水に浮く「FOMM」が第二弾EVを発表
趣向を凝らしたコンセプトカーなど、いろいろと見どころのあったJAPAN MOBILITY SHOWですが、EVを中心に取材したなかで、個人的に印象に残ったのが「次世代モビリティ関連」エリアにブースを構えていたFOMMでした。
同社が2019年からタイで生産している小型EV「FOMM ONE」は、災害時に水に浮くのが特徴。EVsmartブログでも取り上げたことがある(関連記事)ので、ご記憶の方も多いでしょう。日本でも販売されていて軽自動車として登録できます。(編集部注※FOMM ONEで首都高を走ってみたレポートもあります)
EV第二弾としてお披露目された「FOMM TWO Concept」には、同社が開発に取り組んできた技術や目指しているデザインが盛り込まれ、次世代モビリティの魅力を感じられるクルマになっていました。
最初のデモンストレーションは「パラレル・モーション」と名付けられたカニ走りでした。FOMM TWOの前後ギリギリにFOMM ONEが止められています。ちらっと見ただけで、何回切り返せば……とドライバーをうんざりさせるシチュエーションですが、デモでは、FOMM TWOのタイヤが4輪とも90度回転したかと思うと、スーッと真横に移動して出てきてしまいました。縦列駐車が苦手という人もこれなら楽々ですね。
続いて披露されたのは、その場でのUターン「ロータリー・モーション」。一度正常位置に戻された4輪は、続いて前輪がハの字、後輪が逆ハの字になるようにセットされます。ドライバーがスイッチを入れると、その場でゆっくりと回り出しました。ハンドル操作は不要で、自動で旋回してくれるそうです。最小回転半径は1.9メートル。つまり車の全長と同じ。これ以上鋭いUターンはできませんね。
会場のカーペットにタイヤの通過した跡が残っていましたが、同心円を描いていました。従来のクルマでは考えられないような挙動を可能にしているのはインホイールモーター。同社が追求しているのは、こうした技術をフルに使った「全方位自動運転機能」だそうです。狭い空間を自由自在に移動するイメージが浮かんできました。
変則的な座席配置で4人乗り
独特なのは走行性能だけではありません。FOMM TWO Conceptは4人乗りなのですが、シートは前1席、後3席という配置。運転席は中央にセットされています。最初に見た時は、前後2席ずつにしない理由がわからなかったのですが、後部3座席のうち中央席は後方に、窓際2席は前方に大きくスライドするようになっていると聞いて、なるほどと思いました。
座席はダイヤモンド型に配置されると、パッセンジャー2人の前には前席の背もたれなどもなく、広い空間が広がっています。後部中央のシートも前後調整により幅を広げられ、足元には十分なスペースが。前席は後ろ向きにもできて、対面してくつろげる空間が出現します。限られた室内スペースをどう使うか、新しいデザインの提案なのでした。
社長の鶴巻日出夫さんが説明してくれました。鶴巻さんはトヨタ車体でトヨタ「コムス」の開発にも携わった小型EVのスペシャリストです。
「その場旋回やカニ走りはもう少し先の話で、コストの問題などもありますし、FOMM TWOはまず、普通のサスペンションのものを販売します。商用タイプで、価格は200万円以下を目指したいと思っています」(以下、コメントは鶴巻さん)
量産車はバッテリー交換式の採用も
そのFOMM TWO商用タイプに新機能として組み込むのが、「バッテリーコンテナ」という交換式バッテリーシステムです。あらかじめ充電しておいたバッテリーコンテナを載せ替えることで、極めて短時間でクルマを満充電の状態にすることができます。
コンテナの実物も展示されていました。FOMM ONEに使われている約12kWhの駆動用バッテリーが銀色のケースに収めてあります。車輪が付いていて、押して動かすことができます。100Vと200Vの電源も取れるようになっていて、プレスデーには来場者向けに開放。パソコンをつないで充電している人もいました。
車体のデザインは、コンセプトカーとほぼ同じ。ただ1人乗りとして、後部はすべて荷室に。その上でバッテリーコンテナを助手席の部分に載せるそうです(積み下ろしにはリフターが必要)。かなり斬新な取り組みに思えますが、実証実験も重ねてきています。
「スズキのエブリィをバッテリーコンテナ仕様の電気自動車にして、実証実験を昨年末から実施しました。そのコンバージョンEVはいまでもNTT西日本さんが使ってくれています。交換時間が2分で済むので、空いている時間に充電しておけばいい。かなり便利で、いろいろなところから引き合いがあります」
想定しているのは太陽光発電を活用したフリートマネージメントです。太陽光パネルが有効なのは昼間。でもクルマが拠点に戻ってくるのは夜間。ソーラー電力でフリートを運用するには別の蓄電池が必要になるわけですが、バッテリーコンテナなら昼間の余剰電力で充電しておけます。ランニングコストの面でもメリットがありそうですね。
「12kWhというと少なく感じるかもしれませんが、電費が結構良いので、120kmぐらいは走ります。コンバージョンEVは、配送会社にも3ヶ月ぐらい使ってもらったんですが、100km走れば十分ということでした。デリバリーはある程度ルートが決まっています。もっと走らなくてはならない時も、拠点に戻ってくれば2分で交換して、また新しい荷物を載せていくことができます」
鶴巻さんたちは、可搬式のバッテリーコンテナが普及することで、災害時に支援できる範囲が広がることも利点だと考えています。
「万一の時にEVを蓄電池として使うことができますが、車が入れないような場所もある。そういうところにもニーズはあるのかなと思っています。他にもバッテリーコンテナはいろいろなことに活用できるのではないかと、実践的に試しているところです」
FOMM TWOは、床下にバッテリーを収めて急速(CHAdeMO)と普通(J1772)の給電口を備えたタイプも作るそうなので、将来的にはニーズに合わせて選択できるようになるということですね。
もうひとつ。同社のブースには、超急速充電ができる「スーパーバッテリー」のプロトタイプも展示されていたので紹介しておきます。エストニアのSkeleton社製で、360kW級の充電器を使えば、2分間の充電で100km走れるそうです。最大900kW級とされるCHAdeMoの次世代規格CHAoJiなら、さらに爆速で充電可能。いまのところコストの問題などで市販や量産の見通しは立っていないそうですが、こんなバッテリーとそれに対応した充電インフラが普及すれば、「充電待ち」という概念はなくなってしまうのかもしれません。
FOMM TWOは、2026年ごろにタイで量産して日本とタイで販売できるように計画中。国内の型式認定も申請するそうです。カニ走りコンセプトカーは、即発売されるわけではありませんでしたが、量産車に盛り込まれる技術や思想がしっかりとイメージできました。
取材・文/篠原 知存