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BYD『シール』北海道遠征記【第三弾】北海道のEVユーザーに聞くリアル~良いところはたくさんあるけれど……

BYD『シール』北海道遠征記【第三弾】北海道のEVユーザーに聞くリアル~良いところはたくさんあるけれど……

中国BYDの電気自動車『SEAL(シール)』で真冬の北海道遠征レポート。第三弾は北海道でEVを運用するオーナーにオフ会&インタビュー。EVを所有してみて満足していることや気になる部分など、リアルな声をお届けします。

目次

北海道各地のEVユーザーとオフ会&インタビュー

今回の北海道遠征では私のYouTubeチャンネルを視聴してくださっている様々なEVオーナーとのオフ会を開催しました。そもそも北海道とひと口に言っても地域によって気温の下がり方や積雪状況がまるで異なります。たとえば北海道の玄関口である函館は積雪量も少なめで気温も東北地方あたりと大きな差はありません。また道東地域は積雪量こそ比較的少ないものの、とくに内陸部ではマイナス20度が珍しくないほどに気温が下がります。そして今回の旭川が位置する道北地方は、道内でも積雪量が多く、さらに内陸に位置することから札幌などと比較しても気温も低下します。

さらに路面状況という観点では、交通量の多い札幌の場合、前日に降った雪が中途半端に溶けてしまい、それを通行する車が踏み固めて、さらに気温が低下する夜間に凍結して凸凹の道が出来上がります。これを現地ではガタガタ道路(またはザクザク道路とも)と呼ぶのですが、ひどい場合は住宅街でスタックすることも珍しくないそうです。

広大な北海道。地域によって積雪量と気温変化、それによって引き起こされる路面状況などの特性が異なるのです。

EVにして良かった点は?

1月下旬、今回のオフ会は旭川で開催し、周辺のEVユーザーの方々が集まってくださいました。車種は日産リーフ40kWh、トヨタbZ4X AWD、ヒョンデIONIQ5 AWD、ヒョンデコナ、BYDドルフィンロングレンジ、テスラモデル3ロングレンジAWD、テスラモデルYパフォーマンスと、国産輸入車問わず多種多様なEVが7台、総勢9人が集まりました。

まずはEVを購入してみてよかった点を聞いてみました。

●自宅充電ができるのでガソリンスタンドに行かなくて済むようになった。
●回生ブレーキによって凍結路面でフットブレーキを使わないことによる安心感。
●アクセルペダルの操作だけで瞬時にトップスピードに入る動力性能。
●太陽光発電と組み合わせることによってEVを蓄電池として運用できる。
●スマホアプリで空調を起動できるので、真冬でも車に乗り込む前に車内を温めておくことができる。

左からbZ4X、シール、コナ、モデル3、ドルフィン、IONIQ 5。

EVにして不満な点

一方で、EVを運用してみて不満足な部分も聞いてみました。

●真冬の積雪路面だと航続距離が足りないと感じる場面がある。
●冬場の急速充電スピードの制限が厳しい。
●道北をはじめとする道内の急速充電ネットワークの脆弱性。
●チャデモアダプターが何度も故障して使えなくなった。
●スーパーチャージャーが2カ所しかなく、道北方面に行くためには公共の急速充電器を使用せざるを得ないケースがある。
●テスラのサービス拠点が札幌にしかなく、サービス体制が脆弱。
●セカンドカーにEVを導入したいが軽EVやコンパクトEVに四駆設定がない。

まずEVのメリットですが、やはり関東でEVを運用する私自身が感じているメリットと同様の感覚を北海道のEVオーナーも感じていることが分かります。

とくに自宅充電ができるのでガソリンスタンドに行く必要がないという点ですが、真冬に3分間の給油作業が身体にこたえることは容易に想像がつきますし、この屋外の給油作業がなくなるだけでもEVの大きなメリットと言えるでしょう。

次に回生ブレーキと乗る前エアコンですが、寒さの厳しい北海道だからこそEVならではの機能として重宝するはずです。またテスラオーナーからは動力性能の高さが魅力の一つであるという意見も上がりました。

一方でEVのデメリットですが、これはテスラオーナーと非テスラオーナーで意見が分かれた部分もありました。

まず共通しているのは充電インフラの脆弱性という点です。確かに札幌市街や旭川市街であれば90kW級以上の急速充電器が数多く設置され始めています。ところが自宅充電環境を整備できる一軒家の割合が比較的高い道民の場合、急速充電器が必要なのは主要都市部ではなく、都市を結ぶ経路にある道の駅やサービスエリアです。実際に札幌旭川間の経路充電ネットワークは最大でも50kW、設置台数も1基がほとんどといった状況です。さらにテスラスーパーチャージャーも函館と札幌市街にしか設置されていないので、経路充電ネットワークとして拡充整備は遅れているのが現状です。

今回の旭川周辺に在住する人たちが考える最低限のEV性能というのが「札幌〜旭川間300kmを充電無しで往復できるか」という点です。真冬、さらに電費が極端に落ちる深雪路面(札幌〜旭川間の空知地域は豪雪で有名で、度々道央道が通行止めになります。よって深雪路面を走行するシーンが比較的多い)では、現在発売されている多くの車種では札幌へ往復することはできません。そのことを理解してEVを購入する現EVオーナーでさえ、他人にファーストカーとしてEVをオススメする事は難しいと感じているのが実態です。

また北海道においてさらにEV化が困難なのがセカンドカーです。「一人一台」が当たり前の北海道において、ことに道北地方では通勤や買い物でも往復50〜60kmというケースは全く珍しくありません。その上北海道に関わらず雪国では四駆が必須であり、2025年2月現在、四駆設定のある軽EV、ないしはコンパクトEVは存在しません。

仮に今後四駆設定のある軽EVが投入されたとしても、真冬と四駆による電費悪化を差し引いて150km以上(≒ネット容量で最低でも30kWh以上)の航続距離が確保されていないと、なかなかEVに買い換える事は難しいと思います。よって北海道、とくに道北や道東地域の場合はファーストカーだけでなくセカンドカーもEV化を進めるのが極めて難しいのです。

厳寒時の急速充電性能にも課題

札幌スーパーチャージャー

さらに非テスラオーナーがほぼ全員指摘していたのが冬場の急速充電性能の低さです。バッテリーの温調システムの無いリーフだけでなく、bZ4Xやコナ、IONIQ 5でも真冬は走行後でも急速充電性能が低く、これが札幌旭川間の移動の際のさらなるボトルネックになるのです。

私自身氷点下の環境下でモデルYで札幌スーパーチャージャーを使用した際は、本州とほとんど変わらない充電性能を実現できていました。バッテリーの自動プレコンディショニング機能がしっかりと作動したからです。対するリーフやbZ4Xには存在しませんし、コナやIONIQ 5ではナビ設定だけでは起動しないケースがあったり、プレコンディショニング自体の性能が低いのではないかとも推測できます。いずれにしても真冬でも安定した急速充電性能を実現する事は北海道のEVユーザーにとってマストであり、テスラと比較すると充電性能の低さを感じざるを得ません。

一方、テスラオーナーからはサービス体制の脆弱さが指摘されました。現在テスラのサービス拠点は公式には道内に存在しません。サービス担当者が定期的に札幌にやってきて不具合などの修理を行っているものの、道北のテスラオーナーはわざわざ札幌まで修理のために訪れる必要があります。実際に道東に在住するテスラオーナーはヒートポンプが故障して、エアコンなしで札幌まで修理に向かったというケースも聞いています。

さらにテスラはショールームも道内には存在しないので、基本的に道民でテスラを購入する場合は本州のショールームに赴いて実車を確認するか、もしくは実車を見ずにネット経由で購入することになります。これはほとんどの場合でハードルが高すぎるため、いつまで経っても道民のテスラオーナーが増えない要因でもあると思います。

その上、テスラ車がスーパーチャージャー以外の公共の急速充電器を使用する際に必要となるチャデモアダプターの耐久性の低さも指摘されました。このオーナーさんは数年間で3回(!)もアダプターを交換しているそうです。

実は私もチャデモアダプターの故障を経験しており、その対応などで色々あって、次の乗り換えではテスラを購入する気はありません。私の複数の知り合いの間でも複数回チャデモアダプターが故障した経験を聞くので、これはチャデモアダプターの耐久性の低さを指摘せざるを得ません。真冬の北海道で危急の急速充電が必要な場面においてチャデモアダプターを使用できなかったら命に関わるピンチになりかねない問題です。耐久性の向上は当然として、アダプターが欠品していて納期が1ヶ月後なんてことも無くしてもらいたいところでしょう。

ちなみに、テスラオーナーの一人がEVに興味を持つきっかけとなったのが日産リーフの数日間のモニターキャンペーン。実は私の周りでもリーフの貸し出しキャンペーンで乗り回したことでEVの良さを実感したというケースが何度も耳に入ります。やはり短時間の試乗ではなく、実際に自分の慣れ親しんだ道を含めて長時間乗り回すことで、EVの良さを体感できるわけです。

オフグリッドヴィラを運営するオーナーの実感は?

旭川でのオフ会を終え、次に訪ねたのが道東の中標津で竹下ファームを経営する竹下さんです。竹下さんはテスラモデル3とモデルYを所有しながら、法人車両として日産サクラも運用しています。竹下さんの考えるEVの良さをいくつか紹介しましょう。

●回生ブレーキによってアクセルペダルだけで意のままに車両をコントロールできる点。
●自宅で充電できるため、自宅から20km以上離れたガソリンスタンドに行く必要がなくなった。
●オイル交換が必要ないなど、車両に関連する維持費用と時間が節約できるようになった。

竹下さんはもともとスバル車を所有しており、低重心による安定した走りに魅力を感じていたそうですが、EVの場合は車両パッケージングとして重量物の大容量バッテリーが床下に搭載されており、前後に重量物の内燃エンジンを搭載しないことで重量配分が50:50に近くなります(実際所有するモデルYパフォーマンスの重量配分はちょうど50:50です)。低重心による安定感のある走りに加えて、ワンペダルドライブによる操作性を含めて、まさに意のままに車を操る感覚に満足しているそうです。

さらに竹下さんがEVのメリットを実感したのが自宅で充電できることの便利さです。竹下さんの運営する竹下ファームは中標津市街から20km以上離れており、最寄りのガソリンスタンドも中標津市街にあるので、牧場で使用する車両も含めて、ガソリンの残量を常に意識する必要がありました。ところがEVであれば自宅の駐車場で満充電にすることができるので、わざわざ街まで出かけてガソリンを給油する必要がなくなりました。街から離れた場所に住んでいる方こそEVが向いているという話は、メリットを実体験するEVオーナーから改めて聞くと説得力があります。

竹下さんは「farm villa taku」というヴィラ(一日一組限定一棟貸しの宿泊施設)を運営。「森の小道の開拓」をコンセプトに、旧道を買い取ってその上にヴィラを建設。インテリアに使われている木材や家具も、北海道産、もしくは同じ緯度付近の北欧製で統一する徹底ぶり。記事冒頭画像も「farm villa taku」の受付施設とBYDシールを撮影したもの。絶景でした。

さらに竹下ファームでは従業員向けに日産サクラを貸し出しており、実際に市街に在住する従業員の方が定期的に使用しています。20kWhしか電池容量がないので中標津近郊からの遠出は難しいものの、市街地から竹下ファームの往復であれば全く問題ないことを従業員の方々も実感しているそう。寒さは厳しいものの積雪量はそこまで多くないので、仕事先の往復などの用途であればサクラでも十分なのかもしれません。いずれにしても気軽にEVに触れる機会が増えることで、このような道東地方でのEVシフトが少しずつ進んでいくのかもしれません。

さらに「farm villa taku」には電線が通っていないという、日本でもほとんど例がない「完全なオフグリッド」を実現。そのために屋根に太陽光パネルを大規模に設置しながら、テスラ製蓄電池「パワーウォール」を6台も設置。ネット環境はスターリンクを導入。

いずれにしても、北海道の道北と道東でEVを乗るEVオーナーの皆さんにEVの運用に関する満足度を聞くと、結論としては全員が所有するEVに対しておおむね満足していました(もちろん満足していないのであれば私の主催するオフ会には来ないと思いますが汗)。たしかに不満な点もあるものの、全体としては所有満足度が高かったというリアルは、北海道でEVを購入されている方々にとって参考になるかもしれません。

とはいうものの、多くのEVオーナーは同時に「自分の周りにEVをオススメできるかと言われると、現時点では難しい」とも話します。とくに旭川の場合は真冬でも300km以上の航続距離が必要であるという点、および充電インフラが脆弱な点がネックであり、唯一その両方を満たすポテンシャルを秘めるテスラ車もサービス拠点が存在せず、ショールームも無いとなると安易にオススメすることはできないでしょう。

はたして北海道のEVオーナーたちが胸を張ってEVをオススメできる日がいつ訪れるのか。2025年中に日本にも導入されるスズキの『e VITARA』は、60kWh級のバッテリー容量を搭載しながら最低地上高が180mmを確保して四駆設定もあるコンパクトSUVです。北海道のEVオーナーのニーズのかなりを満たす車両性能を実現しており、私自身もe VITARAのEV性能を検証して実用性をレポートしていきたいと思います。

充電インフラの改善にも期待しながら、来シーズンも北海道遠征を通じて最新EVの極寒性能、充電インフラの改善模様、そして北海道のEVオーナーの所有体験をレポートしていきたいと思います。

取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル

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この記事を書いた人

免許を取得してから初めて運転&所有したクルマが電気自動車のEVネイティブ。

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