BYDが東京都内で開催した「バッテリー & SDV」勉強会のレポート第一弾。日本におけるEV販売の指揮を執るBYDオートジャパンの東福寺厚樹社長が、世界のEVシフト動向や、日本でも販売台数を着実に積み上げている現況などをアピールしました。
※この記事はAIによるポッドキャストでもお楽しみいただけます!
中国やヨーロッパではNEVの新車販売シェアが30%超に
2025年7月7日、BYDジャパングループがメディア向けに勉強会を開催しました。冒頭にはBYDオートジャパンの東福寺厚樹社長が登壇し、世界、そして中国におけるEVシフトの最新情報や、将来の展望についてスピーチを行いましたので、その内容を中心に報告します。
※冒頭写真はBYDオートジャパンの東福寺厚樹社長。
最初に世界情勢として2024年の新車販売台数ベースのBEV、PHEV比率が紹介されました。データはIEAおよびEV充電エネチェンジのもので、ヨーロッパでもっとも比率が高いのがノルウェーで92%、ついでスウェーデンの58%、デンマークの56%、フィンランドの50%で上位は北欧諸国が占めています。以下、オランダ、ベルギー、アイスランド、ルクセンブルグ、ポルトガルと続き、新車販売におけるBEV・PHEVの比率が30%を超えている国は、ヨーロッパで9カ国にのぼります。
一方、ヨーロッパ以外の国に目を向けるともっとも比率が高いのは中国の48%ですが、次点は21%のイスラエル、ついでカナダの17%などと続き、10%以上の比率を達成しているのはベトナム、コスタリカ、アメリカなど8カ国でした。
日本は2.8%で15位です。全世界でのクルマの需要が1億台といわれるなか、3500万台が中国マーケットで販売されています。2024年は若干台数が減ったものの、着実に増えているという状況です。
中国におけるBYDの乗用車販売台数は着実に成長
2024年と2025年の1-5月の中国における月別販売台数を比較すると、2025年は確実な伸びがあります。とくに2024年の2月は大きく販売台数が減っていますが、これは春節の時期との兼ね合いがあったそうです。
中国におけるBYDの販売実績は好調で2025年の1-5月の販売台数は173.6万台で2位の吉利117.3万台を大きく引き離しています。1-6月の実績では212万台というのだから、驚きです。
もちろん、中国でもICE車は販売されていて販売台数の半分を少し超える割合がICEモデル車でしたが、2025年4月からはその割合に変化があり、NEVと呼ばれるEVを含む新エネルギー車の割合が徐々に増している傾向です。
中国でICE車がシェアを維持できている理由の1つは、かつて軍需産業で軍用車などを製造していた企業が民生に転換し、ガソリン車やディーゼル車を製造し始めたことも大きく影響しています。政府からはこうした民生に転換した企業に対しても補助金が交付されています。こうした事情もあるため、中国市場はしばらくはICE車とNEV(新エネルギー車)が50対50に近い比率を維持するのではないかと予測されています。
BYDの強みであるLFPバッテリーが大きなシェア
EV用のパワーバッテリーとしては三元系(NMC)とリン酸鉄系(LFP)の2種が主流ですが、中国車が採用しているバッテリーはリン酸鉄系が多く、2023年の時点で7割程度がリン酸鉄系であったのに対し、現在は8割を超えるシェアを実現。
また、BYDはバッテリーサプライヤーとしての側面も持っていて、世界の車載バッテリーシェアは17.2%で2位、トップはCATLで37.9%と非常に高いシェアを誇っています。
中国の本社の資料によれば2025年6月の販売実績(商用車含む)は前年同月比+10%超の38万2585台で乗用BEVは20万6684台でした。
BYDの乗用車ブランドはBYD(王朝&海洋)、勝勢、方程豹、仰望とあります。もっともボリュームがあるのがBYDで2025年6月実績で34万2737台と圧倒的ですが、驚くべきは1台あたり3500万円程度となる仰望ブランドのクルマが毎月200台ペースで売れているというのは驚き。中国市場は人口が多いため、富裕層の数も多く、高価格帯の車種でも一定の需要が見込まれることがうかがえます。
「天神之眼」などの先進技術をアピール
BYDの最新技術については3つの項目が紹介されました。最初に紹介されたのがADAS機構である「天神之眼(God’s Eye)」。「天神之眼」はDiPilot600という3レーダー版、DiPilot300のレーダー版、DiPilot100の3カメラ版の3種を設定。車種によって使い分けられます。
2つ目がPHEV用として新開発された1.5リットルエンジンで、熱効率46.06%を実現し航続距離2000kmを達成。技術の発表とともに2車種を新規投入したことで、2024年の販売台数は2023年の販売台数を100万台押し上げるほどとなったと分析しています。
3つ目が超高速充電です。BYDが掲げるキャッチフレーズは「油電同速」。油とはガソリン、電とは電気のことでガソリンの給油と同じレベルの速さで充電が可能なシステムとアピールしています。2km分の充電を1秒、5分で400km分を充電できるようにしたもので、中国国内では1000V-1000A(1MW)のチャージャーの設置が始まっています。
この充電技術「Super e-Platform」が搭載されたモデルはHAN LとTang Lですでに中国国内では販売が開始されています。東福寺社長は上海モーターショーのタイミングで何名かのメディア関係者と常州工場で実際の充電を見学。このときの様子を東福寺社長は「プラグを差して、すべてをスマホで操作するのですが、どんどん充電されていくことに驚きました」と語りました。
また、同時に発表された高性能電気モーターは580kWの出力を誇り、最高回転数は3万回転、最高速度は300km/hに達するという高性能さです。この性能を持つモデルが現地では500万円台から800万円弱で販売されています。最高速と加速については、欧州のスーパーカーも敵わないレベルに達しています。
日本での登録台数も着実に推移
2025年5月と6月の月間登録台数は2カ月連続で過去最高を記録。2025年6月までの累計登録台数は5305台です。2025年末にはPHEVを導入予定、2026年後半には軽EVを導入予定で、BYDオートジャパンは創業期から成長期にシフトすると位置づけています。軽自動車については人材募集を行っていましたが、非常に有望な人材を得たということで8月1日付けで入社し責任者に就くとのこと。我々日本人ジャーナリストがよく知っている人物なのか興味津々です。
EVユーザーはバッテリー劣化について不安を抱いていることが多く。BYDジャパンではこの不安を解消するためにも8年・15万km・70%というパワーバッテリーの補償を約2万円(車種によって異なる)の追加で、10年・30万kmまで延長するというプランを設定するなど、より安心して乗れる環境を整備しています。
せっかく東福寺社長がいらっしゃる場だったので、筆者は思いきって日産と鴻海の協業についての意見を求めました。
東福寺社長は日産と鴻海の話が出る前のタイミングで、出社のために自宅を出ると待ち構えていた記者に「霞ヶ関のほうでBYDが日産を買収するんじゃないかという話が出ている」と言われたとのこと。東福寺社長にはまったく寝耳に水の話で、もちろん完全否定したそうです。
東福寺社長はBYDを見ているとほかの会社を買収して、会社を大きくしていこうという感じは受けない、そういう社風は感じないとおっしゃっていました。
東福寺社長のプレゼンテーションからは、EVを軸にしたBYDの日本展開への熱意と自信を感じました。また、勉強会ではさらに、専門の担当者からバッテリーに関する詳細、OTAを含むSDVの動向、バッテリー戦略などの説明を受けました。話を聞けば聞くほどBYDの底力とスピード感あふれる意思決定などに驚かされるばかりでした。
日本には技術はありますが、それだけでは追いつけないものがあることを実感。うかうかしているのは本当にまずいだろうなと改めて感じる勉強会となりました。
取材・文/諸星 陽一
コメント