東京でも無料で自動運転EVバスに乗れる! BOLDLYが羽田で新車種『MiCa』の運用開始

これまでEVsmartブログでも紹介(関連記事)してきたBOLDLYの自動運転EVバスの運行が、昨年末より羽田空港で新しい車両となる『MiCa』を用いて開始された。実際に乗車してきたのでその印象もあわせて報告する。

東京でも無料で自動運転EVバスに乗れる! BOLDLYが羽田空港で新たに『MiCa』の運用開始

羽田空港隣接の複合施設で無料運行

ソフトバンク株式会社の子会社であるBOLDLY(ボードリー)株式会社と羽田空港(東京国際空港)に隣接した大規模複合施設「HANEDA INNOVATION CITY」(以下、HICity=エイチ・アイ・シティ)を開発・運営する羽田みらい開発株式会社が、HICityで2023年12月25日から自動運転EV『MiCa(ミカ)』1台の通年運行を開始した。なお、HICityでは2020年9月から『ARMA(アルマ)』での運行を行っており、自動運転EVバスとしては2車種目の投入。どちらの車種でも運賃は無料だ。

HICityは、「羽田空港第3ターミナル駅」からわずかひと駅の「天空橋駅」に直結しており、「イノベーション」の文字通り、先端モビリティセンター、研究開発施設、先端医療研究センター、水素ステーションなどに加え、ホテルやライブホールも備えた複合施設となっている。

紫のルートがMiCaの運行ルート、少し小さい青いルートはARMAの運行ルート。

そんなHICity内の1周約1.2kmのルートをMiCa は10分で1周するスケジュールが組まれている。バス停は「Zepp Haneda」や190台収容の東側平面駐車場に近い「アーティストビレッジ前」の発着を基点とし、HICityの中央に位置する「ZONE J 入口」、天空橋駅に近い「ZONE B 入口」の3カ所。ZONE B 入口はMiCaの運行開始にあわせて新設された。1日12便が10:30から16:33まで運行している。

BOLDLYは2016年の設立。「UPDATE MOBILITY」を理念に掲げ、自動運転技術を活用した持続可能な移動サービスの実現に向け、自動運転車両運行管理プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」を開発・提供して、全国各地(兵庫県神戸市、茨城県境町、福島県田村市など)で実証実験を行うなどの取り組みを進めている。また、今回運行が始まったMiCaの日本での販売も行っている。

羽田みらい開発とBOLDLYは日本初の自動運転バスの通年運行を2020年9月よりHICity内で実現した。これまでに1万2000便以降を運行し自動運転バスの乗車人数として過去最多の6万3000人以上の実績があるそうだ。

今までの実績を支えたのはフランスの旧NAVYA(ナビヤ)社製のEVバス「ARMA」だ。ARMA の簡単なスペックとしては、全長4.76m、全幅2.11m、全高2.65m、定員は11名(安全のためのオペレーター含む)といったところだ。

MiCa(車両スペックなどの詳細は後述)とARMAの最も大きな違いとして挙げられるのは、MiCa がレベル4自動運転に対応するための最新の設計を採用していること。BOLDLYの運行管理プラットフォーム「Dispatcher」との連携を前提とした車両設計のため、最新の遠隔監視システムによる運行と相性がいい、最先端の自動運転バスになっている。

現在HICity内を運行しているのはMiCaの1台のみだ。ARMAの運行は2024年4月以降に再開予定になっている。

自動運転だがオペレーターは同乗

MiCaはエストニアのAuve Tech(オーブテック)社製の小型EVバスで、車内にハンドルはなく、7つのLiDARセンサー(前5、後2)と8台のカメラにより車両の周囲状況を把握し、自動または遠隔操作での障害物回避機能を搭載している。ルート上に駐車車両などの障害物があった場合には、 一定の範囲内で障害物を自動で避けて走行することもできるなどレベル4の自動運転に適した性能を備えているのが特長だ。

フロントのLiDARセンサーは、昆虫の触覚のように飛び出ているところの上下に2個ずつとナンバープレートの少し上の黒いところの計5個が設置されている。

ただし現状のHICity内での運行では、必ずオペレーターが乗車している。進路上に駐車車両や道を横断する歩行者がいた場合は自動で停止するプログラムになっているため、オペレーターによるパネルやコントローラーでの運転操作が必要となるためだ。

MiCaは全長4.2m、全幅1.8m、全高2.5m、車重は1660kg、定員は8名(オペレーターを含む)、最高速は25km/hで、17.6kWhのバッテリーを搭載している。本国仕様のドアは右側にあるが、日本仕様は左側として、各国の交通事情に合わせている。

実際に乗車してみた

バス停に停まっていたMiCaは、「バス」という言葉から想像するよりもとても小ぶりな印象だ。車体は白をベースにHICityのイメージカラーである水色と紫の爽やかなラッピングが施されている。

左側がフロント。

路線バスにはワンステップバスが多くなってきたが、MiCaの車内に入るには2ステップが必要だ。床下にバッテリーやモーターを搭載するEVとはいえ、今後のひと工夫に期待したいところだ。観音開きドアの内側には手摺りが無いので、足腰の弱いお年寄りは少し乗り込みにくいかもしれない。

車椅子用のスロープを固定できるような装置も無いように見えたし、もしスロープを設置できたとしても2ステップ分を上げなければならないため、電動のウインチが必須になるだろう。ドアには緑色の開閉ボタンが、車外と車内に設置されている。

前のシート。

座席配置は、前後に3席ずつとドアの反対側の側面に2席の計8席で、オペレーターは後の右側に乗車する。ハンドルもアクセルもブレーキもない。オペレーターは専用席に設置されたコントロールパネルとコントローラー(Xboxのそれ!)で操作する。

コントローラー。

4面を大きなガラスに覆われ、ルーフの一部もガラスになっている車内は明るく開放感がある。室内高も2mくらいは確保されており、かがむことなく立ったまま移動できる。

もちろん冷暖房も完備している。冬は晴れていれば太陽光で車内は自然に暖かくなるそうだ。一応暖房も試したそうだが、オペレーターさん曰く「弱い温風が少し出てくるだけだった」とのこと。冷暖房の性能はそこそこといったところのようだ。真夏は大きな窓が仇となり、灼熱の車内にならないか、少し心配にはなった。

HICity内の1.2kmのルートは、完全な屋外とビル内の半屋内のルートがおおよそ半々の割合で組まれていた。屋外は最高12km/h、ビル内は最高8km/hで走行する。バス停での停車時間を含め1周10分と時間に余裕を持った運行スケジュールだった。

結構忙しいオペレーター

「自動運転EVバス」と聞くとオペレーターは、万が一の際に緊急停止させるためだけに乗車していて、基本的に何も操作はしないのかと思っていたが実際は違っており、オペレーターの操作は意外に多かった。

ほとんどの操作はオペレーターの目の前に設置されたパネルで行う。乗客が乗り込んだら、ドアを閉め、パネルで行き先の設定(プルダウンで選択)、発車(GOボタンを押す)、次のバス停に到着したらドアを開けて乗客を入れ替えて、という一連の作業を繰り返す。

走行中の操作パネルの写真。左上の「8」は時速。その右側の「Zone J」が行き先、発進は「GO」を押した後にその右側の「アクセル」を上に引き上げると発進する。写真のようにアクセルを全開にしてもプログラムされた最高速までしかでない。

一時停止箇所では必ず停車するようにプログラムされているので、毎回発車作業が必要だ。その際、オペレーターは後部の座席にいるため、周囲の確認は目視に加え、3つのモニターに映し出されるカメラの映像を確認する。左右のモニターは、外側が通常のドアミラーのように後方の映像を映し、内側は車両前方の左右の死角を確認できる。上部のモニターの上半分は車両前方を、下半分は車両後方を映し出している。

バス停からの発車時などでは他の一般車がいる場合、先に行かせることでゆっくり運行するMiCaの後ろを走らせないようにして、一般車のドライバーにストレスを感じさせないような配慮もしている。

MiCaの発進はスムーズで怖さは感じなかった。しかし一時停止では毎回「かっくんブレーキ」で止まるのが少し残念だった。

コントローラーでの操作は、前述のように駐車車両を避ける時(滅多にない)や、運行の基点となる「アーティストビレッジ前」に戻ってきた際に後退で駐車する時(毎回必須)のみだ。コントローラーでの後退はスピード調節がなかなか難しいそうだ

バッテリーは、1日12便の運行で最大でも50%までしか消費しないので、充電は1日の終わりにのみ行う。

車内上部の2箇所に設置されたモニターでは、プログラムされたルートや車両が把握している周囲状況、車両ステータスが確認できる。この写真の状況では速度が5.8km/hでステアリングは右に2.8度切られていていることが分かる。

さらなる発展を遂げてほしい

BOLDLYは、HICity内での運行とは別に、HICityと羽田空港第3ターミナルをつなぐコースでも自動運転EVバスの運行を行っている。また前述のように全国各地での実証実験で実績を積み上げている。

現在日本では運転士不足により、全国的にバスの減便や廃線が広がっている。日本バス協会は2030年時点で、約3.6万人のバス運転手が足りなくなると発表しているので、公共バス交通衰退の勢いは加速すると思われる。

BOLDLYによる自動運転バスの運行において、オペレーターは普通運転免許所持者がMiCaやARMAの運転資格を取得すれば、2種免許は必要ではない。したがってオペレーターはバス運転手になるよりはハードルが低く、人員も集めやすいだろう。今回の乗車体験で、オペレーターに必要なのは安全な運行ができる技術や資格はもちろんのこと、乗客に対する思いやりやコミュニケーション能力だと感じた。

BOLDLYによる自動運転バスは、HICityの1周1.2kmや茨城県境町の往復約8kmのように、地域の小さなコミュニティで、住民の移動の利便性を高めるに有効だ。その上で市区町村間などもっと大きな範囲でのバスの運行は、バス会社にお任せするなどと役割を分担すれば、ドライバー不足への有効な対策になるのではないだろうか。

さらに、将来的にオペレーターは乗車せず遠隔での監視と操作で、複数台を一人のオペレーターにより運行できるようになれば、運用や管理コストも抑えられる。決まった運行ルートを走るので、走行中給電を実装して充電不要とすることもそれほど難しくないはずだ。

日本では、NTTが2025年以降に自動運転バスの運行を計画していたり、ホンダも2026年から東京都内での無人タクシーの運行を始める予定であるなど、自動運転に関しては今後数年で大きな進化を遂げることが期待される。

その中で一番住民に身近な移動を支えるソリューションとして、BOLDLYの躍進を今後も見守っていきたい。

広報ご担当者との一問一答

最後に、BOLDLYの広報を担っているソフトバンクの担当者との一問一答を紹介したい。

Q. HICityでの実証実験の意義は?
自動運転バスのショーケースとして常に最新の車両を体験できる場所、公共交通の新しいビジネスモデルを発信する場所にしていきたい。またHICity内のルートは、みなし公道でありながら、交通量が比較的少なく一方通行で走行しやすいため、実験を行うのに最適な環境です。警察の理解を得られていることも大きいと考えます。

Q. HICity での今後の展開計画
2021年からHICityと羽田空港を結ぶ公道ルートの自動運転バスのレベル2での実証実験を実施しています。今後は羽田空港を含むルートでの自動運転レベル4の運行を目指しています。

Q. HICity 以外の地域での今後の展開計画
HICity内で行う自動運転バスの取り組みを他の地域に横展開し、全国各地で公共交通の課題解決に向けて取り組んでいきたいと考えています。

Q. ARMAでの運行を含めて今までに事故が発生したことは?
運行中の事故は起きていません。

Q. 無料で運行している(できている)理由は?
従来のバスのように運賃を取る、という考えではなく、「横に動くエレベーター」というビジネスモデルを描いています。デパートなどの建物の中を縦に動くエレベーターにお金を払う人はいないのと同じように、バスが人を誘導することで収益が増える地元の商店や施設に費用を負担してもらう形が理想です。HICityの場合は、エレベーターと同様に施設管理費のようなイメージで自動運転バスの事業費が組み込まれています。

Q. 境町など他地域を含め、一般ドライバーからの苦情はないか?
今のところほとんどありません。自動運転バスは時速20km未満で走行していますが、バス停を細かく設けることで、自動運転バスがバス停に停止している間に一般車が自動運転バスを追い抜けるように工夫しています。日々、町民や事業者の理解や協力を得ながら、運行をしています。

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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