コバルトが要らない新世代の電気自動車用リチウムイオンバッテリー

世界で電気自動車の普及が進むにつれ、リチウムイオンバッテリーの需要が増えています。多くのバッテリーにはコバルトが使われていますが、その安定供給やより安価な素材の開発が課題になっています。全文翻訳記事でお届けします。

コバルトが要らない新世代の電気自動車用リチウムイオンバッテリー

元記事:Cobalt Banished From New Lithium-Ion Electric Vehicle Batteries by Tina Casey on 『CleanTechnica

電気自動車用バッテリーにコバルトを使うことの問題点

これから数年で何百万台ものゼロ・エミッション車両が路上を走行する準備が整いつつある中、コバルトよりも安価で潤沢な原料を探して作り上げるEV用バッテリーのレシピ競争が始まっています。パフォーマンスの向上にも一役買いそうですが、それは果たして可能なのでしょうか。アメリカの研究者チームは明らかにそう考えているようです。

離任するトランプ大統領は化石燃料のチャンピオンとして振る舞っていましたが、彼の在任期間中も、米国エネルギー省は近い将来国の経済に何百万台ものゼロ・エミッション車両を組み込むことを視野に入れ、EV用バッテリー計画を積み上げてきました。石油関連株保持者にとっては良いニュースではありませんが、過去4年間がある意味異常だったのです。

さてどこまで話しましたっけ。そうです、コバルトをEV用バッテリーから排除するという話です。エネルギー省はその方法を模索してきましたが、2019年に次世代EV用バッテリーの新計画を発表し、方針を固めました。エネルギー省はコバルトをサプライチェーンの観点から最もリスクのある原料としており、2019年の計画では使用するコバルトの量をゼロにすることに着目しています。

エネルギー省は「コバルトはリチウムイオン電池正極にもっともよく使われる原料の1つで、バッテリーの使用中に正極を安定させる重要な役割を担います」と説明する一方で「コンゴ共和国が世界のコバルトの58%を供給しており、そのうち80%が中国に行きます。中国はコバルト精製に関しては世界のリーダーであり、アメリカ合衆国がコバルト輸入をする主なサプライヤーです」と、コバルトに依存することのリスクを示唆しています。

サプライチェーンに関する基本的なリスクに加え、エネルギー省は他にも懸念を示しています。

コンゴでの掘削作業は環境保全、労働、保健、政治不安の観点から懸念のある状況でした。これらの要素がサプライチェーンの手に入れるコバルトの量に制限を加えて需要が逼迫し、リチウムイオンバッテリーの価格が急騰する恐れがあります。コバルトは短・中期では最も高いEVの原料供給リスクと考えられます。

電気自動車用バッテリーからコバルトをなくす

納得のいく話ですね。エネルギー省が表明した通り、コバルトフリーのバッテリーへの道はかなり進んでいるようです。「家電向けリチウムイオンバッテリー第1世代の正極には60%のコバルトが含まれていました。第1世代のEVバッテリー正極には33%、現在のものは15~20%のコバルトが含まれ、業界はコバルトの割合が10%のものを積極的に開発中です」とエネルギー省はまとめています。

ここまでは良いのですが、2019年のバッテリー計画ではやはり電気自動車市場の成長につれて出てくるサプライチェーン・リスクに関して警鐘が鳴らされています。コバルト含有率が10%であっても将来のサプライチェーン・リスクはあるのです。

コバルトフリーのバッテリー

2019年計画は将来を絶望視しているわけではありません。エネルギー省は自動車テクノロジー・オフィスの研究により、すでにEV用バッテリーパックのコストはたった数年で80%引き下げられ、直近の目標値として150ドル(約1万6,000円)/kWhが視野に入ったとしています。改善の余地もまだ大幅にあると言います。

「今のところバッテリー技術のパフォーマンスは理論的な限界値よりもかなり下のところに留まっています。ガソリン車に対しコスト面でEVが競争力を持つためには、バッテリーのコストを劇的に減らしてオペレーションのパフォーマンスを向上することが必要です。それを可能にするイノベティブな技術開発をすることによりチャンスが訪れます」とエネルギー省は説明します。

前線ではコバルトフリーの動きが出てきています。2018年までニッケルと鉄は最先端の蓄電研究で注目を集め続け、2019年にはIBMが新しいコバルトフリーのバッテリーを発表しました。この流れをさらに推し進めるため、エネルギー省の2019年計画は5千万ドル(約51億8,600万円)の補助金をバッテリー研究に出し、コストを下げてパフォーマンスを改善しながらもコバルトを他の物質に代替する目標を立てました。そしてこの投資の効果がすでに出始めているようです。

テネシー州にあるエネルギー省オークリッジ国立研究所が、最新のEV用バッテリー開発について12月に発表をしました。(正極原料である)ニッケル、鉄、アルミニウムから「NFA」と名付けられた新しいタイプの正極です。

元素記号表が手元に無い人のために説明しておきますが、鉄の元素記号はラテン語のferrumから来ており、NIA(Nickel, Iron, Aluminum)ではなくNFAとなるのです。

NFAの中身は、ニッケルがリチウム電池内のコバルト分量を減らす、または完全になくせることを示唆した研究をベースに作られました。オークリッジの主要研究員であるIlias Belharouak氏は、「ニッケル酸リチウムは正極用の原料として長い間研究されてきましたが、構造的、電気化学的に不安定な性質をもっています。私達の研究では、正極の安定性を増すために、ニッケルの一部を鉄とアルミニウムに変えました。鉄とアルミニウムはコストパフォーマンスが良く、サステナブルで環境にも優しい原料です。これら新型の正極は、充電が速くでき、エネルギー密度が高く、コストパフォーマンスが良く、長持ちする設計になっています」と語りましたが、ゼロ・コバルトのEV用バッテリーはそんなに早く実現できるものではないことも示唆しました。

Advanced MaterialsJournal of Power Sourcesに載せられた研究チームの発表から、興味がそそられる詳細は見られるのですが、興奮しすぎてはいけません。研究室の情報通り、NFA蓄電は研究の初期段階にあるのです。

……やはり、先走って興奮しても良いです。コバルトのパフォーマンスに代わるものを作り上げるというのは、EV用バッテリーのパズルの一部分なのです。別のパーツとは生産工程を簡単にするというもので、オークリッジは世界の正極生産ネットワークに放り込めるNFAのレシピを作り上げました。

誰が散らばったEV用バッテリーを片付けるのか

生産工程の裏には、廃棄(リサイクルの方が好ましい)の問題があります。エネルギー省は2030年までに1億台以上の電気自動車が路上に出ていると予測しており、車の寿命が比較的長いことを差し引いても、遅かれ早かれEV用バッテリーの処分が始まります。

リチウムイオンバッテリーのリサイクル市場はゆっくり成長してきました。IEEE Spectrumの友人によると、世界では2019年時点で18万トンのリチウムイオンバッテリーがリサイクルできたはずですが、実際には9万トン強しかリサイクルセンターに持ち込まれませんでした。

しかし助けが向かっているようです。IEEEによると、カナダのLi-Cycleは北アメリカ最大のバッテリーリサイクル施設を、ニューヨーク州ロチェスターの旧コダック・パーク跡地に建設するよう動いています。IEEEは、「施設は最終的に25キロトンの容量を持ち、95%以上のコバルト、ニッケル、リチウム、その他貴重な資源をゼロ排水・ゼロ排出で回収できます」と発表しています。

これは始まりに過ぎません。IEEEはコンサル会社のCircular Energy Storageを引用し、世界中で約100社がリチウムイオンバッテリーリサイクルの動きに入っているか、計画段階に入っているとしています。

新しいLi-Cycleリサイクル施設に乞うご期待。すごいものになりますよ。

(翻訳・文/杉田 明子)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. 応用化学の基本、電池量産の基本はレアメタルフリーやないですか!?
    コバルトはおろかリチウムですらレアメタル状態…それやから最近はナトリウムイオン蓄電池も研究開発されてまっせー!!
    http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_66/
    容量小さいから辞めろー言われても頑なにやり通す、そのストイックさはレアメタルフリーの願いとともにあるんですよ!?
    https://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201901toshiba/pdf/201901toshiba.pdf
    同じ話は東芝SCiBにも言えてますー。リチウムイオン蓄電池の価格破壊で一度は撤退した東芝も技術者の電池発火防止への願いがあってこそ出来たもの。いうたら情熱と技術の積ですわホンマ。

    今回ソース調べてて、ストイックなエンジニアあってこその電気自動車やー判った。彼らがギフテッド(高IQ)やったら保護せなアカンでーホンマ!!せやなきゃ日本沈没ですやん。

  2. コバルトフリーのリチウム電池ですか?

    リン酸鉄リチウム電池は、どうでしたかね?
    重いですが、これにテスラ社が切り替えを始めるとか?

    蓄電池の市販品にも、リン酸鉄リチウム電池は出回って来ましたが。

    1. 羽柴様、コメントありがとうございます。リン酸鉄LFPはまだまだ現役ですね。テスラも、最近モデル3のMICモデル(中国上海工場生産)に搭載を開始しました。寿命が長く、急速充電性能に優れているのですが、どうしても密度が低く、現状ローエンドモデルに搭載されているようです。切り替えるということはなく、共存していくのだと思います。なお電気バス等ではLFPが主流です。これはコストの問題。

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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