昭和55年式ハイエースの改造電気自動車/夏の白馬で巡り会った痛快試乗体験記

長野県白馬村で開催された「ジャパンEVラリー白馬2024」に、昭和レトロなハイエースが参加して注目を集めていました。EVラリーにエントリーするのだから、もちろん電気自動車。2年以上かかったというBEV化について、いろいろと伺いました。

昭和55年式ハイエースの改造電気自動車/夏の白馬で巡り会った痛快試乗体験記

昭和のハイエースが電気自動車に!

ベースになったのは2代目と呼ばれる丸目のハイエースで昭和55年式。40年以上前のクルマとは思えないほどきれいにリストアされていて、当時の雰囲気がしっかり伝わってきます。ペイントも純正色で塗り直してあります。希少なレジェンドカーですね。そんな車が、排気音もなく、スーッと走るのがなんとも不思議です。

今回の「ジャパンEVラリー白馬2024」では、参加者がEVを駐車しておくエイブル白馬五竜の第3駐車場がオーナーズテントなども設けられた主会場となっていて、試乗車の発着やトークショーもここで行われました。なので終日、いろんな人が場内をうろうろ。

寄本編集長の記事にもあるように、今年は史上最多となる16メーカー38車種のEVが参加したそうですが、中でもBEVハイエースは異彩を放っていました。「これもEVなんですか?」「どうなってるの?」と次々に質問攻め。そりゃ、気になりますよね。

みなさんと一緒に私もいろいろと見せてもらいました。運転席と助手席の後ろの床面が大きく盛り上がっていて、蓋を開けるとコントロールユニットとモーターが搭載されています。変わった配置なのですが、もともとのエンジンルームがここなのだとか。

さらに独特なのが、駆動用バッテリーの積載場所です。なんと2列目と3列目の座席下。ミッションやドライブシャフトなどがそのままなので、床下に積むことができず、室内に配置せざるを得なかったそうです。

駆動用バッテリーは、なんとロックアイスで冷却

このバッテリーを冷やすために、かなり苦心されたようです。冷却用の送風機が車両最後部に積まれていて、そこから伸びたダクトがバッテリーケースにつながっています。少しでも冷却効率を上げようと、ダクトの吸気口には発泡スチロールの箱が追加されて、ロックアイス(コンビニでよくみるやつ)が入っていました。バッテリーを冷やしたエアは、右側後部の窓から外へ排気される仕組み。外観は基本的にオリジナルのままなのですが、このエアダクトこそ、BEVハイエースの特徴(というか涙ぐましい努力のあと)なのでした。

バッテリーは、16.4kWhのものを2つ搭載しています。1つが空になったら次に切り替えて使います。モーターの受け入れ電力が限られているため、そういう方式にしているそうです。

充電は、車両右後部の給油口に、普通充電用のJ1772コネクターを配置。CHAdeMOの急速充電口は、室内の助手席の後ろあたりに取り付けられていました。室内なので、左側のスライドドアを開けて充電します。

白馬を目指して300kmを無事完走!

「目標はEVラリー白馬に参加することだったので、ちゃんと来られたことがうれしいですね」

そう話してくれたのは、仲間と一緒にこのクルマをBEV化した自動車メーカー社員のNさん。ちなみに出発地から白馬までの距離は約300km。BEVハイエースが1回の充電で走れる距離は最大でも100km程度。来るまでの道中、7カ所の急速充電器に立ち寄って、4回充電したそうです。

回数が変なのは、採用したBMS(バッテリーマネジメントシステム)がいまひとつCHAdeMOとフィットしていないらしく、時々充電不良が出るためです。「この充電器がダメなら、近くのここで」と常に次善策を考えながらドライブ。バッテリーが熱を持ちすぎると「場合によっては充電も走行もできなくなってしまう」ので、酷暑の中でクールダウンさせつつ、慎重に白馬を目指してきたのだとか。

最新EVだと、無充電で楽々400~500kmぐらい走れてしまいますが、EVラリー白馬が発足した当時の趣旨は、EVで長距離を走るチャレンジだったと聞きます。BEVハイエースのみなさんは、本来の意味でのEVラリーを楽しめたのかもしれません。

オリジナルのミッションを流用したマニュアル車

ありがたいことに、試乗もさせてもらいました。もう運転席に座っただけでニヤニヤしてしまいます。エアバッグがない時代のハンドルはシンプルそのもの。ダッシュボードのセンター付近に、充電率や電圧、出力などバッテリーの状態を表示する計器が追加されていますが、それ以外は昔のクルマのまんまです。

いざ出発となって、戸惑ったのはギアチェンジ。さきほど、ミッションはそのまま、と書きました。おや、と思った方もいたかもしれません。そうです、ミッション付きのEVなのです。初めて乗りました。

普通にクラッチを踏んでコラムシフトで変速します。ただ、モーターなので、クラッチを踏まずにスタートしてもエンストしたりはしません。3速でも発進できちゃうのですが、その分ギアに負荷がかかるらしく、速度に合わせて変速するようにしてくださいね、とお願いされました。逆に言うと、きちんとシフトすれば、車に無理をさせずに済むということ。電費向上も期待できます。

マニュアル車が久しぶりすぎて、なかなかギアチェンジの感覚が掴めなかったのですが、なんとか発進。動き出したらこっちのもの、と思っていたら、曲がろうとして、うぐぐ。パワステなんてついていませんから、ハンドルが重い! 「えいやっ」という感じで交差点を曲がります。クルマのあちこちからギシギシ、カシャカシャと小さな音が聞こえてきて、なかなか賑やか。でも不快ではありません。後部座席とも普通に会話ができちゃうのは、さすがEVです。

パワフルさこそ、BEV化のメリットでしょう。オリジナルのエンジンは、コンディションこそ悪くなかったものの、経年劣化もあって、加速感がまったく感じられなかったのだとか。助手席のNさんからそう聞かされても、まったく想像できない走りっぷりです。

スキー場だらけの白馬村なので、けっこうな坂道があるにもかかわらず、ぐいぐい登ってくれます。オリジナルは約100馬力、最大トルク15.5kgf・mだったのが、BEV化して約119馬力、最大トルク24.4kgf・mにパワーアップ。停止状態から80km/hまでの加速にかかる時間は、オリジナルの33.5秒に対して、なんと15.08秒に縮んだそうです。

重いハンドルと独特の挙動に慣れてくると、どんどん気分が上がってきます。とにかくシンプルな構造で、クルマの動きはシートとハンドルから身体にダイレクト入力。路面の凹凸を受け止めたり、頑張って走っている様子がビシバシ伝わってきます。手回しハンドルで窓を全開。頬に風を受けて走ります。子供のころに、靴に縛り付けるローラースケートで友達と遠くの町までかっ飛ばした感覚を思い出しました。1分の1スケールのトイカーといった感じ。

ついつい「楽し~!」と叫んでいました。緑豊かな高原のドライブで、排気ガスを出していないというのも、じつに気分がいいもの。どこまでも走りたくなります。走行距離が短いとか、充電の苦労とか、旧車のBEV化に課題はいっぱいありそうですが、利便性だけがクルマの魅力じゃないですよね。

Nさんが、会社の同僚6人でタッグを組んでBEV化のプロジェクトをスタートさせたのは2022年7月でした。

「昔のクルマ、あの頃のクルマに、もう一回乗りたいという気持ちってありませんか。旧車でも時代に合ったカスタムをすれば、いつまでも乗り続けられるということを示したかったんです」

2年間の試行錯誤を経て、たどりついた白馬。素晴らしいチャレンジです。ほんとうにお疲れさまでした。そして楽しさのお裾分け、ありがとうございました! 好きなクルマにずっと乗り続けられるという、旧車BEV化の魅力を実感させてもらいました。

取材・文/篠原 知存

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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