全日本カート選手権EV部門の初代王者決定〜静かなレースの可能性とは

2022年全日本カート選手権EV部門の最終戦が東京・お台場の特設サーキットで開催されました。バンピーなコースでトラブル多発となった波乱のレース。14歳の梅垣清選手がEVカートで全日本の初代王者となりました。

全日本カート選手権EV部門の初代王者決定〜静かなレースの可能性とは

駐車場に特設された1周500mのサーキット

2022年11月19日、東京・お台場で3年振りの開催となった「モータースポーツジャパン(以下、MSJ)」の会場内、広い駐車場に特設された「MSJ シティ・サーキット(1周500m)を舞台に、2022年全日本カート選手権EV部門の最終第6戦が開催されました。

全日本選手権ともなれば、選手たちがいつも競い合う舞台は全国各地の有名カートサーキット。路面状態は万全です。でも今回はMSJの会場の一部である広大な駐車場を活用して「テックプロバリアーズ」というプラスチック製のウォールで仕切りを作った特設コースとなりました。

駐車場は全面アスファルト舗装されてはいるものの、いつものカートサーキットと舗装のクオリティは雲泥の差。ところどころに微妙な段差がたくさんあって、サスペンションをもたないレーシングカートが文字通り「跳ねながら」コーナリングしていくという、かなりスリリングなレースとなりました。

とはいえ「いつものサーキット」ではなく、都会のど真ん中に特設されたサーキットでトップレベルのレースを実施できたのも、激しい騒音がないEVカートならではのこと。2024年に開催が予定されている『フォーミュラE』の公道レースにも通じるEVの醍醐味のひとつです。全日本選手権EV部門の実現に尽力してきた株式会社トムス経営戦略室の田村吾郎氏は、「MSJでの全日本選手権開催が、はじめの一歩。これから、屋内を含めた日本各地のさまざまな場所でEVカートイベントを展開したい」と意気軒昂でした。

全日本選手権で使用するコースにはJAFの公認が必要ですが、公認が下りたのは当日の朝だったとか。広い駐車場へのコース設営はほぼ丸二日がかりだったとのこと。突貫作業でサーキットを作り上げた関係者のみなさんに、労いの言葉を贈りたいと思います。ご苦労さまでした!

年間王者へのポイント争いは大激戦

今回のレースは、2022年全日本カート選手権EV部門の最終戦で、スケジュール的には「第6戦」となっています。とはいえ、4月にシリーズが開幕して以来、6月下旬の第4戦まではマシンの準備などが整わずに不成立。FIAの規定で、年間シリーズのレースでチャンピオンを出すには最低でも3戦が必要です。そこで、10月23日にオートパラダイス御殿場での第5戦で「レース1」と「レース2」を実施。今回の最終戦と合わせて「年間3戦」のノルマを果たし、EVカートの初代全日本王者を輩出しようというプランとなりました。

御殿場でのレースについては、以前の記事で紹介しています。

2戦を終えた段階で、TOM’Sの小高一斗選手が47ポイントでランキング1位。ULSの梅垣清選手が45ポイントで2位。アステックの佐野雄城選手が42ポイントで3位という大激戦。4位以下の選手は18ポイント以下で、最終戦1レースで獲得できるポイントは、1位/25ポイント、2位/22ポイント、3位/20ポイント、4位/18ポイントなので、事実上、年間王者争いはランキング上位3選手に絞られた状況で、最終戦を迎えたのです。

バンピーなコースで思わぬトラブル

午前中の練習走行、お昼過ぎに行われた予選のタイムアタック(1周のみの一発勝負)を経て、決勝レースは15時から、12周での戦いとなりました。実は、決勝は17周のレースが予定されていました。でも、練習走行や予選でバンピーなコースで跳ねながらのコーナリングになるなど選手が苦戦。安全面などを考慮して周回数を12周に減らしての最終決戦となったのでした。

予選の結果、決勝のスタートグリッドは以下の通り。エンジンカートでは走りながらスタートを切るローリングスタートのレースが多いですが、EVなのでグリッドに静止状態からのスタンディングスタートとなります。

PP/佐々木大樹(27.345秒)
2位/梅垣清(27.527)
3位/佐野雄城(27.652)
4位/渡邉カレラ(27.653)
5位/小高一斗(27.845)
6位/富下李央菜(29.143)
7位/諏訪百翔(29.517)
8位/大槻聖征(41.946)

今年のレースはトムスが製作した『EVK22』というマシンのワンメイク。選手達のマシンは全てトムスが用意して、参戦する選手を募集するというスタイルで実施されました。スペック的には同じマシン、とはいうものの、やはり個体差はどうしてもあるようで、その日乗車するマシンは抽選で決められました。くじ運がイマイチだったのか、ランキングトップの小高選手は予選5位とやや不振。とはいえ、ポールポジションの佐々木選手との差は0.5秒ほどと僅差です。

マシンはトムス製「EVK22」のワンメイク。

決勝レースは、練習走行からこの日好調だった佐々木選手がリードする展開に。ところが、バンピーなコースでの本番バトルで、いろんなことが起こります。

3周目には1コーナーで富下李央菜のマシンがストップ。レース後に確認した際にも「何かが壊れたらしい」としか原因はわかりませんでしたが、バンピーな路面による振動がトラブルを引き寄せた印象でした。

小高選手は巻き返して3位のポジションでフィニッシュ。先着は年間ランキング下位の佐々木選手と渡邉選手だったので、年間王者獲得か、と思われたのですが……。なんと、走行中にチェーンカバーが外れ、必備部品脱落のペナルティにより失格という裁定となりました。

その結果、5位のポジションでゴールしていた梅垣選手が4位に繰り上げとなって18ポイントを加算。合計63ポイントで、記念すべき全日本カート選手権EV部門の初代年間王者に輝きました。このレース、正式結果で3位だった佐野選手(合計62ポイント)とは、1ポイント差の栄冠です。

梅垣選手は14歳。新時代を象徴するEVカートの初代王者にふさわしいチャンピオン誕生、と評することもできそうです。

大会名誉会長の山本左近衆議院議員も駆け付けて記念撮影。左から3番目が年間王者の梅垣選手。

2022年全日本カート選手権EV部門ポイント一覧

JAFモータースポーツ公式サイトより引用。

アナウンスがよく聞こえる。楽しいレースへの可能性

今年初開催となったEVカートの全日本選手権。御殿場でのレースレポートでも紹介しましたが、レーススピードは想像以上に速く、ワンメイクのマシンということもあってテース展開はスリリング。観ていて楽しめるレースだった印象です。なにはともあれ、無事に年間3戦目のレースが成立したことに、トムスの谷本社長をはじめ、関係者のみなさんが安堵と喜びの表情だったのが印象的でした。

また、何よりもエンジンでのレースと違うのが、サーキットの静かさです。この日も、実況MCと解説者でレース中も楽しいアナウンスが繰り広げられていました。レース後、選手に確認すると、レース中も実況の声はよく聞こえているとのことでした。

静かなサーキットでの本気バトル。具体的にどうすれば、という光るアイデアはとっさには思い付かないですが、たとえばBGMを工夫したり、ゲームのような効果音を駆使したりして、カートレースを新たなエンタテインメントに演出できる、可能性がある気がします。

はたして、EVカートレースがこれからどのように進化していくか楽しみです。全日本は無理ですけど、おっさんクラスとかできてチャンスがあれば、私もぜひ走ってみたいところです。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 遂にカートもEVの時代に!
    あの音も無く(実際聴いてませんが)迫力にはかけちゃうのかな~なんて!
    でも 環境には 良いのでしょう。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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