電気自動車のドライバーは道路維持費用をどのように負担するべきか?

ガソリン車が減って電気自動車が台頭してきた際に、税金をどうするのか、という問題が持ち上がってきます。アメリカのユタ州では来る日に備えて既に試験的な課税プログラムを始めているようです。

電気自動車のドライバーは道路維持費用をどのように負担するべきか?

元記事:How Should Electric Car Drivers Pay For Using Roads? by Steve Hanley on 『CleanTechnica

旧来のガソリン車を前提とした課税モデル

アメリカの道路、橋、トンネルなどの交通インフラは、建設とメンテナンスに多額の費用を必要とします。自動車オーナーは何十年もガソリンとディーゼルに課された州税と連邦税を払っており、この収益はそれらのために蓄えられてきました。

何はともあれ理屈上はそうだったのです。実際には、政治家は巨額の予算を使わずに放っておくことを嫌うので、この資金は他の用途に使われてしまうのですが。さらに、選挙で再選されるためには税金を上げる事はリスキーなので、国会も州議会もインフレに追いつくために石油の税金を上げる事には及び腰でした。

石油に課税する事は、道路用支出に使う正しい道のように見えます。より長い距離や、より重い車両を運転する人はその分ガソリンを多く使うので、道路を使うためにより多く支払いをするというのは、完璧に理に敵っています。しかし実際には、ガソリン税は全体のコストの半分しかカバーできていません。

そこで電気自動車のドライバーがアメリカの交通インフラを支えるためにどのくらい払えば良いのか、という議論が始まります。

州が一律に1年ごとの税を課した場合、より少ない走行距離を走るドライバーには不公平になってしまいます。バッテリーを充電する際の電気に課税できるとしても、何故すべての電気自動車ドライバーが道路にかかるコストの100%を払わなければならないのでしょうか?その他古いタイプの車を運転している人達がコストの半分以下しか払っていないにも関わらず?

電気自動車に対する課税は未だ方向性が定まっていない

これは難しい問題です。議会は根拠のない、恣意的な価格の税金を毎年電気自動車に課しており、電気自動車のドライバーに対する大きな逆風は国内の様々なシーンで明らかです。イリノイ州では最近電気自動車1台ずつに年間1000ドルの税金を課す事を検討し始めましたが、これはひどい話です。

ユタ州は密かに、斬新な方法でこの問題に対処し始めました。運輸省が電気自動車ドライバーに、自己申告プログラムに参加するよう呼びかけたのです。1月に始まったこのプログラムでは、元々課される毎年の登録費(税金)を超えない範囲で、税金の代わりにドライバーは実際の走行距離を申告し、1マイル(1.6km)毎に1.5セントを支払う事になります。

これはすべてデータを集めるためです。Desert Newsによりますと、ユタ州で現在登録されている車のたった2%が電気自動車ですが、運輸省副長官のTeri Newell氏は「時間が経つにつれガソリン税が十分でなくなるのは分かっています。先手を打っておきたいのです。」と発言(原文ニュースサイトにリンク)しました。

Newell氏が言うには、このプログラムは路上をどの位走行したかに応じて税額が決定する試みになっています。氏は「これが一番公平なやり方です。ガソリン税もかつては上手く公平性を現実のものにしていたのですが、違う段階に移行する事を考えなければなりません。どのポイントで(電気自動車が)完全に市場に入ってくるかはまだ憶測の域を出ず、大きな問題になっていますが、私達はせめて準備を万端にしたいのです。」と語っています。

人々が走行距離を正確に申告すると仮定し、このプログラムをすべての車種に適用するという議論も始まっており、これは完全に理に敵っています。ただ申告がデジタルで行われる場合、プライバシーの問題が出てきます。

パートナーが浮気をしていると疑っている人がいるとして、このパートナーがボーリング場ではなく‘秘密の’ホテルにいたと証明するために、裁判所の召喚状用に走行距離記録は使われるのでしょうか? 警察は犯罪者追跡のためにこのデータを使うでしょうか? マーク・ザッカーバーグはロシアのハッカーにデータを売るでしょうか?

さらに違うクラスの車種に対してどう金額を決定すれば良いのかという問題も出てきます。ヒュンダイ・アクセントのドライバーは、フォード・エクスペディションのドライバーと同じ額を払わなければならないのでしょうか? そして既存の州燃料税はどうするのでしょうか? ユタ州の外から来たドライバー用に残すのでしょうか?

このプログラムには125万ドル(約1億3千5百万円)の連邦補助金も使われており、次の5年をかけて実際どのように運用されるかの実験台になっています。Newell氏は「多くの人に今は知られていないので、すべての車種に適用するなど次のステップに進む前に、すべての問題を把握するようゆっくりと進めていけたら」と話しています。

皆、自分以外の誰かに道路を使用するための費用を払ってほしいと思っています。さらに多くの電気自動車が路上に現われるに従い、従来のガソリン税モデルは崩壊してしまうので、走行距離に応じてドライバーに課金するのは痛みを公平に分かち合う一つの方法になります。すべての新しい車が、私達がどこに、いつ、どの位の速さで運転するのか自動的に政府にレポートするようになるまでにどのくらいの時間が残されているのでしょうか? コネクテッド化された車社会は、もしかしたら私達が望んでいたような桃源郷ではないのかもしれません。

(翻訳・文 杉田 明子)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. 道路は乗用車の走行じゃ実はほとんど傷まないんですよね。
    舗装への影響は軸重の4乗なので、20トン車で傷むのとおなじぐらい1トンの乗用車で傷ませようと思ったら、16万回走らなければなりません。実際、大型車の通行が少ない住宅街の道路は30年、40年と未補修でも健全なままです(以上すべて国交省「これからの舗装マネジメント」より)

    そうなると、一般車が道路維持費用を負担すること自体がおかしいという議論にもなります。また地方では歩行者も車両もほとんど通らない道路がたくさんあります。逆に大都市部は多くの人が車を持っててもほとんど使わなかったりします。これらはほんの一例ですが、EVに関係なく、いずれ道路行政は根本的に見直さなければ破綻します。

    いかにして金を取るかではなく、いかにして金がかからないようにするかを考える方が先決かと思います。国交省はわりとこの考え方で、舗装の長寿命化技術などいろいろ模索してるようです。問題は財務省で、「金が足りなくなりそう=もっと集めよう」という発想しかないですからね。

  2. やがて、EVから税金をかけて増収すると判断すれば、役人は必ず実行します。
    それまでは甘い汁を吸わせておいて・・・そんな時期まで5~10年か?
    10年として 30000km×10年 × ¥20/㎞ ≒ 600万 ガソリン代だけで節約
    今の私はリーフで12万キロ走っております。
    テスラモデル3で10年30万キロ目指して 車輌代金を ¥0に近づけたいです。
    そのためにも、役人より先回りして実行することが求められます。

  3. 税金の問題ですね。従来ガソリン税などで補っていた道路財源をどうするかという。
    日本でも走行距離に応じた課税を検討しているとも聞きますが、個人情報保護をどうするかも問題になるかもしれません。
    個人的には急速充電の際に使った電力量ごとに課税するのが手っ取り早いと思います。1kWhあたり1円とか、ガソリン税なら1Lごとに課税する方式。計量法の絡みはありますが実現すれば急速充電器設置者も大出力機を導入しやすくなりEVの利便性もある程度向上するのではないでしょうか。
    ただ自宅にソーラー発電がある家庭で普通充電していると課税しにくいのでそれをどうするか?ですが、それは車検ごとに前回との距離差で課税することになるでしょう。
    (一番エコかつ効率いい運用法なので課税しにくいとは思いつつ)

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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