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「エネルギー安全保障」が不安定を招く/解決の鍵は再生可能エネルギー

「エネルギー安全保障」が不安定を招く/解決の鍵は再生可能エネルギー

EVシフトの大きな意義のひとつが「脱化石燃料=エネルギーシフト」を実現する方法であることです。イランによるホルムズ海峡封鎖の影響で、日本でも石油危機への懸念が広がっています。私たちは正しい選択ができるのでしょうか。アメリカのメディア「CleanTechnica」の記事を、全文翻訳で紹介します。
※冒頭写真はGoogleマップから引用。

【元記事】“Energy Security” Makes Us Less Secure. Renewables Are The Answer by Steve Hanley

目次

再生可能エネルギーは高コスト?

もしワシントンの腐敗した政府によって引き起こされた「中東での恐ろしい出来事」から導き出される教訓があるとすれば、それは「平和への道は武力や軍事侵攻、政権転覆によるものではなく、再生可能エネルギー(訳注)を通じて築かれるもの」ということです。テキサスA&M大学の大気科学の教授であるアンドリュー・デスラー氏は、「The Climate Brink」への寄稿で次のように記しています。
※訳注:トランプ政権による妨害にも関わらず米国での再エネは成長を続け、今回のイラン侵攻によりさらに重要性が増しているとする記事。

「化石燃料と再生可能エネルギーのコストを比べるとき、その議論はほとんどの場合、ガソリンスタンドでの給油価格や電気のキロワット時あたりの単価に集中します。それは理解できます。それらは目に見えるコストだからです。しかし、それがすべてではありません」

デスラー氏は、議論は通常、再生可能エネルギーへの補助金に集中しがちですが、化石燃料も同様に巨額の補助金を受けていると述べています。しかし、それらは政府の一般予算や医療費、防衛費などに分散しており、多くの人々が自分たちのエネルギーの選択と結びつけて考えることができないほど深く隠されています。それらが注目を集める場合でも、そのほとんどは気候変動や大気汚染による化石燃料への暗黙の補助金に向けられており、経済学者はその価値を年間数兆ドルと見積もっています。

化石燃料の隠れたコスト

「もう一つ、あまり語られない隠れた補助金があります。それが国家安全保障です。米国によるイラン攻撃を受けて原油価格が急騰する中、そのコストはもはや無視できません」

超党派の国家安全保障団体で、退役した軍高官らが率いる「Securing America’s Future Energy」によれば、国防総省の基本予算全体の約5分の1は、少なくとも一部は、ホルムズ海峡やスエズ運河、南シナ海の航路といった脆弱な要衝を通って石油が流れ続けるようにするために使われているとされています。

米国は毎年、世界の石油供給を守るために810億ドル(約13兆円)以上を支出しています。ですが、そのコストはガソリン価格には表れていません。つまりこれは、納税者が負担している補助金であり、その分だけ石油が実際よりも安く見えているということです。

この金額を米国の石油消費全体に均して考えると、1バレルあたり約11ドル(約1,800円)、ガソリン1ガロンあたりでは約28セント(1リットルあたり約11円)に相当します。その負担は、国防予算の中に隠れているのです。

デスラー氏によれば、一般的な1回の給油あたり、この補助金は約5ドル(約800円)に相当します。しかも、これはあくまで「戦争に備えるため」の費用にすぎません。実際に戦闘が始まれば、そのコストは爆発的に膨らみます。

2003年のイラク戦争にかかった費用は3兆ドル(約480兆円)と見積もられており、これは米国民1人あたりにすると約1万ドル(約160万円)近い負担になります。

デスラー氏は次のように述べています。

「すべてを合計して考えれば、化石燃料は決して安くありません。これまで安かったことなど一度もないのです。私たちはただ、そのコストを隠すのが非常にうまかっただけです。国防予算の中に、救急医療(訳注1)の現場に、FEMA(連邦緊急事態管理庁)の災害救援費(訳注2)の中に、という具合にです。しかも問題は、戦争そのものにかかる費用だけではありません。世界の石油輸送ルートを守るために何兆ドルも費やしていても、私たちは石油供給の混乱に対して、経済的に常に脆弱なままなのです。

なぜでしょうか?石油は世界共通の価格で取引される商品だからです。つまり、誰もが同じ価格の影響を受けます。世界のどこかで供給が乱れれば、価格はどこでも上がります。米国も例外ではありません。これは、米国が世界最大の産油国であるにもかかわらず起きるのです。

そのことは、まさに先週、現実の出来事として示されました。米国とイスラエルによるイラン攻撃の後、原油価格は急騰しました。ガソリン価格もそれに続いて上がっています。しかもこれは、世界の石油とLNG(液化天然ガス)のおよそ20%が毎日通過するホルムズ海峡が、紛争の激化によって直接脅かされる前の段階で起きたことです。

化石燃料を売り込む側は、あなた方にこのことを理解してほしくないのです。そして特に、太陽光発電や風力発電の価格が中東の出来事に左右されないという事実を、知られたくないのです。イランの石油インフラにミサイル攻撃があっても、テキサスの太陽光パネルやアイオワの風力タービンで発電するコストにはまったく影響しません。『燃料』である日光と風は無料で、自国で得られ、地政学的な混乱にも左右されないからです。」

訳注1:世界銀行の調査/PM2.5による健康被害のコストが2019年に年間8.1兆ドル(約1,291兆円)、世界GDPの6.1%に相当するとの推定。

訳注2:ニュージーランド準備銀行、ビクトリア大学の研究/気候変動に起因する異常気象に伴う過去20年の追加コストは年間平均1,430億ドル(約22.9兆円)との推定。

地政学的リスク

デスラー氏によれば、中国が政府主導で電気自動車を強力に推進している主な理由の一つは、中国が石油の大半を輸入に頼っており、そのことが非常に大きな地政学的リスクにつながっているからです。太陽光発電で充電する電気自動車は、化石燃料が生み出す国家安全保障上の問題に中国が対応するうえで、重要な手段になっています。

「いまでは、中国国内や世界の多くの地域で、太陽光と風力は新たな発電設備の中で最も安い電源になっています。それは補助金のおかげではなく、根本的な経済性が後戻りできないほど変わったからです。再生可能エネルギーこそが、エネルギー安全保障と経済安全保障の両方を実現できる、唯一現実的な道です。『掘って、掘って、もっと掘れ(Drill, baby, drill)』という考えは幻想にすぎません。しかも高くつく幻想です。掘削を増やせば、安全保障が高まるのではなく、むしろ痛みが増すだけです」

イランへのいわれのない攻撃によって、世界はLNGの供給を断たれました。カタール産の液化天然ガスは、欧州やアジアの多くの国にとって安全なエネルギー源と見なされていましたが、今やそれらの国々はエネルギー危機に直面しています。2026年3月5日、カタールは、エネルギー施設を狙ったイランの攻撃を受けてドーハの施設でのLNG生産を停止しました。これにより、インドからイタリアに至るまで多くの国々が重要なエネルギー供給源を失い、米国の主要産業でもコストが上昇する可能性があります。

デスラー氏はこう主張しています。

「化石燃料が可能にしてきたことを、ここで改めて考える価値があります。化石燃料は、この200年にわたって私たちの文明を支えてきました。しかし、再生可能エネルギーへの移行は、その歴史を否定することではありません。それは次の章であり、しかもより良い章なのです」

クルーグマン氏の見解

ポール・クルーグマン氏(訳注:ノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者、ニューヨーク市立大学大学院センター教授)も同じ考えです。2026年3月6日の自身のメディア(Substack)への投稿で、彼は「常軌を逸した米国大統領によるイラン攻撃は、再生可能エネルギーこそ必要だという強い根拠になった」と記しました。その理由は、再生可能エネルギーの方が環境への負荷が小さいからだけではなく、化石燃料への依存そのものが国家安全保障上の脅威だからです。

彼はこう述べています。

「これほど不安定な世界では、長距離輸送が必要な化石燃料に頼るよりも、太陽光や風力に頼る方がはるかに安全です。化石燃料は信頼性に欠け、しばしば搾取的で、しかもたびたび紛争地帯と化す地域にある国々から運ばれてくるからです」

義務教育を受けた人であれば誰でもクルーグマン氏の主張を理解できるはずですが、米国政府を率いる人々の大半はそれができません。

「現在の中東情勢は、世界のエネルギー供給にとって本質的に最悪のシナリオです。通常、世界中の石油供給の約20%がホルムズ海峡を通過します。そこは液化天然ガスや肥料の輸送にとっても極めて重要なルートです。その通路は現在事実上閉鎖されており、有効な代替手段はありません。石油業界の専門家は、数日以内に海峡が再開されなければ、石油供給の逼迫はさらに深刻になると予測しています」

クルーグマン氏は、原油価格が上昇する一方で、ガソリン価格はそれよりもはるかに速いスピードで上昇していると指摘しています。石油会社はこの状況を利用して追加の利益を搾り取っているのでしょうか? あなたはどう思いますか?

いわゆる「米国大統領」は、正気を保っているときでさえ再生可能エネルギーを攻撃しています。おそらくそれは、化石燃料業界が自分たちの私的な利益のために、彼の常軌を逸した言動を惜しみなく支援してきたからでしょう。しかしクルーグマン氏は、英国や他の欧州諸国は「もっと天然ガスよりも再生可能エネルギーのシェアが高ければよかったと思っているに違いない」と指摘しています。そうなれば、トランプ氏の妄想じみた振る舞いにも、中東戦争にも、今より振り回されずに済むからです。

選択肢は?

ジャーナリストのアラン・ビーティー氏は今週のフィナンシャル・タイムズの記事で、エネルギー政策を地政学的な対立の文脈で捉え、経済大国どうしの対立構図を次のように表現しています。

●米国から示されるのは、価格が米国の無謀な対外行動によって大きく乱高下しかねない化石燃料を、今後も燃やし続ける未来を前提とした通商協定です。
●中国から示されるのは、手ごろな価格で安定的に供給されるEVや、再生可能エネルギーを生み出すためのグリーン技術です。

クルーグマン氏はさらにこう述べています。

「各国に『燃やせ、もっと燃やせ(burn, baby, burn)』と迫る考え方の問題は、米国の無謀な対外行動だけではありません。トランプ氏のやり方に従うということは、結局のところ米国産LNGに頼ることを意味しますが、それ自体が安全ではないのです。トランプ氏、あるいは将来の“トランプ的な”大統領が、自分を不快にさせた国へのエネルギー供給を止めないと、本当に言い切れるでしょうか。私はそうは思いません」

「だからこそ、米国による対イラン戦争は、世界中の国々にとってエネルギー自立を目指す強い理由になっています。そして、大規模な化石燃料資源を持たない国々にとって、それは風力と太陽光(そしてもちろん原子力)を意味します。ドナルド・トランプが再生可能エネルギーの後押し役になるとは、いったい誰が想像したでしょうか?」

クルーグマン氏が最終的に言いたいのは、昔からある「意図しない結果の法則」です。別の言い方をすれば、「願いごとは慎重にした方がいい。思わぬ形で現実になるかもしれない」ということです。

再生可能エネルギーは、エネルギー安全保障につながります。

化石燃料は、常に誰かに首根っこを押さえられる状態につながります。

長期的に見て、自分や地域社会にとってどちらがよい戦略か?クルーグマン氏はそう問いかけています。

訳者あとがき【日本にも通じる重要な視点】

この記事では化石燃料に依存する危うさを説明していますが、国内で消費するほぼ全ての化石燃料を輸入に頼る日本のエネルギー安全保障にも通じることは、言うまでもありません。

訳者(八重さくら)の事務所は2019年に都心部から千葉県木更津市に移転し、屋根置きの太陽光発電と蓄電池、EVにより、ほぼ全てのエネルギーを自給自足しています。導入当時は初期投資のもとを取るには15年ほどかかる想定でしたが、ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー価格が高騰したことで、この期間は10年程度に短縮される見込みです。

国内では反再エネ政策やメガソーラーの反対運動を背景に懐疑論が再燃していますが、残念ながら懐疑論の多くは最新の科学的根拠や当事者の声を正確には反映していません。これらの懐疑論を見ると、価格とコスト(再エネ賦課金)、電源としての安定性、環境性、地政学リスクなど、多岐にわたる不確かな情報や無知に溢れています。

さらに3月になって反対運動が活発化している宇久島(長崎県佐世保市)のメガソーラーについては、直接の当事者である古くから島に住んでいる住人が賛成する一方で、外部から移住した活動家が反対している一面があるとも聞いています。

エネルギー自給率の向上、そして毎年数十兆円に上る化石燃料による国富の流出を削減するためにも、「科学的な根拠」に基づいた冷静な議論が求められます。

翻訳・文/八重さくら

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この記事を書いた人

現在は主にTwitterや自身のブログ(エコレボ)でEVや環境に関する情報を発信。事務所の社用車として2018年にテスラ モデルX、2020年に三菱アイ・ミーブを購入し、2台体制でEVを運用中。事務所には太陽光発電とテスラの蓄電池「パワーウォール」を設置し、車と事務所のほぼすべての電力を太陽光で賄うことを目指しています。

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