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サクラのススメ【06】電気自動車のサクラをお気に入りのポイントは?

サクラのススメ【06】電気自動車のサクラをお気に入りのポイントは?

電気自動車の日産サクラをマイカーとして愛用する自動車評論家の御堀直嗣氏が、EVへの理解を深めるために提言する「実感コラム」連載シリーズ。第6回は「軽EVである日産サクラのお気に入りポイント」についての考察です。

目次

狭い道でも取り回しが楽な小型EV

サクラで最もお気に入りのポイントは、5ナンバーのEVであることだ。

もちろん、サクラは軽自動車である。したがって、登録車の5ナンバー規格よりさらに小さいのは承知している。なにより、ヒョンデ・インスターが発売されるまで、新車で買える5ナンバーの小型EVはフィアット500eくらいであり、コストパフォーマンス面で私にとって現実的な選択肢にはならなかった。

なぜ、5ナンバーにこだわるのか?

最大の理由は、拙宅前の路地の道幅が3.6mしかなく、3ナンバー車でも通り抜けることはできるが、車庫への出入りで何度もハンドルを切り返さなければならない。サクラなら、切り返すことなく出入りできる。

かつて、30歳代のときは、アメリカやヨーロッパの3ナンバー車に乗っていた。大柄なクルマを否定するわけではない。どちらかといえば、元々大きなクルマが好きな方だった。しかし年齢を重ね、また、車体寸法の大小を問わずクルマの周囲を自分の目で確認しにくくなるにつれ、「もう大きなクルマはご免だ」と思うようになった。

今日、クルマの周囲はカメラ映像を補助としながら確認できるように技術が進歩した。とはいえ、クルマの安全は本来自分の目で確認するのが基本であり、1990年代より前のクルマはそれを容易にさせていた。

ところが、90年前後を境に、世界的に衝突安全性能の向上が謳われ、車体はより頑丈に、さらには乗員保護のため窓の面積を少なくし、車体幅を膨らませる傾向となり、運転席から周囲を確認しにくくなった。

加えて、気候変動対策として燃費向上が求められ、空気抵抗の低減が必要になり、フロントウィンドウを支持する支柱(フロントピラー)が大きく傾斜するようになり、前方視界が悪化した。

それらによって、自らの目でクルマの周囲を確認することが難しくなった。拙宅の3.6m道路のような路地での車庫入れや出庫の際の向かいの家の塀との距離感もつかみにくくし、車体をこすってしまわないかとの不安も増大した。対応策として、コーナーセンサーが採用されだしたが、車種によっては精度がまちまちだ。

量産車として最も長い歴史をもつのが軽EV

外的要因では、バブル経済の後押しと、海外からの非関税障壁への圧力、自動車メーカーのグローバル化の進展などを背景に、1989年に自動車税が改定され、それまで大きな隔たりがあった5ナンバーと3ナンバーの自動車税額が縮まった。

日本の自動車メーカーも、こぞって3ナンバー化を進めた。エンジン車でも5ナンバー車の選択肢は限られ、EVではヒョンデ・インスターが売り出されるまで、5ナンバーの小型乗用EVの選択肢は限られていた。

そこで、5ナンバー枠の条件を満たす一つとして、軽EVへ目が行く。

軽EVは、何も日産サクラや三菱eKクロスEVがはじめてではない。三菱自動車工業は、日産の初代リーフより先の2009年にi-MiEVを発売した。市販量産EVとしてもっとも長い歴史を積み重ねてきたのは軽EVだ。その次の世代として、eKクロスEVが開発され、日産サクラも基本構成を同じとして誕生の機会を得た。

それでも、これまで3ナンバーの輸入車や3ナンバーの国産車に乗ってきた経緯から、軽自動車へ乗り換えることに違和感はなかったのかと問われるかもしれない。

そこがまさにサクラが軽EVでよかった大きな理由である。エンジン車の軽であれば、もしかしたら買わなかったかもしれない。

3年間サクラに乗って、軽自動車特有の不満を感じたことはほとんどない。それは、モーター駆動であるからだ。いうまでもなく、静粛性に優れ、加速は十分で、乗り心地もよく、プロパイロットによる運転支援機能も違和感がない。

毎週の乗馬クラブへの往復では、首都高速湾岸線を走るが、高速移動も実に快適だ。走行安定性にも不安がない。それらを総合して、EVであればこそ、軽自動車に乗る意味が高まるのである。

インスターは、とてもよい5ナンバーEVだ。しかし軽EVを体験すると、あえて選ぶ理由さえ薄れてくる。サクラに満たされているからだ。逆に、サクラの前にインスターが市場導入されていたら、5ナンバーEVを探していた私は、即断していただろう。

日産車でいえば、ノートがもしEVであったならと、どれほど期待したかわからない。

軽自動車こそEVであるべきと感じた原点

軽EVとの接点は、実はi-MiEVやサクラより前に私には経験がある。

それは、ダイハツ・ミゼットⅡ EVだ。もちろん、ダイハツが市販したのではない。エンジン車のミゼットⅡを買い、EVにコンバートしたのである。

1998年、ミシュランが開催したビバンダムチャレンジに参加してパリのシャンゼリゼ通りを走るミゼットⅡ EV。ドライバーは御堀さん。(関連記事はこちら

そのときも、エンジン車からEVへ改造することで、軽自動車がまるで別の存在価値を持つことを経験した。軽こそ、EVであるべきと考えるようになった原点である。

ミゼットⅡ EVでは、もう一つ貴重な体験をした。

コンバートEVなので、当時車載していた鉛酸バッテリー(10個)では、満充電から30km走れるかどうかである。急速充電の機能はなく、走行範囲は非常に限られた。いまなら、一充電走行距離が30kmといえば、「そんなEVは使い物にならない」と世間はいうだろう。

しかし、ミゼットⅡ EVが活躍した地域がある。筑波大学に通う学生による筑波学園都市内での通学や買い物など、日々の暮らしの足としてであった。

筑波学園都市は、あたかも米国の大学キャンパスのようにクルマ社会の街づくりで、クルマのない学生は自転車で移動した。そういう都市構造では、30kmしか走れないEVでも十分に移動の用を果たせた。

私のミゼットⅡ EVを貸与した学生は、アパート住まいだったが、3階の自分の部屋のベランダから延長コードを伸ばし、毎日100Vで充電していた。30kmも走れるかどうかのバッテリー容量であれば、100Vの基礎充電で十分だった。

私がサクラの20kWh、180kmというEV性能に何の疑問も持たない背景に、こうした30年近く前の経験がある。

サクラで手に入れた「快い暮らし」

「使えるように使う」

これが、EVライフの極意だ。そこに身をゆだねるように、EV性能を活かす暮らしをはじめると、新しい暮らしの姿が見えてくる。それこそが、21世紀に求められる環境との共生であり、喜びとともにある快適な暮らしだ。

日産サクラがEVでよかった理由の一つは、5ナンバー車(軽自動車規格)の小ささであること。次いで、それでも軽であることを意識させない満たされた性能。そして、それを使いこなすことによるストレスのない新たな暮らしの享受にある。

EVに出会って30年以上、日産サクラによって、ようやく永年求め続けてきた快い暮らしを手に入れたのである。

文/御堀 直嗣

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この記事を書いた人

1955年生まれ。一般社団法人日本EVクラブ理事。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ“を科学する」など全29冊。

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