電気自動車によるレース「2025全日本EV-GP」の第5戦が7月27日にモビリティリゾートもてぎで開催されました。気温が30℃を超えて各車ともバッテリーの熱対策に頭を悩ませるレースとなりました。真夏日のEVバトルをレポートします。
予選トップのKIMI選手にも熱トラブルが
日本電気自動車レース協会(JEVRA)が主催するレースシリーズ「2025全日本EV-GP」の第5戦「もてぎ55kmレース大会」が、2025年7月27日(日)にモビリティリゾートもてぎで行われました。
EV-1クラスに、小峰猛彦選手(ヒョンデ IONIQ 5 N)がエントリー。昨年の第5戦・富士で総合優勝して、テスラの連勝をストップしたのは記憶に残っています。第2戦以来、連勝を続けている現チャンピオンのKIMI選手(テスラ モデルS Plaid)にどこまで迫ることができるのかに注目。小峰選手は今年の第3戦・岡山でも2位に入りました。
EV-2クラスは、GULF RACINGからYUU選手、WIKISPEED EV RACINGから公募ドライバーとして2戦目の挑戦となる澤田晴輝選手とチーム監督のジョー・ジャスティス選手が、いずれもモデル3 パフォーマンス(以下M3P)で参戦。
また、今季はこれまでモンドスミオ選手だけが参戦していたEV-3クラスに、KIMI選手が監督を務めるGULF RACINGから、SAWA選手が初エントリーしました。年式は違うものの、マシンはどちらもモデル3 RWDです。「いつも使っている車で、ベビーシートを取り外してきました」とSAWA選手。迎え撃つモンド選手は「ずっとひとりだったのでバトルが楽しみです」と、自信を感じるコメントでした。

予選3位となったYUU選手の走り。
午前中にはすでに気温が30度を超える真夏日。予選では、「もてぎは好きなコース」というKIMI選手が、いきなり2分03秒104というタイムを叩き出します。「速すぎる。スーパーFJ並みじゃないか」とピットに衝撃が走りました。ただし続いてトラブルも。バッテリーが高温になりすぎたらしく、急にシステム停止したそうです。復旧したのでピットまで自走できたものの、予想もしていなかった事態。4戦連続のポールボジションを獲得した一方で、不安が残りました。
予選2位は2分13秒315の澤田選手、続いて2分16秒674のYUU選手。以下、モンド選手、SAWA選手、ジョー選手と、6位までテスラ勢です。小峰選手は、タイムは4番目だったのですが、同じEV-1クラスのKIMI選手が出した予選タイムに対して110%以上のタイムでは予選落ちとなるルールが適用、救済措置で最後列からのスタートとなりました。
予選7位は、モデューロレーシングHonda e(EV-Pクラス)の稲谷友恭選手。テスラに続いたとはいえ、ハイスピードコースでタイム差が大きく、今回はさすがに「打倒テスラ」はおあずけでしょうか。ドライバーの稲谷選手は初参戦。EVでレースをするのも初めてで、「しっかり走り切りたいと思います」と意気込んでいました。
日産リーフでマイペースのレースを続ける本間選手に注目

熱対策のため予選は「攻めない」本間選手。
グリッドには、日産オーラやノートなどe-PowerでEV-Rクラスに参戦している3台が続いて、11位はEV-4クラスの常連組、本間康文選手(日産リーフ)です。いつも予選は2〜3周だけ、たいていは流して走って、後列からスタートする独自のスタイル。ずっと気になっていたのですが、今回、お話を聞くことができました。その戦いぶりには、バッテリーのマネジメントがレース結果を左右する、EV-GPらしいストーリーが秘められていました。
本間選手は2017年に、モデルチェンジしたリーフ(ZE1)を購入。ライセンスがなくてもレースに参加できるEV-GPのことを知って、チャレンジを始めました。何もわからないままに参加した初戦は、たった3周でバッテリーが高温になって亀モードに。「リーフってこんなに走らないのか」とショックを受けたそうです。以来、どうすればより長く速く走れるのかを追求して、研究とカスタムを重ねてきました。
特徴的なのは、フロアに積まれた巨大なボトル。ドライアイスを使った自作のバッテリー冷却装置です。トランクにはミニクーラーも積まれていて、これまたバッテリーの冷却用。試行錯誤を経てたどりついたシステムなのだそうです。
それだけではありません。普段はこの車を通勤に使っていますが、レースウィークの月曜からは急速充電を控えて普通充電でチャージ。レース前日には乗ること自体もやめて休ませます。サーキットにはローダー(キャリアカー)で搬入。バッテリー温度を上げないようにする努力が徹底しています。
今季、EV-4クラスのエントリーはまだ本間選手だけで、ライバルはEV-Rクラスのe-Power組です。チャレンジを始めた当初は全然勝てなかった相手ですが、熱対策によってレースできる距離が伸びて、先着できるようになってきたそうです。
「タイムではリーフの方が速いのですが、バッテリー温度が52℃を超えると回生と出力の制御が始まって、55℃を超えると出力も半分ぐらいになってしまう。そうするとe-Power勢に追いつかれて抜かれてしまうんです」(本間選手)
バッテリー温度をなるべく上げずに、でも抜かれないように走り切る。シビアな戦いが繰り広げられていたんですね。EV-GPの注目ポイントが増えました。
IONIQ 5 Nで参戦の小峰選手に密着
予選後は、参加車両の充電タイムが必要なので、ドライバーやスタッフは休憩しつつ決勝に備えます。今回は、小峰選手のチーム「モタスポ.net Racing Project」に密着させてもらいました。ヒョンデオーナーで作るヒョンデ・モーター・クラブ・ジャパン(HMCJ)のメンバーがボランティアでサポートしていて、レース中にはピットからバッテリー温度や各車とのタイム差を伝えています。昼食をとりながらの作戦会議では、やはりバッテリーマネジメントが主題になっていました。
IONIQ 5 Nは、バッテリー温度が55℃を超えると出力が制限されてしまうそうです。掲げた目標は3位入賞。M3Pのうち1台は抜きたい。そのために、レース終盤まで温度を抑えよう。「ストレートの最高速を抑えて、1周あたりの温度上昇を2℃に」「最後列スタートから、最初にどこまで順位を上げるか」などなど、さまざまな展開を想定しながら作戦が話し合われていました。
冷静なレース運びでKIMI選手が4連勝

酷暑の決勝レースがスタート。
夕方になっても暑さが和らぐ様子はなく、気温は30℃オーバー。決勝レースは酷暑の中で午後4時過ぎにスタートしました。
白いテスラが先行したので、いつものようにゼッケン1番が……と思ったら違って、YUU選手がトップを快走します。KIMI選手はペースを上げずに2位集団を形成。予選のトラブルが脳裏をよぎって心配になりましたが、何かあったわけではなく、GULF RACINGによるチームプレイだったそうです。

レース序盤の2位集団。
レースが動いたのは中盤。差を詰めたKIMI選手がYUU選手をかわしてトップに立ちます。追走したのは、最後列からのスタートダッシュに成功してテスラ軍団に割って入っていた小峰選手でした。2台が2分19〜21秒台で周回してリードを広げていきます。小峰選手はレース中のベストラップ(2分18秒212)をマークしたものの、KIMI選手に仕掛けることはせずに、そのままの順位でゴール。
4連勝としたKIMI選手は「(トラブル再発の)不安はありましたが、予選と違って全開ではないので発熱も少ないですしね。楽しくレースができました」とコメント。ポイントランキングでは、大きくリードを広げて連覇に王手。残り2戦のどちらかで完走すれば、総合とEV-1クラスでチャンピオン決定となります。
一方の小峰選手は「ピットから通信で『(仕掛けるのは)我慢して』って言われ続けてました(笑)」と明かしてくれました。そう、バッテリーの熱問題です。54℃でゴールラインを超えて、第一コーナーで55℃に達して制御が入ったそうです。完璧なマネジメントで2位をゲットしていたんですね。
総合3位に入ったのは澤田選手。EV-2クラスを制しました。「序盤にYUU選手にリードされたのは予想外だったんですが、バッテリーのマネジメントをしつつ、いつでもバトルできるように備えていました。前回よりは、ちゃんとEVレースに合わせられたのかなと思っています」。澤田選手は、初参戦だった第2戦・筑波では最終ラップでスピンしてクラス優勝を逃していただけに、今回は喜びもひとしおでは。
EV-3クラスも前半は接戦でした。モンド選手がコーナーひとつ分ぐらいリードを保つ展開が続いたのですが、6周目にSAWA選手がリタイア。リアのブレーキパッドが完全に消耗してしまったそうです。「次戦までに対策してきます」とSAWA選手。一方のモンド選手は「ライバルが出てきてくれて、ちょっと張り切っちゃいました。やっぱり相手がいるのは楽しいですね。もっと多くの方に参加してほしいです」とのこと。もっと多くのEVオーナーが本格的なレースを楽しめる場になっていくといいですね。
本間選手は最終ラップの熱制御で「あと一歩」の結果に
上位陣のさまざまな駆け引きが、じつはEV-4クラスの本間選手にも影響していました。終盤までEV-Rクラスの3台をリードしていたのですが、最終ラップで熱によるパワーダウンが発生し、2台にパスされてゴール。計算違いだったのは周回数でした。2周遅れになって9周でフィニッシュする想定が、トップとのタイム差が思ったより開かず、1周多く走ることになったのだとか。「あと2秒ぐらいずつペースを落としていれば結果は違ったかもしれないですね。ただ、組み立ては完璧だったので、満足です。今回も楽しめました」(本間選手)

本間康文選手と、通勤にも使っている愛車のリーフ。
モデューロレーシングHonda eの稲谷選手は、事前の予想通りに自分との戦いとなって、7位でゴール。「パワーダウンをさせずに走り切ろうと思ったんですけど、最後に制御が入ってしまいました」と振り返りました。
黒石田利文監督は、稲谷選手の快走をねぎらいつつ、ゴールでSOCが20%残っていたことがチームの課題と指摘しました。「SOCを残してしまうのは、私たちが性能を引き出し切れていないということ。あと20%分、前に行けたということですよね。筑波だとレース終了時に0%に持っていけるんだけど、袖ヶ浦でも残してしまう。なので、熱対策をもうちょっと頑張りたい。次戦は休んで、モーターの冷却強化とブレーキ強化に取り組んで、最終戦に臨みます」。
灼熱のハイスピードコースで、バッテリーの熱問題がクローズアップされたこともあったのですが、今回はまたEV-GPの面白さを実感することができました。ついついトップ争いに目がいきますが、各クラスで、それぞれのチームがどんな課題に直面して、どう解決しているのかもなかなかドラマチックです。
次のEV-GP第6戦は、8月30日(土)に静岡県の富士スピードウェイで開催されます。詳細なリザルトや今後の日程は日本電気自動車レース協会(JEVRA)の公式サイトに掲載されています。
取材・文/篠原 知存
コメント