元記事:Reality sets in for solid-state batteries “at least a vehicle generation away” by Lei Xing
Fisker社CEOのコメント
固体電池とは、充電・放電の際にイオンを運ぶ電解質が通常液体なのに対して、その名の通り固体であるものを言い、電気自動車関連の中でも約束されたテクノロジーの1つです。固体電解質は安全性を飛躍的に高め、リチウム金属のような新しいタイプの負極素材を利用可能にし、現在のリチウムイオンバッテリーセルに比べて2倍のエネルギー密度が得られます。大幅な航続距離の延長と充電時間の短縮が約束されています。
しかしHenrik Fisker氏は約4年前に業界と彼自身が称賛したこのテクノロジーに関して、かなり違う見解を持っています。Fisker氏は米国スマートEVスタートアップであるFiskerのCEOで、先月開催されたオートモビリティLA(LAオートショーの一部でプレス・業界関係者向けのショー)でのインタビューに応えてくれました。
「すぐ次の世代で、固体電池が使われた車両を見ることはないでしょう。個人的には、大量生産車両用の固体電池を具体化できる段階に近づいているとは考えられません。よってその選択肢は私にはないです」。
CES 2018でインタビューした際には、彼はこのテクノロジーに関してかなり強気でいました。Fisker氏は極めて低い温度でも動き、コストが低く($65/kWh≒約7,400円/kWh)、同等のリチウムイオン電池に比べて2.5倍パワフルな固体電池に取り組んでいました。会社は大手バッテリーメーカーのサムスンやLGにプロトタイプを提供して大量生産に入り、開発した技術をライセンス化して中国の潜在的な顧客に提供する準備もできていると話していたのです。
固体電池研究の見方はどう変わったのか
「当時は固体電池の潜在性に、かなり盛り上がっていました。しばらく取り組んだ後、固体電池を開発するのと、別のものを作り上げるのはかなり違うと分かったのです」。Fisker氏は、10階建てのビルを例に取って、固体電池開発の難しさを語りました。「何かを90%終わらせたら、最後の1階部分だけが残っていて、あとどれ位時間がかかるのか明確に分かるものですよね。でも固体電池に関しては、90%までは大興奮で進めるのですが、残り10%がどれだけ難しいのか分かっていないのです。その段階まで来て、初めて想像していたよりかなり難しいと分かる。あの時(最後のインタビュー時)は理解しようとしている段階で、そのことを知らなかったのです」。
その後何が起こったかと言うと、CES 2020でFiskerがオーシャンのコンセプトカーを披露した際、固体電池にはこれ以上資金を使いたくないと却下されていました。2022年後半にローンチするオーシャンのプロダクションモデルには、代わりに中国のバッテリー大手CATLが提供するLFPかNCMバッテリーが採用されます。
他企業からの発表を見ても、Fiskerと同意見のようです。少なくとも20年代後半までは主流になれないというもので、従来予想されていたよりもかなり遅くなっています。
例えば日産は、11月29日に発表された長期ビジョンNissan Ambition 2030において、2028年までに全固体電池(ASSB)の自社開発・大量生産を目指すとしています。日産は、ASSBによりバッテリーパックのコストが2028年までに$75/kWh(約8,500円/kWh)、2030年以降に$65/kWh(約7,400円/kWh)まで下がり、EVとガソリン車のコストは同等になると予測しています。$65/kWhという魔法の数字はFiskerが言及してから10年も後に達成されるということです。少なくとも日産の見解では。
メルセデス・ベンツとステランティスは、米国に拠点を置く固体電池スタートアップのFactorial Energyとの共同開発及び投資契約を11月30日に発表しました。しかしメルセデス・ベンツはこの技術を、これから5 年間の間に出る「小さなシリーズ」の「限られた台数」に使うと表明し、ステランティスも2021年7月のEVデーに、競争力のある最初の固体電池技術を2026年までに導入すると発表しており、これも大量生産を意味してはいないようです。したがって、メルセデス・ベンツとステランティスから出る固体電池を使った車両を大量に見られるのも、20年代最後の方になるでしょう。
Factorialは現代自動車グループとも協業しており、自社開発のFEST™ (Factorial Electrolyte System Technology)に自信を持っています。FEST™は、高圧・高容量の電極が入ったセルのパフォーマンスを、安全かつ信頼性のおけるものにする、特許取得済みの固体電解質を使っています。40Ahセルまで拡大された初の固体電池テクノロジーで、 室温で働き、主な既存セル生産設備に対応可能で、OEMにとっては新しいバッテリーテクノロジーに変える際にかかるコストや複雑性を減らせるメリットがあります。
中国では、恐らくNIOが何らかの固体電池を使用したモデルをローンチするのに一番近い所にいます。今年NIO Day 2020で150kWhのハイブリッド固体電池を発表し、そのエネルギー密度は360Wh/kgで、次に来るET7のNEDC航続距離が1,000kmを越えるとしています。社は2022年第4四半期にET7をローンチする予定です。
このハイブリッド固体電池の裏には、中国科学院物理研究所のKey Laboratory of Renewable Energy(清洁能源实验室)が2016年に創設したBeijing Welion New Energy Technology Co., Ltd (北京卫蓝新能源科技有限公司)がいます。この会社は最近Xiaomi、Huawei、NIOキャピタルから5億元(約89億6,174万円)のシリーズC資金調達を完了して50億元(8,956億2,221万円)企業となり、固体電解質でコーティングしたセパレーターを、江蘇州溧陽市内に3つある自社工場のうち1つで生産する契約を締結しました。
NIOのハイブリッド固体電池に関わっていると噂される企業には他に、清華大学が設立したQingTao (Kunshan) Energy Development Co., Ltd.(清陶(昆山)能源发展股份有限公司)や、いわゆる固体リチウムセラミック電池の開発・大量生産に世界で初めて成功したという台湾のProLogium Technology (PLG:輝能科技)がいます。
未来は明るいが現実は厳しい
固体電池開発に関わる企業は世界で50を越えると見られており、その勢力図は主に3つに分かれます。大手メーカー(トヨタ、ホンダ、日産、BYD)、大手バッテリーサプライヤー(LG、サムスン、CATL)、そしてメーカーから多額の投資を得たスタートアップ(Factorial、QuantumScape、SolidPower、SES、Welion)です。
近い将来、量産とコスト削減に加え、これらの会社は技術的なブレークスルーを達成せねばなりません。まず各々一長一短の特色がある固体電解質の酸化物、硫化物、ポリマー、薄いフィルム。さらに高エネルギー密度や安全性、長寿命を達成するのに不可欠な高純度カドミウム、炭化ケイ素、リチウムメタルです。
中国のことわざで、「未来は明るいが現実は厳しい」というものがあります。業界は固体電池の現実について理解をし、その総意は大規模な採用や生産はすぐにはできないというものでした。
(翻訳・文/杉田 明子)
以前、「雨堤氏のライバル」と言うHNで投稿していましたが、普段使用しているHNに変更します。
全固体電池については、確かに開発する意味やメリットは有りますが、商品、製品としての客観的、絶対的な完成度は20%弱と言ったところです。つまり、基礎研究が終了した時点で、小さな試験セルで動作確認が済んだところです。
商品発売までの完成度を段階フェーズで表すと、5段階のうちでフェーズ1と言うことですが、テーマ自体の難易度から考えると、運が良くて完成までには、あと20年かかります。
積極的に開発を進めているメーカーにとっては、先端技術や難易度の高い技術にトライすることによる技術基盤の押上、そして、「すごいことをやっていて、もうすぐ完成」と吹聴することによる企業イメージの向上等が大きいと考えらます。
しかし、ここで考えなくてはならないことは、「言ったもん勝ち情報」をまともに信じて全固体電池開発に参加し、社運をかけて経営資源を投入して必死に頑張る材料メーカーや中小零細企業も存在していると言うことです。今の全固体電池車は彼らを地獄に連れて行く「火車」になりうるのです。
来年にも完成、発売されると言う全固体電池車に現在、乗っかっているのは従来のリチウム電池か、あるいはパウチに包まれた単なる段ボール紙かもしれません(笑い話ですが、電池開発に参入しようとした商社で実際にありました。しかし、「やる気、本気」を見せるのであればそれで充分です。)
電池の専門家から言いたい放題言わしてもらいましたが、「そんな馬鹿なことない、いいかげんにしろ」と言うなら、中型以上、実用レベルの電池の容量やライフの生データを発表すべきですね。
このような、期待から絶望に至る
「致命的欠陥のある流行技術に対する典型的マインド推移」
を如実に示している海外記事をよく見つけられましたね。
EV smartさんの情報収集力と絶妙なピックアップに感心します。
”全固体電池にはこれ以上資金を使いたくない”
行き詰まった現場の切実な本音が垣間見えるコメントですね。
偶然同時期に日本国内からも同様なコメントがでてきました。
村田製作所の中島規巨社長は読売新聞の取材に対し、
“量産化が実現していないEV向け全固体電池について、
「他社との差異化が非常に難しく、投資ばかりかかる」
と否定的な考えを示した。”
ふぐのきも 様、コメントありがとうございます!
>村田製作所の中島規巨社長は読売新聞の取材
これは拝見していませんでした。情報ありがとうございます。とにかくスケールが求められる電気自動車用電池において、社長のおっしゃることはよく理解でいます。国も技術のみにフォーカスして規模とか、運用を無視する傾向にあります。
※こちらは海外記事ではなく当社のオリジナル(エクスクルーシブ)なんです。今後も中国情報を充実させていきます。
専門家の立場から、全固体電池の情報に関して若干の補正や追加をさせて頂きます。
まず、大別して全固体電池には二種類あり、一つ目は固体電解質が硫化物(硫黄化合物)のもので、液系(従来型)電解質に匹敵できる容量やパワーを持ちうるものですが、現時点でEVに実使用できる大容量の大型は作れません。トヨタ等が検討しているのはこのタイプです。
二つ目は、村田製作所等が完成して既に発売している固体電解質が酸化物のものですが、容量が液系電池の100万分の1程度しかなく、実際的には電池と言うよりキャパシタかコンデンサと言った方が良いでしょう。
村田製作所の中島社長は、硫化物系と酸化物系の見分けや区別がつかないマスコミ、一般人に対して、「他社との差異化が非常に難しく、投資ばかりかかる」と言う回答で混乱を防がれたのでしょうが、この問題は、もっと根が深いと思います。
トヨタの株価は、この20年で4~5倍になっており、TV等でも熱心に種々のアピールが為されています。ただ、「全固体電池EVが直ぐに出るよ」と言うアピールは金融商品取引法第158条の件もあり、慎重になられた方が良いかと思います。
NIOは全固体電池で先駆となりそうですが、それより唯一バッテリー交換式をリリースしたことは驚異です。もし国策で交換式を推進されたらテスラでも中国市場で覇権を握ることは難しいです。HEV、PHEVやCHADEMO50kwでモジモジしている日本は完全に周回遅れにされるでしょう。
トヨタは東工大と協力して2022年にも全固体電池を使った商品を出すって記事ありました。
もし本当なら他の会社がこの状況では、初代プリウスのインパクトきつい状況がまた現れるんでしょうかね。
以前全固体電池の化学組成を調べたことがありますが、チタン酸リチウムが含まれている地点で東芝のSCiBと変わらないと感じました。これだと単電池2.4V程度なのでエネルギー密度はあまり期待できず重量も嵩みますね。
たしかに釘を刺したときの発火リスクや対劣化性能は高くできますが、そこは既に三菱がi-MiEV(Mタイプ)で採用済の「枯れた技術」ですよ。ただ量産されておらず価格も高止まりだから任天堂のごとく「枯れた技術の水平思考」には持ち込めない、それが問題。
そして試作品の電池容量もチェックしたら現段階で1Ahがせいぜい、これとて東芝SCiBの20Ahとは一桁違う。技術音痴はだませても技術通にはバレてますー!!!
トヨタの体質を考えれば安全性を謳いたい、だけどその安全性に優れた電池は既に三菱車に採用されててトヨタの面目が保てない、だから全固体という得体の知れない分野に飛び込んだ…だけど待てども十分な商品力にはならない。
…たぶんそれがオチやないですか!?プライド捨ててりゃイケたかもしれませんが。
全固体電池を搭載して走行可能(走行している動画を出している)な車両はトヨタが発表済みですが、特性としては、ハイブリッド用途向き(電池容量を中間域で保つ事で寿命が伸びる)のため、発売はハイブリッド車として出す。
だと思いますが、NIOの方が先に発売するんですかね?
トヨタによると全固体電池の課題は低寿命であることらしい。
そして全固体電池っていうものはエネルギーあたりの体積を上げることが難しい。
既存の電池でも出力は十分、安全性も十分確保されていることを考えると全固体電池
を推進する理由がよくわからなくなってくる。
haladd様、コメントありがとうございます。
>全固体電池を推進する理由
これ、大事なポイントだと思います。私は安全神話及び、炎上覚悟で分かりやすい言葉を使うと責任回避の動きだと思います。
全固体を推進している方々は「性能がリチウムイオン電池より上だから」と言いますが、基本的に物理的破壊に対し発火しづらい、という点をメインのメリットに挙げているように感じます。もちろんこう書くと、発火しないなら良いことでは?と思うものですよね。
電池はショートすればどんなものでも必ず発火します。燃えない電池、というのは、運よくショートせずに物理的破壊に達した場合に「は」燃えないというだけで、何らかの理由でショートすれば確実に燃えます。ガソリンだって、漏れて火花が飛べば、必ず燃えて車両火災になります。この点で、実は電池はリチウムイオン電池であってもガソリンより安全なのです。
しかし実際に多くの自動車メーカーは、リチウムイオン電池が炎上すると、「車が燃える=責任問題になる」からダメだ!と判断しているようです。ガソリンが燃えるのは、車が燃えるのと違うのか?実は、これらは自動車メーカーの直接的責任にならないだけだと思います。ぶつかったらガソリン漏れる、運悪く燃えちゃったね、、というわけです。
一言で言うと、現時点での全固体電池への全振りとも言える日本メーカーの動きは、ある意味、自らの責任をなるべく回避したいという気持ちから来ているのではないでしょうか?実際に何が燃えても、何が直接の原因であっても、車両火災は車両火災。人命がかかっていることには変わりありません。全固体電池の中には、燃えにくいけど、万が一ショートして燃えると硫化物から有毒ガスを出す電池も研究されています。
車両火災の、最大の原因は何かご存じですか?国土交通省のデータベースによると、電池じゃないんですよね。多くの車両が、電装系の不備や不良から火災に至っているのです。電池そのものの安全性を死ぬほど追及しても、車両火災は大して減らないのです。
難しい問題ですが、私は、自動車メーカーが本当に安全な車を作るにあたり、実際に人命が助かりやすい車作り、車・電池の技術への投資を行っていただけるといいなと思っていますし、単に自動車メーカーの責任を回避することを優先して、競合に負けることのないよう研究開発を進めていただければと思っています。
haladdさんや安川さんと同じ思いを抱いているEVメーカや消費者は急増しているようで、普及価格帯EVは世界的にLFP電池一択になりつつありますね。一気に市場シェア50%を超えてきました。驚くほど長寿命で、釘をさして激しく内部ショートさせてもピクリともしない。これでいいじゃないか!と。BYDのLFPブレードバッテリーは今後のトヨタへのOEMやテスラ新型車供給分を含めて何処まで伸びていくのか、目が離せませんね。
ご存じかもしれませんが
今年の春の記事で
トヨタの全固体電池の電解質材料を開発した教授のインタビュー記事
「次世代電池の最有力候補「全固体電池」の現在地」
https://toyokeizai.net/articles/-/423933
というのがあります。
また、
安全性等についてはホンダやサムソンにいた方のインタビュー記事
「生き残りをかけた車載電池事業と次世代電池の開発動向」
https://response.jp/article/2021/06/14/346697.html
がサラッと読めて分かりやすかったです。
どちらも
「電池の実用化は一般の人の考えているより時間がかかる」
という事を言っていて
早急に答えを求めすぎるのもよろしくは無いのかと。
冷静に事実を俯瞰すると、全固体電池なるものは株価操作、実績に乏しい教授や研究者の資金集め、広報の殺し文句、クリック数稼ぎの見出し、社内外での政治利用などの手段にしかなっていないのでは?数年に渡ってこれだけ騒がれているにもかかわらず、まともな数値スペックが公開された実物がひとつもでてこないのはどう考えてもおかしい。
ナイロンマスク様、コメントありがとうございます。おっしゃるほどの状況であるとは私は考えていません。実際に研究も進んでおりますし、成果も着々と挙げており、中国・日本を中心に開発は進んでいると考えてよいと思います。投資もかなりの金額に上っています。しかし、自動車用としての成果という意味では、まだ数字を発表できる状態にないという認識ではないでしょうか?当レポートでも、各社、まだ先だという認識で一致しているように思います。