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※インタビューは2022年3月1日に実施。当時の役職名にて記載しています。
リユースバッテリーの使いみち
宇野 リユースバッテリーがどういったところに使われているのか、事例を紹介してください。
牧野社長(以下、牧野) いくつかあります。ひとつ目は日産自動車向けです。リーフには純正交換電池として、新品の電池と弊社が作ったリユースバッテリーの2種類の選択肢があります。
ふたつ目は大型の蓄電ステーションもリユースバッテリーの使いみちです。これは今、住友商事と一生懸命そのマーケットを開拓しているところです。今は、カーボンニュートラルに向けて再エネを増やす必要があります。再エネは規模が大きいほうが投資効果が高くなります。また、大規模な再エネ活用には大規模な蓄電池が必要となります。そして蓄電池マーケットは今後急拡大していきます。そこで、我々が住友商事と一緒に、大規模再エネシステム向けのリユースバッテリーというマーケットを開拓しています。
3つ目は、性能が落ちたバッテリーの再利用です。リーフのバッテリーは48個のモジュール(2セル)で構成されています。回収されたバッテリーを計測すると、それぞれのモジュールの性能差にばらつきがあります。
性能が良いセルは、リーフの純正交換用バッテリーとして再利用されますが、性能が落ちたセルも使いみちがあります(編集部注/たとえば、当初性能からの劣化率を示すSOHが70%を下回ると高性能かつ大容量が求められるEV用電池としては不適格ですが、汎用の電池としては充分な性能であるケースは少なくありません)。直近では、JR東日本の踏切に設置されている制御装置のバックアップ電源として、リユースバッテリーが活用されています。また、日産自動車の工場で部品を運ぶ無人搬送機「オートメーテッド ガイデッド ビークル」のバッテリーとしても採用されました。
(現状では)リユースバッテリーの使いみちの大きな柱が、日産リーフの交換用バッテリーと小形蓄電池となっています。
広がる「鉛代替」マーケット。そのメリットとは?
宇野 私が以前取材させていただいた、電動ゴルフカートバッテリーも4Rエナジーのリユースバッテリーでしたね。
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牧野 電動ゴルフカート、JR東日本の踏切制御用バックアップバッテリーなどは、「鉛代替」と我々が呼んでいる、鉛電池からの置き換えで、もう1つの大きなマーケットになると考えています。このマーケットは、クルマとは直接関係のないところですね。鉛代替には大きく3つのメリットがあります。
JR東日本への導入事例でお話しますと、ひとつ目のメリットは、充電時間が鉛電池の約3分の1と短く済むことです。踏切のバックアップ電源は、停電発生時の電力確保が目的ですが、定期的に行われる保守の間も、バックアップ電源が使われます。保守が終わったあとには、踏切のバックアップバッテリーが充電されるのですが、満充電になるまで鉛電池では3日ほどかかります。我々の再生(リユース)バッテリーを使ってもらうと、充電時間が1日以内で済みます。
ふたつ目のメリットは、コストが鉛電池に比べて約4割安くなること。3つ目のメリットは、鉛電池には必要だった定期メンテナンスが不要になる、ということです。鉛電池は、バッテリー内部の比重や液量などを定期的に点検しなければなりません。鉛電池の点検は現地でしかできませんが、我々のリユースバッテリーはリチウムイオン電池ですから、バッテリーマネジメントシステムを付けることができ、常にリモート監視が可能となります。また、異常が発生した場合は自動アラートで知らせてくれますから、現地に行って点検するという負担が大きく軽減されます。
このようなメリットで、JR東日本にはとても喜んでいただきました。また、近いうちに新たな発表もできると思います。
宇野 全国の踏切にリユースバッテリーが使われたら、逆に回収バッテリーのほうが足りなくなりそうですね。
牧野 踏切1カ所に9個のモジュールが使われています。踏切5カ所でリーフ(初代モデル)約1台分といった感じですね。回収したバッテリーは工場で、A・B・Cの3つのランクにわけています。BランクやCランクが踏切のバックアップ電源などに使われています。
宇野 A・B・Cランクがそれぞれ、どれくらいの割合なのか、教えてください。
牧野 すみません、その回答は日産リーフの電池の性能の実態という機密情報を私が話してしまうことになりますので、お答えすることができません。
牧野社長、国を動かす!?
宇野 今後リユースバッテリーを普及させていくには、民間の力だけでは足りないのでは?
牧野 仰るとおりですね。リユースバッテリーの社会的な意義は今、役所の方にも注目していただいてます。例えば、リユースバッテリーを使った事業には、新品バッテリーを使うより少し補助金の補助率を上げようといった論議も出てきています。この背景には、資源のない日本では、なおさらバッテリーの再生は社会的にも必要で、うまく活用していかないとエネルギー問題に対して立ち行かなくなるという懸念があります。
宇野 今は、リユースバッテリーを使った事業に対する補助金の制度がない、ということですね。
牧野 今までは、リユースバッテリーを使った場合は補助金給付の対象外、というのが基本でした。それが今後は補助金の対象にしよう、と一歩進み、さらにリユースバッテリーを使った場合は、新品バッテリーを使った場合よりも補助金を優遇しよう、という動きも出ているということです。
宇野 牧野社長が国を動かしつつあるんですね!
牧野 いやいや!(笑) 私は一担当として社会的な意義を役所に説明させていただいただけで、判断されているのは、国の、役所の方ですから。
宇野 やはり、民間だけではなく国の力も必要ですね。
牧野 そうですね。日本の国民性かもしれませんが、中古というと新品より悪いイメージがありますよね。例えば、私はショッピングサイトで商品を買う時、新品と中古品があったら、迷わず新品を選んでしまいます。しかし、バッテリーについては、リユースだからこそ新品よりも価値がある。私はそう思っています。
我々は、社会的に意味のあるものを作っている、と確信していますし、その意味をいろんな方、いろんな企業にご理解いただき、お客様には「それなら、リユースバッテリーを選んだほうがいいよね」と思っていただけたら、と考えています。
宇野 確かに。石油は燃やせば二酸化炭素を吐く。電池は作った後、何も吐かないがゴミとして地球上にどんどんと蓄積されていく。今は「バッテリーの生産が足りない」とか、「新品バッテリーをたくさん作ります」という動きが注目されがちですが、作ったバッテリーをどうするのかを、きちんと考えていかないといけませんね。
牧野 そうですね、そこに着眼したときに、やはりリユースにたどり着くと思います。
この資料は、2020年10月に当時の菅総理がカーボンニュートラルを宣言、その年の12月に自動車工業会が電動車、EV、プラグインハイブリッドを普及させるための課題は何か、課題に対してこういうことをやってくださいよ、という提案をまとめたものです。この中で、電池の資源確保は重要なファクターとなっています。
今後、EV普及に備えて、官民挙げた社会システムをつくっていかないといけない、また、バッテリーを再利用して再エネを普及させていかないといけない、という我々4Rエナジーが10年前に設立した時に考えたのと同じことを、自動車工業界全体も認識して展開し始めています。
今までで一番苦労したことは?
宇野 4Rエナジー社と、リユースバッテリーの未来がどうなっていくのかが、かなり明確になりました。しかし、今まで大変だったことがいくつかあるかなと思います。その中で、一番苦労したことをお聞かせください。
牧野 苦労だらけですよ(笑)。2018年3月に浪江事業所を開所しました。最初は、今このタイミングで工場を作っていいのか、浪江町で開所するのがいいのか、といった話があり、いろいろな障害もありました。
浪江事業所開所当時は、私が代表を務めていました。ここで、具体的に工場を作って、実ビジネスを始めてみないと、バッテリー問題・再エネ問題に手を打つことができない、と強く感じていました。ただ、幸いなことに、バッテリーのリユースは4Rエナジーが他社に先駆けて進めていましたから、他社が追いかけてくるまで時間があるとも思っていました。
まずは、実物(回収したバッテリー)を目の当たりにして、いろいろな課題を自分たちで理解して、手を打っていくことが必要、と腹をくくってやり始めました。
ですから、今でもたくさん課題がありますが、これはこれで我々の今の競争力の根源にもなっています。先ほどお話した、バッテリー測定時間の短縮もそうです。ずっと「どこまで短くできるのか」に取り組み続けています。
バッテリーには日産独自の測定方法があり、当初はリーフ1台のバッテリーを測定するのに、丸16日かかるものでした。これは100点満点の測定方法ですが、これではビジネスが成り立ちません。そこで、技術開発研究に取り組み、今やっと4時間~4時間半まで計測時間を短縮することができました。ただ、もっと短縮できないか、と考え続けていたところ、先ほどお話しした、リーフの走行状況などの情報を収集したビックデータの活用に着目し、これを活用することでブレイクスルーとなりそうです。
このような感じで、課題にぶち当たっては解いていくという工程を繰り返し続けてきました。
宇野 大きな問題や高い障壁があったというより、小さいけれども、重要な課題が山ほどあった、という感じですね。とはいえ、問題だらけじゃないですか?
牧野 問題だらけです(笑)。でも、その問題をいち早く経験できて、早く手を打つことができています。これは、4Rエナジーの大きな資産になり、今の我々の競争力になっていると思います。
宇野 グローバルで、4Rエナジーのようなバッテリー再生事業をやっている会社というのはほかにありますか?
牧野 今はないと思います。ただ、特に欧州の自動車メーカーは、リユースバッテリー事業に取り組みはじめています(編集部注/テスラの元技術責任者が起業した『レッドウッド・マテリアルズ』社などがありますが、これは電池のリサイクル事業で、4Rエナジーはリユース事業という相違があるとのことです)。
宇野 海外から問い合わせがきていますか?
牧野 あります。
宇野 とすると、どちらかというと技術やノウハウを閉鎖的に独占するというより、オープンにしているようなイメージを持ってしまいますが。
牧野 このあたりはいろいろな論議があります。EVを普及させないといけないですし、リユースバッテリー事業も間違いなく必要です。そもそもEVが普及しないと、我々の収益源となる回収するバッテリーが増えないわけでして。これを日産車だけでやるのがいいか、仲間(ほかの自動車メーカー)を増やした方がいいのか、いろいろな論議があると思います。私自身は仲間を増やしてやっていくことにも価値があると思っています。
ただ、今の技術を開発するときに、日産が持つ極秘技術情報も開示していただいています。仲間を増やしたとき、極秘技術情報にどうファイヤーウォール(防護壁の意)を立てていくのかが大きな課題です。
宇野 それは、難しそうですね。
牧野 間違いなく仲間は増やした方がいいと思いますが、各自動車メーカーは自社の技術情報に対してとてもナイーブなところがあります。一生懸命、お金と時間をかけて開発したものが、一瞬にして他社に明らかにされてしまうと、後発メーカーは丸儲けですからね。
宇野 とすると、各社の秘密は守りつつ、持続可能なEV社会に向けて、何か技術面での連絡会議や協議会のような枠組ができるといいですね。
牧野 EV用バッテリーの方式、リチウムイオン電池は(ノーベル賞を受賞した)日本の吉野先生たちが開発したものです。しかし残念ながら、日本で開発されながら、中国や韓国にリチウムイオンバッテリー生産では大きく水をあけられてしまったという厳しい状況です。ただ、これからの世界は、資源の問題、CO2の問題に対してライフサイクルで物事を考えていくようになっていくと思います。そのときに、作ったEV用バッテリーを再利用するところについて、我々が世界の最先端を走っているはずです。
日本にはいろいろなリサイクル技術がありますから、新品バッテリーを作るのみならず、リユース、リサイクル、これらもパッケージで日本企業が世界ナンバーワンになれるようになるといいな、と強く願っています。
今のところ、4RエナジーはEV用バッテリーの再生技術をもつ企業として唯一無二の存在となり、非常に価値があると感じています。
日産はもっとリユースをアピールしたほうがいい
宇野 もっともっと発展していただきたいですね。ちょっと最後に変な質問を。日産に対して何か要望はありますか?
牧野 日産は我々に対してフルサポートをしてくれています。本当にありがたいことです。量産EVは日産が他社に先駆けてやったことと、日産が最初にイニシアチブを取ったという成功に対する思いは、開発に携わった人をはじめ、みんな強いと思います。
幸いなことに、リユースバッテリーの価値を日産の人たちは十分理解してくれました。役員、管理職、担当者、全員が理解してくれ、我々のことをフルサポートしてくれています。
ですから、日産に対する要望はありません。しかし強いて要望を言えば、このままサポートを続けていただきたい、ということになりますね。我々も早く日産と住友商事に恩返しができるように、さらに頑張っていきたいなと思います。
宇野 それでは、日産のEVとワンセットでバッテリーリユース事業の広報活動を、もっとがんばっていただくのはどうでしょうか? 「日産のEVだったら、バッテリー再生までワンセットですよ」ということを、SDGs に興味がある方や、エシカルな事柄に強い興味関心を持っている方から訴えていけば、きっと深く刺さると思います。あまりそんなプロモーションが聞こえてこないので。そうすれば、もっと日産のEVそのものの価値も高まるのではないか、と私自身は考えています。
牧野 これからどの自動車メーカーもEVをデビューさせていきます。今のトレンドでは、航続距離が何キロだとか、速いとか、加速がいいとか、SUVのEVがいいだとか、そんなスペックや見かけに注目されていますが、本質的な価値をEVにも持たせたいですね。
日産に対してどうのこうの言うつもりはありませんが、我々は10年前からやっていますので、宇野さんがおっしゃったように、EVを持続的に拡大していくために、リユースバッテリーはとても大事であることを、日産がもう少し強調して他社と差別化していく、という余地はあるかと思います。
宇野 EVを買って、廃車になって、そのあとも社会に役立つクルマを作るということは、日産以外のメーカーが、まだやっていないことですよね。これはとても価値のあることだと思いますし、消費者がクルマを買うときのひとつの原動力になるとも私は思っています。
今日はどうもありがとうございました!
牧野 こちらこそ、ありがとうございました。
宇野さん、1年か2年後にもう一度、ぜひ4Rエナジーを取材してくださいよ。かなり状況が変わっていると思います。
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※この記事は、録音されたインタビューから文字起こしをし、読みやすいように主旨を変えずに再構成しています。インタビューの全容は下記の動画からご覧ください。
新品より価値あり!4REの再生バッテリー事業の実績と課題、今後の展開をフォーアールエナジー牧野社長が熱く語る(YouTube)
(取材・文/宇野 智)