リビエラ逗子マリーナ『マリブホテル』がV2Bを導入した心意気

神奈川県逗子市の『リビエラ逗子マリーナ』にオープンした『MALIBU HOTEL(マリブホテル)』は、ホテルとして日本で初めて本格的な「V2B」(EVの電気を活用するシステム)を導入しました。はたして、どんな思いでどんな設備が設置されたのか、現地を取材してきました。

リビエラ逗子マリーナ『マリブホテル』がV2Bを導入した心意気

3基のPCSで電気自動車の電気を活用

2020年3月26日、神奈川県逗子市のリビエラ逗子マリーナにオープンした『マリブホテル』は、部屋数11室のスモールラグジュアリーホテルです。ホテルとして魅力的なのはもちろんですが、開業を伝える報道で注目されたのが、このホテルが日本で初めて電気自動車の電気を施設の電力として活用できる『V2B(Vehicle to Building)』を導入したこと。

電気自動車に繋いで充放電を行う3基の『Power Conditioning System(PCS)』とともに、ホテルの屋上には約2.4kW出力の太陽光パネルを設置。EV中古電池の活用を進めるために日産自動車などが設立した『フォーアールエナジー』の定置型蓄電池(12.4kWh)も備えた、いわゆるトライブリッド(太陽光発電、蓄電池、EVの電池と系統電力の連携を行うこと)のシステムを確立しています。

V2Bを普通の住宅で行うと『V2H(Vehicle to Home)』です。ただし、V2Hが環境にいいことは理解はしていても、太陽光発電パネルや高価な専用機器を設置するハードルはなかなか高い。電気料金の節約にはなりますが、初期コストの高さを考えると「元を取れる」ほどの効果を出すのが難しいからです。

つまり、V2H(今回の場合はV2B)を導入するためには、設置する施主の「心意気」が不可欠です。

はたして、マリブホテルを開業したリビエラ逗子マリーナは、どんな思いを込めてこのホテルにV2Bを導入したのか。まずは、プロジェクトを推進したキーパーソンにお話しを伺うべく、東京都港区のリビエラグループ本社を訪ねました。

2006年から展開する『未来創りプロジェクト』の一環

青山三丁目にほど近いグループ本社で迎えてくださったのは、山崎哲雄専務と渡邊華子常務でした。広報ご担当者へのアポイントでは「V2B導入の思いをキーパーソンの方に伺いたい」とお願いしていただけなので、いきなり、会社トップクラスのお二人の登場に少し驚いたのですが、お話しを聞いて「なるほど」と合点がいきました。

山崎専務(左)と渡邊常務(右)。

地中海のリゾート地をイメージして西武(セゾン)グループによって開発された逗子マリーナを、リビエラグループが受け継いだのは2001年。そして、リビエラでは2006年から「大自然とともに心豊かに生きる」という企業理念を掲げ、エコロジーな街づくりや企業活動を実践する『リビエラ未来創りプロジェクト』を展開してきました。

現在では2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)にコミットし、環境、食文化、教育という3つの軸を定めて、プラスチックストローの廃止やビーチクリーン活動、青少年への海洋教育プログラムなど、幅広い取組を行っています。

電動モビリティ(電気自動車)や再生可能エネルギーの活用は、脱炭素を目指し地球環境保全に貢献するための施策のひとつ。今回のV2B導入以前から、社用車への電気自動車導入はもとより、マリーナ防波堤壁面への薄膜太陽光発電パネル設置やシェアサイクルの導入、東京海洋大学と共同で急速充電(CHAdeMO)対応の電池推進船『らいちょう』の実用化試験を進めるなどの取組を実践してきました。

防波堤壁面に薄膜太陽光発電パネルを設置。
発電した電気は停泊中のクルーザーへの電源供給に活用。

ちなみに、リビエラグループはアメリカの名門ゴルフ場である『ザ・リビエラカントリークラブ』をフラッグシップとして、より豊かなライフスタイルを提案し感動を創造し続ける企業グループです。1950年(昭和25年)に料亭『白雲閣』を開業して発展、マリーナ事業やレストラン、ブライダル事業、スポーツクラブを中心に成長してきた歴史があります。

ユーミンが長年開催した「SURF&SNOW in ZUSHI MARINA」の舞台(1978~2004年まで17回開催※最初の3年間は葉山マリーナが会場)としても知られるリビエラ逗子マリーナに、上質なホテルを開業して滞在型マリーナリゾートへと完成度を高めるのは「リビエラグループとして念願のプロジェクト」(渡邊常務)でもありました。新設するホテルへのV2B導入は、当然のように「やるべきこと」として構想されたのです。

神奈川県とも連携しています

もちろん、現地にも行ってきました。実は、事前の計画では青山での本社取材翌日にリビエラ逗子マリーナへ行く予定でした。でも、翌日の天気予報は雨。山崎専務から「土曜日なら天気予報もいいですよ」とご提案いただいて、中古リーフで行ってきました。

リビエラ逗子マリーナを訪れたのは、それこそ一度ユーミンのコンサートに来て以来、たぶん30年ぶりくらいのことなので、ほぼ初めてって感じです。ホテル玄関までリーフで乗り付けてしまおうかとも思ったのですが、駐車場に普通充電器が設置されていたので、ついでに充電しておくことにしました。

リビエラ逗子マリーナ内には、一般用駐車場に急速充電器1基と普通充電器が2基。クルーザーなどを置いている会員用駐車場にも、急速充電器と普通充電器、そして200Vコンセントがずらりと設置してありました。

日本じゃないみたいな情景です。
会員用の充電設備。

テスラのディスティネーションチャージャーはありませんでしたが、EV充電環境がこれだけ整備されたレジャー施設は日本でも希有。まったく問題はないでしょうし、今後、電気自動車がさらに増えれば、それに見合ったインフラを用意してくれるに違いありません。

約束の時間まで少し余裕があったので、マリーナ内を散策しながら「数年後には、日本のあちこちに、こんな風に電気自動車が使いやすい街ができてくるんだろうな」と夢想したりして。逗子マリーナそのものは1970年代後半に開発されたマリーナとリゾートマンション群が建ち並ぶ決して新しいとはいえない街ですが、上質な海岸リゾートを目指した当時のコンセプトがしっかりしていたことと、リビエラが経営を受け継いで「リビエラ逗子マリーナ」となってからのテコ入れと日々の磨き上げ管理の成果でしょう、まるで海外リゾートを訪れた気分です。絶好の晴天にも恵まれて、本当に気持ちいい空間であることが実感できました。

マリブホテル全景。

と、少し話が逸れました。気になるV2B施設。3基のPCS機器はホテル建物裏手の宿泊客専用駐車場に設置されていました。

今回、マリブホテルがV2Bを導入した意義には、大きく3つのポイントがあります。まずひとつ目は、ゲストはもちろん従業員や業務用のEVを賢く充電することです。設置したPCSからは、CHAdeMO規格の充電プラグを通じて、基本的には6kWの出力でEVに充電できます。ゲストにはテスラやジャガー、メルセデス、これからはポルシェなどの高級&大容量電気自動車で訪れる人が多いでしょうが、6kW充電であれば滞在中に満充電になることがほとんどのはず。

また、リビエラでは従業員にもEVへの乗り替えを推奨していて、このPCSにはたとえば朝9時から夕方6時までの勤務時間中で満充電になるよう、出力を自動で調整するプログラム充電の機能があるそうです。普通の充電とプログラム充電を切り替えるのは、「充電開始」ボタンを長押しするだけ、とのこと。

PCSはニチコンなどの市販品ではなく、『IKS』という京都の充放電機器開発メーカーによるオリジナルでした。なんと、IKSは私が2013年に急速充電日本一周の旅を行った際、EVスーパーセブンの急速充電機器を作ってくれたご縁の深い会社です。旅の途中、電池トラブルに見舞われて、京都府久御山町の工場に駆け込んだこともあります。案内してくれるリビエラスタッフに、EV普及の道連れ的なシンパシーを感じてしまいました。

オリジナル品であり、原則としてスタッフが操作するので説明書きもなく、操作方法はちょっとわかりにくい感じですが、ゲストはホテル玄関前にクルマを乗り付ければ、スタッフがバレットサービスでクルマを移動。充電器の接続なども行ってくれます。

PCSと並んで、フォーアールエナジー製の定置型蓄電池(容量12.4kWh)もありました。ただし、ケースはただの白い箱。量産品ではないしやむを得ないとはいえ、発表会で見たテスラ『パワーウォール』のデザインがかっこよかったこともあり、「頑張れ、フォーアールエナジー!」と感じてしまいました。

非常用の電源として活用

2つ目のポイントは、EVの電気を活用した非常用電源としての役割です。災害などで系統電力が停電した場合など、社用車や従業員のEVから、ホテル館内(ロビーフロア)の非常用電源として電力を供給できるようになっています。

ホテルやリビエラ逗子マリーナ施設全体の電力を供給できるほどの容量は望めませんが、停電時、多くの人がとくに困るのが、スマートフォンなどの携帯端末の電池切れや夜間の照明の喪失です。このシステムでは1台につき約50kWhの電気(リーフe+62kWhの80%の場合)を取り出すことが可能です。非常時にはホテルのゲストだけでなく、リビエラ逗子マリーナ内のお客様やマンション住民のみなさんにも電力を提供することを計画しています。

デマンド電力料金の低廉化

3つめのポイントは、施設全体の電力料金の節約です。マリブホテルを含むリビエラ逗子マリーナでは、高圧の電力契約を利用しています。こうした高圧電力の基本料金は「デマンド料金」と呼ばれ、30分毎の最大使用電力量を計測。最もたくさん利用した時間がある月の電力量によって、その後1年間のデマンド料金が決まります。

たとえば、東京電力で500kW以上の業務用電力契約の場合、基本(デマンド)料金は1kW当たり1716円。仮に夏場のピークに550kWの電力を必要とした場合、月額の基本料金は94万3800円にもなります。

これが、V2B活用によるピークシフトによって18kW削減、532kWになったとすると、月額基本料金は91万2912円。月額にして3万円以上節約できて、それが1年間続くので、年間で40万円近いコストダウンを実現できる計算になるのです。

さらには、電気料金の節約というコストダウン効果以上に、世界初(未確認だけど、おそらく他にはまだないでしょう)のV2Bホテルというサステイナブルなコンセプトの実践に対するイメージアップ効果が大きいことは間違いありません。

仕事抜きでのんびりしたい!

スタッフへのEV購入補助金も!

ちなみに、山崎さんご自身の現在の愛車は『リーフe+』とのこと。SDGsにコミットした『リビエラ未来創りプロジェクト』において進める「エコロジータウン リビエラ逗子マリーナ」で、EV普及のイベントなども行う活動に取り組む中「まずは自分がEVに乗らなければ」と感じて、当時乗っていた『シーマ』から30kWhの電池を搭載した『リーフ(AZE0)』に乗り替えたのが2015年のこと。その後、横浜市内の自宅から東京・青山への通勤にやや不便を感じたこともあり、40kWhのZE1に乗り替え、さらに62kWhのe+が発売されてすぐに再びバージョンアップしたそうです。

失礼ながら、山崎さんの貫禄に比して、リーフはちょっと車格がしょぼい。「テスラやアイペイスにはいかないんですか?」と尋ねてみると、神奈川県や日産自動車などオール神奈川の連携でSDGsとEV普及に取り組み、「横浜にGHQがあり、追浜で生産されている日産のリーフを選んでいる」という神奈川愛を感じるお答えでした。

リビエラグループでは、全社員参加でEV活用の講演会を行ったり、社員への福利厚生としてEV買い替え時の購入費補助金制度を設けているそうです。とはいえ、なかなか社員へのEV普及が広がらない。社員に理由を聞いてみると「EVの魅力は理解していても、生活に見合った、乗りたい車種がない」という声が多いとのこと。どんなにインフラや制度を整えても、肝心の「欲しい車種」がないとEVは普及しない、という私の持論、というか当然のことを再確認できました。ここは「頑張れ、日産!」ですね。

ホテルは抜群に上質、です。

ホテル内の客室なども案内していただきました。客室は全室が50㎡以上でバルコニー付きのオールスイート。部屋50㎡ + バルコニー7㎡の『マリーナ ビュー スイート』、部屋50㎡ + ガーデンテラス41㎡の『プライベート ヴィラ』、部屋93㎡ + バルコニー51㎡の『ザ マリブ スイート』などのタイプがあり、定員はいずれも3名。1階の『プライベート ヴィラ』は愛犬と一緒に泊まれます。

『ザ マリブ スイート』。全室から海と富士山を望む配置になっています。
愛犬と一緒に泊まれる『プライベート ヴィラ』。ペットも家族の一員という方々にも自由度の高いリゾートステイを叶えます。

基本プランは、ホテルに併設されたレストラン『MALIBU FARM』での朝食付き。メインダイニング『Ristorante AO 逗子マリーナ』でディナーを楽しむ一泊二食付きプランや、スパを楽しむプランなども用意されています。

『MALIBU FARM』は、ロサンゼルスのマリブで「フレッシュ、オーガニック、ローカル」をコンセプトとして提供されるヘルシーなメニューが人気のレストラン。全米を中心に7店舗を展開しており、ここが8店舗にして日本初上陸。現地で人気のメニューを中心に、地元鎌倉の新鮮野菜や相模湾の魚介類を使用した日本限定メニューも提供しています。

ロサンゼルスにあるザ・リビエラカントリークラブを展開しているリビエラグループは、その近さから『MALIBU FARM』オーナーシェフのヘレン ・ヘンダーソンさんと出会い、親しくしています。ヘレンさんの目指しているものと「リビエラ未来創りプロジェクト」の親和性に、お互い共感。「日本初出店するなら、ぜひリビエラ逗子マリーナで」と。アメリカで『MALIBU FARM』の店舗デザインを手がける『ALEXANDER DESIGN(アレキサンダーデザイン)』 が、レストランとホテルのインテリアデザイン監修を手がけています。

天気がいい日は、ウェルカムドリンクやチェックインも屋外で!

空間としての居心地の良さはもちろん最高。さらに、相模湾越しに見える富士山の山頂に夕日が沈む「ダイヤモンド富士」が現れる日など、天候や眺望のいい日にはリビエラ逗子マリーナの広大な敷地の中で最も眺めがいい場所にテーブルをセッティングしてディナーや朝食を楽しめる「プライベートセッティング」が用意されているなど、粋で最上級のおもてなしが提供されるのも魅力です。

料金は宿泊日などによりますが、一泊朝食付きのプランで1室10万円~。仕事柄、軽井沢の『星のや』や湯布院の『無量塔』、沖縄の『ザ・ブセナテラス』など全国各地の高級旅館やホテルを取材したり宿泊した経験もありますが、東京や横浜からのアクセスの良さとともに、リビエラ逗子マリーナ全体を含めた空間のスペシャリティを考えると、ぜひ一度は仕事抜きで泊まってみたいホテルです。

「マリブホテルの空間やコンセプトは、環境への意識の高いEVオーナーのみなさんに共感して寛いでいただけるはず」と山崎さん。

テスラやアイペイスオーナーや、ポルシェタイカンの納車を待っているとか、お財布の中身に余裕のあるみなさん、マリブホテルでクルマも人も優雅に充電する休日を過ごしてみるのはいかがですか?

【関連サイト】
マリブホテル公式ウェブサイト(予約も可能)

(取材・文/寄本 好則)

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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