ヒョンデ『KONA』試乗レポート〜EV優先で開発された完成度の高さを実感【諸星陽一】

Hyundai Mobility Japanが11月1日に発売した電気自動車のコンパクトSUV『KONA(コナ)』の試乗会にモータージャーナリストの諸星陽一氏が参加。グローバルではエンジン車もラインナップされているものの、EV優先で開発されたからこその軽快な走りを実感できたレポートです。

ヒョンデ『KONA』試乗レポート〜EV優先で開発された完成度の高さを実感【諸星陽一】

エンジン車をEVにするのとは逆の発想

ヒョンデが日本再上陸を果たしてから2車種目となるEV、FCVのNEXO(ネッソ)を含めると3機種目となるKONA(コナ)の試乗会に参加した。

コナは現行モデルが2代目で、日本に正規輸入されるのはこの2代目が初となる。グローバルではEV専用車ではなく、ガソリンターボやガソリンハイブリッドも設定されている。ただし、従来の既存自動車メーカー製EVに多かった「エンジン車をベースにEV化」したのではなく、EV優先の設計として、そこにエンジンを搭載したという。従来のEVコンバートとは逆、いわばエンジンコンバートともいえる手法が採られたのが特徴的である。

現在の日本におけるコナのラインアップはボトムから「Cusual(カジュアル)」「Voyage(ボヤージュ)」「Lounge(ラウンジ)」そして価格はラウンジと同じ「Lounge Two-tone(ラウンジ・ツートーン)の4グレード。もっとも安価なカジュアルのバッテリーは48.6kWhだが、ほかはすべて64.8kWhのバッテリーを搭載する。

なお、日本仕様を含め韓国工場で生産されるコナが搭載するバッテリーは中国CATL製、EU市場向けのチェコ工場製コナは韓国LG製になるとのこと。

カジュアルはバッテリー容量が少なくなるだけでなく、ヘッドライトの仕様が異なるほかパワーリヤゲートなどが装備されない。またボヤージュ以下は運転席のシートメモリー機構や後席シートヒーター、革シートなどが未装備。ラウンジとラウンジ2トーンの違いは、ボディカラーが2トーン(ルーフがブラック)になるだけでなく、2トーンはサンルーフが未装備になるという差違がある。従って、他の装備などは同じラウンジの方が車両重量が20kg重くなっている。

EVらしい軽快な走りが好印象

試乗車はラウンジ。つまり、サンルーフ付きのモデルである。IONIQ 5(アイオニック・ファイブ)が格納式アウタードアハンドルを採用していたのに対し、コナは一般的なバータイプのアウタードアハンドルを採用する。この部分、デザイン的にはアイオニック5が先進的なのだが、ドアハンドルという極めて重要な部分はシンプルでトラブルの少ないこのバー式がいい。ボディの損傷が大きな事故時に、ドアハンドルを引っ張ってこじ開ける際も有利だ。

ドライビングポジションにも気をつかったというコナは、クロスオーバーSUVとしてはアイポイントが低めだ。このポジションの影響もあり左前輪あたりの位置が若干つかみにくいが、心配ならばサラウンドビューモニターと呼ばれるカメラ&モニターを使えば狭い道でも安心して運転できるだろう。

ノーズをワインディングに向けて走り出す。コナはフロアコンソールにあるロータリースイッチによって「エコ」「ノーマル」「スポーツ」「スノー」の4モードが切り替え可能。まずはエコモードで走ったが、上り坂でもとくに力不足は感じない。ノーマルにすると少し力強く、そしてスポーツにするとメーターの表示が赤くなりアクセル操作に対するトルクの出方がもっとも敏感になる。

ちなみに、各モードのセッティングは、日本の気候風土やユーザーの好む傾向などに合わせて、スポーツモードでも加速感をマイルドにするなど、日本向けに入念な調整を施したという。どのモードで走るか? はドライバーの好みによるだろう。

ステアリング裏にはパドルスイッチが装備され、回生量の調整が可能だ。回生量はコースティング走行となる最弱から最強まで4段階で調整でき、最強とした場合は完全停止まで可能なワンペダルモードとなる。ワインディングをワンペダルで走る場合は、回生最強としたうえで走行モードをスポーツとすると、より走りやすくなるだろう。

ハンドリングはおどろくほど軽快だ。EVはバッテリーをフロア下に積むので、重心が下がりハンドリングがよくなるのは当たり前なのだが、コナはそうしたEVのなかでも優秀な部類に入る。基本の直進安定性はしっかりと確保され、そのうえでステアリングの切り始めからしっかりとクルマが向きを変えていく反応のよさを持つ。かといって過敏な反応ではなく、曲がり始めからフルロールまでじつにスムーズな動きで上質である。ステアリングにはつねにグリップ感が伝わってきて、タイヤの状態を把握できるので不安感もない。

車中泊などにも使いやすそうだ。
全グレードでフランクも装備する。

高速道路でのACCやレーンキープも上出来

舞台を高速道路に移しても好印象は変わらない。乗り心地も快適である。試乗コースには制限速度が120km/hの場面もあったが、十分に安定していて静粛性も高いレベルを確保している。もっとも生まれ故郷の韓国では高速道路の最高速は120km/hであり、欧州でも販売しているモデルなので120km/hでの巡航は十分にセッティングされていて当たり前である。

唯一、気になったのは大きなうねりのある路面で若干ピッチングが吸収しきれなかったこと。このあたりは、タイヤとショックアブソーバー、路面、そして速度との関係でどうしても出てしまうことがあるので、目をつぶってもいいだろう。

ACCやレーンキープの性能も高い。ACC作動時は回生ブレーキを「スマート回生ブレーキ」と呼ばれるモードにしておくことで、先行車との距離だけでなくナビゲーション情報も考慮して回生ブレーキの強さを自動調整してくれるのでかなりイージーにドライブが可能だ。ACCを使わないときの回生ブレーキも最強にしておくと高速走行でも十分にその効きを感じられるレベルで、手元で速度調整ができることを実感した。

ひとつ残念なのは、メーター内のインフォメーションに自車のブレーキランプ点灯を知らせるインフォメーションがないこと。ホンダやスバルなどでは、メーター内にクルマの形をしたイラストがあり、ブレーキランプがつくと(ブレーキペダルを踏まなくても-1.3m/s2以上ではブレーキランプ点灯が義務化されている)ドライバーに知らせてくれる。ACC走行時などに頻繁にブレーキランプが点灯するときなどは、車間距離を広げることで頻繁な点灯を避けられる。ブレーキランプを頻繁に点灯させると、後続車からあおり運転を受ける可能性もあるので、こうしたインフォメーションは大切である。

最後に、電費だ。私が乗った時点での表示は、充電後の走行距離が91.4kmで電費5.5km/kWhというものであった。箱根方面にワインディング往復(つまり山を登って下りて)と高速道路を走って133.5kmとなった時点でも電費は5.5km/kWhであった。とくに電力消費を抑えた運転をしたわけでもなく、いろいろと試しながらの運転での電費である。

取材・文/諸星 陽一

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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