「NEV」と「CAFC」〜電気自動車シフトに向けた中国のデュアル規制と自動車販売最新動向【まとめ】

中国の自動車販売数は、2019年に2100万台となり、この20年間で約10倍以上の伸びを示しています。いまや世界最大の自動車市場を形成している中国ですが、一方で環境問題も深刻化。そこで中国は、規制によって自動車の電動化(EV)シフトを図ろうとしています。この記事では中国の「デュアル規制」、特に「NEV規制」を中心に解説していきます。

「NEV」と「CAFC」〜電気自動車シフトに向けた中国のデュアル規制と自動車販売最新動向【まとめ】

【目次】

  1. ポイントで管理! 中国のデュアルクレジット規制とは?
  2. 少し複雑なNEVクレジットの算出方法
  3. より厳しい方向に向かう新NEV規制
  4. 一方で規制の緩和策にも着手
  5. NEVの生産/販売の最新動向
  6. アフターコロナのトレンドはHEVか?
  7. デュアル規制の達成度合い

ポイントで管理! 中国のデュアルクレジット規制とは?

中国国内では、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、燃料電池車(FCV)を新エネ車「NEV=New Energy Vehicle)と定義し、その普及を目指しています。NEVの生産や販売を促すために、国内で3万台以上の自動車を生産するメーカーや輸入企業に対し、2019年から「NEV規制」をスタートしました。具体的には、MIIT(中国人民共和国工業情報化部)が、NEVについて一定比率以上の数値目標を設定しています。2020年は、NEV目標値は全生産台数の10%になっています(年ごとに2%ずつ目標値が加算される)。

また中国には、もう1つ「CAFC規制(企業平均燃費規制)」が導入されてます。こちらは2000台以上の自動車を生産するメーカーや輸入企業に対して課される平均燃費の規制です。2020年には平均5ℓ/100km(約20km/ℓ)という目標が立てられ、主要先進国と同等水準の厳格化を求めています。

デュアルクレジット規制(NEV規制、CAFC規制)の概要

規制目標規制対象企業管理項目
NEV規制企業別NEV台数管理中国国内の自動車生産または販売企業で、生産/輸入台数が年間3万台以上の企業●原則的に翌年へのクレジット繰り越しは不可
●クレジットは企業間の取引が可能
●CAFCクレジットへの等価転用も可能
(1NEVクレジット=1CAFCクレジット)
CAFC規制企業平均燃費管理中国国内の自動車生産または販売企業で、生産/輸入台数が年間2000台以上の企業●3年先までクレジットの繰り越しが可能
●クレジットは企業間での取引が可能
●NECによる規制緩和措置あり

中国では上記2つの規制を「デュアルクレジット規制」と呼んでいます。クレジットという言葉から推測がつくと思いますが、これらの目標は「ポイント形式」で管理されます(NEVクレジットの算出方法は少し複雑なので、次のセクションで説明します)。

自動車生産や自動車販売を行う企業は、年ごとに上昇するNEVクレジットの目標値をクリアする必要があります。NEVクレジットが足りない企業は、企業間で融通しあうか(原則、年度のNEVクレジットだけ)、あるいはCAFCクレジットと等価転用できる仕組みです。またCAFCクレジットも同様に企業間で取引できます(3年先までクレジットを繰り越し可)。またNEVの生産が多いほど、CAFC規制の基準が緩和される措置も取られています。

ちなみにCAFCクレジットは以下のような数式で算出されます。
■CAFCクレジット=CAFC目標値ーCAFC実績値×生産台数(または輸入台数)

少し複雑なNEVクレジットの算出方法

さて、ここからはNEV規制を中心に見ていきましょう。本規制ですが、前出のようにNEVを生産する、あるいは販売すると、NEVクレジットが与えられますが、この算出方法は車種(PHEV、BEV、FCV)によって異なります。基本となる共通式は下記の通りです。

■「NEVクレジット」=「ベースクレジット」×「効率係数」(BEVの場合は0.5/1.0/1.2)×生産台数(または輸入台数)

「ベースクレジット」については「電動航続距離」(E-Range)で決まります。また「効率係数」については、主に「電費」(100km走行の電力消費量)と「車両重量」で決定されます。詳細は割愛しますが、BEVの場合は下図のグラフから、ベースクレジットと効率係数が求められます。

ベースクレジット

効率係数

(出典:IHSマークイットの資料から再構成)

たとえば、電動航続距離が400kmの車両ではベースクレジットが5.0となり、電費が23.7kWh/100km以上かつ車両重量が2000kgの車両は効率係数が0.5になります。そこでNEVクレジットの全体係数は5.0×0.5=2.5となります。これに生産台数あるいは販売台数を掛けたものがクレジットの値(積分値)になります。

逆にNEVでない伝統的な車両(従来のガソリン車やディーゼル車など)を生産した場合はNEVクレジットがマイナス1となり、全体のクレジットが減ってしまうため、そのノルマぶんを補填しなければなりません。その際に、あるメーカーで補填が難しいときは、他社で余剰となったNEVクレジットを購入して穴埋めするわけです。こういったクレジット売買の考え方は、先進国が開発途上国の温室効果ガス排出量を取引するケースと似ています。実はNEVクレジットを購入する金額もバカにならず、メーカーの負担が大きいのです。

さて、ここまで説明してきたNEV規制は、あくまで2020年時点での現行ルールです。実は、すでに来年以降の規制に関するドラフトも発表されています。まだ最終決定ではありませんが、今後ルールが変更される可能性があります。次のセクションでは、最新ドラフトの変更点について確認しておきましょう。

より厳しい方向に向かう新NEV規制

環境保護やエネルギーの節約など、本来のNEV規制の目的に立ち返れば、当然の成り行きとして現行よりも新規制のほうが、より厳しい方向に進むのは明らかでしょう。

たとえば、NEVクレジットを算出する要素となるベースクレジットや効率係数は、その基準となる電動航続距離や電費を計測するテストモードが厳しくなるため、たとえメーカー側で従来と同じ生産・販売状況を維持できたとしても、結果的に計算上ではNEVクレジットが下がってしまいます。

つまり電動航続距離や電費も従来より良くするか、よりNEVの生産比率を高くする必要があります。ただし中国政府は、新たなNEV規制を厳しくするだけだなく、規制を緩和する施策も打つ予定です。というのも、あまりにも規制が厳しくて、メーカーから不満の声が上がっているという背景もあるようです。後ほどNEV販売動向についても紹介しますが、実際にNEVはあまり売れていないというのが実情のようです。

そこで中国政府としても「ブレーキを踏みながら、アクセルをふかす」という苦肉の策を取らざるを得ないのでしょう。たとえばNEV余剰クレジットは、従来までは翌年以降の繰り越しを禁じていましたが、2020年のみ100%繰り越せるように例外措置を取ったり(2019年の余剰クレジットが対象)、2020年に獲得した余剰クレジットを無条件で50%繰り越せる措置を取るなど、柔らかな政策も打ち出しています。また補助金削減や打ち切り計画もNEVの売上に悪影響を与えたため、2022年まで補助金を延長し、さらに自動車購入税の免除も併せて、NEV施策にテコ入れしようとしています。

一方で規制の緩和策にも着手

もう1つ、重要な緩和策があります。それは前出のCAFCにおいて、あらたに「低燃費車」というカテゴリーを設けたこと。たとえば来年の場合、従来の伝統的な車両を1台製造すると、クレジットがマイナス1ポイント換算で引かれてしまいます。しかし低燃費車を製造する場合は、その2台ぶんが伝統的車両の1台に相当するポイント換算になるため(マイナス0.5ポイント)、クレジットの減少率が伝統的車両よりも2分の1になり、クレジット的にも有利になります。2023年には、この比率が5分の1まで落ちます。

このような優遇策により、燃費の良いHEVに勢いがつくことになるでしょう。ここで振り返ってほしい点は、NEV規制はBEV、PHEV、FCVが対象であり、HEVはカテゴリーに入っていないことです。NEV規制が政策的に芳しくない状況のなかで、デュアル規制のもう1つの軸足であるCAFCのほうにも力を入れ、フルHEVやマイルドHEVを売ることで、全体の燃料消費量を減らそうという思惑があるのでしょう。

ただ中国メーカーは、自社傘下の専業EVメーカーなどに安価なEVを多く販売させて、そこでNEVクレジットを得る代わりに、燃費は悪くても高収益になる外資系のSUVを販売してクレジットを相殺させるという、いかにも中国らしい「抜け道?」も作り出しています。これで環境問題を解決できるかどうかはいささか疑問が残るところです。

NEVの生産/販売の最新動向

このように中国政府はデュアル規制を導入し、まさに走りながらNEVとCAFC両者のバランスとりつつ、なんとか国内メーカーに目標を達成させようとしている状況です。

ではNEV関連の販売動向はどうなっているのでしょうか? 最近のデータをピックアップしてみましょう。まずNEV販売数ですが、2018年第4四半期までは増加傾向でしたが、先に述べたようにNEV購入補助金が大幅に削減され、2019年夏を境に販売数が激減しました。さらに新型コロナウイルスによる影響も、生産と購入に追い打ちをかけています。

中国自動車協会産業情報部が発表した数ヵ月のデータを見ても、生産数と販売数の落ち込みは明らかです。2020年の上半期(1月~6月)のデータでは、NEV生産数は39万7000台(36.5%減)、販売数は39万3000台(37.4%減)で、そのうちBEVは生産数が30万1000台(40.3%減)、販売数が30万4000台(39.2%減)、PHVは9万5000台(20.0%)、8万8000台(29.8%減)でした。また中国ではFCVの需給がほとんどなく、390台(66.5%)と403台(63.4%減)という結果になっています。

ただ2020年6月時点の最新データでは、前年比マイナスではあるものの、新型コロナ禍からの若干の巻き返しが見られます。NEV全体の生産数は10万2000台(前年比25.0%)、販売数は10万4000台(33.1%減)で、そのうちBEV生産台数が7万9000台(31.9%減)、販売台数が8万2000台(37.6%減)、PHEVのほうは2万3000台(17.0%増)、2万1000台(6.0%減)でした。やはりFCVの生産は81台(83.9%)とわずかでした。

アフターコロナのトレンドはHEVか?

次に2019年の確定データになりますが、世界の主要メーカーごとのEV/PHEV自動車販売数トップ10 を以下のグラフに示します。ワールドワイドではテスラが強いのですが、中国勢も4社がランクインしています。

出典:兵庫三菱自動車販売グループのデータから再構成

中国メーカ―の筆頭は、電池メーカーのBYD(比亜迪)が母体の専業メーカーで22万9506台となっています。同社は中国初のPHEVセダンやBEVタクシーを生産した企業です。次にBAIC(北京汽車工業)が16万251台。ここはNEVだけを専門に生産する北京新能源汽車を擁しています。そのあとにSAIC(上海汽車)の13万7666台、Geely(吉利汽車)7万5869台と続きます。

次にEV/PHEVの人気車種(中国メーカー)ですが、北京汽車のセダンタイプEV「BAIC EU-Series」が11万1047台(+197.3%)でトップです。同社は2018年、2019年とウナギ上りに販売台数を増加させ、ついに1位に踊り出ました。今後の展開も期待できそうです。

出典:北京汽車ウェブサイト

2番人気は「BYD Yuan EV」の6万7839台(+90%)で、3番人気が「SAIC Baojun E100」の6万50台となっています。そのほかBYDは「BYD Tang PHEV」や「BYD e5」といったモデルも健闘しています。

出典:兵庫三菱自動車販売グループのデータから再構成

デュアル規制の達成度合い

最後にNEV/CAFCの目標達成度合についても簡単に触れたいと思います。中国汽車工業協会(中汽工)で発表されたデータでは、中国国内で生産または輸入を行っている自動車メーカー100社以上のうち、NEVは過半数、CAFCはほぼ半数がそれぞれ目標を達成しました。この結果はよいかどうか判断はつきませんが、逆に否定的な見方をすれば、まだ半分は目標を達成できていないことになります。

今後の動きとしては、先に紹介したとおり2021年から「低燃費車」というカテゴリーがCAFCで新設されるため、HEVの勢いに加速がつきそうな予感です。とはいえ、日本人として「ほら、HEVは日本が得意」などと油断することはできません。中国がある程度低燃費車を認めるのは、NEVへ移行する過渡期における猶予の策でしかないとも言えるのです。

(取材・文/井上 猛雄)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 本当に、中国政府が、中国メーカーにプラスにならない、HEVの勢いに加速するようなことをするのかなぁ?疑問。

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この記事の著者


					井上 猛雄

井上 猛雄

産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。「週刊アスキー」副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにエンタープライズIT、ネットワーク、ロボティクス、組込み分野などを中心に、Webや雑誌で記事を執筆。最近では、自動車もロボティクスの観点から「動くロボット」であるとして、自動運転などの取材も行っている。主な著書は、「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)など。

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