『Abarth 500e』が日本デビュー〜電動化こそが究極のパフォーマンスを実現する手段

お待ちかね、電気自動車(EV)『FIAT 500e』のアバルト・ブランドモデル『Abarth 500e』が日本に入ってきます。ステランティスジャパンは『Abarth 500e』を10月28日に発売することを発表しました。発表会の様子とともに、概要をお伝えします。

『Abarth 500e』が日本デビュー〜電動化こそが究極のパフォーマンスを実現する手段

電動化でパフォーマンスを追求する

EVsmartブログでは9月に吉田由美さんの欧州試乗リポートでお伝えした『Abarth 500e』が、いよいよ日本に入ってきます。

Stellantisジャパンは2023年10月11日にオンライン発表会を開催し、アバルト・ブランド初の電気自動車(EV)『Abarth 500e』を発表しました。発売は10月28日で、この日には実車がディーラーに届き、デビューフェアが開催される予定です。なお、発売に先立って先行予約の受け付けが始まっています。

『Abarth 500e』はイギリスが5月発売だったことを考えると、日本導入の早さにちょっと感動します。

発表会では、『Abarth 500e』を含めたステランティスグループとしての電動化戦略について、打越社長をはじめ、登壇した人たちが揃って口にしたのが、EVによるパフォーマンス向上でした。

まず打越社長は、「コンパクトレーシングカーが次のステップに一歩上がるために格好のパワートレインは、モーター駆動であり、電気自動車」だと強調。続いてアバルトプロダクトマネージャーの阿部琢磨さんは「電動化したアバルトを作る唯一の理由は、最高のパフォーマンスを追求すること」だと明言。さらにマーケティングディレクターのJamie Ahnさんは、「私たちが電動化を進めるのは、電動化こそが究極のパフォーマンスを実現する手段だから」だと述べました。

「電動化=パフォーマンス追求」の三連発。登壇した3人から同じコメントが出てきたのは、強いインパクトを残したように思います。普通、ここまで繰り返さないです。

このコメントからは、仕方なくEVにするのではなく、EVにすることで車の動力性能が格段に向上することを前向きにとらえ、次に進もうとしている心意気を感じました。仮に現実の規制対応が厳しくても、それを見せずに車の楽しさをアピールする姿勢には共感します。

『500e』の約100万円アップでアバルトに

『Abarth 500e』は、『FIAT 500e』と同じく、ハッチバックとカブリオレの2タイプです。グレードは『Turismo』の1グレードです。価格は、ハッチバックが615万円(以下、価格は税込)、カブリオレが645万円です。

ベース車の『500e』は、ハッチバックの『Icon』が530万円、カブリオレの『Open』は544万円なので85万円~99万円アップです(『500e』は輸送費などのサーチャージが8万円加算されているので、状況によって上下する可能性があります)。

ガソリン車の『500』は、アバルトになるとツインエア比で200万円くらいアップしてしまうので、それに比べるとEVのアバルトはかなりお得感があります。

ちなみにイギリスでは『Abarth 500e』の乗り出し価格が3万4195ポンドからなので、1ポンドが約181円として、約620万円です。おそらく装備が違うので単純比較はできませんが、『Turismo』は約690万円にもなります。日本の価格設定はかなり頑張った感があります。

なお、『Abarth 500e』の発売を記念して、ローンチエディション『Abarth 500e Scorpionissima(スコーピオニッシマ)』のハッチバックを150台、カブリオレ50台を限定販売します。ローンチエディションは世界限定1949台なので、日本の割当量はかなり多いです。

正式発売は10月28日ですが、先行予約の受け付けは始まっていて、ステランティスジャパン広報によれば、「予想を上回る」出足になっているそうです。コンパクトハッチバックのEVが市場に増えるのは、個人的にもちょっと嬉しいニュースです。

レコモンサウンドの再現に全集中?

『Abarth 500e』の特徴は、サソリのモチーフをちりばめたデザイン、パフォーマンスが向上したドライブトレイン、それに新しいサウンドシステムを搭載したことです。

とくに気になったのが、アバルトの伝統を受け継ぐ「レコードモンツァ(RECORD MONZA、通称レコモン)」のエキゾーストサウンドを再現したサウンドシステム『サウンドジェネレーター』です。好き嫌いとか、必要かどうかとかはともかく、音の再現に6000時間以上かけたそうです。全集中かなと思います。

こういうエンタテインメントに時間をかけるのは、イタリアっぽいです(個人の感想です)。

そういえばだいぶ前、FIAT『パンダ』に乗ったときに、エンジンを回すとスポーツカーの音になったことに感動しました。同クラスの日本車では考えられないこだわりです。エンジン音がするのは仕方ないので、どうせならいい音にしようという思いがひしひしと伝わってきました。

EVならどんな音でも出せるよねという話は、もう30年くらい仲間内でしていますが、本気でここに取り組んできた自動車メーカーは多くありません。

EVだから燃料が爆発する音はないし、ノイズは少ないほうが疲れが少ないのでそのままのモーター音でもいいはずなのですが、やっぱり車は音だよね、と主張した人がいたのでしょうか。

なんにしても、膨大な時間をかけてレコードモンツァの音を再現したのには頭が下がります。音がどんなものか、試乗ができたら拙い表現力でリポートしたいポイントのひとつです。

出力アップとドライブモード

『Abarth 500e』の動力性能は、最高出力が『500e』の87kWから114kWに、最大トルクが220Nmから235Nmに、それぞれアップしています。これによりガソリンモデルの『Abarth 695』より、20~40km/h、40~60km/hの中間加速がそれぞれ約1秒早くなったそうです。

ただ、EVなのでプログラムを少し変えるだけで出力アップはできますが、バッテリー容量は変わらないのでカタログ上の一充電航続距離は短くなります。

●Abarth 500eハッチバック 303km/500e Icon 335km
●Abarth 500eカブリオレ 294km/500e Open 335km

この中で、『500e』はハッチバックとカブリオレで航続距離に差がないのに、『Abarth 500e』はカブリオレが若干短くなっているのがちょっと不思議です。

ドライブモードは、『Abarth 500e』でも3種類です。名称は「ツーリズモ」「スコーピオン・ストリート」「スコーピオン・トラック(TRACK)」です。『500e』に設定されている「エコ」という選択肢はありません。

写真は欧州仕様。

欧州版のリリースによれば、「ツーリズモ」では最高出力が100kW、最大トルク220Nmに制限されるそうです。

「スコーピオン・ストリート」では回生ブレーキを最大限に利用するそうです。なお「ツーリズモ」と「スコーピオン・ストリート」はワンペダル操作が可能です。

いわずもがなですが、EVはドライブモードの選択や、アクセルの踏み方で電費が大きく変わるので、航続距離はドライバー次第という部分はあります。

以前、東京~大間崎を『500e』で走ったときには、基本的にはエコモードにしていました。電費を上げるためもそうですが、高速道路中心だったので、その方が乗りやすかったというのも理由でした。

『Abarth 500e』のドライブモードの違いも、いずれ実車で確認してみたいと思います。

主要諸元

ABARTH 500e
Scorpionissima(初回限定車) / Turismo
FIAT 500e
ハッチバックカブリオレIconOpen
全長×全幅×全高(mm)3675×1685×15203630×1685×1530
ホイールベース(mm)23202320
トレッド 前/後(mm)1470/14601470/1460
車両重量(kg)1360138013301360
定員4
最高出力114kW/5000rpm87kW/4000rpm
最大トルク235Nm/2000rpm220Nm/2000
バッテリーリチウムイオン
総電圧352V
容量120Ah
総電力量42kWh
セル電圧3.65V
セル個数192
1充電航続可能距離(WLTC)303294335335
駆動方式FF
タイヤサイズ205/40 R18205/45 R17
ブレーキ 前/後ディスク/ディスクディスク/ドラム
最小回転半径5.1m
価格630万円(Scorpionissima)660万円(Scorpionissima)530万円(※)544万円(※)
615万円(Turismo)645万円(Turismo)
※ 500eは車両本体価格にサーチャージ8万円を加算した価格
アバルトの初回限定車「Scorpionissima」はハッチバック150台、カブリオレ50台の限定。

充電アダプターは以前と大きく変わらず

その他の違いで大きなものは、ブレーキが前後ともディスクになったこと、ホイール系が18インチにサイズアップしたことです。

充電関連は、普通充電は最大で6kW、急速充電は最大50kWに対応しています。

気になるのは、例の、コードレス掃除機にも似たサイズの急速充電用アダプターです。

【関連記事】
待望の『FIAT 500e』用急速充電アダプターが登場~ロングドライブで使ってみました(2023年4月19日)

もしかしたらバージョン2でサイズダウンするかなと期待していたのですが、「若干、小さくなった」(ステランティスジャパン広報)という感じだそうです。でも専用のソフトケースがあるのでトランクルーム内での見栄えは良くなりそうです。

なおステランティスジャパンは、一部の急速充電器が非対応になっていることを公表しています。『500e』はShindengen 0.9とHasetec QC型、『Abarth 500e』はShindengen 0.9、Hasetec QC型、デルタ電子QC型です。それぞれのサイトに非対応の急速充電器が設置されている場所のリスト(充電情報紹介ページ)があるので、確認ができます。ざっと見た感じでは、コンビニや道の駅に多そうです。

ところで、『Abarth 500e』の発表会はオンライン開催だったのですが、リアルタイムで打越晋社長が『Abarth 500e』を運転しながら話をするという、ライブ感あふれるものでした。

しかも、登壇予定の時間に打越社長が会場に到着せず、その場でプレゼンテーションの順番を入れ替えるハプニング付きでした。ちょっと緩い空気感がなんとなくイタリアな感じで(イメージです)、司会の方はドキドキしていたようですが、一視聴者としてはちょっと楽しくなってしまいました。

アバルト新モデル オンライン プレス発表会(YouTube)

デフレ一直線の日本ではお値段はそこそこ高い部類に入りますが、乗ってみたいと思わせる1台なのは間違いありません。試乗車もあるようなので、早く乗ってみたいと思う秋空の下、なのでした。

文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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