいいドアレスの『アミ・バギー』と合わせて、筆者が思わず連想した情報をいくつかお伝えします。

シトロエン『Ami Buggy』が17分28秒で完売〜日本でも、あたまのネジを何本か外してEVを作ってみて欲しい

超小型モビリティ『アミ』は価格もミニマム

ステランティスグループになったシトロエンの超小型EV『アミ』は、フランスなら14歳以上、ヨーロッパの多くの国では16歳以上なら免許なしで乗ることができる『クワドリシクル』と呼ばれる電気自動車(EV)です。

車両区分は『L6e』というカテゴリーで、定格出力が4kW、最高速度が45km/hに制限されていますが、ICE車の侵入が禁止されている都市の中心部でも走行可能というメリットがあります。2020年の発売以来、2万台以上を販売しています。

価格は6000ユーロ(約85万円 ※補助金込み)なので、今の急激な円安になる前は70万円台でした。激安です。48か月の長期レンタルもあって、最初に2644ユーロ(約38万円)を支払えば、その後は月額19.9ユーロ(約2800円)で乗ることができます。中国の激安EV『宏光』も真っ青の価格です。

おまけにカーシェアでは1分あたり0.26ユーロ(約37円)で借りることができます。電動キックボードみたいな利用料金ですね。

『アミ』は前後のパネルを同じ形状にしているだけでなく、ドアも左右同じ形にしてコストを下げています。だからドアを開けるときは左右で開く方向が違います。

室内の作りもシンプルそのものです。でもデザインは、さすがフランスです。安っぽいのではなく、安い価格ならではの質感、外観なのが清々しいです。

バッテリー容量は5.5kWhで、充電は220V。スペック上は一充電の航続距離が最大70kmです。車体サイズは全長2410mm、全幅が1390mm、乗車定員2人なので、電動バイクに近い乗り物と言えそうです。ヨーロッパの主要都市では『アミ』のような超小型モビリティの専用駐車スペースが整備されていることもあり、縦列ではなく、路肩に向かって縦方向に並んで停めている写真もよく見かけます。

そんな『アミ』の特別バージョンが『アミ・バギー』です。

超限定バージョン『アミ・バギー』が一瞬で売り切れ

シトロエンは2022年6月15日に、「ULTRA-LIMITED SERIES」と銘打って『アミ・バギー』を50台限定で販売することを発表しました。発売日は6月21日です。

車体のカラーはカーキで、最大の特徴はドアを取っ払ってしまったことです。代わりに両サイドにはガードパイプが付いています。屋根はキャンバストップなので、左右と上空の開放感は抜群です。

『アミ・バギー』のコンセプトカーは2021年12月に発表されていました。その時には発売予告はなかったのですが、リリースでは「多くの人のクリスマス・リストに載るスタイルの研究」というデザインコンセプトを紹介していました。

今回の販売にあたって、シトロエンの戦略・製品ディレクターのローレンス・ハンセンは、「『アミ・バギー・コンセプト』を発表したとき、大衆は熱狂的に反応し、たくさんのカスタマーからの問い合わせがあった」と話しています。リリースによれば、1800人の購入希望者が現れたそうです。

というわけで、現地時間6月21日正午に発売された『アミ・バギー』は、スタートから2分53秒で最初の顧客が購入し、17分28秒後に50台すべてが売り切れたそうです。8月から「VIPホーム・デリバリー」で納車が始まる予定です。

50台なので速攻で売り切れるだろうなとは思っていましたが、安いと言ってもベースモデルが6000ユーロ。おいそれとポチできるものではないと思っていたのですが、そうでもなかったようです。

シトロエン公式サイトより引用。写真は発表時のコンセプトモデル。

なお『アミ・バギー』の価格は、確認できませんでした。公式HPでは通常の『アミ』と並んで掲載されていて、特別な価格が付いている様子がありません。もともとパーツのコストを極端に抑えている車なので、50台くらいなら現行車と同じ価格で販売しているのかもしれませんが、どうなのでしょう。

もうひとつ、「VIPホーム・デリバリー」というのもよくわかりませんでした。『アミ』は納車の時に、自宅まで鍵を持ってきてくれるサービスがあるようですが、もしかしたら家まで車を届けてくれるのかもしれません。情報があればコメント欄などでお知らせいただけるとうれしいです。

『アミ』にしても『アミ・バギー』にしても、車体の安全要件や制限のある動力性能などを考えると日本に正規ルートで入ることは期待できません。でも、こういう「クワドリシクル」に区分されるEVが日本でも普及するように免許制度や、駐車ルールを含めた交通体系などが変わると、モビリティの転換になるんだろうなあと思います。

小さな車が増えれば、巨大なトラックが街中でアイドリングしたまま長時間止まっていたり、道をふさいでいたりすることに対する正しい批判が広がりそうだし、何十年かしたら道路に対する意識も変わるんじゃないかと妄想します。

トヨタ/スバルのEVのリコールは204台

話が変わりますが、6月23日、トヨタとスバルはそれぞれ、『bZ4X』と『ソルテラ』のリコールを発表しました。不具合はタイヤを取り付けるボルト(ハブボルト)で、最悪の場合ボルトが緩んで脱輪の可能性があるため、車の使用を控えるよう呼び掛けています。

対象は、トヨタが2022年3月2日から6月2日、スバルが同3月2日から5月31日の間に製作された車両です。

【リコール情報はこちら】
https://toyota.jp/recall/2022/0623.html
https://www.subaru.co.jp/recall/data/22-06-23.html

出たばかりのEVでハブボルトの不具合があるというのは、ちょっと驚きました。なんでこんなものに不具合が出るのか不思議です。事の発端は海外からの情報だと、国交省のリリースに記載があります。

リコールが出たこともそうですが、もっと驚いたのが対象の台数です。国交省の発表によれば、『bZ4X』は112台、『ソルテラ』は92台、合計204台が対象になっています。

「え?」と思いました。発売は5月12日なので約1か月しか経っていないのですが、200台しか出ていないとは思いませんでした。

ちなみにロイターによれば、『bZ4X』は世界合計で約2700台が出ていて、ヨーロッパが約2200台、アメリカが約260台、カナダと日本が約110台という内訳です。スバル『ソルテラ』は世界合計で2600台です。

日本では、まだ販売が始まったばかりで納車が進んでいないのでしょうか。それでも世界に5000台以上が出ているうちの200台は、かなり少ないように感じます。ちょっと寂しい感じです。売れていないのか、単に納車が欧州の後になっているのか、そのあたりがいまひとつ判然としません。

他方、日産と三菱の軽EVは、発表から3週間で『サクラ』は11000台以上、『eKクロス EV』は1か月で3400台の受注がありました。日本でもEVだから売れないというわけではないようです。

『ソルテラ』は月販150台が目標で、『bZ4X』は年度内に5000台を生産・販売する計画です。なお『ソルテラ』は、ソーラールーフ装着車の受注台数が計画上限になったため受注を止めていることが発表されていますが、具体的な台数は出ていません。販売や受注の途中経過が見えるといいのですが、数がわからないとモヤモヤしてしまいます。

日産の販売台数の9.2%がEVに

そんな数を見ながら、日本では軽EV以外は売れないのかなあ、などと思っていたのですが、よくよく見てみるとそうでもないのでした。

日本自動車販売協会連合会が発表している毎月の自動車販売台数の統計を見てみると、2022年5月に日産は、1024台のEVを販売していて、日産全体の台数の9.2%を占めているのです。

同月の三菱は、EVの販売実績はないので、軽EVが含まれていません。『アリア』と『リーフ』の実績になります。だから来月以降は、間違いなくさらにEV比率が上がります。

世界に目を向けると北欧でのEVのシェアが突出していますが、日本も、日産限定ですがとても健闘しているのでした。日本でもEVが伸びる余地があるのかもしれません。

で、この数字を見てから『bZ4X』と『ソルテラ』の数を振り返ると、やっぱり不安が消えません。販売実績や登録台数と受注段階の違いはありますが、現状では、『リーフ』『アリア』に逃げ切られているように見えます。

余談ですが、燃料別の販売統計を見て驚いたのは、日産の販売台数の約82%をハイブリッド車(HEV)が占めていることでした。日産が「電気自動車」だと言い張ってミスリードする宣伝をしているのは問題だと思いますが、「e-POWER」の人気はすごいですね。

なお、カーボンニュートラルに向けてまずはHEVをメインに考えているというトヨタの、HEV販売比率は約46%です。

販売台数は日産が9129台、トヨタは3万2392台という違いはあるほか、日本市場限定の話ですが、構成比で見ると日産の電動化が思いのほか進んでいるのでした。ちょっと日産を見くびっていました、ごめんなさい。

なんにしても、従来の車の延長線であることを強く意識した『bZ4X/ソルテラ』がどうなっているのか、気が気ではありません。もう少し検証が必要とは思いますが、EVとは何なのかを考える上で、大事な事例になるのかもしれません。

『アミ・バギー』で『バモスホンダ』を思い出した件

まったく個人的な話で恐縮ですが、筆者は、1970年代に販売されていたホンダの『バモスホンダ』が大好きで、初めて自分で選んで買ったミニカーも『バモスホンダ』でした。だから、『アミ・バギー』を見て、「おぉ!」と思ったのでした。

雨に濡れないとか寒くないとかの車の利便性は二の次で、とりあえず楽しく自然の中を走ることができる車として、『バモスホンダ』は今でもトップランクにあると勝手に思っています。

似たような車では、イギリスの名車『ミニ』をベースにした『ミニ・モーク』を思い出しますが、これも、長距離を快適に走るなどの車としての実用性能は皆無だった気がします。なにしろガソリンタンクが小さいので航続距離は100kmちょっとだったと思います。昔、オーストラリアのシドニーで『モーク』に乗っていた仲間は、何度かガス欠で止まっていました。『アミ・バギー』は、そんな車の現代版かなと思いました。

そういえば『モーク』は、イギリスとアメリカで電動化が進んでいるようです。アメリカでは『モーク・アメリカ』という会社がBEVの『エレクトリック・モーク』を販売しています。価格は2万1975ドルからです。今なら2万9000ドルで、60周年を迎えた『007』バージョンの特別仕様車も買えます。

モーク・アメリカ公式サイトより引用。

性能は、規制が緩い低速車のカテゴリー(LSV)に準拠するため、モーターの最高出力は15kW、最高速度は25mph(40km/h)に抑えられています。バッテリー容量は12kWhです。今年のF1マイアミ・グランプリでは、優勝したマックス・フェルスタッペンを乗せた『エレクトリック・モーク』がパレードランをしたそうです。

イギリスでは、『モーク』のトレードマークを保有している『モーク・インターナショナル』という会社が、2022年夏にEVの『エレクトリック・モーク』を発売することを発表しています。価格は2万9150ポンドになる予定です。税金や補助金の額は未定のようです。

発表されているスペックは、モーターの最高出力は33kW、最高速度が80km/h、充電はタイプ2(欧州仕様の普通充電規格)のケーブルを使用、といったところです。バッテリー容量は公表していませんが、重量は77kgだそうです。

この性能に2万ドルとか3万ポンドとかを払える人が、世界にはいるのでしょう。『モーク・インターナショナル』はコートダジュールのサン=トロペで、地元企業と共同で運営するリゾート施設の移動手段として『モーク』を体験してもらう計画があるそうです。

モーク・インターナショナル公式サイトより引用。

サン=トロペとか、そこからほど近いモナコとか言われると、貧乏人のゲタ代わりだった昔の『モーク』とは別世界になりますが、「モークEV」はセレブの遊び道具としては最高かもしれません。いわゆる実用性は二の次でも、移動手段としての楽しさにあふれている気がします。

筆者のセレブへの道は遠いですが、ときどき、車を実用性とか利便性だけで考えるのは、車の魅力を削り取ることになるのではないかと思うことがあります。ましてや普及への途上にあって、ある意味で時代の先端を走ることを意味づけられているEVは、従来の車の延長線で捉えることはできないのではないかと。

だって、充電するのに時間はかかるし、車の価格のほとんどを占めるバッテリーがいつまで使えるのか判然としません。中古車市場が確立されるのはこれからなので、ICE車ほど先は見えません。ICE車の万能感に比べれば、制限される部分があるのは確実です。

でも、EVにはEVの魅力、価値があります。その魅力を引き出すことができれば、いろいろな挑戦ができるとも思うのです。『アミ・バギー』はその象徴なのかもしれません。地球環境問題が深刻化する中、こんなふざけた車はEVだから成立するのはないでしょうか。

ということで、いまEVを作るなら、あたまのネジを何本か外してみてほしいなあと思うのです。まずは『バモスホンダ』のEVが見てみたいなあと、青山一丁目に向かってお祈りをしてみたりするのであります。日本では売れなくても、モナコやコートダジュールで売れるかもしれません。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. シトロエン アミ バギー初めて知りました!
    こんなクルマがあったのか…これは欲しい!!
    それと著者木野さんのバモスホンダへのコメントがまったく同じ「おぉ!」という気持ちです。
    バモスホンダ実物車所有の者です〜2台並べてみたいです^ ^

  2. amiいいですね。
    先日、高齢の父親が泣く泣く免許を返納しました。
    両親は夫婦揃ってドライブ好きだったので日常の足がなくなっただけでなく、楽しみも失ったのでかなりがっかりしていています。
    セニアカーを勧めてみたりしたのですが一人乗りでかなり遅いのが気に入らないらしいです。
    欧州で免許無しで45kmまで出せるのですから、日本でも原付きと同じ時速30kmで良いから免許返納高齢者への特典という形で導入できないでしょうか。

  3. カリフォルニア州のアドバンスドクリーンカーII規制の概要が以下のリンクで見れます。
    https://ww2.arb.ca.gov/sites/default/files/barcu/board/books/2022/060922/22-8-1pres.pdf
    カリフォルニア州は2035年に内燃機関を全廃する予定で、これから急ピッチでZEV導入を計っていきます。欧州も同様な計画です。日本のEVはこれから5年間位が勝負だと思っています。世界で通用するEVを作っていかないと、自動車大国日本の地位は守れないと思います。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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