苦戦が続く中国市場における生き残りを賭けた一手として、マツダが新型EVのミドルサイズSUV「EZ-60」を発売しました。欧州をはじめとする海外市場への導入も予定されています。日本発売は未定ですが、急速充電ポートにNACS規格採用を明言している日本での「EVへの本気度」が気になります。
2020年から販売台数半減の苦しい状況
中国で新型EV「EZ-60」の発売がスタートしました。はたして、どんなEVなのか。気になるポイントをまとめてみます。
まず、中国市場におけるマツダの販売動向を確認しておきます。マツダの2025年1〜8月の累計販売台数は4万6430台と、前年同期比+2.3%と、わずかながらも成長を実現しています。とはいえ8月単体の販売台数では、2020年8月に記録していた約1万1000台から減少しており、2025年8月は6422台となって販売規模がほぼ半減という苦しい状況です。
とくに売れ筋モデルだったマツダ3の低迷が著しく、これはコンパクトハッチバックセグメントにBYDドルフィンやシーガル、ジーリーXingyuanなどの強力なライバルEVが投入されたことが要因でしょう。とはいえ主力SUVであるCX-5は月間約2000台程度を販売し、マツダの強みであるSUVセグメントではギリギリのところで持ちこたえている状況です。
新型EVの連続投入で中国市場の反転攻勢

EZ-6
中国市場の反転攻勢策として、マツダでは新型EVを積極的に投入する方針を表明しています。まず2024年11月から納車がスタートしたのが「EZ-6」というミッドサイズセダンEVです(関連記事)。マツダは中国市場でChangan(長安汽車)と合弁体制を構築しており、ChanganのEV専門ブランド「Deepal」から発売中のSL03というミッドサイズセダンEVをベースに設計開発されています。
EZ-6について注目するべきはBEVとともにEREV(レンジエクステンダーEV=PHEV)を両方ラインナップしてきたという点です。現在中国市場ではBEVとともにEREVも根強い人気があり、SL03と同じく両方をラインナップすることで多様なニーズを取り込もうとしています。
実は8月に最も売れたのがEZ-6であり、発売直後は需要低迷問題を抱えていたものの、日本円で約120万円の大幅値下げを実施することで販売をテコ入れしています。現在EZ-6は9万9800元(約211万円)から発売されておりコスト競争力の高さがアピールされています。
ミッドサイズSUV電気自動車「EZ-60」を発売
そして、2025年9月、ついにEZ-6に続く新型EV「EZ-60」の正式発売がスタートしました。EZ-60はEZ-6と同じくChanganのDeepal S07をベースに設計開発されています。全長4850mm、全幅1935mm、全高1620mm、ホイールベース2902mmというミッドサイズセグメントのSUVです。世界のベストセラーEVとなっているテスラモデルYのサイズが全長4800mm、全幅1925mm、ホイールベース2890mmですから、かなり近いサイズ感といえます。
EZ-60もBEVとEREVを両方ラインナップし、BEVモデルには77.94kWhのLFPバッテリーを搭載し、一充電走行距離はCLTC基準で600kmを確保。また、EZ-6と同様に3C=推定最大出力約234kW(1Cは1時間で満充電にできる出力)の急速充電に対応しており、SOC 30〜80%を15分間で充電可能とアナウンスされています。
EREVには31.73kWhのLFPバッテリーを搭載し、EV航続距離は200kmを確保。BEVモデルと同じく3C急速充電に対応しており、EREVのバッテリー大容量化と急速充電対応という中国市場のトレンドをしっかりと押さえてきています。
EZ-60の気になるところと評価すべき点

ゼログラビティシートを採用。
ただし、懸念されるのが効率の低さです。EZ-60のEREVはWLTCモードで5.6L/100kmという燃費を実現してきています。でも、EZ-60の兄弟車であるDeepal S07はEZ60と全く同じ31.73kWhバッテリー、最高出力72kWの1.5L発電用専用エンジン、最高出力190kW、最大トルク290Nmを発揮する後輪モーターを流用していながら、EV航続距離で230kmを確保して、燃費も4.9L/100kmとEZ-60を上回っているのです。この点はもう少し最適化できる部分があるのかもしれません。
一方、EZ-60で評価すべきポイントが先進的なインテリアデザインです。私自身、いち早く実車を確認しましたが、物理ボタンが徹底的に排除されたミニマリスティックなデザイン言語とともにソフトマテリアルを活用。インテリア全体に乗員を包み込むような印象があり、セグメントが一つ上のプレミアムSUVのように仕上がっていると感じました。
さらに車両中央には26.45インチの5Kセンターディスプレイを採用することで、助手席向けのエンタメスクリーンとしても機能。さらにオーディオでは23スピーカーシステムを採用するなど、豪華な装備内容を実現しています。
上級グレードで約325万円という価格に驚き
そして最も注目すべきポイントが価格設定です。EZ-60は11万9900元(約253万円)〜という想定を下回る値段を実現してきたのです。約78kWhの大容量バッテリーを搭載し、装備内容がコミコミの最上級グレードMaxでも16万900元(約340万円)という驚きのコスト競争力を実現しています。EZ-6における一連の値下げ措置の経験を活かして、発売当初から思い切った価格を提示してきたと評価できます。
この表はEZ-60の競合となるトヨタbZ3X、BYD Sealion 06、Leapmotor C10などの大衆的電動SUVと比較したものです。やはり先に指摘した通り、最適化が甘いのか電費は最も悪いものの、航続距離は600kmを確保しており競合と同等水準です。また急速充電性能はセグメント最速を達成することに成功しています。また全車種LFPを採用しており、もう80kWh程度であればLFPを使用するのが当然となっている様子が見て取れます。
またEZ-60の強みの一つがBEVモデルにのみ搭載されている126Lのフランクです。これはモデルYよりも大きなサイズ感であり実用性にも期待できます。そして価格設定も、ややコンパクトなGalaxy E5やコスパで優れるLeapmotor C10はさらに安価であるものの、BYDやトヨタと同等のコスト競争力を実現しています。
最上級グレードMax の装備内容
最上級グレードMaxの装備内容を整理してみます。
● 26.45インチ横長5Kスクリーン
● 50インチARヘッドアップディスプレイ
● コックピットチップはMediaTek MT8676チップ(プロセスノード:4nm・演算能力20TOPS)
● 空冷式のワイヤレス急速充電器
● 運転席シートには6方向電動調整、レッグレスト、4方向ランバーサポート、シートメモリー、ヒーター、クーラー、8ポイントマッサージ
● 運転席と助手席シートにはゼログラビティシート機能を採用
● ステアリングヒーター
● 256色のアンビエントライト
● ヒートポンプ
● サッシュレスドア
● フロントサイドガラスの二重ガラス化
● 電動サンシェード付きガラスルーフ
● 3.3kWに対応するV2L機能
● 最高出力1280Wを発揮する23スピーカーシステムは7.1.4ドルビーアトモス対応
● リアサスペンションはマルチリンク、CDC電子制御ダンパー搭載
● リアサイドエアバッグを含めた9エアバッグシステム
● 高張力鋼の配合割合は86.5%、2000MPaもの超高張力鋼も採用
このように、日本円で300万円台前半程度のミッドサイズ電動SUVとしては極めて優れた装備内容を網羅しています。
先進ADASの搭載は見送り
また、最大の懸念はEZ-6と同じくハイエンドADAS(レベル2+)の搭載を見送ってきているという点でしょう。実はEZ-60の兄弟車であるDeepal S07にはファーウェイの最新自動運転システム「ADS4 SE」が標準搭載されています。S07はEZ-60よりも高額であるものの月間6000台程度を販売することに成功。概ねBEVとEREVの比率は1:2程度という販売構成になっています。
トヨタや日産はハイエンドADASを採用してbZ3XとN7がヒットしました。逆にホンダはハイエンドADASの採用を見送って不発に終わっています。はたしてEZ-60がハイエンドADAS採用を見送ったことが販売台数にどんな影響を与えるのか。マツダの戦略が正しかったのかを見極める上で非常に重要なポイントになるのかもしれません。
現在、トランプ関税によって主力マーケットのアメリカで問題を抱えるマツダは、中国市場でも苦しい販売低迷状況に陥っていました。新型EVとなるEZ-60が中国市場の反転攻勢のきっかけとしてどれほどの需要を喚起できるのかに注目でしょう。
またEZ-60はEZ-6と同様に、欧州や東南アジアをはじめとする海外マーケットにも展開していくことが予告されています。現在急速にEVシフトが進む欧州や東南アジアでどれほどの競争力を実現できるのかにも期待していきたいと思います。
マツダは日本国内においても、2027年以降、NACS規格を採用して新型EVを投入する方針を示しています。コストパフォーマンスが高いEZ-60の日本発売は未定ながら、日本国内に投入するEVはどれほどの完成度を実現してくるのか。まだ絶対的な設置拠点数と口数でチャデモ規格に大きく劣るNACS規格の充電ネットワークの整備などにどのようにコミットしてくるのか。マツダのEVシフト動向からますます目が離せません。
文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)
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