2019年第3四半期のグローバル「e-モビリティ」資金に関するレポート

電気自動車を含め、世界の交通機関電動化への投資額はどんどん増えてきています。2019年第3四半期時点での「e-モビリティ」を取り巻く資金のレポート記事が『CleanTechnica』に掲載されました。全文翻訳でお届けします。

2019年第3四半期のグローバル「e-モビリティ」資金に関するレポート

元記事:Global e-Mobility Funding Report — Q3 2019 by Maarten Vinkhuyzen on 『CleanTechnica

2019年第3四半期のe-モビリティ関連取引総額は40億ドル

2019年第3四半期のグローバルe-モビリティ資金に関するレポート( The Global e-Mobility Funding Report ) によると、45の電気自動車会社に27億ドル(約2,980億円)の資金が集められました。実際にはこれ以外に18あるEV関連会社がファイナンス面の詳細を明かしていないため、この数値はさらに大きくなります。

CleanTechnica のパートナーでもあり、この無料公開されているレポートを作り始めた EVBoosters は、2019年第3四半期の取引全体が40億ドル(約4,400億円)になったと見積もっています。これは2019年の取引1件当たり6500万ドル(約72億円)という数値をベースにしています。

2019年の始め3四半期で、少なくとも134のe-モビリティ会社が87億ドル(約9,600億円)の資金を調達しました。EVBoosters の創始者であり、電気自動車市場のエキスパートである Paul Jan Jacobs 氏によると、2020年1月1日までに、電気自動車会社への投資は全体で150億ドル(約1兆6,500億円)を越えたと言います。

電気自動車会社への投資は、特にベンチャー・キャピタル・ファームや既存自動車産業プレイヤーから来ています。EVBoosters によると、2020年はヨーロッパとおそらく中国で、『電気自動車の年』になります。セールスの増加開始に備えて、最もEV開発で利益を出しそうな会社はどこか、投資資金は行き先を探してきました。今のところe-モビリティの生産、レンタルやライドシェアリング会社が熱いセグメントとなっています。

第3四半期では、さらに多くの会社や投資家が現れましたが、記録を塗り替える程の大口の投資家は現れませんでした。新しいアイディアを模索するため、新規事業用の7桁以下の投資は見られました。

フォルクスワーゲンvsトヨタ戦記は続く

(自動車)最大手2社の険しい道は2019年の下半期も続きました。フォルクスワーゲングループCEOの Herbert Diess 氏は、会社の総力を挙げて電気自動車への移行を早めてきました。フォルクスワーゲングループは生産と投資の目標を増やし続けています。Diess 氏はテスラに同じペースで付いて行き、長期的には追い越して再び世界1位になることを目指すと世界に発信しています。

e-モビリティ投資に関しての注目すべきニューカマーはトヨタです。プラグイン市場を長い間無視し続け、顧客からの強い要求に応えてようやくPHEVを出した後、トヨタは電気自動車生産と市場参入を中国で開始しました。トヨタはさらに2つのe-モビリティ会社に共同投資しました。失望させられるくらい遅いですが、トヨタが動き出したのは良いことです。

投資家は安全牌を切っている

e-モビリティは2つのエリアに分けられます。自動車メーカー、バッテリーメーカーとそのサプライヤーが1つ、2つ目は充電に関するすべての会社でオペレーションのエリアになります。既存の自動車サービス部門とガソリンスタンド会社は、新しい電気自動車時代に向け再投資をしなければなりません。

電気自動車生産会社が一番人気

一番大きく投資を集めたのはラグジュアリー自動車メーカーです。テスラが成功し、これからはこの最も成功した電気自動車会社との競争の道になります。テスラと反対の路線、すなわちそこまで車にお金をかけたくない人達用の、小さく、軽い車両(例えばドイツのアーヘンにあるe.GO)の市場は、新規参入者に大きく間口を開けています。

しかし既存の戦略とは異なった、彼らの電気自動車戦略に投資家の興味を惹くのはさらに難しくなります。新しいアイディアを持つ企業がいつも、既にある市場に破壊力を持って入ってくることを鑑みると、これは奇妙なのですが。

電気自動車ライドシェアが2番

2番目に投資が集まったのは、安いシェア用の2輪車です。これはまったく新しいセグメントで、大都市における旅行者向けの自転車から始まっており、好きな場所で借りて乗り捨てができます。自転車、モペッド、キックボードの電動化で、新しいビジネスが生まれたのです。大手四輪レンタル会社である Hertz、Avis、Sixt などは、まだe-モビリティに積極的ではありません。四輪のシェアライド市場に関しては、マドリードの ZITY や Car2Go など少数の先駆者がいますが、成功するには市にバックアップしてもらう必要があります。

充電設備提供のための投資不足

充電産業、特に充電プロバイダーへの投資が十分になく、この部門の不足は深刻化しています。充電産業にとって、鶏が先か卵が先か、という問題が起こっています。充電器製造のビジネスモデルは産業内で普通の構造で、機器が売れたらお金が支払われます。しかし電力小売り会社が充電器をうまく活用するのは、かなりハードルが高くなります。

セールスの土台が構築されてから何年も経たないと利益が出ないので、充電機器の売り手は電気自動車のドライバーが将来多くなるのを確実にせねばなりません。しかし充電ネットワークなくして電気自動車の買い手は増えず、電気自動車の買い手なくして充電をする顧客は増えないのです。店だけ開けて何年も顧客を待ち続けるのは、リスキーでお金もかかる計画です。

Fastned のような、この分野を始めた第一陣は環境意識が非常に強い会社でした。二番目に来たのが Ionity のような、自動車メーカーから経済的支援を受けている会社です。そして現在、石油・エネルギー会社が充電プロバイダーを買収していますが、ステーション構築と会社買収はイコールにはなりません。

ヨーロッパ単体でも、1万台以上のDC急速充電器ステーションをできるだけ早く作らねばなりません。これに加え、100万台のパーキングや深夜充電用のレベル2充電器(普通充電器)も設置される必要があります。さらに正確に言うと、ヨーロッパは毎年100万台のレベル2充電器を設置していく必要があります。しかし投資家はe-モビリティにとって不可欠なこの部分を回避しているのです。

資金を最も集めた企業トップ3

投資家に大きな資金を出すよう説得に成功した会社に加え、この四半期には新星も現れました。

Lixiang Automotive

Lixiang は第3四半期で最も資金集めに成功した会社で、5億3千万ドル(約585億円)が投資されました。コンセプト、デザイン、生産、販売、サービス、レンタル、カーシェアリングなど、すべて1つの会社で行っており、テスラと同じ統合型ビジネスモデルを採用しています。この第3四半期の資本金調達成功で、新規株式公開をしました。

Byton

画像はByton公式サイトより。

Byton は2017年に、元BMWと元日産のヨーロッパ人マネージャー達によって創業された中国の電気自動車会社です。ここの車名には遊び心があり、まず M-Byte(SUV)、K-Byte(セダン)となっています。街中用の小型車両として、4ビットがついた G-Byte、T-Byte が次に出てくる車両名になるのは間違いないでしょう(メガ、キロ、ギガ、テラの頭文字で車名ができている)。

Bytonはモデル3及びモデルYと同じ市場を狙っていますが、そのスタイリングはより伝統的なものに仕上がっています。

Rivian

R1S。画像はRivian公式サイトより。

去年の資金集め王者は Rivian で、2019年に30億ドル(約3,300億円)を集めました。主な投資元はフォードとアマゾンです。フォードは自社の電気自動車開発に Rivian の技術を使う予定で、一方アマゾンは10万2千台のデリバリー用電気バンを発注しました。Rivian のピックアップトラックである R1T とその弟分である R1S SUV はここ数年で最も豪華な新しいモデルに数えられています。デザイナーが電気運転と大きなバッテリーが存在することによるアドバンテージをすべて上手く使いこなした点で Rivian の車は特別な存在です。エンジンやドライブシャフトが無い故のデザインは、多くのデザイナーが真似したがるものになっています。

Bird

Birdの電動キックボード。

Bird とその電動キックボードに関しては…… なんと言えば良いのでしょう。電動化される前は、2つの小さな車輪に乗った板に、ポールでハンドルが付けられたこの物体は、小さな子供の玩具と見られていました。ようやく歩き方が分かるような年の子供用です。ところが今では電動キックボードと呼ばれ、 都市部で大流行しています。間違いなくとても楽しい乗り物なのです。安全面と実用性に関しては、まだ意見が分かれるところですが。

Ola Electric

インドでの Uber 的な存在が Ola です。2017年の5月に、Ola の電気自動車は産声を上げました。成功はしたのですが、電動人力車をアプリに入れるだけではなく、他にも多くの仕事をする必要がありました。インドでは多くの他の国のように、電気自動車と充電器に関して鶏が先か卵が先かのような問題があります。両方がお互いを待っていました。Ola Electric Mobility はその両方を手がけ、インドに特化した解決策を出してきました。例えば電動人力車用のバッテリー交換サービスなどです。

Volta Charging

巨大な資金を投資家から取り付けることに成功した会社がいくつかある中、この四半期で彗星のごとく現れた会社があります。
(1)ショッピングエリアに顧客を引き付ける、(2)良く見える場所に広告板を設置して、人が普通に持っている『何かをただで欲しがる』という欲望を満たす、という戦略で、Volta Charging は広告主とショッピングモールの店にお金を出させ、無料の充電器を提供すると言うビジネスプランを打ち出しました。オリジナルのプランで成功したこの会社は、新たなスターとなったのです。

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グローバルe-モビリティ資金に関するレポートは、データに基いたテクノロジーを提供する EVBoosters により作成されており、 Venture IQ にサポートされています。

レポートはご連絡先を入力いただければ EV Treasury Room (世界の電気自動車市場開発に関するレポートと調査を収める非商業目的のデジタル・ライブラリー)からダウンロードできます。EV Treasury Room からは、他のe-モビリティ資金に関するレポートも無料で見ることができます。

(翻訳・文/杉田 明子)

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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