ホンダが新型軽乗用EV「N-ONE e:」の発売を正式に発表しました。気になる価格は、急速充電ポートがオプションの「G」が269万9400円。フル装備の「L」が319万8800円です。日産サクラなどと比べるとコスパは良好。事実上ガチンコの競合車種はヒョンデ「インスター」やBYD「ドルフィン」などのコンパクトEVです。
待ちに待った軽乗用EV「N-ONE e:」の正式発売
2025年9月12日、ホンダが新型軽乗用EV「N-ONE e:」を発売、メーカー希望小売価格などを明示しました。N-ONE e: の正式発売や国産メーカーで初めてプラグアンドチャージ(PnC=充電ケーブルを挿すだけで充電が始まり課金まで完了する仕組み)を実現した「Honda Charge」などについては、別記事でレポートしています。また、軽乗用EVとしての魅力や特長については、先行情報サイトを確認しつつまとめた記事があるので参照してください。
今回の記事では、コンパクトEVとしてのコストパフォーマンスに注目して、ライバルとなる車種を考えてみます。
※記事中に表記の価格は税込金額です。
正式に発表されたバッテリー容量は29.6kWh。先行して発売された軽商用EVの N-VAN e: と同じです。先行情報で「270km以上」とされていたWLTCモードの一充電走行距離は、N-VAN e: が245kmだったのに対して「295km」と発表されました。
N-ONE e: 発売の記事などでは、同じ軽乗用EVである日産サクラや三菱 eKクロスEV を「ライバル」とする論調も見受けられます。でも、EVとしての性能とコストパフォーマンスを考えると、サクラや eKクロスEV はすでに競合車種とするには力不足。むしろ、ヒョンデ「INSTER(インスター)」やBYD「DOLPHIN(ドルフィン)」といったコンパクトEVこそが、N-ONE e: にとってガチンコのライバルであることがわかります。
EVとしての基本性能をシンプルに比較
サクラと eKクロスEV はいわゆる兄弟車で価格帯もほぼ同じなので、N-ONE e: 、サクラ、インスター、ドルフィンの4車種で、基本的なEV性能や価格、コストパフォーマンスを比較する表にしてみました。
お手頃EV車種比較表
メーカー | ホンダ | ホンダ | 日産 | 日産 | ヒョンデ | ヒョンデ | BYD | BYD | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
車種 | N-ONE e: | N-ONE e: | サクラ | サクラ | インスター | インスター | DOLPHIN | DOLPHIN | ||||
グレード | G | L | X | G | Casual | Lounge | Baseline | Long Range | ||||
価格 | ¥2,699,400 | ¥3,198,800 | ¥2,599,300 | ¥3,082,200 | ¥2,849,000 | ¥3,575,000 | ¥2,992,000 | ¥3,740,000 | ||||
CEV補助金 | ¥574,000 | ¥574,000 | ¥574,000 | ¥574,000 | ¥562,000 | ¥562,000 | ¥350,000 | ¥350,000 | ||||
実質価格 | ¥2,125,400 | ¥2,624,800 | ¥2,025,300 | ¥2,508,200 | ¥2,287,000 | ¥3,013,000 | ¥2,642,000 | ¥3,390,000 | ||||
総電力量(kWh) | 29.6kWh | 29.6kWh | 20kWh | 20kWh | 42kWh | 49kWh | 44.9kWh | 58.56kWh | ||||
円/kWh | ¥91,196 | ¥108,068 | ¥129,965 | ¥154,110 | ¥67,833 | ¥72,959 | ¥66,637 | ¥63,866 | ||||
一充電走行距離 | 295km | 295km | 180km | 180km | 427km | 458km | 400km | 476km | ||||
急速充電性能 | 50kW ※オプション | 50kW | 30kW | 30kW | 77kW | 77kW | 65kW | 85kW | ||||
普通充電性能 | 6kW | 6kW | 2.9kW | 2.9kW | 10.9kW | 10.9kW | 6kW | 6kW |
各車種それぞれ、ベースモデルと高価モデルの2グレードをピックアップしました。数字だけが並んだ表では直感的に比較しづらいと思うので、各車種の価格帯(CEV補助金適用例)をプロットした散布グラフを作成してみました。
価格帯比較グラフ
搭載するバッテリー容量(総電力量)は、サクラ(eKクロスEVも)が20kWhに対して N-ONE e: は29.6kWhと約1.5倍です。でも、価格帯はほぼ同じ。カタログスペックの一充電走行距離も、サクラが180kmに対して N-ONE e: の295kmはおよそ1.6倍になっています。29.6kWhは過度な「大容量」ではなく、軽EVとしての軽快さをスポイルすることはないでしょう。と考えれば、サクラが N-ONE e: のライバルとして「力不足」というニュアンスは理解いただけるのではないでしょうか。
さらに、充電性能も段違い。急速充電はサクラが最大30kWに対して、 N-ONE e: は50kW。普通充電性能もサクラは最大3kWですが、N-ONE e: は6kWでのいわゆる倍速充電が可能です。最近はレジャー施設などでも6kWの普通充電器を設置するところが増えています。公共スポットでの充電料金はおおむね急速よりも普通のほうが安いのも注目ポイント。バッテリーが小さい軽EVで6kW充電できるのは、使ってみると身に染みる便利さだと思います。
バッテリー容量1.5倍のEVが同程度の価格で買えるなら……
N-ONE e: のライバルは日産サクラなどの軽EVではなく、ヒョンデやBYDのコンパクトEVであるという理由はどこにあるのか。ポイントを確認していきます。
容量あたりのコスパで海外勢が圧倒的優位
EVsmartブログでは、EV車種のコスパを把握する手段として、車両価格をバッテリー容量(kWh)で割った「円/kWh」にしばしば注目しています。実際の車両価格は装備内容などの要素が影響するのであくまでも目安ではありますが、大容量の駆動用バッテリーはEV車両価格の大きな割合を占めるものだし、総電力量はEV性能に直結します。
「円/kWh」で示したコスパ指標(CEV補助金は算入していません)を、割高な順に並べてみました。
お手頃EV車種のコスパ指標
日本の自動車ユーザーとしてはちょっと切ないほどに一目瞭然。N-ONE e: は9〜10万円/kWh程度とそれなりに健闘していますが、6〜7万円/kWh程度のインスターやドルフィンとの差は歴然です。
42kWhのインスターCasualより30万円以上高い……
CEV補助金適用後の実質的な車両価格を確認してみます。N-ONE e: L の約262万円は、バッテリー容量42kWhのインスターCasualの約229万円より30万円以上高く、約264万円で44.9kWhのドルフィン Baseline とほぼ同じ価格です。さらに、49kWhのインスターLoungeは約301万円ですから、あと39万円ほど出せば手が届きます。30〜40万円くらいは、ボディカラーやオプションの選択次第で積み上がってしまいそうな金額という気もするし、競合する価格帯と評していいのではないかと思います。
日本のEVユーザーとしてデビューを歓迎し祝福したい N-ONE e: ですが、客観的なコストパフォーマンスで比べると、インスターやドルフィンを凌駕するEV性能には達していないというしかありません。
とはいえ、世界初の量産軽EVとなった三菱i-MiEVは、2010年の発売時の価格がバッテリー16kWhで約398万円。24kWhの日産リーフは約376万円だったことを思えば、約30kWhの軽EVが320万円を切って発売されたのは、着実な前進と評することもできます。
それでも、N-ONE e: を選びたくなる理由
日本国内では、2022年6月に軽乗用EVとして日産サクラと三菱 eKクロスEVがデビューして以来、それに続く国産&乗用の新型EVが発売されない状況が続いてきました。新型車不在は新車販売におけるEVのシェアが伸びない理由になっています。N-ONE e: は待望の国産新型乗用EVとして、そのデビューを祝福し、応援したいと思います。
シンプルにEV性能やコストパフォーマンスを比較すると、ヒョンデやBYDのコンパクトEVに利があるのは明らかです。とはいえ「それでも私は N-ONE e: を選ぶ!」という日本のユーザーは多いでしょう。その理由は「ホンダのEVだから」という点に集約されるのではないかと思います。
ホンダの公式サイトでは、Honda Stories という特集のコンテンツとして、N-ONE e: 開発責任者の堀田英智氏へのインタビューが紹介されていました(記事ページはこちら)。いわく、N-ONE e: はHondaの軽乗用車の原点である「N360」の志を継承する新型EVであるという主旨です。
エンジン車時代から培ってきた唯一無二のこうした「ストーリー」の存在は、ホンダ、そして厳しい競争を勝ち抜いてきた日本の自動車産業の強みであると感じます。
N-ONE e: の価値をこれからさらに磨き上げるとともに、さらに魅力的で手が届きやすい国産の新型EVが登場してくれることに期待しています。
文/寄本 好則
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