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国際興業が国産初のEVバス『エルガEV』導入/お披露目会で試乗も体感

国際興業が国産初のEVバス『エルガEV』導入/お披露目会で試乗も体感

国際興業が国産初のEV路線バス『エルガEV』を導入しお披露目会を開催しました。5月21日から大宮駅周辺の路線で運用が始まります。拠点のさいたま東営業所にはパワーエックスの蓄電池型超急速EV充電器「Hypercharger Pro」を設置。非常時の電源供給などが可能なシステムとなります。

目次

埼玉県で初めていすゞ『エルガEV』1台を導入

2025年5月20日、国際興業株式会社が国産として初めて発売(2024年5月)されたBEV路線バス『エルガEV』1台をさいたま東営業所に導入、同営業所に株式会社パワーエックスの蓄電池型超急速EV充電器「Hypercharger Pro」を設置して、メディアや関連自治体などを招いたお披露目会を開催しました。

エルガEVは車室内が最前部から最後部までフルフラットを実現。242kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載しており、いすゞの発表によると一充電走行距離は360km(30km/h 定速走行、国土交通省届出値)となっています。

充電はCHAdeMO規格による急速充電のみに対応。運用の拠点となるさいたま東営業所に導入されたパワーエックスの「Hypercharger Pro」は最大出力150kW(1台充電および10分間のブーストモード時)で2台が同時充電(出力各120kW、合計240kW)可能。358kWhの大型蓄電池を備えているのが特徴で、基本料金が安い低圧受電で運用することができてコストパフォーマンスに優れています。また、同営業所に設置されている大型の太陽光発電パネルの余剰電力を有効活用。パワーエックスでは「今後運用データとバス事業者からのフィードバックを基に、蓄電池を活用した充電システムを、さらなるEVバスの導入にも対応可能な次世代のエネルギーマネジメントソリューションとする開発を進める」としています。

「Hypercharger Pro」の蓄電システムは自立運転可能であり、停電時でも車両充電や営業所のBCP電源として活用できます。国際興業は今回のEVバス導入に先駆けてさいたま市と包括連携協定を締結。観光保全やまちづくりなどに幅広く貢献するとともに、エルガEVが備えている駆動用バッテリーから給電するV2L(Vehicle to Load)機能を活用して、災害時などにはこの路線バスを非常用電源車として活用することが想定されています。

ただし、車両にACコンセントなどはなく、電気を取り出すために必要なニチコン「パワームーバー」などのV2L機器は未導入とのこと。ニチコンの公式サイトを確認すると対応車種一覧にBYDのEVバスは記載されているものの、エルガEVはまだ見当たりません。大丈夫だとは思いますが、早めに実機で検証できるといいですね。

待ちに待ったいすゞのEVバス

国際興業がEVバスを導入したのは、2023年4月から施行された改正省エネ法で、200台以上のバスを保有する事業者に対して「2030年度までに保有台数の5%を非化石エネルギー自動車に更新」することが求められているためです。国際興業では900台以上(公式サイトで公表の数値)のバスを保有しているので、おおむね45台程度のバスを「非化石エネルギー自動車」にする必要があります。

非化石エネルギーのパワートレインとしては水素燃料電池(FCEV)や合成燃料(e-fuel)などいくつかの選択肢があるものの、現状、もっとも現実的な方法としてEVバスの導入を始めたということです。国際興業では2024年9月に約51万km走行した既存ディーゼルバスをEVに改造した「レトロフィットEVバス」1台を池袋営業所へ導入して運行しており、今回のエルガEVが2台目のEV路線バスとなります。

レトロフィットEVバス。

今、日本国内ではBYD(関連記事)や北九州市のベンチャーであるEVモーターズ・ジャパン(関連記事)のEVバスが多く導入されています。とはいえ、国際興業はグループ会社に北海道いすゞ自動車をもつなどいすゞとの関係が深く、運用している路線バスの多くがいすゞ製とのこと。そのいすゞから待望のEV路線バスが発売されたことで、今後は導入を加速したい意向です。ただし、現在のところいすゞのバス生産は「大阪・関西万博」に注力していることもあり、本格的に台数を増やすのはもう少し先になりそうということでした。

お披露目会ではほぼ満員のEVバスに試乗も体感

国際興業の黒滝寛社長(左)と、パワーエックスの森居紘平取締役(右)。

5月20日に開催されたお披露目会では、会場となったさいたま新都心バスターミナルからエルガEVの運行拠点となるさいたま東営業所まで約8.5kmの往復を試乗することができました。バスの定員は68名。乗車した関係者やメディアの人数は50人程度でしたが、感覚としては「ほぼ満員」で、立ち席での試乗となりました。

今まで、いろんなEVバスに乗ったことはありますが「ほぼ満員で立ち席」というのは初体験。シフトチェンジによる揺れがなく、モーターの加速や回生ブレーキを活用した減速がスムーズで、吊り革が大きく揺れることもなく、立っていても楽なことを実感できました。ちなみに回生ブレーキはステアリング左側のレバー(コラム)で3段階に切替可能。回生をオフ(これも合わせると4段階)にするとコースティング走行になります。

途中、車内からのリクエストでドライバーの須清隆史さんがエアコンや換気扇をオフにすると、車内にはインバーターのキュイーンという音が微かに響く程度でほんとに静か。私は少年のように目を輝かせながらドライバー席の真横に立っていたのですが、車内中ほどに立つ国際興業のご担当者による普通の地声の説明を聞き取ることができました。

この日、関東地方の最高気温は30度を超える真夏日でした。でも、セレモニー会場でずっと停車していたバスに乗り込んだ時にも車内の冷房はキンキンに効いていました。エンジンを止めたディーゼルバスの車内で待つときに「エアコン効かないのかぁ」と我慢を強いられることがありますが、アイドリングがないEVバスは乗客も周囲も快適です。

国際興業では今回のエルガEV導入にあたり、導入を予定している路線を担当する全員のドライバーが習熟走行を行ったそうです。メーターパネルなどは「ほぼエンジン車の流用」といった印象で、正直「まだコンバージョンのレベルなのか」と感じたのですが……。ドライバーさんに話をうかがうと「補機類などのスイッチや配置が乗り慣れたディーゼルバスと同じで運転しやすい」とのこと。なるほど、旅客機パイロットのライセンスは機種ごとに異なるそうですが、乗用車よりも操作すべきスイッチなどが多い路線バスでは「操作系の統一感」がかなり重要なポイントになることを感じました。

ちなみに、表示されたSOC(バッテリー残量)は、セレモニー開始前が89%→営業所到着時80%→ターミナル帰着時77%でした。セレモニー中はエアコン全開だったし正確な数値は未確認ですが、ターミナル出発時は85%弱程度。ターミナルと営業所間の約8.5kmで3〜4%のバッテリー消費だったと思われます。

ターミナル帰着時の残量計。航続可能距離表示はやや控えめになっているようです。

充電性能の向上やEVならではの機能充実にも期待

大容量蓄電池。

脱化石燃料を標榜する改正省エネ法はともあれ、比較的距離が短く決まったルートを走る路線バスには、これからますますEVが広がっていくのが必然だと思います。いすゞがエルガEVを発売したことをきっかけに、バス事業者にとって安心感が高い国産EVバスという選択肢が広がれば、全国のバス事業者のEV導入はさらに加速していくことになるでしょう。

少しだけ、今回のお披露目会で気になった点を挙げておくと、まず、せっかく超急速の性能を備えた「Hypercharger Pro」を設置したものの、エルガEVの急速充電受入出力は最大50kWとのこと。今後、導入台数が増えれば充電時間の短縮は大切になるでしょうから、充電器側がもつ120〜150kWの性能をフル活用できるスペックへのアップデートを期待したいところです。

あと、回生ブレーキの制動はスムーズで、乗客として快適なポイントになっていました。試乗を担当してくれたドライバーの須清さんも、信号待ちで停車しながら「今、私はブレーキペダルをまったく踏まず、回生だけで減速しています。スムーズさを実感していただけると思います」とアナウンスしていました。前述のように回生ブレーキの強度はコラムで可変。プロドライバーが操作するのですからそれで十分とも言えますが、先だって試乗したヒョンデ『インスター』では、ワンペダルで完全停止まで含めた回生の「オート」機能を備えていました。EVならではの快適&安全機能。乗客の安全を担う路線バスだからこそ「先進の回生オート機能があるといいのになぁ」と感じたのでした。

須清さんは、EVバスについて「加速がとてもスムーズで力強くて運転しやすい」と絶賛でした。日本全国でEVバスの導入は加速中。路線バスや空港内の搭乗用バスなどは「EVが当たり前!」になる日を期待しています。

取材・文/寄本 好則

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この記事を書いた人

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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