電気自動車SUV『DS 3 クロスバックE-TENSE』の日本導入が発表

欧州では昨年秋に発売されたDSオートモビルの電気自動車(EV)、「DS 3 クロスバックE-TENSE」の日本導入が発表されました。DSオートモビルは2025年までに全車種でEVやHEVなどの電動化技術を採用することを目指していて、DS 3 クロスバックE-TENSEはその先駆けとなりそうです。

電気自動車SUV『DS 3 クロスバックE-TENSE』の日本導入が発表

2018年のパリサロンで発表されたスペックそのままに発売

PSAグループのDSオートモビルが「DS 3 クロスバックE-TENSE」をお披露目したのは2018年のパリサロンでした。実際の発売はそれからちょうど1年後、昨年の10月です。そして今回、7月29日の発表会に先だって、日本への導入決まったことが公表されました。

7月と言えば、日本では日産の「アリア」がコンパクトSUVのEV市場に登場する予定です。そこに先駆けて出てきたDS 3 クロスバックE-TENSEが、アリアとどう比較されるのか。なんだかワクワクしてきました。

写真はプレスリリースより。

さて、ではまずDS 3 クロスバックE-TENSEのスペックから見ていきましょう。ただし、現時点で公表されているのは欧州仕様です。日本での価格や仕様は、7月29日に公表される予定です。

基本的な部分では、モーターの最高出力が100kW(136hp)、最大トルクは260Nm、0-100km/h加速は8.7秒で、最高速度は約150km/hです。。バッテリー容量は50kWhで、1回の充電での航続距離は320km(WLTPサイクル ※EPA換算推計値=約285km)です。

ところで、DS 3 クロスバックE-TENSEはBセグメントのサイズです。比較対象として、BとCの中間くらいに位置付けられるフォルクスワーゲンの「ID.3」を見てみると、バッテリー容量は45kWh、58kWh、77kWhの3種類なので、DS 3 クロスバックE-TENSEは、車体のサイズを考えるとやや少なめと評価できるかもしれません。WLTPサイクルでの航続距離はID.3の45kWhモデルで330kmなので、ほぼ同じ程度か、車体が大きい分、少し短めになっています。

充電時間は、80%まで入れるのに100kWの急速充電器で30分、50kWなら53分。一般家庭では、タイプ2ケーブルでゆっくりと2.3kWで充電する場合は同じく80%まで約19時間半、それよりも容量の大きい7.4kW充電器だと6時間20分、11kW充電器だと約4時間で充電ができると、英国の公式サイトではアナウンスしています。ちなみに2.3kWで0%から100%まで充電すると、約24時間となっています。

一般家庭で7.4kWや11kWの充電器を利用するためには工事が必要なので、英国では、自宅に充電器を設置する場合は専門の人が現地確認をするサービスがあるようです。日本でも同様のサービスが提供されることを期待したいところです。また急速充電は、欧州ではCCS(コンボ)の100kWが利用できますが、日本のチャデモでどのような出力に対応するかは未発表です。できれば100kWまで対応しているといいのですが、どうなるのでしょうか。

シミュレーションでは、低温より高温にちょっと弱い?

DS 3 クロスバックE-TENSEのドライブモードは、ECO、NORMAL、SPORTの3種類から選択できます。ここで英国の公式サイト(外部リンク)をのぞいてみると、ドライブモードとは別に、運転の仕方によってどのくらい航続距離が違うかを簡単に試算できるボタンがありました。

運転のタイプはCALM(静か)、ノーマル、ダイナミックの3パターンで、スピードは平均20MHP(約32km/h)から80MHP(約130km/h)まで5MHPきざみで選択できるほか、エアコンのオン/オフと、外気温がマイナス10度から35度までの間で設定できます。

試しにそれぞれを組み合わせてみてみると、当たり前ですが、もっとも航続距離が伸びるのは、運転をCALM、速度25MHP、外気温20度に設定した時で228マイル(364km)になります。運転がノーマルの時には速度が25MHPでも30MHPでも同じで217マイル(347km)、ダイナミックではやはり25MHPと30MHPの時に最大195マイル(312km)になりました。

ところで外気温なのですが、ノーマルで速度30MHP(最大217マイル)にして外気温だけを上下に振ってみると、低い方は15度で210マイル、10度で193マイル、5度で182マイル、0度で175マイル。高い方は、25度で211マイル、30度で191マイル、35度で172マイルに変化します。

つまり、気温が20度から15度下がると35マイル減、反対に15度上がって35度になると45マイル減で、どちらかというと高温になるほうがシステム的には厳しい組み合わせになっているようです。欧州は、最近は最高気温が30度を超えたり、瞬間的な熱波で40度ちかくになったりしていますが、基本的には冬の低温の方が厳しい環境になります。そうした環境変化に合わせたシステムになっているのかもしれません。

では日本でどうなるのかは、フタを開けてみないとわからないところです。それに、これはあくまでもシミュレーションなので、実際に使ってみてどうかはまた別の話。それでも、こうした情報を公開してもらえるのは、EVを買おうとしている人たちにとっては参考になりそうです。

回生ブレーキの強さは2段階でワンペダル操作に近い感覚か

ドライブモードの設定とは別に、回生ブレーキのコントロールはNORMAL、BRAKEの2つのモードがあります。NORMALでは内燃機関でのエンジンブレーキに近い感覚を再現する制御になっています。

もうひとつのBRAKEモードでは、最大減速度が約1.3m/s2で、ワンペダルドライブに近い操作感になるそうです。ちなみに、2秒で速度を10km/h落とすと、約1.4m/s2の減速度になります。

他に何か比べるものがないかと思って調べてみると、ブレーキメーカーのブレンボが公表しているレースのデータ(外部リンク)がありました。ブレンボのデータによれば、二輪レースの2019年MOTO GPの日本グランプリ(ツインリンク茂木)で、時速271kmから時速77kmまで4.2秒で減速するコーナーがあって、これが約12m/s2という減速度になります。ちなみに重力加速度にすると約1.3Gです。あとは、0-100km/hの加速が3秒だと、0.94Gになります。

なおさらわからないですね。もし試乗ができたら試してみたいと思います。

回生ブレーキを利用したワンペダルドライブは、テスラのロードスターが採用したのが市販車では初めてかも知れません。今では珍しくなくなりましたが、当初は賛否両論が出ていたように記憶しています。個人的には好きなシステムだし、フォルクスワーゲンのようにパドルシフトで強弱を細かくコントロールできるとさらにおもしろい運転感覚が生まれてくるのは、EVならではの楽しみだと思っています。

英国ではベーシックモデルが約450万円

さて、気になる価格ですが、日本でいくらになるのかは、繰り返しですが7月29日の発表会で公表される予定です。そこで英国の価格を見てみると、ベーシックモデルは付加価値税や登録費用などを含んで約3万4000ポンド、約450万円になっています(1ポンド=約133.11円)。これに補助金が出るので、実際の出費はもう少し抑えられると思われます。

また、この価格は基本装備だけのものなので、例えば塗装が白以外では550~950ポンド追加(例えばルビーレッドメタリックは750ポンド)になります。その他、自動運転の「DS DRIVE アシスト」や前後センサーなどのオプション機能を全部逸れると950ポンド、レーンキープなどの先進技術パックをつけると850ポンドになります。こうしたオプションを選択できる範囲は国によって違っていて、欧州でもすべてのオプションがつくタイプが標準モデルになっている場合もあります。

このほかの機能としては、「My DS mobile app」でスマホから充電状態を確認したり、エアコンで車内温度を事前に設定することなどができます。このあたりは、最近はどの車でも標準的な機能になってきました。

DSオートモビルは、PSAグループの中でも上級グレードのモデルを揃えているのが特徴ですが、同時に、2025年までに全車種をEV、HEV、PHEVといった電動車にすることを目指しています。昨年のDS 3 クロスバックE-TENSE発表時に、DSオートモビルのベアトリス・フシェCEOは、「電動化は、現在のモビリティの課題に対する有効な解答」であり、「これこそが、内燃機関の自動車に課せられていた都市中心部への移動の制限に対する決定的な解答です」とコメントしていました。

この目標に向かって、欧州ではすでにPHEVの「DS 7 CROSSBACK E-TENSE」も発売されています。グループPSAジャパンの広報によれば、DS 7 CROSSBACK E-TENSEを日本に導入する計画はあるものの、新型コロナの影響で時期が見通せなくなっているとのことでした。早く新型コロナの影響が収まるといいのですが、なにはともあれ、まずはDS 3 クロスバックE-TENSEの発表会を楽しみに待ちたいと思います。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. 自動車の紹介はよいのですが、性能はともかく、一番大事なのは車のサイズです。家のガレージに入らなければ、どんなに素敵だと言われても、大きな家に住まわれる紹介者とは違い、一番大事なところです。最近はサイズを大きくする傾向にありますが、いやですねえ!作る側の人は5ナンバーサイズをお忘れのようです。大きくすれば売れるというメーカーの人は、私の家では敬遠しますねえ。コンパクトこそ資源の節約になると思うのですが‼

  2. 日本企業が出さないなら外資が市場をもらっちゃうね
    テスラや中華勢をしかにもかけない人でもドイツ車ブランドには弱いタイプはいますからね(苦笑)

    1. そうは言っても、BMW i3やそれ以上にVWのEVがあまり売れているように思えないのはなぜなんでしょう?
      思うに売りっぱなしで充電網を整備していないからでは無いでしょうか?
      テスラはそこのところ頑張ってますよね?
      国内のトヨタですら急速充電器の拡充整備から逃げてますし。

      i3欲しいです。

    2. 軽貨物様、コメントありがとうございます。フォルクスワーゲンさん、頑張ってますよ。
      2020 Q1: http://ev-sales.blogspot.com/2020/05/2020-q1-sales-by-oem.html
      フォルクスワーゲンは約6万台で2位です。
      2019: http://ev-sales.blogspot.com/2020/02/2019-sales-by-oem.html
      昨年一年間ではフォルクスワーゲンは14万台で6位ですが、先ほどのQ1で6万台というのを考えるとかなり伸びてきていますよね。2020Q1は中国がコロナの影響で少なかったので、ちょっと異常値ではあります。
      おっしゃる通り、電気自動車では、PHEVを入れてもテスラの独走を許している状況ではあります。

      DSさんもがんばって!

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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