バッテリー容量とともに急速充電性能も向上
現行のアウトランダーは2021年に登場。2024年10月に大幅な変更を受けました。まず注目のパワーユニット関連の変更点を説明しましょう。実はハード的に変更されたのはバッテリーだけです。従来のアウトランダーPHEVのバッテリーは日産リーフと同様のパウチ型を使っていましたが、今回のマイナーチェンジで角形セルに変更しました。バッテリー容量は従来の20.0kWhから22.7kWhと約10%アップとなりました。
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重要なのは容量アップだけではありません。従来のパウチ型バッテリーはバッテリーEV(BEV)に適した特性で、電気をしっかりためておいてから使うようなイメージ。一方PHEVの場合は充電しながら使うので、BEVとは異なる出力重視のHVに近い特性が求められます。今回のバッテリーの変更にはそうした特性のマッチングも図られています。
バッテリーの冷却方法も異なり、パウチ型より50%も効率的な冷却性能を実現。バッテリー容量は約10%のアップですが、EV航続距離はMグレードで87km→106km、Gグレード、Pグレードでは83km→102kmと20%程度の向上を果たしています。
また、急速充電の最大受入出力は37kW程度で変わらないものの、高出力の継続時間を長くできたことから、単位時間当たりの出力は約60%アップして、80%までの急速充電に掛かる時間は38分→32分と約20%減となりました。
公道試乗でより上質になった走りを体感
アウトランダーPHEVは前後にモーターを備えるデュアルモーター方式で、S-AWCと言われる駆動力配分機構を備えます。もともとはICE車で行われていた制御ですが、電動化によってその制御の緻密さはさらにアップ。今回の出力アップに伴い制御速度を0.001秒単位にまで高速化するなどリセッティングされています。また、電動パワーステアリングのセッティングやサスペンションのバネレート変更、減衰力発生バルブの変更なども行われています。
ダイヤル式セレクターでノーマルモードを選びスタートします。公道試乗はEV走行でスタート。駐車場内で走り出してすぐに感じるのは、フラット感が増していること。アクセル操作が少し雑になってもピッチングが強くなるようなことはなく、水平を保ったまま滑るように走って行きます。
段差乗り越え時のショックも少なく、スッキリと雑味のない印象。マイナーチェンジ前のモデルもずいぶんといい印象だったのですが、今回は一歩抜きん出た感じです。サスペンションやS-AWC、パワーステアリングのセッティングによって向上した部分も大きいのですが、さらにタイヤが従来のオールシーズンタイヤからサマータイヤ(ブリヂストン・アレンザ)に変更された点も見逃せません。
まず西湘バイパスを走行しました。湘南の海岸に沿って作られた有料道路は一見すると滑らかな路面と思われがちですが、この道路はなかなかのくせ者で、高架になっているために継ぎ目が多く、路面も粗い。乗り心地評価では厳しくなることが多いのですが、新型アウトランダーPHEVはじつに快適な乗り心地でした。さらに静粛性も高く確保されています。試乗したモデルは最上級のPエグゼクティブパッケージで、このモデルはヤマハとの共同開発によってオーディオ性能を向上した「ダイナミックサウンドヤマハアルティメット」を装備しています。12スピーカー、2アンプのシステムですが、ドアまわりのデッドニングなども行っているため、静粛性が向上しているのです。乗り心地、静粛性はかなり高いレベルに達していました。
ヤマハのオーディオも好印象
ここでオーディオについても触れておきます。新型アウトランダーPHEVのオーディオはすべてヤマハが担当。標準オーディオは8スピーカーで「ダイナミックサウンドヤマハプレミアム」の名で呼ばれます。上記のようにPエグゼクティブパッケージはアルティメットが標準、Pグレードはプレミアムが標準ですがアルティメットをオプションで選べ、価格は19万8000円です。今回はマイナーチェンジ前のボーズオーディオ、新型に搭載されているプレミアム、アルティメットを聴き比べる機会がありました。
結論から言ってしまうと、プレミアム、アルティメットと進んでいくに従って、それまで聞こえなかった楽器の音が聞こえたり、各パートの明瞭感がアップします。PHEVやEVは走行時のノイズ低減を充実させているので、クルマのオーディオルーム化に適した素材です。以前の私はオーディオというハードウエアにお金をつぎ込むより、CDなどのソフトウエアにお金を掛けたほうが音楽を楽しむという本質に迫れるという考えでしたが、アマゾンミュージックのように安価で多くの音楽ソフトが手に入る時代になると少し考えを改めないとならないかなと思うようにもなりました。
箱根ターンパイクでは素直で爽快な走りを満喫
さて、アウトランダーPHEVのダイナミック性能に話を戻しましょう。ハンドリングの正確さも見逃せない点です。試乗では箱根ターンパイクにも行きました。高速ワインディングで知られる箱根ターンパイクにおいて、新型アウトランダーPHEVはじつに素直で気持ちのいいハンドリングを楽しませてくれました。ICE車ならばブレーキペダルに軽くタッチして荷重を前に移して進入するようなコーナーでも、アウトランダーPHEVはアクセルを緩めて回生ブレーキで荷重移動させるだけでよく、ドライビングとしてはイージーです。
回生量をステアリングに取り付けられたパドルスイッチで6段階に自由に選べるところも素晴らしいといえます。登り勾配の加速感も申し分のないものでした。ターンパイクの登り勾配はかなりきついので、途中でバッテリーがなくなりましたが、エンジン、あるいはハイブリッド走行になっても不満を感じるような加速感の低下などはありません。車内に聞こえるエンジン音も上手に抑えられている印象でした。
箱根でのひととおりの試乗と撮影を終えて、帰路ではおもに回生による充電を試しました。走行モードをチャージにし、箱根ターンパイクを下っていきます。回生量をもっとも強い5にしてしまうと速度が落ちすぎるので、3で速度を稼ぎながら減速が必要なコーナーなどで5にしてエネルギーを回収していきます。アウトランダーPHEVにはSOCの%表示がないので、EV走行可能距離で測るしかないのですが、5kmを下り11km分の走行距離を稼いでいます。勾配がきつかったとはいえ、なかなかの高性能といえるでしょう。
アウトランダーPHEVは月間販売台数1000台が計画台数ですが、10月30日の時点で3400台のバックオーダーを抱えているという人気ぶり、さらにこのアウトランダーPHEVはヨーロッパでの販売を強く意識して開発されています。PHEVに対する関心度が高まってきているヨーロッパ市場における販売台数の推移にも大いに注目したいところです。
取材・文/諸星 陽一