電気自動車によるレース「2025全日本EV-GP」の第6戦が8月30日に富士スピードウェイで開催されました。テスラ モデルS PlaidのKIMI選手がIONIQ 5 Nとのバトルを制して5連勝を飾り、2年連続総合チャンピオンに決定。各クラス別でも王者が決まりました。
ライバルの地頭所選手はマシントラブルで参戦できず
日本電気自動車レース協会(JEVRA/関谷正徳理事長)が主催する電気自動車のレースシリーズ「全日本EV-GP」(全7戦)は終盤を迎えています。見どころは、第2戦以来のKIMI選手の連勝がどこまで続くのか、ストップできる選手とマシンは現れるのか。
2025年8月30日に行われた第6戦「富士55km大会」には、第1戦・袖ケ浦の勝者、地頭所光選手がKIMI選手と同じ1000馬力マシン・モデルS Plaidでエントリーしていたのですが、車両の調整が間に合わずに不参加。残念ながら爆速対決は再びおあずけとなりました。WIKISPEED EV Racingのスタッフとしてサーキット入りした地頭所選手に聞いたところ、「リミッターが作動してしまうトラブルが解消しませんでした」とのこと。復旧は難航しているようです。
午前中から気温は30℃を超えて、予選はEVにもドライバーにも厳しい状況下で行われました。最速タイムを出したのは、やはりKIMI選手でした。1分51秒546と昨年より3秒近く縮めてポールボジションを獲得。しかし、先月の第5戦・もてぎと同様に、予選中にマシンが停止するトラブルに見舞われます。

予選中にストップしたKIMI選手のモデルS。
私はちょうどコカコーラコーナーで見ていたのですが、スローダウンしたゼッケン1が退避ゾーンにゆるゆると停止。KIMI選手は車を降りました。でも、しばらくすると再スタート。予選後に聞くと「前回と同様に、警告が消えて走れるようになった」そうです。
昨年覇者の小峰選手が予選2位
全開走行によるバッテリーの温度上昇が原因と思われますが、不安が残りました。続いたのは、ヒョンデ IONIQ 5 Nを駆る小峰猛彦選手で、タイムは1分56秒063。小峰選手は、昨年このサーキットで行われた「富士55km」の優勝者です。こちらの予選タイムも約3秒縮まっています。
昨年9月28日のレースを振り返っておきましょう。IONIQ 5 NがEV-GPに初参戦した大会でした。モデルS PlaidのKIMI選手と、IONIQ 5 Nのチェ・ジョンウォン選手が激しいトップ争いを演じて、小峰選手がそれに続く展開となり、レース終盤に上位3台が熱ダレでスピードダウン。最もバッテリーをセーブできた小峰選手が最初にチェッカーを受けて、2019年の第4戦以来続いていたテスラの連勝をストップさせるという、記憶に残るレースとなりました。
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ただ、その後のEV-GPはテスラが6連勝中。そのうち直近の4連勝がKIMI選手で、獲得ポイントでも他の選手を大きく引き離しています。
フロントローを獲得したEV-1クラスの2台に続いたのは、テスラ モデル3 パフォーマンス(M3P)の3台、澤田晴輝選手、YUU選手、木村哲也選手です。澤田選手とYUU選手は、タイム差がコンマ1秒以内という超接戦でした。
さらに、モデル3 RWDのモンドスミオ選手とSAWA選手、モデルY(EV-Sクラス)で参戦したWIKISPEED代表のジョー・ジャスティス選手と続き、上位はIONIQ 5 N以外はテスラ勢というグリッド順。
そして、予選9位に入ったのが昨年の最終戦以来のエントリーとなった日産リーフe+のレーサー鹿島選手です。同じEV-3クラスのモデル3 RWDと比べるとパワー的には不利なリーフe+ですが、参戦13年目となったベテランの走りには要注目。
もう1台のBEV、40kWhリーフの本間康文選手はいつものようにバッテリー温存作戦で、最後列からのスタート。e-Powerのオーラ、ノート軍団(EV-Rクラス)とのバトルに備えます。
決勝はモデルSとIONIQ 5 N が大激戦
夕方の決勝レースは、EV-1クラスの2台がスタート直後から他車を大きく引き離して競り合う展開になりました。真っ先に第1コーナーに飛び込んだのはインスタートのIONIQ 5 N。前戦のもてぎでは、バッテリー温度の上昇を抑えるために我慢のレースを強いられた小峰選手、今回は「できるだけレースを引っ張りたい」と話していて、有言実行でホールショットを奪います。
KIMI選手も譲りません。スタート直後は1周2分を切るハイペースの争いとなって、周回ごとにKIMI選手と小峰選手がトップを入れ替えます。その後も2分3~5秒台で、見応えのあるタイマンバトルが演じられました。さすがにバッテリーに負荷もかかっていたようで、終盤はややペースダウン。KIMI選手、小峰選手の順でゴールしました。

小峰選手がトップに立つ場面もありました。
「最後の2周でバッテリー温度が50℃を超えてしまって、どうやっても追いつかなくなってしまいました。次(最終戦)でもう一度チャレンジします」(小峰選手)
一方、終わってみればポール・トゥ・フィニッシュのKIMI選手は「小峰選手の動きを見てアジャストしながら、終盤に仕掛けてこられても対応できるように余力を残して走りました」とレースを振り返りました。

2年連続総合優勝を決めたKIMI選手。
これで2年連続総合チャンピオンが決定。盤石の強さについては「無駄なバワーを使うと、こっちが赤くなる(警告が出てパワーダウンする)こともあるので、自分のペースで飛ばしたりせずに、相手に合わせる走り方になっていますね」と解説してくれました。
各クラスの年間王者も続々決定

左から小峰選手、KIMI選手、澤田選手。
2台の後方、EV-2クラスの争いは、3番グリッドだったWIKISPEEDの公募ドライバー、澤田選手がスタートで出遅れるトラブル。テスラには何もしないでいると自動的にパーキングに入る機能があって、EV-GPではスタート時にときどき発生している事象です。しかし澤田選手は焦らずに巻き返しました。順位を上げていき、中盤以降はコンスタントに2分7秒台で走行。木村選手、YUU選手を抜いて3位に入りました。
「最初に結構後ろまで下がってしまって、EV-1クラスの2台に絡めなかったのが心残りですが、かなり安定したペースで走れました。車にも慣れてきて、バッテリーも使い切れたし、熱の問題もクリアできた。チームのサポートのおかげでいろいろ経験させてもらって、自分も成長できているのを実感できます」(澤田選手)
なお、5位に入ってポイントを積み上げたYUU選手が、今季のEV-2クラス王者に決定しました。
6位でゴールしたのはモンド選手。安定した走りで同じEV-3クラスのSAWA選手を抑えました。「序盤はライン取りを工夫して抜かれないようにして、少し離れたので、あとはピットからタイム差を聞きながら、ペースを保って最後まで走りました」とレースを振り返ったモンド選手。こちらもEV-3クラス年間王者に決定。モーター最大出力150kW以上250kW未満のクラス(昨年まではEV-2)で、2年連続の優勝となります。
SAWA選手(7位)は、前戦でトラブルの出たブレーキをハイスペックのものに交換して臨んだそうです。「ブレーキはいい感じだったんですが、まだフィーリングがつかめていなくて一度コースを外れてしまいました。そこで開いた差が縮まらなかった感じです」と話していました。
リーフで参戦の鹿島選手も健闘

今季初参戦となった鹿島選手。
同じEV-3クラスで今季初参戦となった鹿島選手。マシンには追加ラジエーターなど数々の温度対策が施されているほか、自動で減衰圧調整をしてくれるアクティブ・サスペンション・システムも導入しています。ただ、M3Pの2台との勝負は現実的ではないと判断。レース前には「バッテリーの温度上昇を抑えて、できるだけリーフのパフォーマンスを引き出すことに挑戦します」と話していました。
その言葉通りに、2分20秒前後でラップを刻む鹿島選手。この堅実な走りが奏功しました。モデルY(EV-Sクラス)のジョー選手が、何らかのトラブルを抱えたようで、3周目以降はタイムが伸びなくなり、7周目に鹿島選手がかわして8位でゴール。結果、パワーではモデルY(モーター最大出力357kW)の半分程度しかないリーフe+(同160kW)が順位を上げて、テスラ勢の一角に食い込む健闘を見せました。
「データを積み重ねてきて、これ以上速く走ると最後までもたないというペースがわかっているので、淡々と走りました。こちらも最後の1周は熱で制御が入ってしまいましたが、楽しくレースができました。最高速やパワーで及ばない相手とも競うことができる。これこそ限られたエネルギーで争う電気自動車レースの面白さだと思います」と鹿島選手は話していました。
ジョー選手は9位。同じモデルYで参戦した昨年の富士(6位)で出した最速タイムが2分13秒823。今回は1周目に2分11秒868のベストラップを記録するなど、いい走りを見せていただけに、見ている側としてはちょっと残念ではありました。

序盤は快調な走りを見せてくれたジョー選手。
EV-4クラスの本間選手は、残りあと半周というところで熱ダレによるパワーダウンが発生して、日産オーラ ニスモの廣瀬多喜雄選手(今季EV-Rクラス王者に決定)に先着されました。
ピットに戻ってきた本間選手は「行ける、と思ってたんですけどねー。でも、できることはやったので、悔しいというよりは清々しいです」と笑顔で話してくれました。今季はモーター出力150kW未満のEV-4クラスへの出走は、ここまで本間選手だけ。もっと参加者が増えるといいですね。
表彰式なども予定されている最終戦は10月19日(日)に茨城県の筑波サーキットで行われます。じつは、総合王者のKIMI選手やEV-3クラス王者のモンド選手が、車両を代えて出る可能性を示唆しています。それも地頭所選手のモデルS Plaidが復活するかどうかで決めたい(マシン性能を揃えてバトルを楽しむため)とのこと。より見どころがあって、自分たちも楽しめるレースにしようと、参加者がフレンドリーに協力し合うというのは、EV-GPならではのマインドですね。シーズンを締めくくる一戦も、楽しみにしています。
詳細なリザルトや今後の日程は日本電気自動車レース協会(JEVRA)の公式サイトに掲載されています。
取材・文/篠原 知存
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