2025年発売予定/KGモーターズの超小型EV「開発の思い」や「目標」をインタビュー

広島のベンチャー企業「KGモーターズ」が東京オートサロンなどで発表した超小型EV「Minimum Mobility Concept」が注目されています。代表取締役兼CEOの「くっすん」こと楠一成さんに、開発に至ったいきさつや思いを聞いたインタビューです。

2025年発売予定/KGモータースの超小型EV「開発の思い」や「目標」をインタビュー

※冒頭写真はKGモーターズの公式サイトから引用。

一人で安全に快適に移動できる超小型EVを作りたい!

いま、広島の地で開発が進められている超小型電気自動車が話題です。超小型/小型EVの世界では中国車が世界を席巻しつつある中、日本人の手で作り上げられたこの乗り物が目指すビジョンを取材しました。

手掛けているのは広島県に本拠地を置く「KGモーターズ」です。創業者は「くっすん」というハンドルネームで知られている楠一成氏で、同氏はYouTubeにて「くっすんガレージ」(チャンネル登録者数19万2000人超 ※令和5年3月11日現在)というチャンネル名のもと、自動車の分解や自作自動車の動画を手がけています。

CEOの楠一成氏(東京オートサロン会場にて)。

【公式サイト】
KGモーターズ株式会社

同氏は2018年4月に最初の動画をアップロードして以来、現在までに250本の動画を公開。最近では中国製の超小型EV(日本の公道を走れないタイプ)の分解動画から始まり、ついには自分の手で作る「オリジナルEV」も手掛けるなど、その挑戦はとどまることを知りません。

2023年1月に幕張メッセで開催された東京オートサロン2023では「テスラアライアンス」のブースにて、楠氏が代表取締役兼CEOを務めるKGモーターズが手がけた超小型モビリティがお披露目されました。なお、テスラアライアンスは東京オートサロン2023の来場者アンケートで初出展ながら、「もっとも印象に残ったブース」第1位に輝く快挙を成し遂げましたが、そこにはKGモーターズの人気も寄与していたのではないかと筆者は推測します。

「Minimum Mobility Concept」と名付けられたこの超小型モビリティは、楠氏が分析に関わったとある小型EVの存在が大きく関わっていると言います。

以下、超小型EV開発へのチャレンジを決めた楠氏の思いです。

「宏光 MINIEVは『遠くまで行く乗り物ではない』『大人数で乗る物ではない』というコンセプトでかなり割り切った作りをしています。この考え方は弊社と非常に似ています。また、実際に宏光 MINIEVに乗った経験から、車体の凄さも感じていますし、少なからず影響を受けていると思います」

「ただ、KGと宏光ミニでは車体の大きさが違います。弊社がやろうとしているのは、あくまでも『1人で快適に安全に移動できる乗り物』の最小単位となる車を作ること。そして、『快適に』というのが重要なポイントでそのためには屋根、ドア、空調付きが必須だと考えています」

「日本で人気がある最小単位のクルマといえば軽自動車なので、車体として受け入れやすいのは軽自動車に近い宏光 MINIEV(全幅1493 mmなのでボディサイズは普通車規格)だとは思います。が、KGモーターズではそこからさらに踏み込んで、原付ミニカー規格の超小型モビリティで価値観の転換を目指しています」

<宏光MINIEVについて>
中国の上汽通用五菱が2020年8月にローンチし爆発的ヒットとなっている小型EV 。当初は「45万円EV」として日本でも話題になり2021年には一社)日本能率協会が実際に輸入。6月開催の「TECHNO-FRONTIER 2021」で展示されました。その個体は展示終了後、名古屋大学 未来材料・システム研究所 未来エレクトロニクス集積研究センター システム応用部の山本真義教授主導のもと、分解解析が行われ、その際に楠氏も協力した経緯があります。

維持費が安い「ミニカー登録」とは?

「ミニカー」という車両規格には馴染みのない方がいらっしゃるかもしれません。ここでの「ミニカー」とはおもちゃのミニカーではなく、日本における車両登録区分の一つです。「道路交通法」では「総排気量0.050リツトル以下又は定格出力0.60キロワツト以下の原動機を有する普通自動車」と定義されており、普通自動車以上の運転免許が必要となります。一方で「道路運送車両法」では原動機付自転車の扱いとなります。簡単に言えば「普通自動車と同じ免許で運転できる、原付と同等のパワーを持つ三輪以上の乗り物」となります。

登録区分は原動機付自転車と同じですから、税金は都道府県税である「自動車税」ではなく、市町村税の「軽自動車税」となり、年間3700円を収めます。自賠責は加入期間が年単位で「1年(12ヶ月)」から「5年(60ヶ月)」で選ぶことが可能。5年(60ヶ月)を選んだ際の保険料は「1万6990円」となります。車検、重量税、車庫証明が不要で任意保険は「バイク特約」などの適用対象となるため、軽自動車と比較しても格段に維持費が安価な車両と言えるでしょう。

厳密には「自動車」ではないので自動車専用道路や高速自動車国道は通行不可ですが、最高速度は時速60kmまで出せるので、近所へのお出かけやラストワンマイルの配送用途にピッタリな車両となりそうです。楠さんによると「認証の面でも『ミニカー』登録の場合は、普通車に比べるとやりやすい」(つまり、ベンチャー企業が開発にチャレンジするにも有利)とのことでした。

目指すのは「Minimum Mobility」

東京オートサロンなどで公開された「Minimum Mobility Concept」は特徴的なデザインで話題になりました。可愛げのある表情のフロントマスクはリアも同様のデザインとなっており、これによりコストカットを実現しているとのこと。違いは「ヘッドライト」か「テールライト」か、ぐらいです。サイドから見ても、前後のデザインが同じであることがわかります。また、1月の東京オートサロンでは外装色がホワイトの個体が展示されていましたが、翌2月の大阪オートメッセではイエローの個体となりました。また、東京オートサロンでは角目だったヘッドライトが丸目に変更されています。

なお、あくまでもイベントに出展されたモデルは「試作車」であること。時間的な余裕もあまりなかったことで、ガラスラインとボディを合わせる作業をするくらいなら、全部ガラスにした方が早いということで東京も大阪も展示車両はガラスルーフにしたとのこと。量産車でもこのような形にするかどうかは「未定」だそうです。

中国製超小型EVを実際に見て思ったこと

楠さんは超小型EVを開発するにあたり、当初、中国の安い小型EVのプラットフォームを使って作ろうと思ったこともあったそうです。しかし、製造現場や完成車両を詳細に見てやはり、完全にゼロからプラットフォームを起こすことを決めたそうです。

「正直、自分たちの会社で、これは売りたくないなという車もありました。まず、板金の加工や溶接の質、日本製だったら絶対ありえないような作りをしています。完成までのスピード重視ということなのかもしれませんが、工場の生産ラインを見たときに、これはダメだなと。ひとことで言うと、モノづくりをするうえでモノを丁寧に扱うという意識が欠如しています。作り方がすべて「粗い」んです。マンパワーで安い賃金で作っているのでしょう。とにかく形にすればいい、という姿勢です。日本のように『本当に良いものをユーザーに届けないといけない!』そんな使命感や作り手のプライドのようなものが感じられなかったんです。それでこれはやっぱり、日本でゼロから作るしかないと」

「もちろん宏光やBYDのように日本製に劣らない品質の車両を製造しているメーカーもありますが、マイクロモビリティ分野については中国製車両の品質は低いと感じています。ただし、部品単体レベルではクオリティが担保されたものもあるので、KGでは一部中国製の部品を使用する予定です。価格は100万円を切れるくらいにできればと思っています」

最後に現在世に出ている超小型モビリティとKGとの違いについて聞いてみました。

「ユーザーが負担するコストや、脱炭素などの課題の解決は重要ですが、この課題解決だけではマイクロモビリティは普及しないと考えています。KGモーターズではワクワクの要素を加えることで社会に普及する超小型EVを完成させたいと考えています」

2025年の発売を予定している「Minimum Mobility Concept」は2024年より実証実験としてモニターリースが開始されます。実は100名のモニターを募集したところ、予想をはるかに上回る5600名もの応募が集まって、予定していた2月末の募集締め切りを待たず2月19日で事前登録が締め切られたとのこと。純国産の超小型EVに対する世間の関心や期待の大きさが感じられます。

● KGモーターズ 「Minimum Mobility Concept」

車両サイズ/全長2,450mm 全幅1,090mm 全高1,500mm
定格出力/0.59kW
ピーク出力/5kW
バッテリー容量/7.5kWh(計画値)
航続距離/100km
充電AC100V/5時間
乗車定員/1名

※開発時点での値となり、量産モデルでの仕様変更の可能性があります。

取材・文・撮影/加藤ヒロト

この記事のコメント(新着順)2件

  1. くっすんガレージモータースの記事キターー!!(笑)いつもYouTubeでよぅ見てますーw
    このチームの動画はいつも見応え満点、車体のみならず制御機構や電池の選定など目の付け所がいつもスゴイと思ってましたよ。
    くっすん氏は東芝製の高性能電池SCiBも熟知してますが、価格の問題もあり採用の話はないです。動画を見る限り百万円以下でお一人様専用かつ狭隘な路地も走れることを前提にしているあたり、ニッチなEV市場で一定の支持を得られると思います。
    原付一種レベルで超小型モビリティを提案している以上、ゲタがわり需要を狙っているはず。電気技師的にはJ1772規格でAC100V充電5時間のコンセプトが気に入ってます。

    これが普及すると出川哲郎の充電バイクのごとく、出先で「充電させてもらえませんか」になっても一般家庭の屋外用ACコンセントが発熱する恐れは少ないです。100V/6A以下なら問題なし…ただしその場合充電時間は12時間かもしれません、もっとも電流変更スイッチをつけることになるとは思いますが。
    ある程度荷物が載るなら自身の電気管理技術者作業車として導入するかもしれません。その前にモニター応募必須になりますが。

  2. 家のそばにチョロQが置いてある。ピンクでかわいい1人乗り。屋根がないのが難点だけど、オーナーはカッパ着て乗ってる。鉛電池だけど5年は持つから殆どタダみたいなコストだそう。50キロぐらい走れるらしい。それと同じコンセプトだね。

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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