オーストラリア発の電動バイク
Vmoto(ブイモト)はオーストラリア発の電動バイクブランドです。新発売の新型スクーター「F01」は、定格出力1000Wで日本では原付二種の区分に入り、AT小型限定普通二輪免許で運転できます。価格は419,800円(税込)です。
デザイン上の特徴は大径ホイール。前輪が16インチ、後輪が14インチとなっています。前12インチ後10インチのEM1 e:と並べると大きさの違いが一目瞭然。ホイールが大きいことは、安定性の向上につながります。走り出してすぐにわかりましたが、路面の荒れた部分などではかなり安心感が違いました。
片持ちスイングアームでホイールインモーターを内蔵した後輪も目を引きます。右側から見ると、8本スポークのホイールが存在感を放っています。サイドスタンドに加えてセンタースタンドも付いていますし、整備性も良さそうですね。
パワフルな走りが印象的
なにより驚いたのはパワフルさ。私が2022年に約9ヶ月間乗っていたスポーツタイプのSUPER SOCO TS STREET HUNTER(スーパーソコ TS ストリートハンター)も原付二種でした。定格出力は同じ1000Wです。なので「これぐらいの感じ」という先入観があったのですが、予想をはるかに超えるダッシュ力。最大出力がストリートハンターの3.5kWに対して、F01は4.7kW。ほぼ35%増しと聞いて納得です。
じつはストリートハンターなどで使っていたBOSCH製モーターが、このF01では自社開発のモーターに変更されています。そのため、バッテリーの能力に合わせてパワーやトルクを出しやすくなったのだそうです。ちなみに、本国では今年4月からスーパーソコのバイクも一部を除いてVmotoという統一ブランドで展開されています。電動バイク業界も合従連衡が進んでいるようですね。
F01は、モーター出力を「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の3モードから選べます。実際に走ってみたところ、エコは47km/h、ノーマルは59km/h(いずれもメーター読み)で速度が制限されました。ただ、各モードのリミットまではトルクフルに加速し続けます。
エコモードでも加速力が鈍るようなことはありません。信号待ちからの再スタートでも、軽々と車の流れをリードできますし、普段づかいはエコで十分という感じ。
ちなみにホンダEM1 e:の「ECON」というエコモードは、最高速とともにトルクも抑えるようになっています。速度制限はいいのですが、加速が鈍るのと坂道で減速してしまうのが好きになれず、充電量がかなり乏しくなった時以外は使っていません。もちろん電費向上には効果的なはずですが、パワーとトルクを維持するF01の手法も悪くないと思います。
ノーマルモードだと、ペースの速い幹線道路でも車の流れをリードできます。追越車線に出るような場面でも不安は感じませんでした。走行中もモード変更ができて、エコではちょっと速度が足りないかなという場面でも、カチッとノーマルに変えるだけでOKです。
公道なので、駆動力をフルに発揮するスポーツモードの最高速は試せませんでしたが、80km/h前後は出るそうです。ただ、エコとノーマルでもコーナー時のトラクションや登坂能力に物足りなさは感じません。今回試乗したような市街地では、スポーツモードはむしろオーバースペックかもしれません。
特筆しておきたいのは静粛性です。微かな作動音がするものの、無音と言っていいレベル。運転していたら聞こえてくるのは、耳元を風が渡っていく音だけ。これがとても気持ちいい。私はエンジンのバイクにも乗っていますが、電動に慣れてしまうと、暖機のエンジン音もうるさく感じてしまいます。あ、そうだ。電動は暖機も不要ですね。
F01は、リバースギアがあることも特徴のひとつ。右ハンドルのアクセル付け根にボタンがついています。右手の親指で押すと画面の走行モードが「R」に切り替わり、アクセルを捻るとバックします。ボタンを押したままのアクセル操作に最初は戸惑いましたが、すぐに慣れました。それほど重い車体ではないし、転がり抵抗も小さく、そもそも取り回しに苦労することはなかったのですが、自分でバックしてくれるというのは楽チンですね。
バッテリー容量は2.7kWh
そして気になる航続距離。試乗を始めた時、バッテリー100%で航続110kmと表示されていましたが、さすがにそんなには走りません。XEAMのホームページによると、一充電での航続可能距離は77km。この日の試乗は湾岸地区で、起伏が少ないエリア。だいたい車の流れに合わせて走りましたが、約40kmで駆動用バッテリーの充電率(SOC)が50%を切りました。カタログ通り、一充電80km弱といったところが目安になりそうです。
リチウムイオンバッテリーの容量は2700Wh(60V45Ah)で、100VコンセントにACアダプターをつないで充電します。ゼロから満充電にかかる時間は10~11時間とのこと。 取り外しても充電できますが、重さが約20kgあるので、ある程度の距離を運ぶなら、台車などの使用をオススメします。
私は集合住宅住まいなので、ホンダEM1:eでバッテリーシェアリングサービス「Gachaco(ガチャコ)」を使う前は、バッテリーを部屋まで運んで充電していました。スーパーソコのバッテリーは1つ13.8kg、EM1 e:は10.2kgですが、非力なオジサンにとっては毎回筋トレ気分。電動バイクを運用するなら、ガレージや駐輪場にコンセントがあるのがベターです。F01は車体に充電口があって、バッテリーを装着したまま充電することもできます。
塩川社長に電動バイクの動向などをインタビュー
試乗後、VmotoやSUPER SOCOなどの電動バイクを輸入販売するインポートブランド「XEAM」を展開しているMSソリューションズ(福岡市)に、最近の動向を教えてください、とお願いしたところ、社長の塩川正明さんがオンライン取材に応じてくださいました。
MSソリューションズは、もともとスマートフォンなどのアクセサリーを企画・製造販売する会社。2017年から電動バイクの販売をスタートさせました。現在は15車種以上を取り扱っていて、日本における電動バイク販売の先駆け的な存在です。
「電動バイクの販売をスタートして7年目になりますが、これまでに約3700台を販売しました。コロナ禍を機にバイクブーム再来と言われた2021~22年は、われわれの電動バイクも年間約800台と好調でした。いまは少し落ち着いた感じですね」
電動二輪車市場で、既存メーカーの動きを先取りするように各地のバイク店などと連携して販路拡大のチャレンジをしてきたXEAM。
「早朝や夜間に静かに移動したいというニーズは確実にありますし、ガソリンスタンドに行かなくて済むこと、それにコストパフォーマンスの良さを感じて電動バイクを選んでくれる人は少なくないですし、これからも着実に増えると思っています」
最近になって、電動モビリティの世界にも大きな変化が起きています。運転免許のいらない「特定小型原付」や歩道を走れる「特例特定小型原付」など新しい交通ルールのもとで、新たな電動モビリティが登場してきました。でも塩川さんはこう話します。
「私たちは電動キックボードや電動モペット(フル電動自転車)は取り扱いません。公道で安心安全に乗ることができるバイクを消費者に届けることを通じて、脱炭素社会に貢献するというXEAMの事業目的を追求していこうと思っています」
理想としているのは、値段とスピードと航続距離のバランスが取れた電動バイク。Zero Motorcyclesなど大容量&ハイパワーの超高級車を取り扱ったこともありましたが、現在の販売主体は原付一種と原付二種とのこと。パワフルで航続距離が100km以上ある原付二種の電動スクーターというのが、現時点での目標だそうで、F01は少しだけ航続距離が足りないものの、かなり理想に近づいた好バランスのモデルといえそうです。
いま、バイク業界では、排ガス規制をクリアできない原付一種(50cc以下)のエンジンが廃止され、パワーを抑えた110~125ccの新原付が登場することも話題を集めていますが、XEAMも、新原付の基準に合わせた電動バイクの開発を計画中だそうです。どんなバイクが登場するのか、楽しみに待ちたいと思います。
塩川さんの描く未来像を聞いてみました。
「エンジンのバイクが、すべて電動になるような未来はイメージしていません。エンジンの125ccや250ccもあるし、電動バイクもある、そういう感じで、ジャンルのひとつになるのでは」
XEAMは、電動バイクを紹介する「XEAM EVch」というYouTubeチャンネルを持っていますが、ガソリン車をレビューする「XEAM ENGINE」というチャンネルも設けていて、二輪車の魅力を幅広く発信しています。
私もツーリングや子供の送迎にはエンジンのバイク、買い物など近場の移動には電動スクーターと2種類を使い分けているので、この話には大きく頷けました。そうなんです。どちらの楽しさも捨て難いんですよね。
F01に試乗して、トルクフルなダッシュ、無音で走れる気持ちよさ、チャージの簡単さを兼ね備えた電動モビリティの魅力を改めて再確認できました。街乗り用のセカンドバイクを探していて、自宅ガレージに充電設備があるなら、原付二種の電動スクーターこそベストチョイスかもしれません。
取材・文/篠原 知存