石油会社の電スクシェアサービス
5月のある日、博多祇園山笠と博多通りもんの里、博多にやってきました。目的は、電動スクーターのシェアサービスの取材です。博多で電気スクーターのシェアリングサービスが広がりつつあるという新聞記事を見かけ、EVsmartブログとしては試さずにはいられないと思い、日帰り出張を敢行しました。
博多の電動スクーターのシェアサービス「ラクすく」は、2022年10月にスタートしました。運営しているのは、新出光という石油会社です。プレスリリースによれば、2021年度に福岡市の実証実験フルサポート事業に採択され、支援を受けつつ開始。その後、正式に事業化しています。
まずは博多駅からほど近い新出光の本社で、ラクすくの発案者であり、ラクすくチームの山口浩樹課長補佐に現状を聞きました。先にお伝えしておくと、山口さんがラクすくを始めたきっかけや、その後の経緯なども詳しく教えていただくことができたので、第2弾のインタビュー記事(近日公開)としてお伝えしたいと思います。
2024年5月末時点で台数は265台、ポートは130カ所に広がっています。今後、今年の11月までにスクーターは390台くらい、ポートの数は200カ所程度まで増やす計画だそうです。
ポートの数は密度の問題もあるので、200カ所というのがどんな感じなのか、土地勘のない筆者にはいまいちピンときませんが、公式サイトで見ると、博多駅周辺にはけっこうな数があることがわかります。歩いて10分圏内に複数あるという感じでしょうか。
電動アシスト自転車より安い料金
利用料金は、2024年4月1日から、1分16円か、1日乗り放題2880円になりました。それ以前は1分12円、1日プランで2200円だったので、ちょっと上がっています。山口さんによれば、これまでの料金はサービス価格で、少し安めに設定していたそうです。それを適正価格に修正したということになります。
博多には、シェア自転車の「チャリチャリ」というサービスがあって、けっこう定着している印象を受けました。街を歩いていると、チャリチャリの真っ赤な自転車に乗った人をよく見かけます。
チャリチャリは、普通の自転車と電動アシスト自転車があり、電動アシスト自転車の料金は1分17円です。基本料金はありません。
それと比較すると、ラクすくの料金は今でも少し安めなのかもしれません。
山口さんの取材後、さっそく電スクを借りてみました。利用するには、免許証やクレジットカードなどをLINEから登録します。ヘルメットはバイクに備え付けのものがあり、頭にかぶる使い捨てのキャップも用意されています。
LINEのトークに出てくるマップをタップするとポートの場所と、利用可能な台数、充電状態とおおよその走行可能距離が表示されます。この時は新出光から歩いて10分弱のところに1台、あいていました。SOCは91%になっています。
これなら30kmくらいは走れそうです。そんなに走りませんけども。
※ キャプチャ写真のバイクは借りたヤツとは別で、SOCは70%になってますね。(写真をクリックすると拡大します)
中国NIU製電動スクーターはちょっと豪華装備
春うららかな陽光の中、地図を確認しながら歩いていくと、雑居ビルの駐輪場の一角に目指す電動スクーターがありました。
ラクすくの電動スクーターは、新出光と同じ福岡市を拠点に、スマホのアクセサリーなどを企画、販売しているMSソリューションズが展開している輸入電動バイクのブランド「ジーム(XEAM)」のスクーターです。
山口さんによれば、「電動スクーターを探していたら、たまたま近くに」ジームがあったと言います。縁は異なもの味なものです。
【関連記事】
電動バイクXEAMの『Vmoto F01』試乗レポート〜パワフルでバランスのいい原付二種(2024年5月22日)
ラクすくで使用しているのは、中国のNIU製「UQiスポーツ」です。交換式のバッテリー容量は約1kWhで、航続距離はNIUの自社測定で40kmとなっています。リアルワールドではそれほど長く走れないと思いますが、シェアサービスの電動スクーターで何十キロも走ることは想定しにくいので、問題ないように思います。
とにもかくにも、まずは乗ってみることにしました。目的地は、博多ラーメンの、いちむじん本店です。
ちょっと足を伸ばす気分になる
新出光本社の最寄り駅、地下鉄祇園駅にほど近いラクすくのポートから、目指すラーメン屋さん、いちむじん本店までは、グーグルマップで約2.4km。歩けない距離ではないですが、暑い中で歩きたくはありません。
最寄り駅は地下鉄の東比恵で、グーグルマップによれば、いちむじんは駅から歩いて12分です。微妙な距離です。観光地の中を歩くのならともかく、空港近くの、殺風景で大型車の交通量が多い幹線道路を歩くには、かなり気合いが必要です。
でも電スクなら、ちょいと行ける距離です。
まず、LINEアプリから電スクのキーケース横に表示されているQRコードを読むと、パカッとキーケースが開きます。
付属のキーでリアケースからヘルメットを取り出し装着。メインキーシリンダーにキーを差し込んでハンドルロックを解除。スタート位置まで回転させて、ハンドルのスタートスイッチを長押しで、準備完了です。
と、簡単に書いていますが、初めて乗るときには、事前に説明書を読むことを強くオススメしたいと思います。LINEのラクすくアプリから飛べる公式サイトに、わかりやすく記載されています。
実はラクすくの「UQiスポーツ」にはハザードランプもついていて、これを消すのにどうするのか、筆者は数分間、考え込んでしまったのでした。説明を読めばすぐにわかることだったのですが。
何事も億劫はいけません。
慣れるまではエコモードが安心
道案内はグーグルマップです。ラクすくの電スクはスマホホルダーと、給電できるUSBポートを装備しています。
ビックリしたのが、クルーズコントロールを装備していることでした。とはいえ、街中をバイクで走るのにクルーズコントロールは使わないというか、使うと怖いので、今回は使いませんでした。
走行モードは、エコとスポーツの2種類。メーター表示では、「1」がエコモード、「2」がスポーツモードです。ラクすくの使用説明書には、スタート時には必ずエコでと記載されているので、とりあえずエコで走り出しました。
さて、エコで走り出してはみたものの、すぐにパワー不足を感じました。ただ、スポーツモードだとアクセル開度に対するトルクの出方が少し急なので、バイクに乗り慣れていない場合はマニュアル通りにエコでスタートするのが無難だと思います。
でもエコモードは、走り出しのトルクだけでなく、最高出力も抑え気味な感じで、加速もゆるく、交通量の多い道では少し厳しいかもしれません。一方で、大通りからはずれた裏道や、人が中心の細い道では、スピードを出す必要もないのでエコモードが最適です。
スポーツモードは、走行中の加速もまあまあで、自動車が多い道でも流れに乗ることができます。スタートはエコ、走り出したらスポーツというのがいいようです。
街中での電スクは、とくに違和感もなく、安心して走ることができました。微妙に回生ブレーキが効いているようですが、減速感は自然です。バイクのサイズも小さくて、それほど重くもなく、女性でも扱いやすいのではないでしょうか。
乗り心地はいいとは言えませんが、走行距離が短いので問題ありません。自転車も、サスペンションがついていなければガタガタするのと似たような感じです。
それに駆動が後輪のインホイールモーターで、ばね下重量が重くなるので、乗り心地が少し悪くなるのは仕方ない部分があります。
らくらく利用でらくちん移動
というわけで、いちむじん本店に無事に到着し、替え玉をおかわりし、ぷりぷりの餃子に舌鼓を打ち、大満足の昼食を済ませることができたのは、シェアスクーターのおかげです。観光地にこうした乗り物があると、怠け者だとちょっと気後れする場所でも、気軽に足を伸ばせるのは嬉しいです。
なお電スクの電費は、スタート時にSOC91%だったのが、約2.4km走った後では85%になっていました。6%減です。
その後、いちむじん本店から街中の住吉神社まで約3kmの走行では、85%から78%と、約7%減でした。
走行距離が短いのではっきり言えませんが、1kmで2%くらい減ると考えると、街乗りでは十分な容量があるように思います。電動スクーターといえば、「ヤバいよ、ヤバいよぉ」が有名ですが、短距離の足として使う分にはぜんぜんヤバくありません。ご安心ください。
さて、走り終わって返却する場合は、まず返却ポートにスペースがあるかどうかを確認します。このへんは、シェア自転車などと同じです。
ポートに電スクを止めたら、スイッチをオフにして、セキュリティーを解除。ヘルメットをリアケースに収納したら、アプリで返却ボタンをタップ。
するとまた、キーケースのふたがパカッとあくので、カラビナをひっかけて、ふたを閉めて完了です。このとき、ヘルメットをケースに入れるのを忘れないようにしないといけません。まあ、返却を忘れても、またすぐ借りて、すぐに返せばいいだけですが。
住吉神社を参拝し、緑に囲まれた境内を散策してから電スクを借り直し、博多祇園山笠で有名な櫛田神社を目指しました。
櫛田神社近くのポートで返却して利用履歴を見ると、2回の利用時間は合計95分で、料金は1456円でした。撮影したり操作を確認したりの時間に加えて、ラーメンを食べた時間もあったので時間が長くなっています。
でも電車に乗ったり歩いたりしていたら、やっぱり移動時間は長くなるし、暑いしなので、メリットは大きいと感じます。
次回のインタビューで詳しくお伝えしようと思いますが、ラクすくチームの山口さんによれば、キックスケーターやシェアサイクルの利用距離はおおよそ1〜2kmなので、電スクとの住み分けはできるのではないかと話していました。
だから、ラクすくによって「ユーザーにとって移動手段の選択肢が増えることになり、福岡の街作りにもプラスになる」と考えているそうです。
駅から歩くのはしんどい、でも出発地点から自転車で行くのは微妙に遠いという場所は、地方都市なら珍しくありません。電スクはそうした隙間を埋めてくれる乗り物になるかもと思うのです。
取材・文/木野 龍逸