EV昼充電推進プロジェクトとは? ランチャージ・キャンペーンに参加してみた

EV放浪記2.0【012】 愛車Honda eを走らせつつEV関連の話題をレポートする連載の第12回。EVは昼充電で!というプロジェクトが始まりました。脱炭素を目指す取り組みだそうです。充電といえば夜と思い込んでいましたが……。「EV昼充電推進協議会」を訪ねてみました。

EV昼充電推進プロジェクトとは? ランチャージ・キャンペーンに参加してみた

太陽光発電量が多い昼間のほうがCO2排出が少ない

この案件、「EVごはん」を主宰するマーケティング・コンサルタントの石井啓介さんから概略をお聞きして、「面白そう! 私みたいなシロウトにもわかるように教えてください」とお願いして取材にうかがいました。EV昼充電推進協議会は、石井さんと株式会社電力シェアリングの代表取締役CEO、酒井直樹さんが共同代表を務めていて、2023年10月23日から「EV昼充電推進プロジェクト」(特設サイト)をスタートさせています。

酒井さんは、元東京電力社員。移籍したアジア開発銀行で、大規模な太陽光発電所の建設や、無電化地域でのエネルギー地産地消のシステム作りなどに携わってきたそうです。2017年に株式会社電力シェアリングを起業して、省エネや再エネ発電の促進に取り組んでいます。充電スポット周辺のグルメ情報を共有するEVオーナーの交流サイト「EVごはん」と石井さんは本ブログにも何度か登場していただいているので、ぜひ関連記事を読んでみてください。

お話をうかがった酒井さん(左)と石井さん(右)。

早速ですが、なぜ夜ではなくて昼なのでしょうか。その理由は単純明快でした。

「石炭・天然ガスを使う火力発電の比率が高い夜間よりも、太陽光発電などの再エネ電力が多い昼間にEVを充電したほうが二酸化炭素(CO2)の排出量が少なくて済むからです」(酒井さん)

酒井さんの電力シェアリングは、電力消費によるCO2排出量を測定する技術の特許も取得しているそうです。電力各社が公表している発電データから計算したCO2排出量の昼夜の差を教えてもらいました。東京電力管内では、火力発電が主体となる夜間に1kWhを発電するために排出されるCO2は600g。一方、太陽光発電が稼働する昼間だとCO2排出量は400g/kWh。なんと3分の2。「ざっくりとした推計」だそうですが、時間帯が変わるだけで、かなり違うんですね。

一日の電源構成の変化を示すグラフを見せてもらいました。茶色のところが火力発電、赤色が太陽光発電、水色が水力・風力など太陽光以外の再エネ発電を示しています。悪天候の時などは比率は変わりますから、あくまでも平均的なイメージ。でもこの結果、再エネが多い時間帯には、炭素強度(CO2排出量)も減っています(右のグラフ)。

てなわけで、昼間の方が脱炭素なのは一目瞭然なのですが、気になったのがピークタイムです。これからの寒い季節だと事情は少し違いますけれど、夏は気温が高くなってエアコン(クーラー)利用が増える昼間(13~16時)に需要が高まりますよね。EV充電はピークタイムを避けた方が良くないのでしょうか?

「現状の需給バランスなら大丈夫です。夏季に気温が上がってエアコンを動かしたくなるような天候だと、普通は太陽光の発電量も増加しています。ケースバイケースではありますが、多くの場合、日中の太陽光発電の供給能力は需要を上回っているんです」(酒井さん)

足りなくなるどころか、エリアによっては太陽光発電の「出力制御」が行われる日数も増えていて、どちらかというと昼間は供給過剰気味とのこと。このため、政府がEVの「昼充電シフト」に乗り出したのだそうです。

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「今回の昼充電推進は環境省からの委託事業ですし、経済産業省も今後、電力小売各社に、日中の方が安くなる家庭向けの電力プラン提供を求めていくと聞いています」

ちょっと意外でした。EVは夜に充電するもの、という先入観があったからです。もちろんクルマは昼に乗ることが多いですし、複数の電力小売会社が夜間電力を使うリーズナブルな充電プランを設定しています。個人的にも、需要が少ない夜間は電力の有効活用になると思っていましたが、CO2排出量という観点では、逆行していたということなんですね。

もうひとつ見せてもらったイラストは、クルマが1km走行した時のCO2排出量を示しています。もちろん車種によって燃費や電費の違いはあるので、こちらも概略図。でも、EVを走らせるなら、夜充電より昼充電のほうが地球にやさしい。

できれば再エネ電力で充電した「ゼロドラ(ゼロエミッション・ドライブ)」を、と思っても、私のように集合住宅に住んでいると、太陽光パネルを設置するわけにもいきません。非化石証書を組み合わせてグリーン電力を供給している充電サービスを使うという手もあるものの、まだまだ系統電力を使っている充電器が圧倒的多数です。

でも単純に、日本全国どこででも、昼に充電するだけで、ちょっとは脱炭素に貢献できるのです。その上に、リーズナブルな充電プランが増えてきたら、「EVは昼充電」が常識になってくるかもしれません。

EVごはんの「ランチャージ」キャンペーン

石井さんが昼充電をアピールするため、「EVごはん」のWebサイトでスタートさせたのが「TRY!ランチャージ・キャンペーン」です。「充電時間をもっと楽しく」という趣旨はそのままに、昼充電の投稿を募集しています。「ランチ+チャージ」で「ランチャージ」という語呂合わせですね。投稿の協力者には全員にオリジナルステッカー、抽選で20名にオリジナルTシャツのプレゼントが用意されています。

二人のお話を聞いて、さっそくHonda eで「ランチャージ」に参加することにしました。

せっかくチャージしに出掛けるので、この機会に、以前から気になっていた充電スポットを試すことにしました。JR京浜東北線大森駅の近くにある「山王ハマセイホウ」です。アプリで見ると6kWの普通充電器が設置されているのですが、「ハマセイホウ」という名前の意味がわかりません。なんだか動物っぽいですけれど、そんなわけないですし。

行ってみると、ハマセイホウはマンション名でした(まぁそうですよね)。駐車場に入る通路に充電器を発見。邪魔にならないようになるべく寄せて止めます。アプリで充電をスタートさせてから、ランチスポットを探しに行きました。

ふらりと迷い込んだのは、大森駅の南側にある「山王小路飲食店街」。レトロな雰囲気がナイス。シンガポール料理店で「海南チキンライス」をいただきました。店に置いてあった雑誌で知りましたが、この一角はハマったら抜け出せない呑みスポットらしく、通称が「地獄谷」だそうです。気になる方は、クルマを置いて夜に訪ねてみてくださいね。

もちろん、EVごはんにも投稿しました。

帰りには「大森貝塚」にも立ち寄りました。1877(明治10)年に、横浜から東京に向かう汽車に乗っていた動物学者のモース博士が、車窓から貝殻の層を見つけて発掘が行われた場所です。教科書で習った「日本考古学発祥の地」。線路のすぐそばに石碑が立っていて、このぐらいの距離なら見えたかも、と思えます。

「ランチ+チャージ+お散歩」でなかなか充実した時間が過ごせました。ランチャージには、30分制限のある急速充電器ではなく、のんびりできる普通充電器の方が向いているかもしれません。

という感じで、なかなか楽しめる「昼充電」ですが、自宅充電ならやはり夜のほうが便利でしょう。お得な充電プランの登場を待ちつつ、機会あらば昼に、という感じで取り組んでいこうと思います。いずれにせよ「昼充電」というのは、これからよく聞くキーワードになりそうですね。

私のHonda e(2023/12/3現在)

総走行距離 4万7155km
平均電費 9.3km/kWh

取材・文/篠原 知存

この記事のコメント(新着順)11件

  1. 昼間の帰宅時にeKクロスEVを充電する自営業電気管理技術者ですー。
    そもそも自宅ソーラーが昨年FIT切れ…7円/kWhの安い電力で3時間8kWh貯めれば大抵事足りまっせ。訪問先は大抵往復70km以下ですし。
    深夜電力安いんも今は昔、ソーラー発電の普及で自家消費を考えねばなりまへん…幸い電気技師かつ自営業やからすぐピンときて実行した次第。
    電力会社との電力融通を減らしオフグリッド運用に近づけるほど自ずとEV昼間充電メインになりますー。深夜充電は冬季繁忙期でもない限りしてまへんで!!
    たぶん今EVに乗ってる一般人のEV充電環境にソーラー発電付き邸宅住まいの方は結構いるんやないですか!?…サクラ/eKクロスEVの場合3割が該当してるらしいですし。

    1. 電研鑽種ヒラタツさま

      いつもコメントありがとうございます。
      たしかに自宅あるいは仕事場で太陽光充電というのがEV運用としては理想的ですね。集合住宅住まいなので個人的には難しいのですが、プロセスやゴールを意識するかどうか、でいろいろなことが変わってくるような気もしています。

  2. 脱炭素に対して、残念ながら日本は社会的なコンセンサスが得られてないように思います。例えば、二酸化炭素排出量に対する課税である炭素税は1トンあたり289円ですが、フランスは約6100円、イギリスは約2900円です(平成29年環境省のデータ)。桁が違います。また、国内排出量取引制度を日本は導入していません。それだけでなく、ガソリンに補助金を出したり、トリガー条項の発動を議論するなど、脱炭素化と逆方向を向いているように見えます。
    こんな状況の中で脱炭素への意識を高めるには、利用者の利益につながる対策のほうが効果的です。現在EVなど低炭素排出車に補助金を出していますが、そういう車ではなく戸建てや集合住宅、事業所に太陽光パネルの設置のための補助金を出したほうが電気代の低減につながり、脱炭素のメリットを実感できると思います。そのほうが石油の消費量が減り、地政学リスクも減るでしょう。自宅で発電できれば、それを利用するためのアイデアや技術が進みます。その中のひとつとしてEVの購入者も増えると思います。

  3. 篠原さん、ご無沙汰です。面白い取り組みですね。こうやって「見える化」していただけると、わかりやすくて良いですね。

    私のBEVは、私が2022年から電車通勤に変わったこともあり、太陽の南中時、つまり太陽光発電が最大になる時間帯を1時間強使って充電しています。遠出したときの継ぎ足し充電を除くと、日常使用のBEVの電力は100%カバーできています。「走るときはPVパネル部分を外して出かける『ソーラーカー』」と化しています。

    1. 箱守さん、ご無沙汰しております。
      コメントありがとうございます!
      専門家には物足りないかもしれませんが、私には面白かったです。
      おっしゃっていただいた通り「見える化」って大事なのですね。
      電源構成のグラフを見せてもらって、パッと理解できました。

      夢のソーラーカーを実現されていたとは!(笑)
      いつかぜひ試乗させてくださいね。

  4. EVは自宅の深夜電力でほぼ100%運用しています。理由は深夜電力のほうが昼間電力よりずっと安いプランで契約しているためです。
    脱炭素も大事ですが、私のように経済性を重視しているEV乗りでは、わざわざ高いお金を払って昼間に充電しようとは思わないですね。卒FITの方にはいいかもしれませんが。
    昼間の充電に対して、料金を割引するなどの取り組みが始まることを期待します。具体的には、イオンの50kwhで30分300円くらいの価格だとお得感があります。

    1. リーフX乗りさま
      コメントありがとうございます。

      私のEVシフトも、デザインに惚れての衝動買いでして、けっして脱炭素のためではありませんでした。昨今の時事問題とリンクして徐々に意識するようになってきた感じです。EVに乗ることで「へえ、そうなんだ」という学びがかなり増えたので、そこは面白く感じています。
      それぞれが好きなクルマで楽しくドライブできるという幸せな環境が、できるだけ長く続くことを願っています。

      昼充電のプランについては、まちエネという電力サービス会社が、9〜15時が安くなる「デイタイムバリュープラン」をいち早く設定しています。同時に「毎晩充電し放題!CO2フリープラン」(環境省補助金対応)というのもあったりするのでややこしいですが(笑)。さまざまな昼充電プランが出て、選択肢が増えていくといいですね。

  5. >もうひとつ見せてもらったイラストは、クルマが1km走行した時のCO2排出量を示しています。

    ガソリン車、EV以外に ハイブリッド車が対象としてないのは、なぜでしょうか?

    ハイブリッド車はガソリン車に回生ブレーキを乗せたものであり、EV化の効果を測るには必要不可欠かと感じます。

    ハイブリッド車とEV車(夜充電)の結果に差がなかったのではないかと疑ってしまいます。

    1km走行時CO2排出(g)の記事は御社のブログでも記載があり、最後の表、新型プリウス(ハイブリッド)と日産ミーフ(EV)が変わりない結果となってます。

    https://blog-evsmart-net.cdn.ampproject.org/v/s/blog.evsmart.net/electric-vehicles/electric-vehicle-eco/?amp=&amp_gsa=1&amp_js_v=a9&usqp=mq331AQIUAKwASCAAgM%3D#title04

    回答頂けたら幸いです。

    1. 酒井 敏行さま
      コメント&ご教示ありがとうございます。

      おっしゃる通り、燃費のいいハイブリッドだとCO2排出量は下がります。
      国交省の燃費ランキング(令和3年末時点)1位の
      トヨタヤリス(WLTCモードで36.0km/ℓ)を
      2018年の記事の計算式にあてはめると64.4gです。
      なので、ヤリスを入れるとしたら上のイラストでは
      昼充電に近いところに納まるのだろうと思います。
      ハイブリッドも進化していますね!

      EV昼充電推進協議会さんにご説明いただいた時に拝見したイラストで、
      私としては新鮮でしたし、読み手の理解を助けると思ってお借りしました。
      燃費・電費は内燃車もEVも車種や乗り方によって違いますし、
      あくまで概略図とご理解ください。
      特にハイブリッドのことは触れませんでしたが、意図があるわけではなく、
      誤解があったとしたら、筆者の私の文章力不足です。恐縮です。

      最近よく「昼充電」という言葉を聞くようになりました。
      この記事は、昼充電と夜充電の違いについて記述したもの
      とご理解いただければと思います。
      引き続き、ご愛読のほどよろしくお願い申し上げます。

    2. 原発止めてる以上ハイブリッドの方が良いデータが出るからに決まってるじゃないですか。

    3. 篠原様

      ご丁寧な回答ありがとうございます。

      >私としては新鮮でしたし、読み手の理解を助けると思ってお借りしました。

      はい、非常に興味深い内容だと思います、何度も目を通してしまいました。ピークシフトなら夜間の電気料金は安くできる、しかしco2排出の観点で見ると 太陽光発電できる昼間に充電の方が有利、直感的にも正しい内容だと思います。

      現状の日本では70%は co2を排出する発電となってます。それを自動車の中で燃やそうが、発電所で燃やそうはco2排出量は変わらない。回生ブレーキの有無がco2削減の重要なファクターだと思います。そしてそれを最初に実現したのは ハイブリッド。EV推進のブログですが、数字を扱う記事はもうちょっとハイブリッドのこと気にかけてもいいのかと思います。

      掲載した資料について。嘘は書いてない、EV推進の協議会であるということを前提としても、このグラフでハイブリッドの項目を入れてないことはco2排出削減の組織が提出したものとしてはあまりよろしくないかと思います。うっすら無知な人を騙すものに見えます。

      散々けなすようなこと言ってしまいましたが、昼間充電の方が co2は排出量が少ないという内容は素晴らしいですね。
      >EVは夜に充電するもの、という先入観があったからです。もちろんクルマは昼に乗ることが多いですし

      そうなんです、だから、あんまり政策効果無いかと思ってました。けどこれ昼充電を安くする&常識を見直せばいいだけです。
      私は EV を持ってないんですが、昼間に充電ケーブルをつないだら 夜間充電がされるように 通常は タイマー設定してるんですよね?このブログでタイマーによるトラブルを散見します。昼間運転ユーザーはこのストレスから開放されますね。帰ったら昼でも夜でも即充電。EV充電の細かいストレスから開放されますね。想像になります、誤ってたらごめんなさい。

      最後に現在では ハイブリッドと夜充電&EV では co2排出が差がありませんが、昼充電ではアドバンテージとなる。この調査結果は真のエコとなるco2削減のためEVの政策提言に関与されてるEVsmartブログ様として重視する内容かと思います。

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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