電気自動車普及の状況は古典的な『S字カーブ』の常識を凌駕する!

先日紹介した「オズボーン効果でもうすぐエンジン車が売れなくなる?」と題した自動車産業の電気自動車シフトに関する経済分析の記事に大きな反響をいただいています。その中で出てきた、新しいテクノロジーがマーケットに浸透する際の『S字カーブ』について、米国の運用会社 ARK Invest が分析した記事がありました。

電気自動車普及の状況は古典的な『S字カーブ』の常識を凌駕する!

『新しいテクノロジーのS字カーブは、新しい物好きの人がマス市場に認知される前に飛びつくことで緩やかにスタートし、変曲点に来るまで増大し続け、市場の大半を獲得します。最後に、ラガードと呼ばれる新しいテクノロジーに最も鈍感な層が他の選択肢がなくなって追いついてきます。大まかに言うと、0%から1%への成長にかかる時間は、1%からカーブが再びフラットになるまでの時間とほぼ同じです』

という見方が、S字カーブの常識とされていました。しかし今回の分析によると、電気自動車のS字カーブは典型的なものではないようです。それでは ARK Invest の分析について、翻訳しながら解説してみたいと思います。

元記事:Electric Vehicles Are Outperforming the Traditional S-Curve Dynamics by Sam Korus, ARK Analyst from ARK INVEST

注)文中で使われる電気自動車(EV)は今回純電気自動車(BEV)のみを指しています。

電気自動車(EV)、特にテスラは通常の『S字カーブ』の形を踏襲していないようです。ARKの研究結果では、EVの成長は既存の自動車産業のメインストリームを奪いつつあり、中でもテスラがリードをしていると分析しています。

下のグラフで見られるように、イノベーションが起こる際の採用カーブにおける、典型的なS字カーブは、新しいテクノロジーが市場に浸透するに従い成長が鈍化します。

典型的なイノベーション採用のS字カーブの形に反し、EVセールスの成長は2013年の60%から2018年の79%まで成長しており、EVが市場規模を広げていることが下のグラフからも分かります。

少ないプレーヤーが大きなシェアを獲得する可能性

急激なEV市場の成長に、多くのアナリストは虚を突かれました。4年前、アメリカ合衆国エネルギー情報局(EIA)やその他情報予測機関は、EVセールスが2020年代初頭に年数十万台になると予測(※リンク先全英文記事)していました。2018年にセールスが145万台に届くと、同じ機関群は予測を2023年に約400から450万台に増加すると修正し、成長が昨年の79%から、次の5年間が年間平均25%に減少するとしました。

しかしライトの法則(※リンク先全英文記事)を元にARKが予測をした結果、EVセールスは2023年に2600万台と、予測機関で合意された数字の6倍になり、年間成長率は78%になりました。

ARKの市場変革に関する論文では、バッテリー価格が下がるにつれ自動車メーカーがEVを生産する方向にシフトし、その価格は既存店でのガソリン車の店頭表示価格と同等まで下がるとされています。

面白いことに、急激に拡大する市場では、企業が売り上げ成長を維持しながら、シェアを失うことが起こりえます。つまり、特定の会社やブランドがシェアを独占する以上の速度と規模で、市場全体が拡大していくということです。下のグラフで見られるように、Appleは世界で一番利益を出すスマートフォンメーカーになる過程で、80%以上の市場シェアを失いました。

現在までに、テスラはただでさえ普通ではない市場で「異端児」になっています。下のグラフを見ると、EV市場は2013年以降11倍に成長していますが、そのほとんどの部分においてテスラが市場シェアを維持していることが見て取れます。

ARKはテスラが長期にわたって市場のハイエンド側を支配し続けながらもAppleと同じようにシェアを失っていくと予測しています。ベア(相場的に弱気な)予測では、次5年間でテスラは3分の2のシェアを失い、その数値は17%から6%に下がります。その間セールスは年間47%の成長を見せ、2018年の24万5千台から2023年には170万台まで増加するでしょう。ブル(相場的に強気な)予測では、テスラのシェアは17%から11%に下がり、セールスは年間65%で成長して300万台になります。

EV市場の現在のトレンドを見ると、企業はバッテリー生産量を増やそうとしてはいますが、市場全体で供給困難に陥っていると見られます。さらにトップダウンモデルとボトムアップモデルがどのように作用するのか見ておかなければなりません。もし供給困難な状況により市場全体のサイズが制限されているとしても、これが必ずしも同じ比率で特定の会社の市場サイズを小さくすることにはなりません。

EV競争が一部のものであったアメリカにおいて、テスラは生産量を増大し、市場を大きくし続け、市場におけるシェアを2013年の38%から2018年の80%まで増やしました。供給が制限された環境では、一般に考えられるよりも少ないプレイヤー(企業)が大きなシェアを持ちえます。さらに複合要因として、車両がよりソフトウェアに依存するようになり、これがめざましく市場統合を進める可能性があります。

競争激化はテスラに恩恵をもたらす可能性があります。EVを売ろうとする既存の自動車企業はパフォーマンス、トータルでかかるコスト、車を常により良い状態にする無線ソフトウェアアップデート等、EVがガソリン車よりもいかに優れているかを顧客に納得させなければなりません。一度EVに舵が切られたら、顧客はさまざまなEVから選択をすることになり「テスラが競争に勝てる」とARKが予測するポイントに焦点が当たることになるでしょう。

(翻訳・文 杉田 明子)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 年間走行距離と燃料費、そして電気自動車、ガソリン車、ディーゼル車のコストの差で決まってくる。特に車格が大きくなると、電気自動車はまだまだ燃料差額が埋められない程に高価であり、よっぽど好きでないと乗れない。バッテリー劣化時の交換費用も未知の分野で、不確定要素が多すぎる。

    1. ママスアンドパパス様、コメントありがとうございます!
      そうですね、コストはデザインやブランド、形と同様、最も重要な四要素のうちの一つだと思います。実は電気自動車、車格が大きいほど燃料差額が埋められるんですよ。。
      BMW 330iとテスラモデル3 SR+(ミッドサイズセダン)、メルセデスベンツGLE 450 4MATIC SportsとテスラモデルX LR(SUV:サイズを合わせました)を比較します。
      BMW 330i 6,320,000
      Tesla Model 3 SR+ 5,110,000
      Mercedes GLE 450 4MATIC Sports 11,320,000
      Tesla Model X LR 10,910,000
      燃料費ですが、年間1万キロ走行することにすると、
      https://www.fueleconomy.gov/feg/Find.do?action=sbs&id=41157&id=41416&id=40681&id=41514
      ※燃料費比較ではGLE 450の代わりに400を選択しましたが、これはガソリン車に有利に働くと思います。
      BMW 330i 10,000 / 30mpg x 150円/l = 117,600円
      Tesla Model 3 SR+ 10,000 / (100miles / 25kWh) x 30円/kWh = 46,600円
      Mercedes GLC 450 4MATIC Sports 10,000 / 20mpg x 150円/l = 176,400円
      Tesla Model X LR 10,000 / (100miles / 35kWh) x 30円/kWh = 65,300円
      結局、すでにプレミアムカー同士で比較すると、車両価格も維持費も電気自動車のほうが安いと言えますよね。もちろんこの比較では、車の性能は除いています。動力性能はもちろん電気自動車のほうが遥かに上、内装の豪華さは既存ブランドのガソリン車のほうが遥かに上です。

      じゃ最後に国産車同士比較してみましょう。
      プリウスE 2,518,560
      プリウスAプレミアム 3,175,200
      リーフe+ X 4,162,320
      結構違いますね!この点はおっしゃる通りです。燃料費も計算してみましょう。同様の前提で
      https://www.fueleconomy.gov/feg/Find.do?action=sbs&id=41161&id=41276
      プリウス 10,000 / 52 mpg x 140円/l = 63,300円
      リーフe+ X 10,000 / (100miles / 31kWh) x 30円/kWh = 57,800円
      燃料費の差は年間5500円(リーフのほうが得)。10年でも元は取れないですね。まあプリウスは90kW、リーフは160kWですからRAV4と同じくらいの出力があり、パワーや乗りやすさは比べ物にはなりませんから、そのあたりが比較のポイントなのでしょうね。

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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