コロナウイルスが2020年の電気自動車産業に与える影響

コロナウイルス感染拡大の影響で経済や私達の生活がどう変わっていくのか、まだまだ不透明な事柄は多いです。短期的な自動車産業への打撃は避けられない状況ですが、電気自動車のセールスにはどのような影響が出るのでしょうか。『CleanTechnica』で2020年の動向予測に関する記事が出ましたので、全文翻訳でお届けします。

コロナウイルスが2020年の電気自動車産業に与える影響

元記事:The Impact Of Covid-19 On Electric Vehicles 2020 by Jose Pontes on 『CleanTechnica

コロナパンデミックによる日常の変化

初めは、中国で流行っている風邪のようなものでした。

それからコロナウイルスは世界に急速に広がり、世界保健機関(WHO)から2020年3月11日にパンデミックと認定され、多くの国で次から次に旅行制限や学校閉鎖など、多くのロックダウン政策がスタートしました。

時たま起こるパニック買いの他に(トイレットペーパーに殺到する人々の写真は、恐らくこのパンデミックの象徴として歴史に残るでしょう)、日常生活に起こった最も大きな変化は私達が移動をしなくなったことで、多くの人がリモートワークを始め(オフィスにいるのと同じように仕事を処理できることが分かりました)、出張はキャンセルされ(SkypeやZoomなどのビデオ・コールに取って代わられました)、通勤客や公共交通機関利用者数は3分の1かそれ以下になり、多くの人々の仕事が必要とされなくなって多数の一時帰休や解雇が起こりました。

コロナウイルスの悲劇は2段階で起こります。まず健康に関わるパンデミックが起こり、私達の生活を変えてしまうような事態を引き起こした後に、まるで地震後の津波のように経済危機を引き起こすのです。これは第二次世界大戦以来の激震と言われています。

「ではこのドラマチックな出来事から、EV革命はどのような影響を受けるのか?」というのが、ロックダウンの間に私達 EV Volumes が何度も聞いた疑問です。

安寧の時に変化は徐々に起こりますが、今のような混乱期には変化はドラマチックで予想もできなかった形をとる可能性があります。

そこで EV Volumes のメンバーは現在の状況をまとめたレポートを作成しました。

ヨーロッパ:5月の間にロックダウンは段階を踏んで解除され、自動車生産量も増えてきました。しかし4月の自動車販売数は80%減、EV販売数は17%減で、今も2ヶ月に渡るロックダウンの影響下にあります。

アメリカ:4月の小型乗用車販売数は47%減で、EVの販売数は55%減でした。テスラは5月18日か28日まで工場を閉めるように要求していた行政と対立して、5月11日にフリーモントにある工場を再稼働しました。テスラのセールスもこの動きに沿って引き上げられています。

中国:自動車市場は2月に昨年同月比80%減、3月に44%減を記録した後、4月には昨年と同水準に回復しました。4月の新エネルギー車両(NEV)販売は、テスラとBYDのセールスが低く、予想を下回りました(8万7,000台超え予想のところ7万1,000台)。

他の地域:日本は厳しいロックダウンを避けつつも緊急事態宣言を5月中に延長しました。4月の車両販売台数は30%減、EV販売台数は44%減でした。韓国は回復しつつあり、予備データを見ると自動車市場は4月に8%増で、EV販売台数は3,600台(昨年比プラスマイナスゼロ)に達しています。

私達は水晶玉を持っていませんし、タイムマシンもないので状況がどうなるのか確実な予測はできませんが、上の状況を鑑みつつ、経済危機の程度と中国で補助金がどの程度貢献するのかにより、3つのシナリオを作成してみました。

EVの躍進に関しては前向きに捉えられる

EVのセールスシナリオ。BAUはコロナ前の2020年予測。EV salesが最も可能性が高いとしているのは”High”ブロック内の数値。

• 現在最も可能性が高いのは、ヨーロッパ、アメリカ、その他の市場で2カ月のロックダウンがなされ、中国では2022年まで中央からの補助金を保ちつつも局地的なNEV補助金が再度導入されることです。ただしこれは段階的に減らされていきます。

• 2020年上半期で失われたセールスのうち20~30%の急速な回復を下半期で予測しています。

• EVのセールスはパンデミック前の2020年予想よりも7.8%減、2019年比36%増となります。

• 2020年の下降市場においてEVはICEよりも回復が早くなります。
→ EV部門基盤の強い成長;ヨーロッパでのCO2削減目標、中国都市での化石燃料車両販売への制限、安定・増加するヨーロッパでのEV用補助金、全地域におけるEV製品ラインナップの増加。
→ EVセールスの季節性;ほとんどが下半期に起こり、今年はロックダウン後になる。
→ 通勤客が公共交通機関を避け、将来の保証がある車両を必要とする;健康意識の高まり。
→ テスラが行政を無視し、フリーモント工場を再稼働してより多くの車両を生産。

• すべてのシナリオが2019年に比べ2020年にEVが世界的成長をすると示しています。

• バッテリーユニットのトレンドは大きめに留まります。BEVの平均的なバッテリー容量は2019年の54kWhから61kWhになるでしょう。

シナリオのさらに詳しいデータに関しては、私達のレポートサイト(EV-volumes.com)をご覧ください。

画像はイメージです。

さて、純粋な市場原理を見ると、EV革命は今後の数カ月で「しゃっくり」に苦しむかもしれませんが、その後は市場全体が弱ることによりマス層(ICE)よりも市場シェアを獲得しながら成長が戻るでしょう。

ただしこれはEV革命が止まらない、という意味ではありません。革命に遅れをもたらす暗雲は、自動車市場原理からではなく、世界的な政治がこの危機にどのように影響されるかによってもたらされるかもしれないのです。

生活のすべてではないにしろ、多くの面で混乱が起き、政治も永遠に変わりつつあるからです。

もう一度言いますが、安寧の時に変化は徐々に起こりますが、今のような混乱期には変化はドラマチックで予想もできなかった形をとる可能性があります。

BC時代(コロナ前:Before Corona)の政治トレンドはどのようなものだったでしょうか? メインストリームにいる政治家ほどEVに好意的でないポピュリストへの追い風があった一方で、特に若い人たちの間(その大部分がまだ選挙権を持たない年齢)でエコへの動きが活発になっており、気候変動危機に向き合うため迅速で急激な変化を求めていました。そのうちの1つが、特に公共交通機関での大きなスケールでのEV採択です。

現在の混乱によりこれらのトレンドは拡大し、メインストリームにいる政治家は大きく地盤を失うと思われます。ポピュリスト政党が勝てば、EV革命には向かい風が吹き、交通電動化が数年遅れることになるでしょう。

一方でエコへの動きが勝てば、化石燃料車両が禁止になる中、EV革命は数年分加速するでしょう。

今の混乱で誰が勝者となるのでしょうか? それはみんなが決めることです。言い換えると誰に政治の舞台で私達の代表になってもらいたいのか決めるのは自分達であり、EV革命のペースを決めるのも自分達だということです。

最後に、EV Volumesでの同僚のRoland Irle氏にご注目を。今回の記事のベースとなった、事実に基づいた素晴らしいレポートを書いてくれました。このビジネスに関する彼の深い理解と洞察力は計り知れません。EVに関してこれだけの情熱を持つ人物と共に働けることは精神が満たされる体験でした。Rolandに称賛を!

(翻訳・文/杉田 明子)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. ども。電気技術者です(電気工事士+電気主任技術者)
    僕がコロナ禍で不安になったのは変電所でのパンデミック発生によるブラックアウト!!
    既に北海道で地震ブラックアウトがあったがこれは一時で収まったからあまり問題視されてません…しかしコロナ禍で技術者が減って発電所変電所要因が確保できず維持できないレベルともなると停電は年単位の長期になるとも考えられます。ただでさえ電気技術者不足の昨今、しかも高齢化著しい現場なので電気系資格保有者は経験が少なくとも優遇されるのですが。
    下手をすれば電力線が廃止され「おらの村には電気が無エ!!」になることも…それくらい深刻なんです!!(吉幾三が過去歌った限界集落の歌が予言とも思えるレベル)

    己の妄想がひどくて申し訳ありませんが、何もしなければこれが将来の現実になる確率は高いと確信しています!だから「明日を乱す」つもりで書いてますが。
    そうなると電気自動車+V2H+ソーラー発電で自己防衛するのは当然と言えなくもないです。
    きっと本当の悲しみなんて自分ひとりで癒すものさ…渡辺美里[MyRevolution]じゃないですが、持続可能な社会を地方で作るならこうしないと。少なくともi-MiEV(M)+MiEVpowerBOX+3kWhソーラーがあれば実現可能と考えます。

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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