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よりサステイナブルなモータースポーツへ/全日本カート選手権EV部門の進化をレポート

よりサステイナブルなモータースポーツへ/全日本カート選手権EV部門の進化をレポート

2022年から始まった全日本カート選手権のEV部門。今シーズンは東京・青海のシティサーキット東京ベイを舞台に全8戦のバトルが展開されています。エキサイティングでありながら、よりサステイナブルなモータースポーツに進化しつつあるEVレーシングカートの世界。モータージャーナリスト・諸星陽一氏によるレポートです。

目次

タイヤやマシンの進化に注目してみた

2025年9月14日(日)、東京の臨海地区(江東区青海)にあるシティサーキット東京ベイで開催された「全日本カート選手権EV部門」の会場において、住友ゴム工業がEVカート用の新しいレインタイヤを発表しました。住友ゴム工業のエンジニアにEV用タイヤの開発について取材するとともに、開催4年目となった「全日本カート選手権EV部門」のマシンについてトムスのエンジニアを取材しました。

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ダンロップのサステイナブルな取り組み

新しいレインタイヤといっても完全に新規というわけではなく、従来品との大きな違いは素材にあります。住友ゴム工業のブランドであるダンロップはタイヤ作りの中でサステイナブルな製品を目指してさまざまなアプローチに挑んでおり、そうした流れの一環として今回の新レインタイヤの投入となりました。新タイヤを説明する前に、ダンロップのサステイナブルに関する取り組みについて少し触れておきます。

ダンロップでは2013年に世界初の100%石油外天然資源タイヤである「エナセーブ100」を発売。2019年には植物由来のバイオマスをナノレベルに微細化した高機能バイオマスセルロースナノファイバーを採用した「エナセーブNEXT100」を発売しました。ダンロップはバイオマス原材料とリサイクル原材料を合わせた原材料比率(サステナブル原材料比率)を2030年までに40%、2050年までに100%とする計画です。

そうした取り組みの実験の場となっているのがモータースポーツで、ダンロップでは2023年3月にスーパーGTのGT500クラスにサステイナブル比率38%のタイヤを投入、同年10月には全日本EVカート用に43%、同年12月に行われたスーパーGTデモンストレーションレースに76%比率のタイヤを投入しました。

話を聞いた住友ゴム工業タイヤ事業本部材料開発本部材料第四部課長・島田一哉さん(左)とモータースポーツ部課長代理・佐藤洋平さん(右)。

さらに今年はスーパーGT第4戦から資源循環型カーボンブラックタイヤをGT300クラスに投入。この第4戦でダンロップタイヤユーザーの777号車D’station Vantage GT3がレース1、レース2ともに優勝し、高い戦闘能力を発揮しました。この第4戦を振り返ってダンロップのエンジニアは「投入のタイミングですから、負けたらタイヤのせいにされますから、勝てて安心しました。性能的に劣らない、問題ないということは証明できたわけですから」と語ってくれました。

サステイナブルな素材を活用したレインタイヤへ

さて、話をEVカート用レインタイヤに戻しましょう。レインタイヤはウエット路面のグリップ向上のためゴム素材にシリカを配合しています。これは従来モデルと同じですが、今回の改良では使っているシリカをサステイナブルなものにするため、米の籾から採取できる「もみ殻シリカ」を採用しました。今やタイヤにシリカを配合するのは当たり前になっていますが、レース用のドライタイヤはドライ専用ということでシリカは使わず、カーボンブラックのみとしています。

市販タイヤはドライでもウエットでも使うのでシリカを配合しているものがほとんどですが、レーシングカート用のスリックタイヤは完全にドライにフォーカスした特性のためシリカは使っていないとのことです。そのほかトレッドには天然由来のレジン(樹脂)を採用し、サイドウォールのゴムは天然ゴム比率を向上。タイヤとホイールをかん合させるビード部に使われる鉄は鉄スクラップ由来のものとし、従来約15%だったサステイナブル原材料比率を49%までアップしています。

大きな発進時トルクを受け止めるEV用タイヤ

カートというと手軽な雰囲気があるため軽く見られがちですが、タイヤ開発はかなり厳しいものがあるといいます。とくにEVカート用は重量が重くタイヤの負荷が大きいとのこと。同クラスのエンジンカートの最低重量が150kg(ドライバー込みで計測)であるのに対し、EVカートはそれより30kg重い180kgとなっています。

EVカートは重量が重いだけでなく、エンジンカートに比べて発進時から大トルクを発生します。タイヤはそのトルクを受け止めなくてはなりません。さらにカートはタイヤ径が小さいため、速度が低くてもタイヤの回転数は速く、驚くほど大きな負担を受け止めて走っているのです。

ダンロップのタイヤ開発ではカート用は初期段階の重要な役割を果たしており、カートで得られたノウハウがスーパーGTなどにフィードバックされ、やがては市販用タイヤに生かされるとのことです。そうしたタイヤ開発の流れの中にEVがあることは、ダンロップがこれからさらに普及していくEV、そして求められるEV用タイヤへの知見を一歩も二歩も前に進めていることを示しています。

EVカートのあれこれをトムスに質問

全日本カート選手権EV部門は2022年に初開催。4年目の今年までに起きたトラブルや今後の展開について、トムスのエンジニアと広報に質問状を送り回答をいただきました。トムスはカートの制作、メンテナンス、そしてコースであるシティサーキット東京ベイを運営していますので、いわば全日本カート選手権EV部門のすべてを知っているといってもいいでしょう。

マシンはイコールコンディション

まずは全日本カート選手権EV部門で使われるマシンの運用について教えてもらいました。

シーズン開幕時にエントリーした各選手による抽選でフレーム、モーター、バッテリーを振り分けます。

その後の各大会では、前大会の1位の選手と12位の選手のフレーム、モーター、バッテリーのセットを入れ替えます。

同様に2位と11位、3位と10位というように、すべての選手のフレーム、モーター、バッテリーのセットを入れ替えます。これは今年度より採用されました。

使用するフレーム、モーター、バッテリーは各レースごとにトムスが一括して管理・整備を行い、レース時は構成パーツの変更が禁止されています。限られた範囲内(アライメント、トレッド、タイヤ圧、ブレーキバランス、ドライビングポジション)でのみセッティング変更が認められています。以上のように、限りなくイコールコンディションで選手がレースをできるように考慮しています。

搭載するバッテリー容量は約5.4kWh

カートに使われているモーター&バッテリーのスペックは以下の通りです。

●モーター:25kWブラシレス空冷
●最高速:125km/h
●最高回転数:6000rpm
●バッテリー:リチウムイオンバッテリー 56Ah/96V=約5.4kWh(開幕当時のまま使用中)

EV部門開始以降のトラブルについては、シリーズが始まった当初はオーバーヒートによるパワーダウンが多く見られたとのこと。オーバーヒートが発生する部位はモーターだけでなく、コントローラーやバッテリーでも発生しました。

オーバーヒートなどのトラブルを克服中

そこで各部位の走行時温度を徹底的に管理し、限界値に達しないよういかに冷却するかをトライ。シティサーキット東京ベイオープン翌年の夏には、気温30℃以上で10周程度でオーバーヒートが発生していましたが、今回の第5戦・第6戦では同様のコンディションでも25周をオーバーヒートせず走り切れるようになっています。

また、バッテリーに関しては当初カートの振動に耐え切れず内部コードが断線するトラブルが起きていましたが、コードの種類や取り付け方法を変更して対策。ブレーキに関しても、ブレーキパッドの変更、ブレーキフルードの変更、クーリングダクトの追加などの対策を施し、現在は問題が解消しているとのことです。

EVカートはどのように進化していくのかについても伺いました。

モータースポーツの入口としてカートは手掛けやすく、多くの方々に広く楽しめるコンテンツだと考えており、車両の進化という側面より、モータースポーツ普及の側面でEVカートを位置づけているとのことです。都市型・屋内型で楽しめるカートをEVの特性(静音で排ガスがない)を生かして普及させ、その中の競技としての頂点の役割を全日本カート選手権が担う構造を目指しており、カート以上のカテゴリーは考えていないということでした。

EVカートサーキットが世界へ広がっていく?

第5戦、第6戦と連勝したITOCHU ENEX WECARS TEAM IMPULの三村壮太郎選手。

EVカート用コースの拡大については次のような回答でした。

多店舗およびグローバル展開を目指しており、各地でさまざまに検討中です。公表している計画としては広島で2027年春開業予定のものがあります。その他、国内では東北エリア(2か所)、関東エリア(2か所)、関西エリア(1か所)で具体的に計画を進めていますが、公表できる段階には至っていません。

海外については、中国(香港を含む)、韓国、中東などから引き合いがあり、個別に交渉していますが、こちらも公表できる段階には至っていません。ちなみに、中期的には100店舗の展開を目指しており、多店舗化は来年から再来年にかけて加速させたいと考えているとのことです。

日本はもとより、海外展開への準備も着実に進んでいるようで、EVカートの世界は今後さらに広がっていきそうです。

今シーズン最終戦は11月9日(日)に開催!

全日本カート選手権EV部門、今シーズンの最終戦となる第7戦、第8戦は、11月9日(日)、シティーサーキット東京ベイで開催されます。

2025 AUTOBACS 全日本カート選手権 EV部門 オフィシャルサイト

全日本カート選手権EV部門 第3戦/第4戦 ダイジェスト(YouTube)

取材・文/諸星 陽一

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この記事を書いた人

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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