集客施設は「1日も早く電気自動車用普通充電設備を設置すべき」な2つのニュース

『池の平温泉スキー場』が電気自動車用普通充電設備を設置したことが日経新聞で報じられました。また、スマートな充電器を提案するPLUGO(プラゴ)から、車止め型充電スタンド『PLUGO BLOCK』のコンセプトが発表されました。2つのニュースを軸に、集客施設の充電設備について提言します。

集客施設は「1日も早く電気自動車用普通充電設備を設置すべき」な2つのニュース

※冒頭写真はイメージです。

充電設備は「禁煙」や「洗浄便座」と同じ常識になる

今日のトピックは、先走ったEVユーザーのひとりとして、私が日頃感じている「普通充電設備」についての提言とニュースです。提言として何が言いたいのか、最初に結論を示しておきましょう。

「宿泊施設やレジャー施設など、集客するビジネスを行っている施設は、2030年を見据えて十分な数の電気自動車用充電設備を一日でも早く設置するべき」ということです。

2050年にカーボンニュートラルを目指す、つまり「脱炭素」は世界の新しい常識を形成しつつあります。恥ずかしながら私はいまだにスモーカーですが、たとえば「禁煙」はあれよあれよという間に日本でも常識になりました。電気自動車とプラグインハイブリッド車=ZEV(ゼロエミッションビークル)は自動車が脱炭素を実現するためのツールであり、世界の新しい常識になろうとしています。おそらく10年後くらい(極論です)には、エンジン車に乗ってると「排気ガス臭いんですけど」と顔をしかめられる時代が来るのです。

電気自動車の充電設備というと、急速充電器をイメージする方も多いでしょう。急速充電器は充電器そのものが高いし高圧の電源設備や電気契約が不可欠なので初期費用やランニングコストが高額になりますが、200Vの普通充電設備であれば、それほどのコストはかかりません。

2013年、私は手作り電気自動車で日本一周の旅をしました。約2カ月間、各地のビジネスホテルを泊まり歩きながら「ビジネスホテルの普通充電器は、数年後には洗浄便座のように普及するべき」と考えたものです。2010年くらいまでを思い起こすと、客室に洗浄便座を備えていないホテルも多く、取材旅でホテルを予約する際には「部屋に洗浄便座ありますか?」と確認していました。今では確認するまでもなく、ホテル客室のトイレが洗浄便座であるのは「常識」で、そうではないホテルにうっかり泊まると「げげっ!」と失望します。

今、私が電気自動車で宿泊取材に行く際は、多くが普通充電器を備えている『ルートイン』を優先的に探すようにしているし、かつて「洗浄便座ですか?」と確認していたように「電気自動車の充電設備ありますか?」と確認します。数年後には、ホテルの駐車場に電気自動車用充電設備があるのは、洗浄便座と同じような常識になっていてほしい、いや、なっているはずだと思っています。

どうせ設置するなら、ニュースになる今がチャンス?

さて、今回こんな提言を記事にしようと考えるきっかけとなった、2つのニュースをご紹介します。

まず、新潟県の妙高高原でアルペンブリックリゾートを運営する『荒井アンドアソシエイツ』が、スキー場やホテルなどの3カ所に電気自動車充電設備を設置したことが、日経新聞で報じられました。

【関連ページ】
国内初「EVフレンドリースノーリゾート」(妙高高原アルペンブリックリゾートHP)

設置されたのは200Vコンセントで、池の平温泉スキー場駐車場、ホテルアルペンブリック駐車場、日帰り温泉施設である『ランドマーク妙高高原』駐車場の3カ所に1個ずつ。充電は無料で利用できます。

この情報は、EVsmartブログにもニュースリリースを送っていただきました。リリースでは「AWDのEVが急増」していて「今後はEVでスキーに行くのが世界の常識になると予測される」こと。また日本政府が2030年代半ばまでにガソリン車の新車販売禁止を示したことを受け、カーボンニュートラルの目標に向けた取り組みのひとつであることを示し、スキーリゾート全体で電気自動車のサポートに取り組むのは日本初であることをアピールしています。

200Vコンセントを3つ設置しただけなので、設置費用は1カ所5万円と仮定して合計15万円ほど、ではないかと思われます。充電に掛かる電気代は、1台が8時間充電する場合「3kWh×8時間=24kWh」で1kWh25円として600円程度。これだけの負担で、その施設がカーボンニュートラルへの取り組みに前向きであることをアピールできて、大新聞でニュースになるのは、ある意味とってもお得です。

ホテルやリゾート施設が電気自動車用充電器を設置するのが珍しいことでなくなれば、新聞でニュースにはなりません。集客施設としては、一日も早く、ニュースバリューとなるような特長をもった充電設備を設置して、きちんとPRするのが得策だよね、と思うわけです。

スマートな充電設備を提案するベンチャーのコンセプトモデル

普通充電に関わる2つ目のニュースは、「環境ノイズにならない普通充電器」の開発と普及を目指すベンチャーであるPLUGO(プラゴ)から、駐車場の車止め型普通充電器のコンセプトモデル『PLUGO BLOCK(プラゴブロック)』が発表されたことです。

「環境ノイズにならない普通充電器」っていうのはどういうことか。先行して発売されているスタンド型普通充電器である『PLUGO BAR』についてのインタビュー記事がアーカイブされているのでご参照ください。端的にまとめると、かっこ悪くて環境のノイズになるような普通充電器が増えると嫌だ。電気自動車が本格的に普及してしまう前に、スマートな充電器を提案しよう、ということです。

【関連ページ】
プラゴ公式HP

PLUGO BLOCKについては、1月下旬に発信されたニュースリリースを見て、ケーブルとかどうなるんだろう? と感じたこともあり、大川社長にリモートインタビューでお話しを伺いました。

今回、「新たなEVスタイルで、時代を未来へ」、「EVを取り巻く状況をより自然体に、よりスマートに」という思いを改めて提言するコンセプトモデルとしてPLUGO BLOCKを発表したものの、屋外の車止め型の場合、電源の位置が地表に近すぎて設置基準に差し障る可能性があり、このまま商品化を進めようとしているわけではないとのこと。

電気自動車の充電インフラとして、宿泊施設などの普通充電設備が重要であること。また、スタイリッシュな充電器を設置することが施設のイメージアップにも繫がるといった社会課題に対するメッセージを発信するのが、今回のコンセプトモデル発表の主旨だったということです。

「電気自動車充電設備と洗浄便座」について前述しましたが、これから電気自動車が普及するほどに、カッコいい充電器を設置していることは施設のプレミアム感を演出できる要素になっていくでしょう。プラゴのウェブサイトでは、導入実績として名門ゴルフ場である『茨城ゴルフ倶楽部』が紹介されています。

このプラゴは、大川精螺工業株式会社という自動車部品を製造するメーカーの四代目社長である大川直樹さんが2017年に日産リーフを購入したことで目的地充電インフラの不備を痛感。親交があったデザイナーの山崎晴太郎さんと意気投合して、2018年に立ち上げたベンチャー企業です。今後は、デザインにこだわるだけでなく、予約や課金といったシステムも整えて、カッコよくて便利な充電インフラ構築に貢献することを目指しています。

すでに商品化されているPLUGO WALLやPLAGO BARを導入するもよし。集客施設としてのプレミアム感やオリジナリティを示せるような充電設備構築を考えている企業が、プラゴとコラボしてユニークな充電器を開発すれば、これまた新聞などのメディアでニュースになること間違いなし。ホテルやレジャー施設などに関わっている方には「今がチャンス」ではないかと思います。

2030年、30%がZEVになったとすれば……

日本でも、政府が「ガソリン車の新車販売を2030年代半ばに禁止する」方向を示し、東京都の小池知事は「2030年脱ガソリン車100%」を明言しました。この発表の「脱ガソリン車」には、自動車業界への配慮なのか実質はエンジン車であるハイブリッド車が含まれています。でも、東京都が発表している『ゼロエミッション東京戦略』の『ZEV普及プログラム』では、ZEVを外部から充電できるプラグイン車(電気自動車とプラグインハイブリッド車)に絞り、2030年に都内乗用車の50%、2050年には100%をZEVとする目標を明示しています。日本政府でも、2030年にはプラグイン車を20〜30%とする目標を掲げています。

【関連記事】
東京都「ZEV普及プログラム」に電気自動車ユーザー目線で5つの提言(2020年2月28日)

2030年、仮に日本国内を走る乗用車の30%がプラグイン車になったとしたら。100台収容の駐車場には30基の充電設備が設置されているべき、ということになります。今のところ、ルートインホテルズなど前向きに充電設備を設置している施設でも、設置されているのは1〜2基のところがほとんどです。まだまだ、全然足りません。日本の電気自動車普及は世界でも遅れ気味ですが、欧州メーカーを中心に新たなモデルは増加中。2030年を待たずして、ホテルなどでは「え、充電設備ないの?」というクレームが増えていくに違いありません。

2030年まで、もう10年もありません。クレームに追い立てられて泥縄的に充電設備を増やしていくより、先手を打って充電設備を充実させて、あわよくばニュースに取り上げられてPRにも貢献しちゃう方が、なにかと賢明ではないかと思うのです。

目的地充電インフラの設置については、課金をどうするかといった課題があるのですが、それはまたの機会で記事にしたいと思います。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)15件

  1. 最近EV充電器のない鄙びた温泉宿に泊まりました…しかもどうみても100Vしかも受け口の曲がっている「抜け止めコンセント」なのでそれは使いませんでした!
    電気工事士として忠告:屋外用抜け止めコンセントにEV充電プラグを挿さないでください!コンセントとプラグの接触面積が小さく電気抵抗も高く発熱も増大しますよ!(電気公式W=I^2*Rより)
    ※サイトリンクに自身のブログ過去記事を張っておきます。
    しかし偶々ポータブル蓄電池EFDELTA(1260Wh/1600W)を持っており、1時間程度の充電でも10km分走れて近くの道の駅まで行ける分は確保しました…電欠対策に大容量ポータブル蓄電池と100V充電器を使う方法もアリやないですか!?当然就寝中にポータブル蓄電池を宿で充電すれば無問題。
    契約容量等ですぐには電気工事できない旅館施設でもこういうサービスは出来ると思いますよ!?蓄電池1個13万円(EFDELTA)ですが基本料金削減はたとえ1kWでも効果ありまへんか!?(高圧デマンド基本料金1600円/kWとして年間25200円、5年でトントンになる)
    あいにく今回泊まった宿は廃業検討中のため、今後は他の宿でも実践します。それで蓄電池とEV充電に興味を持っていただければ幸い。

  2. いつも記事を拝見させて頂いています。
    まさに普通充電器は滞在型の施設に置いて頂きたいですね。
    特に普通充電器は10台以上あるといいですね。

    設置施設は皆さんがおっしゃる通りの場所が良いと思うのですが、自分がいつも思うことは駐車スペースの問題で、たいてい車止め側に充電器があることに不満があります。
    リーフ(Honda eなど)の場合、頭に充電ポートがあるので頭から突っ込む必要があります。
    できれば、日本の駐車事情に合わせて、側面に設置できるような仕組みがあればと思います。
    ちなみにですが、お隣の韓国ではヒュンダイ自動車が天井からケーブルを降ろす充電器を作っており、これは便利でなるほどなーと思いました。
    http://japan.mk.co.kr/view.php?category=30600004&year=2021&idx=12181

  3. 200V充電器を多量に設置した場合、設置施設の電力会社との契約はアンペア容量を増やさなくても良いんですかね?
    増やさなくちゃいけないなら基本料金も増えるだろうし、充電器多量設置の足かせになりそう。

    1. dc42jk様、コメントありがとうございます。
      そのあたりを負荷分散機能と呼んでおり、大規模な導入ではNECさんが、実際に200台規模の設置を実際に行っています。現時点では決まった契約までを割り当てて終わりではありますが、将来的には順番に、充電完了したら次の車に移る、みたいな制御もできるようになるかと思います。
      テスラのウォールコネクターは、すでに4台までですがWiFiで自動連携可能。充電が終わるまではバランスして給電、終わったものから切り離し、電源の容量を目一杯に使いつつ、最終的に4台を充電完了させます。
      またパナソニックからはHEMS対応として、2台以上の接続まではできないようですが、家庭のブレーカーが厳しそうになると自動的に電気自動車の充電器出力を落とすような機器も販売されています。
      https://blog.evsmart.net/home-charging/hems-home-charging-with-tesla/

  4. ホテルに宿泊し普通充電器を利用したことが何度かありますがいずれも3kWのものでした。
    最近のEVの電池容量を考えると最低でも6kW欲しい気がします。ケーブルも複数本付いていた方が夜中に差し替える必要がなくて便利です。そういったモデルは出ているのでしょうか?教えていただけると幸いです。

    1. hatusetudenn様、コメントありがとうございます。
      複数基対応、6kW以上対応となるとテスラだけですかね。。テスラウォールコネクターは、4基までWiFiで連携可能、最大9.6kWまで対応できます。
      単発の6kW充電器はパナソニックさんからも出ています。日本の電機メーカーはこのあたりの対応が遅いので、恐らく海外製を今後はメインで使うことになるのではないでしょうか。

    2. コメントありがとうございます。

      そういえば、とNEVの補助金対象機種を確認してみましたが、課金できる200V30Aの普通充電器はない、といっていい(厳密には2機種のみ、だけど選びにくいやつ)ですね。NCSからの支払いも1分1.5円と決まっているので、あえて6kW充電器を選ぶ施設はないと思います。

      http://www.cev-pc.or.jp/hojo/juden_pdf/r02/r02_jougen_meigara.pdf

  5. 某自動車ディーラーが縮小して撤退する店舗が出てきて
    折角の充電設備も撤去ってことがありました

    結局日本は守旧派勢力が勝つのでしょう

  6. 急速充電コネクタの設計の仕事をしています。その仕事の関係もありリーフe+に乗っています。ほとんど自宅で充電しており急速充電は月に1回遠出する時くらいです。確かに出先で長時間(4時間以上)駐車する際は普通充電設備があれば便利かと思います。たとえば宿泊施設、レジャー施設、コインパーキングですね。
    利用シーンを考えると、充電しないと走行できなくなるほどではないが、たまたま訪問した場所に普通充電器があり、その駐車スペースが空いていればそこに駐車し充電する「ついで充電」ですね。注意しないといけないのは、田舎の旅館に充電器があることを知っていて、そこに到着した時にはバッテリーが10%くらいになり、充電器が空いていない場合です。翌日10%のバッテリー残量では近くの急速充電器に到達できない場合は困ります。このようなことのないようEVユーザーは行き先で普通充電器が空いていなくても他の急速充電器に移動できるバッテリー残量を残しておく必要があります。ただしこれは記事にもあるPLAGO BARのような予約可能な普通充電器を導入すると解決すると思います。

    1. 鞆 幾也 さま、コメントありがとうございます。

      EVユーザーとして実感のこもった普通充電設備普及活用法、ありがとうございます。

      ご指摘の通り、補助金を活用してNCS加盟の普通充電器を設置すると、予約は不可で、施設利用者以外にも開放することが必要です。
      とはいえ、記事の最後に少し触れたように、施設利用者の利便を高める充電設備ということであれば、本当は200VコンセントでOKなのですが、そうすると課金をどうするかといった課題が表出します。このあたり、改めて現状を紹介し、考察する記事をまとめてみたいと思っています。

      ともあれ、ことに宿泊施設やゴルフ場のように長時間滞在する施設の普通充電設備は、早く「常識」になってほしいですね。

  7. ディズニーランドとか遊園地もEV充電器をいっぱい置けばいいのに。
    割と遠くから来て、8時間は停めるんだから帰路の充電にはほどよい時間ですよね。
    施設も駐車場代とは別に充電料金が入るから副収入になるだろうし。

  8. いつもをevsmartブログさんの記事で勉強させてもらっています。
    ありがとうございます。

    今日よく行く商業施設の本社ホームページの意見欄に普通充電器設置の要望をメールしました。
    またこの記事のURLも添付させて貰いました。
    数日中にとりあえずの返答が来るようですが、一体どのようなものになるのか楽しみです。
    私は現在はガソリン車を保有していますが、VWのID4が日本で発売されれば購入したいと思っています(今後日本で買えるラインナップが増えれば他の車かも…)

    これからも情報発信よろしくお願いします。

  9. せっかく宿泊施設に普通充電設備があっても1時間で止まってしまうようではねぇ
    設定すればいいようですがユーザーが手を出すのは違うと思うし・・・
    施工業者が設定をしてくれるといいのですが、そうそう泊まるわけではないので以前泊まった時はスルーしました

    ダイヤモンド 片山津温泉ソサエティ
    他にもあるんでしょうか?

    1. LEAF to BUS様、コメントありがとうございます!
      今はどうか分かりませんが、初期の豊田自動織機の普通充電器はデフォルト値が1時間に設定されています。作った方が電気自動車に乗ったことがないのは間違いないですよね(汗

      そして1時間ということはもれなくパスワードも初期値のままです。私は旅館に宿泊して1時間だったときは、お願いしてマニュアルを見せていただき(実は初期パスワードも操作方法も知ってるけど)マニュアルに従って、施設の方が見ている前でご了承の上で、設定を無制限に変更させていただいています。またそういう施設はメンテナンス用カードを充電器にぶら下げて使えるようにしてしまっているケースがあるので、「このカードをお客様がこっそり使うと電気代は支払われませんよ」と教えてあげています。

  10. ガソリンから電気に変わりつつ有る原状も、GS スタンドは確かに減少して居ます。職場でも、ガソリン車は無く成るので、今の内処分するべきと常々に指摘される。この頃です。電気自動車スタンドの無さも気になって居ます。
    もう少し、速い段階で着手工事を決めた、政府が行うべきと思うのです。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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